American Society of Human Genetics参加記 2009102225日   

 

本学会には、シンポジウムのため参加するつもりでいたが、残念ながら提案が採択されなかったし、初めて参加する学会の場所が「ハワイ」では誤解を招くのでは!?とか、海外出張の連続になる、等の理由で迷っていたが、パーソナルゲノム時代が来る!と言われながら、未だ個人ゲノム解読による疾患の原因解明の例がない中、今年のASHGではその発表がなされるはずだと考え、やはり参加することにした。4900名が参加する大学会である。

 予想通り、本学会では、Exome SequencingおよびWhole Genome Sequencingなど、Next Generation Sequencing(NGS)による研究が大爆発しつつある状況であった。ポスターには昔ながらの候補遺伝子の関連研究などもあったが、前日の「Next Generation Sequencing」というHuman Genetic Variation Societyのセッションとあわせ、GWASの次はシーケンスだ!という雰囲気が圧倒的であった。

 

HGVSセッション:新登場の技術

 その主役は、エクソンキャプチャーアレイ(NimbleGenなど)と次世代シーケンサー(Roche 454Illumina Genome Analyzer IISOLiDなど)の組み合わせによる、Exome Sequencingである。1人分の全エクソン解読が、おそらく米国では1万ドル前後と思われるが、日本でも数百万円で可能であろう。

M.Hurles (Wellcome trust)は、3人分のexome sequencing解析の結果を報告したが、1人あたり、stop codon54-66, spliceに影響を与えるSNP30-40, in-del 115-167個あったとのこと。しかし、エクソンのキャプチャーされやすさがGC含量などにより影響され、カバレージにばらつきがあることもあって、意味あるデータを得るために何ランすれば良いのかははっきりしない。最低2ラン、できれば4ラン位必要と思われた。また、リンパ芽球のmutation rateはリンフォサイトDNAに比べて〜10倍近くあるとのことで、今後末梢血サンプルなどで他の試料での確認がますます重要になるであろう。

 一人あたりのSNPの総数は3から4 millionと推定されるため、全ゲノムシークエンスによる疾患研究においては、どのSNPpathogenicか見分ける必要がある。C.Beroud (INSERM)は、そのためのbioinformatics toolの紹介を行い、アミノ酸置換がある場合の機能評価をprotein structureをもとに解析 (Cupsat, Foldx, Mupro, IPTREE)aggregationのおこしやすさを評価する解析(Agrescan, Tango)、疾患に関連する立体構造変異のデータベースから評価(PONDRDisProt, IUPred)、pathognenicity predictionにより評価(nsSNP analyzer, PMUT, SIFT, PhD-SNP, PolyPhen, WOLF-PSORT)などあるので、色々な方面から解析することが重要とのこと(ソフトウエア名+Protein google searchするとhitします)。ただし、これらのほとんどは、ハイスループット解析には向いていない。演者らはUMD predictor, Splice Finderを以前開発したが、ハイスループット解析に対応するようにした、という話であった。

一方、Complete Genomics(http://www.completegenomics.com/)は、IlluminaABIRocheに比べ、あまり強力にプロモーションしていなかったため、Exome Sequencingの陰に隠れ、目立たなかったが、実はこちらの方がすごい。Complete Genomics社は全ゲノムシーケンスを受託解析している。依頼は8サンプルからで、1サンプル2万ドル。すなわち、1200万円で全ゲノムシーケンスができる。必要なDNA100ug/mL以上で、15ug。技術は、アダプターをつけて環状にした500bpDNA断片をぐるぐると増幅してDNAボールを作成し、これを碁盤の目状の基盤を持つスライドグラスに張り付ける。碁盤の一つの目に1断片のみが張り付く。これを、蛍光DNA断片をハイブリダイズさせる方法を使ってシーケンスする。自社開発の装置である。普通のチューブで増幅するので、試薬が節約でき、DNAが平面でなく立体なので明るく、解析には汎用顕微鏡が使える、など、さまざまなコストダウンの工夫がなされている。装置を売る代わりに、受託というビジネスモデルを選択したらしい。NGS装置は買ったがうまく動かない、というケースも考えられるので、同社の方向は興味深い。2009年には1000人分の完全ヒトゲノム解読を行い、2010年までには、自社の装置を192台の装置を備え、年間20000サンプルのヒトゲノムの解読を行う予定とのことである。バイサルファイト変換を行ったDNAについても来年末には対応を開始するとこのことである。とはいえ、実際に同社に頼むとなると、倫理の問題に加え、入札になるので、納入保証をしてくれる日本の業者をみつける必要がありそうだ。

