CINP  20106811 香港

 

今回のCINPは、1990年の京都学会以来20年ぶりに、アジアで行われた。会長は、S.W. Tang教授である。開会式では、カルバマゼピンが気分安定薬としての作用を持つことの発見に対して、大熊輝男先生に「CINP Pioneers in Psychopharmacology Award」が授与された。日本人として誠に誇らしいことである。

開会式は、最後に伝統芸能の中国風獅子舞がちょっと出た他は、比較的地味だった。学会全体も、これまでとはかなり趣が異なり、企業の展示ブースは小さく、サテライトシンポジウムも食事はなく、簡素であった。コングレスバックも、大きさの割に中身は少なく、抄録集もない(ファイザーの提供によるCDのみ)。製薬会社が学会に資金を出すことを控えるようになっており、学会側もコスト削減をしているとのこと。学会は、学会参加費でまかなえる範囲で行うのが本来の姿である。ランチョンセミナーも本来、ないに越したことはない。

 

Dr. リーバーマンのプレナリー講演(統合失調症の治療)

SGAの登場でSZに対する薬物療法の可能性が広がったが、新たに体重増加や代謝系の副作用の問題が生じている。また、抗精神病薬の有効性の指標となるバイオマーカーがないことも限界である。FGASGAも、ドーパミンに作用する点は共通しており、β-arrestinKOでアンフェタミンの作用が阻害されること、GSK-3βの阻害薬 (リチウム) でアンフェタミンの効果がblockされることなどからDA→β-arrestin→GSK-3β系の関与が考えられる非定型抗精神病薬の中では、クロザピンとオランザピンの効果が特に定型に勝る。新たな作用機序の抗精神病薬として、SZGlutamate hypothesisに基づいて、Glutamate receptor complex (NMDA, KA, AMPA)に作用する薬が開発されているが、グリシン、D-シクロセリンは効果なし(CONSIST研究)。そのほか、mGluR2/3アゴニスト, GABA-Aアゴニスト, AL-108[Davunetide]は内在性の神経保護作用を持つ蛋白質で、微小管機能?を改善する)といった今後の抗精神病薬の新たな可能性に期待したい。

 

Dr. チュアンHDACのセッション

VPAHDAC阻害効果は、2001年に2グループ(クラインらとGottlicher EMBO J. 2001)が同時に発見した。ヒストン修飾変化の標的は、BDNFGDNFαシヌクレイン、HSP70など。VPAは中大脳動脈結紮モデルで炎症、ミクログリア活性化、BBB破壊などを阻害し、微小血管を増やすなど、神経保護作用、神経栄養作用に加え、脳虚血への効果に必要な作用を多数持つことが報告されている。ハンチントン病動物モデルにおいてVPAは、運動、うつ、不安を改善し、リチウムとの併用が特に有効であった。その他、脳卒中、パーキンソン病、脊髄性筋萎縮症、ALS、アルツハイマーなどに有効な可能性がある。今後、HDAC阻害作用を持つ新たな薬の開発に期待したいという話に対し、会場にいたクラインから「新薬開発しなくてもVPAでよいのでは?」と質問があった。台湾、中国では、脳卒中やハンチントン病に対する試験が行われているらしい。

 

Dr. ミッチェルの教育セッション

双極性障害に対する非定型抗精神病薬の効果としては、うつ病相の予防効果はOLZQTPのみであるが、躁病相の予防効果は多数報告されている。定型抗精神病薬は調べられてないだけで、非定型と同様に躁病相の予防効果はあるかもしれない。近年、急性双極性うつ病に対する抗うつ薬のメタ解析 (Ryan J, et al. British Journal of Psychiatry 2010) と、躁病相に対するアロプリノールの有効性に関しては論文が2つでた。

 

