東大臨床検査室の検体搬送システム
東京大学医学部附属病院 検査部
杉岡陽介 下坂浩則 畑山良己 中原一彦

「はじめに」
これまで、臨床検査の歴史の中にはいくつかの波があった。それは自動分析装置の
出現や、試薬のキット化、情報の一元化、さらには搬送システムが上げられ、
そのたびに我々検査技師は発想の転換、運用の変更を行い使われるのではなく使い
こなしてきた。搬送システムを導入するに当たり重要な点は導入意識を明確化し
バッチからリアルタイム処理への運用変更である。当院では平成4年7月より
検体前処理搬送システム(東芝メディカル社製)を複数年予算により順次導入し
検体部門の前処理から測定、保存までの一連の業務を自動搬送化した。これにより
検査の迅速化を達成し、診察前検査が可能となり検査データに対し迅速化という
付加価値を付けることが出来た。また省力化により外来採血や専門技術が増強され、
単に人的削減だけではなく、病院自体のサービスの向上にもつながった。
今回は当院検査部搬送システムの概要及び導入後の問題点を踏まえ当院での
搬送システムの現状について報告する。

「ハードウェア及びシステム構成」
1 搬送システムのハードウェア構成を図1に示した。
 本システムはUNIXワークステーション(A−station:PFU社)による
分散システムとし、データベースはC−ISAMを、画面制御はC言語で開発した。
周辺機器とはRS232C接続を用い、各ワークステーション間及び
検査系システム(富士通HOPE/LINS)とはLAN接続とした。
新規項目の追加、再検チェックパラメーターや分注量の変更等の
マスターメンテナンスもユーザー側が任意に設定できるよう拡張性をもたせている。
2 搬送システム構成を図2に示した。
ライン構成は仕分け、生化学免疫、血液、血糖凝固、HbA1cの5ラインより成る。
生化学ラインはTBA80M(東芝)1台、TBA80FR(東芝)1台、
       AIA1200(東ソー)2台 
血液ラインはSTKS(コールター)2台、H8200(日立)1台、
      HS200(NE8000,R3000)(東亜)1台
血糖凝固ラインはグルコローダーNX(シノテスト)2台、
        CR−700(国際試薬)
HbA1cラインはHLC−723GHb」(東ソー)2台各ラインは専用の
搬送系CPUで制御し、検体の動向や分析装置との接続、ハードエラー等を、
表示や警告音により知らせる。また各ラインや分析装置へ情報の提供、検査データの
チェック(上下限値、前回値、項目間差、コントロール間チェック、ハードエラー)、
検査系システムとの連絡には統合CPUを設け、整合性を取り合理的な処理を可能とし、
本システムは従来の検査系システムから見て、独立した一つの分析装置として位置づけている。

「システムの特徴」
 本システムの特徴は一本搬送による無駄のないランダム処理を可能とした事である。
これによりラックによる制約から解放し検体個々の管理や運用が可能となり、
現場のニーズにあったリアルタイム処理が可能な搬送スタイルが確立した。
また同一ラインでのトータルシステムとし、メンテナンス性向上、部品や消耗品の
共有ができ、全ラインの一元管理も可能となった。

「予約診療体制の確立」
 当院ホストシステム(富士通HOPE/LINS)ではオーダリングシステム
により外来診療に予約診療システムを導入している。
外来において医師は次回診療日時を患者と相談し決め、その時次回検査依頼も行う。
次回患者は予約時間の1時間前に再来受付を行い直接検査部へ来て採血を行えば
予約時間にはその日のデータをもとに医師は診断や投薬ができ、患者は結果確認や
処方のために再度病院を訪れる事がなくなる。ここで問題としなければいけない事は
採血部門から搬送システムに搬入するまでの経路及び時間である。搬入までに
数時間かかれば報告も数時間後である。当院では中央採血室を設け、搬送システム
搬入口はすぐ後ろに設置した。