 現行のRoche 454を用いた論文数は550を超えたとのこと。sequence長がmicroflucidics系の改良(=本体に手を加える必要がある)と試薬の改良により約1kbまで飛躍的に伸びた。その先の「第3世代」シーケンサーとしては、HelicosHeliscopeがある(既発売)。単分子を基盤に接着し、蛍光のついた塩基を取り込ませ画像を取る、という手法で解析するため、増幅の必要がなく、スループットが高い。また、増幅しないので、GC contentによるバイアスがかからないのも利点。DNAサンプル量は3ngで可能と書いてあったと思う。価格は約1億円。Helicoseを用いたヒトゲノム解析論文(2009 Nat Biotech)も報告されている。

PacificBio社の装置も、同様の単分子シーケンスだが、DNAポリメラーゼによる合成の状態をリアルタイムで観察するため、さらに高速だという。これは2010年後半発売予定。

少数例の全ゲノム解析で変異のある遺伝子を発見しても、その先、多数例での変異検索が必要となる。HGVS会議では、分子バーコードをつけたプライマーで増幅して次世代シーケンサーにかけ、多数名でリシーケンスする方法が紹介された。特許申請中だと言っていたので、そのうちプライマーと解析ソフトのセットで販売されると思われる。会議でも、各被験者由来のPCR産物にバーコード配列のタグをつけてシーケンスした発表があった。

 また、パーソナルゲノム時代にそなえ、データを整理したデータベースが作成されている(http://www.hgvs.org/ (Human Variome Project)

 

 

 

Exome/Whole Genome解析

初日朝に行われた「レアバリアントの解析」、「1000ゲノムプロジェクト」、という2つのシンポジウムが、本学会のハイライトというべきものであった。

 GWASの結果では、例えば身長の関連研究(GIANTプロジェクト)でも、150個のSNPでやっと遺伝的変動の23%しか説明できない。この「missing heritability」は、多数のまれなSlightly deterious SNPsdSNP)の積み重ねによると考えられる。PolyPhenあるいはSIFTで機能変化を予測したスコアを縦軸、minor allele frequency (MAF)を横軸にとると、MAFが低くなるにつれて、PolyPhenスコアが高くなる。GWASで疾患との関連が報告された339個のSNPについて、同様の図を書くと、MAFが低いほどオッズ比が高い。こうしたまれなsdSNPと疾患の関連を明らかにするには、common SNPより多くのサンプル(数千以上)が必要となり、SNPチップでなく、リシーケンスが必要になる。

 1000 Genomeプロジェクトは、英国、米国、中国、ドイツの4カ国の共同プロジェクトで、全世界の24位の人種(日本人を含む)で1000人のゲノムを全て読むものである。

 パイロット1では、低カバレージ(2-4×)で185名を解読、パイロット2では、高カバレージ(20×)2トリオを解読して、メンデルの法則からのはずれ方を確認、パイロット3では1000遺伝子について20×で1000名解読した。これらのデータは20091112月に公開される(http://www.1000genomes.org/)。185名には、日本人30名を含む。2010年にはプロジェクトは終了するが、パイロットデータだけでもかなり有用だという。トリオ解析では、シーケンスエラーによりメンデルの法則にはずれるように見える場合はあったものの、明らかなde novo変異はほとんどなかった。

 Charcot-Marie-Tooth病を研究しているBaylor医大のL.R.Lupski氏が壇上に登った際、初めてイスが用意されたので、さては、と思ったら、やはり、実は彼自身もこの病気に罹っているという。CMT病は、ミエリン関連遺伝子変異、あるいは軸索関連遺伝子変異により起きる。既に40もの遺伝子が見つかっているが、彼自身の変異は、これまで見つかった遺伝子には見つかっていなかったという。報道によると、同医大ゲノムセンター長のGibbs氏が、Lupksi氏自身の全エクソンをシーケンスしよう、と提案したという。Applied BiosystemsSOLiDを使って、30倍のカバレージで解析したところ、多数の変異が見つかったが、HapMapにあるもの、dbSNPにあるものを除くなどフィルターをかけた結果、(両アリルに)2つの変異を持つ遺伝子として、SH3TC2が見つかった。このシュワン細胞に発現する遺伝子が、Lupski氏のCMT病の原因と考えられた。

