PNET (primitive neuroectodermal tumor) 原始神経外胚葉性腫瘍について
- PNET (primitive neuroectodermal tumor) はPNET(ピーネット)と呼ばれます
- 髄芽腫がテントの下の小脳から発生するのに対して,PNETはテントの上の大脳から発生するからテント上PNETとかつて呼ばれたこともあります
- 髄芽腫よりさらに悪性度は高いです
- 胎児期に脳を作る細胞の基になっている細胞から発生すると考えられています
- 主としてとても小さい子供(5歳以下)の大脳から発生する腫瘍です
- 頭蓋内圧亢進症状という頭痛や嘔吐,意識障害(反応がにぶい)で発症することが多いです
- 発症した時にはすでに巨大な腫瘍になっていることが多いです
- 髄液にのって脳の他の部分や脊髄に転移(髄液播種)すると助かる望みは少ないです
- 診断はMRIでしますが,最初から必ず脊髄の方も調べなければなりません
- 残念ながら小児脳腫瘍の中では最も悪性度が高くて治療も難しいものです
- でも助かるチャンスはあります
- とても早く進行しますからまず治療を急ぎます
- 世界的にも確立された治療方法(標準治療)はありません
- 治療はそれぞれの子供の年齢と腫瘍の場所で違いますし,ものすごく複雑です
- ですから治療は個々の患者さんでテイラーメイド(いろいろ)になります
- 治療は髄芽腫とだいたい同じですから、髄芽腫のところも読んで下さい
- まず手術でできるだけとりますが,すごく出血するから小さい子供には危険が大きくて,このような腫瘍に慣れた脳外科医にしかできません
- 手術のリスクが高いと判断すれば先に化学療法(制がん剤)で小さくしてから摘出する方法もあります,でも残念ながら制がん剤が効くことは多くありません
- いずれにせよ最終的には残っている腫瘍を手術で全部とり切らないと治らないと考えた方がいいです
- 水頭症に対するシャント手術はお腹の中への転移を促す恐れがありますからなるべくしない
- 手術後はできる限り早く化学療法を開始します
- 化学療法はいろいろなものがありますが,これといった決め手になるものは知られていません
- 化学療法だけでは治らないので放射線治療も必要です
- でも,とても小さな子供にできるから放射線治療の副作用は強く出ます
- 髄液播種で再発することが多いから,全部の脳と脊髄に放射線治療をしなければなりません
- 重度の放射線障害を避けるためにはなるべく少ない線量を使わざるを得ません
- しかし,過去の論文では脳脊髄照射は35グレイほど使用されています,これを安易に減量することは難しいです
- 3歳未満の子供たちには放射線治療をしないで化学療法だけで治療するというのが世界の一般的な考え方です
- ですから3歳を越えてから放射線治療をします
- 大脳にできますから、後遺症は髄芽腫よりも重いことが多いです
- 後遺障害で最も問題となるのは認知機能障害(精神発達遅滞、知能障害)です
- 認知機能障害は手術と放射線治療によって生じます
- 重い認知障害が残れば社会的な自立はできません,ですから上衣腫と同じように,播種のことは考えに入れないで,かなりしぼった領域にだけ放射線治療する(局所照射)という選択肢はあります
- 治療後に下垂体ホルモンの分泌が悪くなることが多いので小児内分泌の先生の協力が必要です
- 最低でも数ヶ月の母子入院になることは避けられませんから家族でよく相談してお母さんと患児を長期入院させる計画を立てなければなりません
- これらの治療は小児脳腫瘍をたくさん扱った経験のある医師にしかできません

特に悪性度の高かったPNETのMRI画像です。小さい子供にできますが発見されたときには巨大な腫瘍になってしまっていることが多いです。治療は,手術でなるべく全部取らないとなりません。でもこんなに大きいのを手術でいっぺんに取ると命が危ないし,摘出できても障害が大きくなりすぎますから,化学療法や放射線治療で小さくしておいてから,開頭手術で全部摘出するという方法もあります。この子供はそうしました。右の写真は治療後10年経ったときのものです。3歳以下だと放射線が使いにくいので化学療法だけになりますが,いずれにしてもPNETの治療はものすごく難しいです。この腫瘍の初回手術の時にはあふれるように出血しました。
CNS primitive neuroectodermal tumorの2007年WHO分類
(ordinary) CNS PNET (primitive neuroectodermal tumor)
CNS neuroblastoma
CNS ganglioneuroblastoma
medulloepithelioma
ependymoblastoma
* PNETとneuroblastoma以外のものは珍しすぎて覚える必要はないでしょう
* supratentorial PNET sPNETという用語は排されました。
* peripheral PNET pPNETは脳腫瘍ではないので注意して下さい
* ETMR embryonal tumor with multilayered rosettes (ETANTR, EBL)は臨床家の間ではまだ市民権を得ていません
。
*
ETANTR embryonal tumor with avandant neuropil and true rosettesは通常のPNETより燃焼の小さな子どもに発生して治療抵抗性で予後が悪いものです。
* 治療研究ではpineoblastomaをsPNETに含めるものが多いのですが,
両者は発生学的にも予後的にも異なった腫瘍です。
重要な情報(PNETに対するリスク群分類治療)
Chintagumpala M, et al.: A pilot study of risk-adapted radiotherapy and chemotherapy in patients with supratentorial PNET. Neuro-Oncol 11: 33-44, 2009
