「はじめに」

 当院では平成11年3月より約半年の工期をかけ総合検体検査搬送システム(以下LASとする)の全面的な更新を行った。(それまでのLASを第一世代、今回新しく更新したLASを第二世代とよぶことにする。)今回の更新により1本搬送だからこそ出来るユーザーの視点にたった独自の発想や新技術の導入により、今まで運用でカバーしていた部分や欠点を大幅に改良した第二世代のLASを構築したので報告する。

「方法」

一本搬送による無駄のないランダム処理が可能なLASを構築した。これによりラックによる制約から解放され検体個々の管理や運用が可能となった。またいくつかの新技術や新ユニットの導入により、現場のニーズにあったリアルタイム処理が可能な搬送スタイルとした。

1 レイアウト

第二世代LASのレイアウトを図1に示した。また対比として第一世代LASのレイアウトを図2に示した。

2 システム構成

採血管準備システム:PREP-LAX:2台 (長瀬産業/シグマ精機)

尿一般ライン:アトラス (バイエルメディカル)、H6800 (日立)、H7170 (日立)

生化学ライン:H7600-120 :2台(日立)、AIA21 (東ソー)、ARCHITECT i 2000 (DAINABOT)

血液ライン:GEN'S:3台 (コールター)、CLA-120S :2台(コールター)、HEG-120NAS (オムロン)、R3500 (Sysmex)

凝固ライン:コアグレックス800:2台(国際試薬)

血糖ライン:HLC723GHbV:3台(東ソー)、GA03U:2台(A&T)

仕分けライン:自走車との接続

「成績」

1 新技術と新ユニット

 第一世代の問題点の多くは新技術の導入により克服が可能となった。また今回の新技術は第一世代での反省からの発想を現実化した技術である

1)採血台へのLASの組込み:

採血後検体の放置時間解消のため、採血者が採血後検体をすぐに搬入できるシステムとした。これは採血管準備システムに採血管トレイ自動搬送システムを組み込み、採血者の手元までバーコードラベルの添付した採血管を運び、採血後の検体を自動でLASまで運べるシステムである。これにより、第一世代での懸念事項であった採血後の検体放置時間が無くなりさらなる迅速化が達成された。また採血台に液晶10.4インチタッチパネル式モニターを設置し、採血管の要求や採血患者の属性、検査依頼項目の確認、ラベル再発行といった採血者にとって必要な情報を集約し、採血者が必要な時にいつでも情報を出せるシステムとした。これにより少量しか採血出来なかった場合に採血量確認のため端末や、現場で確認するといった作業を無くし、患者の待ち時間解消にも有効である。

2)至急検体の追い越しユニット:

分析装置の混雑状況を見て検体の搬入、待避を行うユニットを各ラインの先頭に設け、ラインを監視する役目を持たせた。すなわち、分析装置や接続機器前に検体がある場合、一般検体はこのユニットに待避させ、至急検体のみを通過させることにより追い越しを可能とした。渋滞が緩和されると外来、入院の順に検体をピックアップし優先度の高い順に測定へと進ませる。これにより、技師による搬入順の確認や検体の入れ替えといった作業の負担が無くなった。また、ライン単独での運用や朝の大量検体の処理もこのユニットからの搬入が可能である。

3)生化学ラインの無人化へのアプローチ:

当院では第一世代LASのユニットで現在多くの施設のシステムで導入され普及している生化学検体の凝固待ちユニットの開発と実用化を世界で初めて成功するなど、数々の技術を開発してきた。今回の更新では雑用が多く発生している生化学前処理部門の大幅な自動化を行った。LASの導入には大きな利点があるがその反面、今まで無かった雑用が増えたのが第一世代の欠点であった。これからのLASの開発改良にあたってはユーザーも雑用を認識し対処法の模索が必要であろう。

@消耗品の自動供給ユニット:

当院での生化学検体は1日約1000検体、平均分注本数は3本である。つまり1日に分注用子検体チューブを少なくとも3000本、さらに1000本の分注用チップを1本ずつ技師が並べなければならなかった。本来このような単純な雑用は技師がすべき事ではなく、システム導入による改悪点であり、この部分を自動化する事によって、検査技師としての本来業務への集中が可能である。そこで今回はランダムに供給すれば、自動で並び替え、分注器に供給できるユニットを導入した。

Aフィブリン析出検体の自動再分注:

迅速化を推進するばかりに遠心までの放置時間を短くするとフィブリン析出の頻度が上がる。また透析等で分離に時間がかるような検体を考慮しすぎても迅速化は期待できない。フィブリン析出の有無を技師が判断するとそこはバッチ的運用になってしまい無人化とは言い難くなってしまう。この問題に対し当院では世界に先駆けて、フィブリン析出検体に自動でポリスチレン製のビーズを注入し、再度自動遠心後再分注するシステムを開発した。これによりフィブリン析出検体の手作業による分注がほぼ無くなり、エラー検体も迅速に処理が進むようになった。

4)搬出ラックの活用:

検体の流れは搬送ライン内だけでは終わらず、次のステップへ進むのが検査室内の業務である。保存用検体は検体番号順に並べる必要があり、次の分析装置へ進む検体もある。このときに技師が並び替えたり配列リストなどを出してピックアップしなければならないのはLASの有効活用とは言い難い。当院では1本搬送の利点を生かし、ラインでの測定後の検体は次のステップへ進むためのスペースへ分別収納する事で検体を選ぶ必要がなく、保存検体は検体番号順に並び替えて搬出するため、単純に次のステップへ進む事が可能である。

以上4点は、どれも1本搬送だからこそできるフレキシブルで無駄のない動きによって制御されている。

5)自走車の活用

技師の導線確保のために近年、高架式や床下式搬送ラインを各社提案しているが、当院ではライン間での検体受け渡しに完全無人型の自走車を使ったシステム化を行った。これにより導線の確保ばかりではなく、離れた場所にLASを設置しその間を自走車で結ぶことにより、トータルシステムの構築が可能となり、自由なレイアウト、段階的な拡張も可能となる。更新に際しても全システムではなく部分的な入れ替えが可能となり、更新が容易となる。また、検体や搬送ラインが頭上にないため、威圧感がないのも特徴である。図3に自走車の全景を示した。トヨタ社製自走車ACB03にids社製LASを組み込んでいる。寸法は高さ840mm 幅460mm、長さ1030mm、走行には24Vのバッテリーを使用し停止中に自動で充電を行う。最大検体搬送数は16本とした。

6)尿一般ラインの構築

外来検体の放置時間解消のため、男女それぞれの採尿室内に搬入口を設け、採取後の尿を患者に直接LASに搬入してもらっている。患者は所定の場所にハルンカップを乗せて、スタートボタンを押すだけである。搬入の方法は音声と表示によって患者へアナウンスするようにした。また、呼び出しボタンを設け、わからない患者へは個々に対応するようにしている。搬入後の検体は依頼に応じて分注を行い、量が少ない尿はカップを斜めにしてサンプリングできる機構にした。分注が終わった採尿カップは余分な尿を汚物流しに廃棄し、カップは重ねて廃棄するようにした。また沈渣の依頼のある検体は遠心後自動で200μl残し上清を廃棄するシステムとした。

「考察」

LASの導入には選定する機器によりそのシステム形態が大きく左右されるため、目的の明確化は必須である。当院での選定は検体の受付から保存に至るLAS内だけではなく病院における検体検査全ての部分での動きを解析し、無駄な動きの排除、運用の簡略化、フレキシブルな運用、第一世代での問題点の改善を考慮した結果、1本搬送が最良と結論した。また、第一世代で発生していた、多くの問題点の改善も1本搬送でのみ解決可能と判断した。

 

3 第一世代での問題点と第二世代での対応3)

第一世代から第二世代へと当院LASは進化し多くの問題点は解消しつつある。

ここでは今までの問題点と第二世代での対応を列記する。

1)コンパクト化

動線や作業スペースの確保のためには必須であるが、LAS自体がコンパクト化しても分析装置が大型ならばコンパクト化には限界がある。また近年の保険制度の改訂により、1検体あたりの検査依頼項目も減少の一途をたどっているので、大型で大量バッチ処理の装置ではなくコンパクトで高速処理が可能なピペッティング方式の分析装置の導入が今後の検体検査では有利となる事が予想される。また分析装置単体のコストや、導入後のメンテナンス費用も大幅に違うため、高速シングルマルチ方式の装置が推奨される。

2)分析機との接続性と選定

分析装置をLASに接続する場合、接続方法により、運用や更新時の対応、レイアウトも大きく変わってくる。また当然接続費用も発生する。この費用は選定した分析装置の接続形態によって大幅に異なってくる。

接続方法には

(1)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用可)

(2)外部サンプリング方式(ラックサンプラー使用不可)