アゴメラチンのサテライトシンポ

SERVIERが開発したアゴメラチンは、MT1/2 アゴニスト+5HT2C アンタゴニスト(IC50MT10-102C10-74桁違う)である。そもそも、5HT2C アンタゴニストはfrontal cortexNA, DA releaseを増加することが知られ、注目されていた。Ratprefrontal cortexにおけるストレス負荷後のglutamate releaseは、アゴメラチン投与で抑制され、5HT2C アンタゴニストあるいはメラトニンの単独投与ではその効果は見られなかった。同様に、Ark gene, BDNF mRNA expressionはアゴメラチン投与で有意に増加したが、それぞれの単独投与ではその効果はなく、hippocampal cell survival (BrdU+の細胞数)に対する効果も同様の結果であったことから、MT1/25HT2C receptorへの相乗効果が考えられるとのこと(MT2C阻害の併用は、と質問したが、やっていないと)。

アゴメラチンは、動物モデル(LH, OB, CMS, GR-Tgなど)で有効性が確認された。また、3つのプラセボ対照RCTでいずれも有効性が確認され、4種のSSRIと比較した5つの試験のメタ解析で、SSRIより有意に有効であり、1週目より効果が見られた。副作用については、ALT/ASTの上昇が1.1%(プラセボ群では0.7%)に見られたが、その他目立った副作用はない。就寝前に服用することで良眠が得られ、翌日に持ち越すことはないので鎮静の問題もない。体重変化もプラセボ群と同程度で、性機能障害はvenlafaxine投与群に比して有意に少なかった。予防効果については、治療開始44週後の再発率はプラセボ群(49.9%)に比してアゴメラチン投与群(23.9%)で有意に低かった(p<0.0001)結局、抗うつ効果は2C阻害作用がメインで、メラトニンを介した不眠、日内変動、性機能障害などの効果を介して評価尺度の改善点を稼いでいるのかも知れない。

関連の話題:月曜日のポスター (P-03-36)

嗅球摘徐(OB) ラットを用いてopen field試験を行い、プラセボ, イミプラミン, アゴメラチン, メラトニン, 5HT2C アンタゴニスト (S-32006) 投与後のambulation scoreを比較。まず、OBではsham-operated rats (SO)に比して有意にambulation scoreが高く、imipramine投与群ではその差が見られなかった。アゴメラチン投与群においても同様に、OBSOambulation scoreに有意差が見られなかった。また、メラトニン投与群ではSOに比して有意にOBambulation scoreが高く、S-32006投与群ではdose-dependentOBにおけるambulation scoreの減少が見られた。「この結果は、アゴメラチンの効果は主に5HT2C アンタゴニスト作用によるものということを示しているのか?」と聞いたら、「メラトニン投与でも、ambulation scoreの減少傾向はある。また、高用量のS-32006の投与によるambulation scoreの減少も、アゴメラチン投与ほどではない。やはりアゴメラチンの効果には、メラトニン アゴニスト作用と5HT2C アンタゴニスト作用の両方が関与しているのではないか」ということだった。ちなみに、この試験でも、メラトニンとS-32006を両方投与する実験は行っていなかった。また、別のポスターでは、2C-RMT-Rがヘテロダイマーを作ることが報告されていた(とりあえずin vitroだが、おそらくvivoでも。ヘテロダイマーができると、メラトニンがGqに効く)。

サテライト後に仕入れた情報では、Stahlは、この薬を「Norepinephrine-dopamine disinhibitor (NDDI)」と呼んでいる。5HT-2C アンタゴニスト作用のないMT1/2 アゴニスト(ラメルテオン)は、睡眠薬として販売されているとのこと。サテライトシンポでは、一瞬、これまでのme too drugゾロ新薬とは違う画期的新薬か!?と思ったが、やはり、NADAのリリースをconstitutiveに阻害している5HT2C receptorを阻害することでNA/DAを増やす、という作用機序は、これまでのモノアミン系に作用する抗うつ薬と大差ない。メラトニンの睡眠薬としての作用のおまけがついている薬、という程度に考えた方が良さそうだ。文献によると、副作用全般の頻度(30%)はプラセボ (36%)と差がなく、プラセボより有意に多い副作用は、めまいと鼻炎とのこと。プラセボ対照RCTは、3つが有効、3つが無効。これら6つの試験のメタ解析で、わずかに有意に有効。有効性という点も、画期的とは言えないようだ。副作用の点では、TCASSRIに比べて良さそうだが、効果も微妙では、あまり意味がない。

 