「依頼から報告まで」
1時間単位の平均報告時間を表1に示した。例えば生化学では9時から10時までに
228検体を平均44分で報告している。当院では入外来共にオーダリングシステム
を導入しペーパーレス化しバーコードラベルによる運用を行っている。入院患者に
ついては、バーコードプリンターを各病棟に設置し医師による発生源オーダ入力と
同時に必要な種類のバーコードラベルが発行され、各採血管に貼付し採血後検査部に
提出する。外来患者については、各診療ブースにおいて検査依頼入力がされ、患者は
IDカードを検査部受付に提出し、受付担当がバーコードラベルを出力する。
患者はこれを検査部中央採血室に提出し採血をする。提出された検体は仕分けライン
搬入口より搬入し、バーコード読み取りチェックを行い、検査系システムに到着情報を送り、
患者属性、依頼情報、前回値及び検体番号を受取る、読めなかったものはリードエラーとして
搬出される。その後検体は各ラインに振り分け処理され、測定結果はリアルタイムに統合CPUで
チェックされ正常な場合はリアルタイムに送信し、異常がある場合は送信保留になり必要があれば
自動再検を行う。また搬入口にはライン制御パネルを設置し検体搬入者に各ラインの状況が
わかるようにした。

「生化学凝固待ち時間の自動化」
結果報告時間を搬送システム内での報告時間で表示するのは無責任である。
検査部においても患者受付、採血、採尿、待ち時間といった、測定に入るまでの
時間が存在するため各所や、病院規模での迅速化をはからねば迅速化達成とは言えない。
この観点から報告時間を検査部受付から臨床へ結果が返るまでの時間とし、
全外来患者の80%報告達成比率を求めたところ表2のようになり搬送システム内
報告時間とは大幅に異なった。この要因の1つに採血後検体の搬入時間があり、
生化学検体の搬入は凝固確認をバッチで行っていた為である。そのためソフト修正を
行い、生化学検体は仕分けライン上で一定時間ループしその後生化学ラインへと
進ませるシステムとし採血後の検体は全てすぐに搬入可能とし凝固確認作業を無くした。
設定は、ループしない、外来のみ、入外ともの設定を可能としループ時間は
1分毎の設定が可能である。このシステム化による報告時間は表2に示した通りである。

「検査値に影響を与える因子」
1 熱による影響、ラインと周辺機器からの熱量を考慮した空調が必要。
2 凝固検査検体対策、搬入後迅速処理が可能な渋滞が無いライン。
3 検体乾燥対策、オンライン機器の場合開栓後長くても5分以内には測定に入るため
問題は無いがオフライン分注では微量分注を避ける必要がある。
4 ノイズ対策、ノイズがラインを伝わり装置に乗ってしまう事がある
5 生化学親管から直接サンプリングを避ける。フィブリンの吸引や、少量検体で
分離剤を吸引しまうため。ただし分注しても分注機のノズルより分析装置の
サンプリングシリンジのノズルの径が細いため分注機では見切れない糸状の
6 分注時の泡を分析装置が液面と検知してしまうため分注時泡立てない。

「ダウン対策」
分析装置単体での運用、各ラインの独立稼働、分析装置のバックアップ体制、
データのバッチ転送機能、モデムによるリモートメンテナンスなどがある。

「仕分けラインについて」
1日の処理数は約2000検体である。検査部に提出された搬送関連検体は
血糖採血管を除き全て搬入ユニットから搬入する。血糖採血管は構築年度の違い
によるラインの構造上HbA1cライン搬入ユニットからの搬入になる。
外来患者に関しては採血室後部に仕分けライン搬入ユニットをもうけ、採血後すぐに
すべての検体を搬入出来るようにした。搬入された検体はバーコードにより各々のラインに
振り分けられ処理される。ここですべての検体を搬入する理由は検体問い合わせや
紛失時の責任の明確化、採血後の検体放置を無くし迅速報告をはかる事の2点である。

「生化学免疫イムノアッセイラインについて」
1日の処理数は約700検体である。1検体当たりのコストは平均3分注とし子管、
ラベル、分注チップ、キャップ等で約30円である。搬入した検体はベルトコンベア
により搬送され自動遠心、開栓、血餅検知ユニットを経て検査依頼に従い分注量と
本数を決定し最大5分注(TBA,AIA,用手法1,2,保存用)される。
搬入後分注まで約20分である。生化免疫ラインでは前処理部分が無人化され
リアルタイム処理が可能となった事が最大の導入効果であろう。
1 TBA用、項目によりTBA80M,TBA80FRで測定されストックヤードに
収納される。測定結果はリアルタイムに統合CPUでチェックが行われ、結果により
自動再検(自動希釈を含む)される。
2 AIA1200用、分注された小管はAIA接続ユニットで更に専用ラックに
分注し測定される。
3 用手法1,2、専用ラックに搬出されそれぞれマニュアル測定される。
4 保存用、搬送された検体は途中、機器分注ユニットによりオフライン機器
専用カップに依頼に応じて分注される、その後蒸発防止ユニットにて閉栓され
冷蔵のストッカーに検体番号順に保存される。
なお保存検体は搬送系CPUで指示することによって取り出すことが可能である。