(3)ラック取り込み方式

(4)ロボットアーム搬入方式

等があり、(1)はLAS上と分析装置内と2カ所のサンプリング位置を有するため、単体での使用時は装置のサンプラーを使用し測定が可能である。ルーチンで運用する場合、コントロール、キャリブレーションの測定が必ずあり、ダウン時や更新対策も考慮すると、この方式が最良である。また専用ラックを使用すると、ラックによりライン全体が制約を受け本来行いたい運用や検体の流れが大幅に制約を受けてしまう可能性がある。

3)スピード

 ライントータルでの処理速度を考えた構成が必要である。ある部分だけ早かったり、遅かったりでは意味がない。つまり1時間に300検体測定できる分析装置を装備しても分注器の速度が150検体ならばその分析装置は半分の時間、何もしていない計算になる。逆の場合も同じである。しかし、現実には、渋滞は避けられない問題であり、どうすれば、優先度の高い検体を優先的に測定できるかを考慮すべきであろう。

4)熱量、騒音

低熱量のモーターの採用や低騒音化への対策が必要であり、当院における第一世代との差は熱量62度が50度へ、騒音は61dBが54dBと大幅に改善されている。この部分は各メーカーで改善が見られる。

5)システム関連

同一メーカーのラインでのトータルシステムとすれば、メンテナンス性の向上、部品や消耗品の共有、全ラインの一元管理等も可能である。またシステム化に伴い操作する技師のシステム化も重要である、すなわち導入の目的意識を現場レベルで認識し、今までのバッチ的発想をリアルタイム報告へと発想の転換も必要である。

6)レイアウト

 動線や作業効率を考慮したレイアウトを工夫する必要があり、次の更新を考慮した設計も重要である。更新時にはLASを通常通り動かしながら、新しいLASと入れ替えなければならないので、スペースの確保や入れ替え操作の工夫が求められる。

7)検体への影響について

@熱による影響:ラインと周辺機器の発生熱量による試薬の劣化

A検体乾燥対策:オンライン機器の場合開栓後長くても5分以内にはサンプリングされるのでさほど問題はないが、オフライン分注では微量分注を避ける必要がある

Bノイズ対策:測定結果に誤差を与えてしまう事があるため、ノイズフィルターの設置、また定電圧装置の設置が必要な装置がある。

C生化学検体の親管からの直接サンプリング:フィブリン吸引の可能性や、少量検体の場合サンプリングシリンジが分離剤に突っ込む等の問題が発生するので、子分注が必要である。

D糸状のフィブリンの吸引:分注器のノズルより分析装置のサンプリングシリンジのノズルの径が細いため分注器では見切れない糸状のフィブリンを分析装置が吸引してしまう可能性があるため、分析装置でのフィルターやフィブリン検知センサーの充実が必要である。

E液面検知:分注時の泡を液面検知してしまうので分注時は泡立てない等の考慮が必要である。

8)迅速報告の考え方

 搬送導入により結果報告時間は大幅縮小できるが、それは病院規模で考えた場合どこまでの迅速化なのであろうか。外来患者が診察室で検査依頼を受けて検査結果が出るまでの間を考えた場合、診療ブース→検査部受付→採血待ち時間→採血→検体処理→報告となるが、LASは検体処理→報告だけである。LASへの搬入まで数時間かかっていれば、結果報告も数時間後である。これでは臨床からの評価は期待できないであろう4)。LAS導入による報告時間短縮にはLAS内だけではなく患者の受付からの迅速化を考慮しなければLAS導入の意味はなくなる。第二世代LASにおける報告時間を受付から採血、採尿、待ち時間を含めLAS搬入までと搬入後報告までに分け表1に示した。

「結語」

第一世代のLASにおいては技師が運用でカバーし、雑用を強いられる部分があったが、第二世代LASへと進歩し、よりユーザーに使いやすいシステムの構築が可能となった。構築時には院内でどのような運用をしたいのか、検査部内でどう検体を動かし、何がしたのかを明確化したシステム化を行い、そのためには使う側の目的意識の明確化、標準化も必要である。今後は検体系検査の自動化イコール人員削減という発想から、得た技師の余力を人員削減の方向だけではなく院内でいかに有効に使うかを考え、検査技師の院内でのあり方、方向性を模索し、検査技師の地位を確実にする努力が必要である。

 

本論文の要旨は、日本臨床検査自動化学会第32回大会において発表した。