Dr. マレーのカンナビスのプレナリー

15歳までの使用OR 4.5は、18歳までの使用(OR 1.6)に比して特にリスクが高い(Arseneault V, et al, 2002)AGPにもコホート研究あり。カンナビスの成分には、THCの他にCBD (cannabidiol) もある。THCに認知機能障害、幻覚作用があり、CBDはこれを阻害する。「スカンク」では、「ハシシ(resin)」「マリファナ(グラス)」よりもTHCの含有量が高い。6回以上の使用、毎日の使用がリスク(毎日のスカンク使用OR=11.8)。

 

Dr.ヤータムbipolarのセッション

Dr. ヤータムは、癌を進行度によってstagingするのと同様に、指標としてneurochemical factors (brain volume, BDNF, 炎症性マーカー, 酸化ストレスマーカーなど)clinical factors(エピソード数など)を組み合わせて、bipolar diaorderI-IV期に分類することを提案していた。(ちなみに、病相の多い人の方が脳室拡大、炎症性マーカーのIL6, TNFαはearly stage, late stageともに上昇が見られるが、IL10early stageのみで上昇しており、BDNFlate stageのみで減少)。

BipolarにおけるNMDA/AMPA 受容体機能に着目して行われた、NMDA アンタゴニストであるケタミンの臨床試験についての報告があった。ケタミン投与40分後に抗うつ効果が出現し、その効果は7-14日持続する。治療抵抗性のbipolar depressionにも有効で、1日で33%が寛解に至ったとのこと。しかし、投与40分後には、BPRSの陽性症状スケールも増加(副作用の解離状態のため)しており、会場からは「安全性はどうなのか?」という質問がでた。また、anterior cingulate cortex activityが治療反応性と相関しており、バイオマーカーとなりうる、とのことだった。

関連の話題:火曜日のポスター:

35名の患者をケタミン群(N=11)とプロポフォール群(N=20)に分け、ECTを行ったところ、ケタミン群の方が2回目終了後の改善度が有意に大きかったが、8回目には有意差は見られなかった。ケタミン群ではけいれんが有意に長く続き(これも関係?)、幻覚を伴う恐怖が多く見られた(27% vs 0%)

 

2日目

Genomicsのセッション

アルツハイマー病のマーカー探索において、アルツハイマー病の創薬へのパイプラインは壊れてしまったことから、発症予防のバイオマーカーが必要になっている。ADNIでは、血液のプロテオミクスでCFH(補体H)が出てきた。これはmacular degenerationGWASで出てきた遺伝子と同じ。エンドフェノタイプ(海馬萎縮やMMSEなど)との関連で絞り込みを行った結果、Clusterinがでてきた。これはモデルマウスでも増えており、GWASでも同じ遺伝子(CLU)がでた。質問したが、CLUSNPと血液蛋白のClusterinには何の関係もないとのこと。精神疾患よりはるかに研究が進んでいるアルツハイマー病でも、バイオマーカーに関しては、精神疾患のアプローチと同じ(網羅的解析やエンドフェノタイプ)で驚いた。

 

リチウムの効果はGSKか、イノシトールか?というディベートセッション

Dr. クラインが、リチウムの作用機序の説を整理。イノシトールとGSKの他に、Phosphoglucomutase (PGM) (Masuda CA, et al. J Bio Chem 2001)β-arrestin (Beaulieu JM, et al. Cell 2008)を挙げていた。イノシトールもGSK-3βもあまりに多くの細胞機能に関与している。イノシトール欠乏の作用の大きさは小さい。

確認の基準として、
1)
 In vivoの抑制効果
2)
 類似の作用を持つ他の薬の効果
3)
 標的遺伝子の欠損がリチウムと同じような効果を持つこと
4)
 レスキュー
4つを挙げた。他のIMPase阻害薬としてはL-690330GSK阻害薬としては6B10L803などを挙げていた。(Kim WY et al, Neuron 2006)

調べる系としては、
1)
 Development(魚の奇形)
2)
 成長円錐
3)
 マウスの行動(FSTTST、アンフェタミンなど)

を挙げた。いずれの系でも、エビデンスはGSK-3の方が多く、GSK-3はすべてを満たしているが、イノシトールは調べられていない点が多いことを示した(成長円錐はレスキューだけ、マウスの行動は阻害作用とgeneticsだけ)