「血液ラインについて」
1日の処理数は約700検体である。血液ラインの特徴は測定データにより次の
アクションを自動で決定し搬送する事である。
検体は搬入後2台のSTKSに1本ずつ振り分けられ測定が行われる。
測定結果は統合CPUによりリアルタイムにチェックされ結果により自動再検や
検体退避、標本作成といった指示を搬送に送信する。STKSの処理が終わった
検体はH8200で標本が作成される。この時の対象は依頼のあるもの及び
STKSで異常が認められた検体全てである。またH8200で異常のある場合や
STKSで異常情報、患者情報のある場合は目視検査を行う。
その後R3000で網状赤血球の測定が行われる。

「血糖凝固ラインについて」
1日の処理数は血糖凝固共に約300検体である。本ラインの特徴は採血管の大きさと
採血量を同一とした混成型ラインである。検体は搬入後冷却自動遠心機により遠心され
開栓後それぞれ分析装置に1本ずつ振り分け測定される。凝固検体は測定後、待避レーンで
結果を待ち再検があるものは測定機器を変えて自動再検される。それぞれの搬出ユニットでは
2台のラックに正常用と再検およびオフライン項目有検体用の2種に分け振り分け1本単位で
搬出する。また血糖渋滞のため凝固検体も渋滞してしまう事の無いよう血糖引き込みレーンを設けてある。

「HbA1cラインについて」
1日の処理数は約200検体である。搬入後HbA1c依頼のある検体は2台の
分析装置に1本ずつ振り分け測定される。測定後仕分けラインを経由し血糖凝固ラインへと進む。
HbA1c依頼なし検体は仕分けラインへ直進する。

「導入効果」
 本システムの導入により下記の効果をもたらしたので列記する。
1 結果報告の迅速化、これにより診察前検査報告体制が確立した。
2 省力化、日々雇用職員の削減を行ったが単に人を減らすだけではなく新規業務を
開始し病院サービスの向上をはかった。例えば技師による外来採血、システム要員や
生理系充実、遺伝子検査室オープンなどである。
3 取り違い防止、バーコード運用とし搬入後の検体取り違いは皆無になった。
4 感染防止、搬入から保存までを自動化し検体に触れる機会を激減させた。
5 受付時間延長、入院においてはAM9時30分とPM1時30分のみだった
ものが入院、外来共に8時30分から3時45分までのあいだ随時受付可能となった。
6 部内の合理化、専用機器から汎用機器への項目集約によりランニング費用の削減、
デッドボリュームの縮小を可能とした。
7 人的効果、ラインでお互いを接続しているため今まで以上の交流ができ
セクショナリズムが無くなりつつある。

「今後の搬送システムに求める課題」
 導入には時間をかけて検討したが実際稼働させると予期せぬ点や反省すべき点も
多数でてきたので列挙する。
1 システムが大きく、エラー音が聴きずらいため搬送ラインの状態の集中制御 
2 バーコードラベルの貼り方の制限
3 人の動きに制約があるため搬送ラインのコンパクト化
4 搬送ラインによる騒音、熱
5 メンテナンス性の簡便化
6 デッドボリュウームの少量化
7 搬送と分析装置との接続仕様の統一化、外部サンプリング方式の推奨
8 渋滞対策(複数機種接続、ライン全体での処理速度の考慮)
9 使う側の目的意識の明確化(使う側のバッチからリアルへの意識改革)
 等があげられる。

「まとめ」
 以上、東大病院の搬送システムについて述べた。搬送システムの導入により
検体検査の部門で最も遅れていた検体の前処理部分が自動化され、検査の迅速化が
達成でき、診察前検査を可能とした。また省力化により外来採血や専門技術志向の
増強ができ、単に検査部内だけではなく病院自体のサービスの向上にもつながった。
しかし搬送システム内では迅速化を達成したが、結果報告までには受付や
採血等といった人が介在する部署の動きに左右されているのも事実であり今後、
運用その他の面でさらに充実をはかりたい。また今後、次期システム構築時の
スペースの問題さらに予算化の問題等も重要な要素である。



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