前大臣の入院に関する報道について
本日、松本龍・前復興担当大臣が、軽度の躁状態にあるとの報道がなされました。
松本前大臣が、COP10の際、先進国と途上国の激しい対立により決裂しかけていた会議をまとめあげて議長案採択にこぎつけ、スタンディングオベーションが起きた様子をテレビで観ていたので、被災地訪問時の人が変わったような言動に、ひょっとして…と案じておりました。
今回、九州大学病院で軽い躁状態と診断されたということですので、メディアも戸惑ったであろう、今回の被災地での言動も、おそらく躁状態によるものだったのかも知れません。
もし、前大臣が躁状態であのような言動に至ったのだとしたら、本当にお気の毒としか言いようがありません。
躁状態は、双極性障害という脳の病気によって起きるもので、どんな年齢でも突然発症する場合があります。つまり、誰がいつなってもおかしくない病気なのです。
躁状態では、以前とは別人のような尊大な言動によって周囲と軋轢を起こし、仕事を辞めざるを得なくなったり、家庭を失ったりしてしまう場合も少なくありません。がんが生命を失う病気なら、双極性障害の躁状態は、社会的生命を失う病気なのです。
松本前大臣の場合、それまで被災者の方々のお気持ちを大事にして仕事をしてきたのに、躁状態による言動によって傷つける結果となってしまったとしたら、さぞご無念であろうと想像します。
精神疾患の患者さんは、3重苦を持っていると言われます。病気そのものの苦しみ、副作用の苦しみ、そして病気を理解されない苦しみです。
私達は、最初の2つの苦しみを取り除くべく、研究を進めていますが、3つ目の、病気を理解されない苦しみは、社会が理解を深めれば、なくしていけるはずです。
双極性障害は、気分安定薬によって、再発を予防できる病気です。前大臣も、これを機会に、ぜひ、しっかり再発を予防していただき、仕事に復帰していただきたいと期待しています。
今回入院されたのが、神庭重信教授を始め、双極性障害の専門医の先生方が多数おられ、気分障害にご理解のある心療内科の久保千春先生が病院長をされている九州大学だったのは、幸いでした。
治る、そして再発を予防できる病気によって、有能な方を失うのは、社会の損失です。
今回の松本前大臣の言動が躁状態によるものだったとしても、傷ついた被災者の方々の心が癒されるとは思いませんが、何とかこれを機会に、双極性障害の躁状態という病気があることを、ご理解いただければと思います。
関連Q&A
Q: 松本前復興相は、入院しているのに「軽い」躁状態というのはおかしいのではないでしょうか?
A: いいえ、おかしくはありません。発表内容は、「軽躁状態」ではなく、「軽い躁状態」ですから、「躁病エピソード、軽症」ということだと思います。躁病エピソードのDSM-IV診断基準には、「入院が必要であるほど重篤」という一節があります。入院が必要なほどの躁病エピソードは、さらに軽症、中等症、重症に分けられます。重症は、「自己又は他者に対する身体的障害を防ぐため、ほとんどいつも監視を必要とする」あるいは「妄想又は幻覚」ですから、前復興相の症状は、重症とは言えないでしょう。基準を満たす診断項目の数から、軽症と診断されたということだと想像します。もちろん、被災者の方々を初め、あまりにも多くの方々への甚大な影響がありましたので、その社会的影響は、とても「軽い」とは言えませんが、それは、症状の重さよりも、社会的立場の重さによるものでしょう。