 Washington大学のグループはまず、NimbleGenエクソンキャプチャ―アレイ+Roche 454を用いて、患者4名の全ゲノムシーケンスにより、さまざまなフィルタリングを通して、「Freeman-Sheldon syndrome」の原因変異(MYH3)を特定できた話(Ng SB, et al: Nature. 2009 Sep 10;461(7261):272-6.)を紹介した。これは既知の変異を持つ患者を調べた、proof-of-concept的研究であったが、今回の学会では、実際にこの方法を、原因不明のMiller Syndromeという種々の形態異常を呈するまれな遺伝性疾患の症例4名(うち2人は同胞)に適用した結果を発表した。(Exomeシーケンスによると発表していたが、Complete Genomics社の全ゲノムシーケンス解析も平行して行われたようである)。その結果、4名全員がDHODH(ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ。核酸合成に関わる)のcompound heterozygote変異を有しており、これがMiller Syndromeの原因遺伝子と考えられた。この症候群の他の6症例でも、同じ遺伝子に変異が見いだされた。この症候群の患者の表現型(顔貌や下肢の骨の特徴)は、胎生期にメトトレキセート(核酸生合成を阻害する抗ガン剤)に暴露された子どもの表現型とよく似ていたことも、この症候群がDHODHの変異による核酸代謝異常によって生じることを裏付けると考えられた。なお、同胞2人の家系では、DNAH5dynein, axonemal, heavy chain 5)にも、異なる2つの変異が見いだされた(compound heterozygote)。これは、Kartagener症候群の原因遺伝子である。この兄弟が内臓逆位等の症状を持つかどうかは言及されなかった。この兄弟は、不幸にも二つのメンデル型遺伝病を同時に有していると考えられた。これら2つの研究は、原因不明の疾患の原因をExomeシーケンスにより同定した、最初の2つの例と言えよう。

また、高コレステロール血症(LDL=700mg/dl)11ヶ月女児の全ゲノムシーケンスが、Complete Genomics社に依頼して行われた。平均44.9×のカバレージで、ゲノムの94%が高品質に読めた。新規SNPin/del329万あり、うち非同義が8726dbSNPにないものが1100exome project (Ng SB, et al: Nature. 2009 Sep 10;461(7261):272-6)で見いだされていないものが899、一つの遺伝子に2つ以上ある、という条件で、1つだけに絞られた。見いだされたのは、ABCG5ABC transporter G5)という遺伝子のG16XR446Xという2つのノンセンス変異であった。ABCG5は、劣性遺伝家系で高脂血症の原因遺伝子と報告されている(Berge KE, et al. Science 290:1771-5, 2000)。両親は、どちらかの変異のヘテロで、compound heterozygoteであった。こちらは、方法はうまく行ったが、新発見ではなかったため、発見のインパクトが低かったようだ。

Muscular Dystrophyに関連する遺伝子は約32個見つかっており、患者の50%程度はそれらの遺伝子における変異で説明できる。Peter Nagy (Univ of Iowa)は、残りの患者における発症原因をCGHexon sequenceにより調べた。23人の患者でCGHを行ったところ2/23rareCNVが、残りの21人の中の1人ついて、Nimblegen exon captureの後、454FLX sequencerexome解析を行った。結局、全exon1/5を対象に、3X4Xcovergareになるようにsequenceしたところ、50の未知SNPを同定、40個はSanger sequencingで確認できた。その中にはskeltal muscleで重要な機能を持つPKD遺伝子が含まれておりこの遺伝子が重要であろう、という話であった。

近親婚の場合は劣性遺伝とわかるが、compound heterozygote(同じ遺伝子の両アリルに別の変異がある)の例では、遺伝病とはわかりにくい。これらの結果から、孤発性疾患患者には、CPEOPOLGと同様、compound heterozygoteが結構ある可能性が考えられる。

