教育講演V
画像で生体を見る
東京慈恵会医科大学
総合医科学研究センター高次元医用画像工学研究所
鈴木 直樹
ガラス玉の中をのぞき込むように人体の内部を自由に見ることは、何千年ものあいだ医学における大きな理想の一つであった。この夢は約100年前のX線の医学応用に始まり、やがてCT、MRIの開発にともない大きく発展し、画像診断といった言葉もごく日常的なものとなった。そしてまた近年、人体の内部を見る手段に大きな新しい流れが生まれた。それは今まで人体構造を透過像(X線像)や断層像(CT、MRI)として得、これらを頭の中で立体的な人体構造に置き換えて「読む」のではなく、人体を本来の姿に映像化して診断や治療に応用しようというものである。具体的には無侵襲計測法により得た生体の断層像をコンピュータグラフィクスを用いて三次元像として再構築する、医用三次元画像技術が世に現れた。さらにまた、心血管系の挙動を見ればわかるように生体は三次元的な構造を持つ物体が時間的な変化を伴っている四次元的な現象を呈している。リアルタイムに三次元画像を操作して四次元現象を捉えることにより、いままで明確に知ることの難しかった人体の形態と機能にかかわる多様な情報を医学にもたらすことができるようになった。これが医用四次元画像技術である。今回はこのような高次元画像という言葉で総称できる、三次元画像、四次元画像の応用例を示すために本研究所での研究例をもとに、心内腔血流の四次元表示例と運動に伴う骨格筋群の相互的な挙動の四次元表示例を示す。また医用画像情報の高次元化に伴い扱う情報が飛躍的に大量となったことも事実である。それらの大量な情報を迅速かつ正確に把握し判断するための手段としてバーチャルリアリティ(VR:Virtual reality、人工現実感)技術が応用されるようになってきた。さらに、VR技術の医学応用は医用画像技術自身に新しい能力をもたらすこととなった。VRを利用することにより、複雑な現象の診断や解析だけでなく、今まで医学の現場でしか得ることのできなかった「経験」という要素を、仮想空間内でデジタルデータにより構築された患者の構造を用いて得ることができるようになった。例えば外科的な手術に先立って想定する手術を画像上でシミュレーションするバーチャル手術では、仮想空間内で手術を行い、その症例に習熟してから現場に望むことが可能である。今まで「見る」ことに大きく傾いていた医用画像データの利用は医用VRの出現により多岐にわたる応用面が発生したといえる。ここでは、応用例として臓器の感触も得ることのできる、力覚提示型(Force feedback)のバーチャル手術装置の開発例を示す。「生体を見る」ための画像技術の高次元化は医学の新しい姿と方向を作り出していく大きな力になるものと考える。
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