Dr. ハーウッドの反論は、英語が聞き取りにくいことも重なり、あまり説得力ない印象。Dr. クラインはかなりGSK-3で決まりだと思っているようではあったが、最後に、「GSKについて調べられている強制水泳はうつ状態ではないし、結局bipolarの病態をもっと調べないといけない」とまとめた。ディベートのセッションとしては、2人が交代で発表しただけで、あまりその先の進展がなく、いまいちだった。以前の「抗うつ薬の効果に神経新生は関係するか」や「抗うつ薬と自殺」のセッションの方が良かった。

 

ポスター

ドイツでうつ病のGWASで、HOMERが出てきて、2ndサンプルでも確認できた。

 

3日目

Dr. ベルメーカーのプレナリー

自分の以前の論文を種に、統合失調症における血小板のMAO活性変化が再現できなかった話をして、最後には「一つしか答えのない問いはない。別の方法で調べたら別の答えが出てくることもある」というようなことを述べた。臨床におけるエラーバーは、測定誤差でなく、そこには個体差があることに留意して、新たな知見をめざせ、というような話。治療アルゴリズムでも、その人が以前の病相でどのような薬に反応したかをもっと重視せよ、と言っていた。また、新薬ばかりにエビデンスがある状況に注意せよ、と。

 

筆者は「Is there a common pathway between neurodegenerative disorders and mental disorders?のセッションで発表した。

 

アンソニー・グレイスの教育セッション

統合失調症ではDA仮説がある一方、DAニューロンの異常は報告されておらず、海馬に異常がある。これはなぜかについて、動物モデルを使って解明している。

MAM(神経新生を阻害する薬)の周産期投与モデルでは、海馬のδθ?)波が増えているなど、海馬の活動が上昇している。また、VTAで発火するDAニューロンの増加、パルブアルブミンニューロンの減少、γ同期の障害が見られる。前頭葉からventral striatum(側坐核)ventral pallidum(VP)を介してVTAを抑制する回路を海馬がmodulateしており、VPを抑制するとDAが過活動になる。MAMモデルでは、アンフェタミンに対する行動量増加が増えているが、海馬を抑制するとこれがレスキューされることから、これは海馬の過活動を介していると考えられた。また、GABAAα5サブユニット(海馬特異的なサブユニット)の特異的アゴニストで海馬の活動を低下させると、DAニューロンの過活動が治る。

 

Ethicsのセッション

Dr. トーマス・バンが、conflict of interestについて発表。

製薬会社の利益を最大にすることを目的としたMarketingと、患者の利益を最大にすることを目的としたEducationとは目的が全く違うことに留意せよ。レオンハルトの分類では、同じpsychosisでも、薬物反応性は全く違う。遅発性ジスキネジアは、薬物の効かない患者では20%、効く患者では5%と大きく違う。クロルプロマジン出現の後、ドーパミン仮説ができて、ハロペリドール一色になり、錐体外路症状が問題になったが、その後CPZと大して変わらない性質を持つクロザピンや非定型が現れ、またメタボリック症候群や心血管性の副作用が問題になっている。50年たっても何も変わっていない。抗うつ薬も全く同じ。イミプラミンが出て、セロトニン仮説が出たからSSRI一色になったが、結局50年間進歩していない。うつ病患者は増えたが、副作用が60%以上に出ることに注意すべきだ。抗うつ薬で5人治療されたとすると、治る人が1人なら、副作用だけの人が3人いるのだ。

現代では、エビデンスと呼ばれるものは全てマーケッティング目的で生み出される。古い確立した薬は「エビデンスレベルが低い」とされ、常に新しくて高価な薬ばかりが「エビデンスがある」としてアルゴリズムで推奨される結果になっている。安全で有効な薬を承認したい政府、利益を最大にしたい製薬会社、そしてアカデミア、それぞれに思惑が違う。いずれにせよ、現状では合理的な薬理学的治療など一つもないことに留意すべきだ。