また、劣性遺伝精神遅滞で、1p34に連鎖している家系で、細胞株から1番染色体を単離(蛍光色素をつけてFACSで分離したものと思われる)し、その後、deep sequencingを行った報告もあった(PB568H. Najmabadi))。1700個の変異が見られ、44個がミスセンス。うちdbSNPにないのは1個で、ST3GAL3 (ST3 beta-galactoside alpha-2,3- sialyltransferase 3)という遺伝子であった。(MRの原因としてはこれまで報告はない)

 その他、ポスターで(S.P.Daiger)、優性遺伝の網膜色素変性症で、罹患同胞対と家系内の非罹患者で候補遺伝子42個のPCR産物を混ぜて454シーケンサーで解析したという報告もあった。他にも、候補遺伝子領域をLong Range PCRにより増やして等モルずつ混ぜてNGSを行った発表があったが、coverageが数千×と、機械の性能をもてあましているような印象を受けた。また、がん細胞株4つのエクソーム解析で、各細胞株で200300もの融合転写物(fusion transcript)が見つかったという話もあった。

 P. Awadallaらは、自閉症スペクトラム障害(ASD)と統合失調症で、de novo変異を探索した。自閉症および統合失調症の285トリオ、および285のコントロールトリオで、401個のシナプス関連遺伝子をダイレクトシーケンスした(方法がよくわからなかったが、何人かをプールして普通のサンガー法で読んだのだろうか)。De novo変異を見つけるため、家族歴がなく、重症で、発症年齢が早いケースを選んだ。その結果、6万個の変異が疑われ、うち確認されたのが10209個。Coding領域が4354個。非同義置換が2135個、dbSNPにないものが1323個で、そのうち28個がde novoであった。しかし、28個中、13個はセルライン化によるアーチファクトで、リンパ球DNAには見られなかった。残る変異のうち6個はASD家系に、8個は統合失調症家系に見られた(数が合わないが)。De novo変異としては、SHANK3de novo変異(R536WR1117X)が4人に見られたが、SHANK3のミスセンス変異はcontrolにも1人見つかった。また、IL1RAPL1という遺伝子の7塩基欠失が見つかった。Functional変異/Silent変異の比は、De novo変異で2.5singleton変異で0.48と、いずれも全ての変異(0.25)に比して高く、まれな変異、de novo変異はdisruptiveだと言えるだろう、とのこと。 

アルツハイマー病(AD)NGS研究(L.Bertram)では、家族性AD患者4名で、Exomeシーケンスが行われた。1人につき4ランを行って、6477×のカバレージであった。46570個の変異を見いだし、コントロールExomeに見られないこと、脳に発現していること、PolyPhenで機能障害が疑われること、1000名のコントロールで見られないこと、などで絞り込んだが、なお396個が残った。1人につき、PolyPhendamaging変異(CELSR3NOTCH4SMPD1SORL1など)が17130個、ノンセンス変異(NDRG1TUN1PPRC1など)が123個、フレームシフト(CADなど)が28個あった。中でも、SORL1は最近孤発性ADとの関連が指摘されたものであった。

PIC(アゾレス諸島などのポルトガルの島々。孤立人口として遺伝学研究が行われてきた)の統合失調症家系では、5q33との連鎖が見られ、GWASでも、GIRA1NMUR2GRIA1など、5q33領域にシグナルがあった。Z.Dengらは、この領域(600kb)で、多数のLong Range PCRをかけ、産物をIllumina GA IIでシーケンス(single end [36bp], paired end)した。その結果、色々な変異やらCNVがみつかったというが、結論はうやむやだった。

やはりアルツハイマー病や統合失調症のような複雑疾患となると、NGSによる変異同定の結果の解釈も容易ではないようである。

 

Whole Genome Association Study (WGAS)

高脂血症のWGASデータ10万人分のメタ解析では、60個の遺伝子が見いだされた。一つ一つのオッズ比は2以下だが、2個だと33個で64個だとオッズ比8となる。

S.Purcellは、NatureInternational Schizophrenia Consortium論文の内容を中心に解説した。関連するSNPGO解析では、Neural Activitiesに多く(p=0.03)Brain Expressedの遺伝子も多かった(p=8x10-5)。また、遺伝子中に含まれるSNPが多かった。

最後のスライドで、結論として以下の点を述べた。

・統合失調症に関連するSNP100以上ある

・統合失調症は、環境因やde novo mutationだけでは説明できない

・統合失調症はrare variantだけでも説明できない

・脳に発現する多数の遺伝子の組み合わせによって発症する

と、この莫大な研究を行わなくてもわかるような内容であった…。

PB#727: 韓国からの報告。韓国遺伝疫学研究の一部として行われ、男性1690名、女性1513名でBeck Depression Inventoryを行い、うつ症状と相関するSNPを調べた。29SNP10-4レベルで関連。(有意とは言えない)。うち11個が遺伝子にあり、SFPQHUS1EXTGARNL3COL5A1ITPR2ACCN1などが含まれていた。

PB732: トゥレット症候群1749名、対照群4410名におけるゲノムワイド関連研究(J. M. Scharf)。イルミナビーズチップ(550Kまたは317K)を使用。トップヒットは、CACNA1B (OR 1.47; p=5x10-8)。他に、LAYNBPIL2ZAP70

テキサスのグループ(D.Glahn他)は、心臓病の家族研究の一環として、地域を代表する150家系1500名でMRI、リンパ球のトランスクリプトーム、500K SNPチップを行っている。MRIは、FreeSurferを用いて自動セグメンテーションを行った。尾状核体積はheritableな形質(h2=0.685)であった。連鎖解析では、PRKAR1BLRRTM4と連鎖が見られた。PRKAR1Bは、他の脳部位の体積とは連鎖しない。PKAのサブユニットをコードしている。LRRTM4は、関連解析でも有意な傾向が見られた。機能は不明。扁桃体体積は、1096名まで調べ、403名まで解析したところ。h2=0.75heritabilityは高い。IRX2rs434930)と有意に関連していた。前部帯状回および前頭葉の体積とも関連があった。IRX2は転写因子をコードしている。他にはMYOM1E2F5が関連。今後はシーケンスと再現性確認を行っていくという。なお、彼らは、リンパ芽球のVPS13A(有棘赤血球舞踏病の原因遺伝子。鹿児島大の佐野教授らが2001年にクローニングした)発現量が脳体積と相関していることにも着目した。VPS13Aの発現量もheritableであり(h2=0.39)、エクソンとプロモーターの変異検索を行ったところ、2つのSNPrs13294928rs13297457)が前頭葉体積と関連していた。かなりの研究費を投入したプロジェクトである。

 自閉症の548家系(AGRE)における2236名におけるGWASTDTを行った結果では、2つゲノムワイドで有意な遺伝子が見られ、RYR210-11と強い関連(T:U=111:40)UPP2(ウリジンホスホリラーゼ)が2番目に強く関連していた(10-9(T:U=68:23)(A.Lu)。なお、この解析では、遺伝環境相互作用を補正することにより、統計パワーを高める方法(Joint test of gen by environmental interaction(Kraft P Human Heredity 63:111–119, 2007)を使用している。

 L.Scottは、GWASコンソーシアム(BPAutismADHDSchizophreniaMajor Depression)の一環として、Bipolarに関する11の研究(BP 9250 C 7481)のメタ解析(あるいはプールした解析)を行った。その結果、ゲノムワイドに有意なピークが二つあり、一つは以前から指摘されているANK3 (rs10994397が最大で7×10-9)、もう一つがSYNE1 (rs9371601, 4×10-8)であった。SYNE1の脳特異的なスプライスバリアントはCPG2と呼ばれ、dendriteに局在し、post synaptic endocyticzoneに存在し、スペクトリンリピートを持つ。スペクトリンはアンキリンと結合する蛋白として知られており、両者には関係がある可能性がある。CPG2dendritic spine sizeを制御する(Cottrell JR, Neuron 44: 677-690, 2004)。ゲノムワイドでは有意でないが、その次くらいにDDH(dendrin)が現れたことと考えあわせ、dendriteが関係あるのか、と思わせるが、ANK3はランビエの絞輪に局在するとされているので、少々矛盾している。第3位には、(rs7296288, 8×10-8)上の遺伝子が密集している領域、第4位に(rs12576775, 2×10-7)ODZ4だった。