Dr. ラエル・ストラウスethical decisionについて発表。

良くない処方の仕方とは、

・ボスの言うとおりにする

・人のまね

・フィーリング

・直感

・習慣

合理的な処方の仕方は、

・義務論

・結果主義

・原則主義

・徳の倫理

良くないやり方をしている人も多くは自分が正しいことをしていると信じている。もっと教育が必要だ。優生学、断種、安楽死(T4作戦)などのナチスの蛮行には、精神科医が協力していた。Henry A. Cottonは、精神病は感染が原因と考え、歯を抜くなどの治療開発した。次第に、扁桃腺、そのうちに盲腸、胆嚢、卵巣、卵管、精巣と、どんどん手術で摘出したら良くなったと報告した。このCottonも、当時は尊敬される医師であったという。また、ソビエトでは、政府に反対する人を精神病として精神病院に入れていた。これにも精神科医が協力していた。こうした蛮行に加担したのは、決して邪悪な精神科医ではない。平均的な精神科医が加担したのである。倫理の教育には歴史の教育は不可欠である。また、small groupでのdiscussionも有用だ。

質疑応答では、「当時加担していた精神科医も正しいことを信じていたはず。現在行っていることを50年後に振り返ったらどのように見えるかよく考えないといけない」などの意見があった。

 

P-15-052: IMPA1KOSMIT1 (イノシトールトランスポーター)KO とリチウム投与のWTマウスで遺伝子発現解析を行い、3種の方法(DAVID, IPA, GSEA)において2つのKOに共通したpathwayミトコンドリアであった。

 

P-20-048: 統合失調症患者の1st2ndコホートの2群で、G72の遺伝子発現を調べた。(分母はGAPDH)。1群目、2群目ともに同じ結果。G72が患者で有意に高い。(患者[99]2.0±3.6に対し対照群[103]0.14±0.20)。無服薬群の方がより高値。Sensitivity97%specificity 89%で診断可能   

 

4日目

Bipolarのセッション

Dr. バウアーは、双極性障害のハイリスク児のフォローアップ研究などについて報告。非特異的な症状が多い。

フランスのグループがメラトニン合成酵素Hiomtのリシーケンスについて発表。前回(ASHG?)とほぼ同じ内容。約300名の患者中8名にミスセンス変異があり、これらの患者では培養リンパ芽球の酵素活性やmRNAが低下していた。前回の発表後、コントロール約250名もシーケンスし、データーベースにある変異しかみつからなかった。

 

Elective Psychopharmacologyのプレナリー講演

Cognitive enhancerとして、メチルフェニデート、アトモキセチン、モダフィニル、アンフェタミンなどを使うことの是非について。外科医が眠い時に安全に手術するため、とか、勉強の成績をよくするためなどに、使って良いのではないかという話。MPHはさすがに副作用の話もしていたが、依存のことだけで、精神病症状とかの話はなかった。全体にあまりに副作用について考えが甘い印象でびっくりした。薬で認知機能を高めることは、認知機能によって差別されている人たちに対して差別をなくす意味がある、というロジック。ガザニガ氏の肯定的なコメントなども引用されたり、エモリー大学の研究者の、「これまではジェットラグで着いた当日は講演できなかったがモダフィニルを使えば大丈夫だ」などの話も紹介され、耳を疑った。イントロではmental capitalの論文を引用していたが、mental capitalを高めるのに薬とは情けない。覚醒剤乱用が社会問題になっている日本としては、ひとこと言いたかったが、講演が伸びで、タイムリミットで中座せざるを得なかった。日本行きの飛行機の時間の都合で、最後まで残っていた日本人はほとんどいないと思われ、誠に心残りであった。

 

以上、今回のCINPでは、画期的新薬の発表はなく、病気の原因解明に関しても、目立つ進展があるわけではなかった。Dr. バンのお話の印象が残ってしまい、精神薬理学の50年の研究で、一体どれだけの成果が上がったのかと考えさせられた。抗精神病薬も抗うつ薬も、最初の薬から大きく進歩していないし、気分安定薬の作用機序は未だ不明である。ここ数十年の精神薬理学は、marketingの手伝い以上の役割を果たしただけなのだろうか、と考えさせられた。しかし、科学は決してsteadyに進むのではなく、時々break throughが起きて急に進歩する。今は臥薪嘗胆の時期なのかも知れない。

次回のCINPは、2012年、ストックホルムで63-7日に行われる。