ニコチン依存については、N.L.Sacconeのグループから3つの発表があった。53742人の中から、たばこを吸い始めた人(50.9%)、これまでに100本以上すった人(うち58%)に絞り、その中から、たばこ依存の症状がない人(1386名)とたばこ依存者(1458名)でGWASを行った。その結果、CHRNA3CHRNA5CHRNB4という、ニコチン受容体クラスターが10-610-8で有意であり、OR=1.37で、以前のサンプルと足すと10-1110-13あった。ニコチン依存(評価尺度FTDN)、慢性閉塞性呼吸器疾患、肺ガンなど、たばこ関連の表現型とニコチン受容体クラスターの関連を示す研究はこれで9本目となり、少なくとも白人ではconclusiveであると結論づけられた。また、アフリカ系米国人(case 461名、control 249名でも関連が見られた(OR=2.04)。最も有意なのはrs16969968という非同義置換を来すSNPである。一方、VA双生児コホート(2113名)、GAINの対照群(1985名)で、FTNDおよび1日平均本数を用いてGWASを行ったところ、両者でACSL6(Acyl-CoA synthetase long chain member 6)が現れた。これはニコチン受容体と相互作用し、ラット培養神経細胞をニコチンで処理するとACSL6mRNAが増加し、ニコチン受容体阻害薬(mecamylamine)で阻害されることなどから、この遺伝子はニコチンと関連すると考えられた。

 

Copy Number Variation (CNV)

WTCCCCNVの結果が発表された(P. Donnelly)。AgilentのオリジナルCNVアレイを用い、2種のアルゴリズム(CNVtoolsの改良版と、Cardin & Marchiniの新たな方法)で解析した。一見、コピー数が正規分布に見えても、principal component analysisを行うときれいに2つの山が見える場合もある。3432個のCNVのうち、500bp以上で、MAF>5%のもの(およそ半数)を解析。MAF>10%以上のCNV66%は、500KチップのSNPによりTagされており、GWASでかなりCNVについても調べられることになる。

また、主成分分析では、BloodCell Lineで全く違うパターンを示しており、これは免疫グロブリン遺伝子の再編成によると考えられた。ちなみに、アッセイプレートの列毎で解析しても、分かれてしまうという。

乳癌特徴的なCNVが見つかった他、IRGMCNVとクローン病、TSPAN82型糖尿病などの関連が見いだされたが、双極性障害と関連するCNVはなかった。エクソンを壊すCNVが疾患と関連しているという証拠はなかった。全体として、commonCNVは疾患の主な要因ではないと結論していた。

S.Purcellは、International Schizophrenia ConsortiumCNVの結果を報告し、Walsh論文で指摘された、Neural ActivitiesというGOに関わる遺伝子を含むCNVが多いという所見が確認された。

PB592 (E. Saus): GSK-3βのCNVと双極性障害の関連を追試。BP 188名、MD 256名、Cont 428名で調べたが、有意差なし。ただし、気分障害患者で、SPAQ(質問紙)で調べた季節性と関連しており、コピー数減少が季節性と関係していた。

 フィンランドのO.P.H.Pietilainenは、約5000人のフィンランド人でCNVを調べ、large CNVIQが低いこと、psychosishearing lossと関連していると報告した。

CNVはしばしば遺伝子発現に影響するが、多くの遺伝子はCNV外にあるにも関わらず、影響を受ける。NME4が近傍のCNVにより発現が上昇するメカニズムをallele specific定量で調べた結果、cis(同じ染色体上に載っている場合)のみ影響することがわかった。そのメカニズムとしては、上流の遺伝子αグロビンとNME4は共通の制御領域(MCS-Rs)により制御されており、αグロビンがなくなることにより、より強く制御されるようになるのだという(K. Lower, ASHG 2009)。ただ、フロアからは、単なる制御領域からの距離の問題ではなどの質問もでていた。

 

パーキンソン病患者4名と対照者の中脳で、トルイジンブルー染色後、中脳のニューロンをダイセクションし、GeneChipにより遺伝子発現解析を行っていた。(LabChipの図ではRIN56位に見えたが、値は出していなかった。) その結果、MTND2PDXK(ピリドキサールキナーゼ)、SRGAP3TRAPPC44つが低下していた。ドーパミン代謝と連関しているPDXKに着目し、関連研究を行ったところ、関連していた(オッズ比1.3)。わざわざ死後脳のダイセクションまで行ったのに、最後がオッズ比1.3の関連で終わりなの?と拍子抜けした。最も低下していたのはMTND2で、発表者は全く注目していなかったが、黒質におけるmtDNA欠失の蓄積と一致した結果と言えるだろう。

 自閉症患者の小脳(患者25名、対照群25名)で、71個のmicroRNA12の候補遺伝子のediting454シーケンサーで調べた。グルタミン酸受容体は、R/Gサイト、Q/Rサイトとも、遺伝子によって微妙に違う結果であったが、セロトニン2Ceditingは全体に上昇していた(A.Eran)。自閉症モデルマウスのデータでも上昇なので、一致していると言えよう。10個もの遺伝子のediting statusを、しかも一気に調べられ、しかも、サブタイプまで特定できる(はず)とは、いずれはRNA編集の解析も次世代シーケンサー、という時代になるのかも知れない。

 

遺伝子発現

C.E.Masonは、brain transcriptomeは他の組織に比べてデータの蓄積が少ない。RNA-seqによりEST databaseのようなものを再構成する必要があると述べ、胎児及び成人anterior temporal lobeの試料を使って、RNA-Seqを行っている。全遺伝子の75%の発現が確認できているとのこと。今後は、transcriptome解析をamygdala, hippocampus, temporal lobeでも行うとのこと。planの中にはepigeneticsと共に、single brain cell genome sequencingが含まれていた。

PB#765S.DeJong: 統合失調症患者の全血の遺伝子発現を、Gene Expression Co-Network解析(Oldham論文と同じ)を用いて行った。1stサンプル 統合失調症94名と対照群78名、2ndサンプル 未服薬統合失調症22名、対照群22名で、第一サンプルでは、12個のEigengene中、8個が統合失調症と関連し、うち4個が未服薬患者で確認されたこれらのEigengeneは、1: 蛋白合成、2: hematopoietic cellular development3: 結合組織病、免疫系、4: 感染症、皮膚と胚の発生、であった。学生さんらしく、public availableなデータを使って患者脳での確認はできるかと聞いたが、そんなものがあるのか?という感じであった。

PB#648(O.Eugrafov): 統合失調症患者の嗅上皮生検(耳鼻科医が共同研究者に入っていた)。Illumina GA IIRNA-Seqを行い、AffymetrixGeneChipと比較した。RNA SeqAffymetrixはあまり相関しないが、同じプラットフォーム同士での個体間の発現量はよく相関していた。AffyではBackground Noiseが多いために発現量が低いところでは信頼性が低いと考えられた。Affyの結果はRT-PCRで確認できない場合があり、RNA-Seqの結果はよく確認できた。しかし、両者がよく相関し、結果に大差はないという発表もあった。条件の悪いサンプルではRNA Seqの方が良い場合もあるということだろう。マイクロアレイで検出されたdifferentially expressed gene104個中、12個がadhesion moleculeRNA-Seqでは、268個中18個が接着分子であった(cadhelinVCAM1EDG1など)。

PB631: 統合失調症のバイオマーカーを探るため、30-30名のトレーニングセットでマイクロRNAを調べ、30-30名のvalidationセットで、70%以上診断できた。

 

エピジェネティクス

PB910R. Lyle): 49名の一卵性、40名の二卵性双生児で、60mLの血液よりFACSBリンパ球、各種Tリンパ球を集め、MHCCpGのメチル化状態を調べた。メチル化状態は一卵性の方が類似している。今後、乾癬(psoriasis)、喘息の不一致例を調べる予定。

PB907C. Ladd-Acosta): CHRAM法を用いて、自閉症双生児(不完全不一致5ペア、不一致4ペア)でメチル化の異なる部位を調べた。3つの染色体で、連続して患者でメチル化が高い領域を認め、これは連鎖解析で父方からのparent-of-origin effectを伴った連鎖シグナルが見られた部位と一致していた。

 Feinbergグループは、双生児のメチル化差異を調べており、14名の一卵性双生児、20名の二卵性双生児についてCHARM法によりメチル化を調べた。卵性診断にはSNPチップを使った。Twin間のDNAメチル化差異は、MZ<DZ<ランダム(無関係な人同士)であった。メチル化の違う場所が染色体の一部に集積していた(どこか、という質問があったがお茶を濁していた)。また、二卵性双生児の中では、その部分の染色体を共有している場合の方がDNAメチル化が類似しており、ゲノムの配列が似ている方がDNAメチル化も似ていると考えられた。(統計学的に意味ある差かどうかは不明)。また、一卵性、二卵性に関わらず、双生児なら一致しているところや、どのtwinでも違っているところなどがある、との話であった。しかし、全ゲノム調べたらそういうところもあると思われ、色々調べている割には何の結論もない発表であった。また、メチル化に差がある場所は、CpGアイランドよりも、その周辺(CpG island shoreと彼らが以前のがんの論文で命名)(Irizarry RA et al, Nat Genet. 2009 Feb;41(2):178-86)に多かった。

 FeinbergラボのA.Doiは、iPS細胞とfibroblastのメチル化の違いもこうしたCpG island shoreに多く、リプログラミングに関連してメチル化が変化する部分(R-DMR)のデータで各組織をクラスタリングできるとか、がんと非がん組織を区別できる、と述べた。しかし、これも他の部分だと区別できないのかどうかの比較がないので、何とも言えない。

 また、トロントのC.Barrは、RNA-Seqなどを使って脳特異的なインプリンティング遺伝子を探索し、皮質では父方アリルのみが発現しているが視床ではバイアレリックに発現する遺伝子としてPon2を見いだした他、いくつかの脳特異的インプリンティング候補を見いだした。(ただし、差のあった遺伝子はリード数が少なく、明確なことは言えないだろう)。

 

転移因子(mobile element

LINE1の発表もいくつかあり、LINE1hemi-specific primerを使って増幅後にNGSで調べた報告、1000 Genomeプロジェクトで全ゲノム解析をした報告などがあった。その結果、誰もが100個以上の、データベースに載っていないLINE1の挿入を持っていることが報告された。また、ヒトの持つLINE1の多くがactiveであることも報告された。

 

候補遺伝子

D.Liは、依存症の遺伝子関連研究を、英語文献および中国語文献を用いてメタ解析し、アルコール依存症とADH1B2×10-21OR=1.9adjusted OR=2.6)で関連していることを報告した(case 8133, control 803572研究)。また、ANKK1ankyrin repeat and kinase domain containing 1)がアルコール、ヘロイン、コカイン、メタンフェタミンと関連していた(case 11523, control 1053893研究、1×10-6OR=1.2)。また、GABA受容体遺伝子クラスター(GABRG2GABRA6も有意に関連していた(OR1.21.5p値は0.01から6×10-5)。その他、ALDH2ADH1CDRD2DRD4HTTLPRMAOATPH1HTR2Aもメタ解析で有意に関連していた。

 

その他

気管の形態の異常によりかすれ声になる病気の家系があり、8番染色体の逆位と連鎖していた。この領域は遺伝子砂漠だが、disruption部をまたぐ新たな転写物を発見し、”tospeak”と命名した。これはnon-coding RNAで、近傍の遺伝子(GDF6smalltalk)の発現を制御している。この遺伝子は霊長類特異的で、そのプロモーターを霊長類間で比べると、ヒトのプロモーターの活性が最も強かった。かすれ声家系の患者で見られる骨の癒合と同じ所見が、GDF6KOマウスでも見られた。質疑応答では、tospeakTgマウスはしゃべるかとか、ネアンデルタール人のDNAで調べたらどうだとか、いかにもという質問が出た。

PB#758R.Plaetke): イヌを使って、Akiskalの提唱する「発揚気質」の遺伝子を取ろう、というプロジェクト。イヌの行動観察(競争の時の行動、飼い主と会ったときの行動など)および飼い主の観察により行動特性を評価。血統書を使って系統図を明らかにし、行動のheritabilityを調べる予定で、まだ始めたばかりとのことであった。

 

感想

 これまで、パーソナルゲノム時代の到来と言われてきたが、コスト面で実現していなかった。しかし、1200万円で全ゲノムシーケンスできる時代となり、研究面ではいよいよ実用化した。あとは、アイデア次第である。また、この事態に直面し、倫理面も、いよいよ真剣に考えざるを得なくなってきた。

 本学会とPsychiatric Geneticsでは、全く性質が違う。新技術の勉強と、疾患研究進展のキャッチアップは別次元であり、情報収集を怠ってはならないと痛感した。

 

(本稿の一部は、岩本和也さんにご協力いただきました。)