1996-2003年の間に16人の患児が治療されました。高リスク群は髄芽腫と同様に,術後の残存腫瘍や髄液播種の存在で分類されています。標準リスク群には23.4グレイの脳脊髄照射,高リスク群には36-39.6グレイの脳脊髄照射で,腫瘍の原発部位には55.8グレイが使用されました。この照射のあとで全ての患児はシスプラチン,シクロフォスファミド,ビンクリスチンを用いた幹細胞救援による大量化学療法を受けています。5年全生存割合は73%でしたが,標準リスク群では88%,高リスク群では58%と差があります。化学療法死はありませんでした。
解説:16人中の7人が一般的にはPNETと診断されない松果体芽腫です。ですから,PNETの治療成績と読み取ることはできません。過去には,PNETの脳脊髄照射は35グレイくらいが標準的な線量でしたから,標準リスク群を区別して23.4グレイに線量を落として,大量化学療法を併用し5年での全生存割合が88%というのはよい成績でした。しかし,さらによく読むと,標準リスク群の真のPNETは6例のみで,年齢は3.6-8.8歳です。これが本当かどうかが確かめられるのはまだまだ将来のことです。大脳PNETは髄芽腫よりもさらにおそろしい腫瘍であることを忘れてはなりません。
重要な情報(大量化学療法と血液幹細胞救援)
Fangusaro J, et al.: Intensive chemotherapy followed by consolidative myeloablative chemotherapy with autologous hematopoietic cell rescue (AuHCR) in young children with newly diagnosed supratentorial primitive neuroectodermal tumors (sPNETs): report of the Head Start I and II experience. Pediatr Blood Cancer. 50:312-8, 2008
2002年までのHead Start I and IIの成績です。初期治療に大量化学療法 consolidative myeloablative chemotherapyを使用するものです。結論として43例中の20例 47%が生存していて,内の12例 28%が放射線治療を受けないで済みました。
重要な情報(PNETに対する放射線治療の役割)
Timmermann B, et al.: Role of radiotherapy in supratentorial primitive neuroectodermal tumor in young children: results of the German HIT-SKK87 and HIT-SKK92 trials. J Clin Oncol 24: 1554-1560, 2006
PENTの治療成績の論文はなかなかでないのですがこれは権威の高い雑誌に発表されたドイツとオーストリアの成績です。3歳未満の29人のこどもが治療されました。全例に化学療法が使用されていて,15人の子供は放射線治療を受けず14人の子供に放射線治療が追加されました。化学療法は,メトトレキサート(MTX)を基剤とするものなどが使用されています。
3年全生存割合(生存率)は17%で,3年無増悪生存割合(再発なし)は15%でした。ですから3年以内に8割以上の子供が亡くなっています。29人中の24人に再発(再燃)があり,13例では腫瘍のあった場所,3例では腫瘍からは慣れた場所への播種,8例では両方にありました。ですから局所再発は21/29で72%にもおよぶのです。放射線を受けなかった子供の内のただ1人のみが生存したと書いてあります。
手術で全摘出で来た子供の生存率が高いだろうこと,大量化学療法を行っても放射線治療をしないと治療成績は悪いこと,3歳未満の子供たちで化学療法をして放射線治療を待つとしても6ヶ月が限界であろうと結論されています。
その後,この論文に対してLarouche Vという人が反論しました。「 だからと言って,3歳以下の子供に全脳脊髄照射をすると許容できない認知障害が生じる。Timmermannらが勧めている35Gy全脳脊髄と54Gy局所照射は20年前に話を戻すことである。だから幹細胞移植を使用する大量化学療法を試みる時である。」と述べています。その後,Timmermannが反論しました。放射線治療なしで腫瘍がコントロールできているという報告がほとんどないのであると。
この論争は尽きません。選択できない選択,命をとるか知能をとるかの疑問を投げかけるばかりです。どちらがいいと割り切れる問題ではなく,個々の患者さんの年齢を含めたリスクと腫瘍の部位と手術の結果と考え合わせて,一人ひとりの両親と話し合わなければなりません。また放射線治療で54Gyかけるかどうかどのくらいの領域に照射するのかも違ってきます。単純なプロトコールで治療が決められるわけはないのです。
重要な情報(3歳未満のPNETに対する併用化学療法)
Geyer JR, et al: Maltiagent chemotherapy and deferred radiotherapy in infants with malignant brain tumors: a report from the Children's Cancer Group. J Clin Oncol 23: 7621-31, 2005
米国からの報告です。299例の3歳未満の悪性脳腫瘍の子供たちに,ビンクリスチン,シスプラチン,シクロフォスファミド,エトポシドあるいはビンクリスチン,カルボプラチン,イフォスファミド,エトポシドの化学療法を行った成績です。PNETの子供は46例ですが10例の松果体部腫瘍が含まれています。手術で90%以上取れたのは18例のみでした。化学療法の奏功率 (CR/PR) は43%でした。5年無増悪生存割合(再発なしで5年過ごす)は,髄芽腫で32%.,PNETで17%,上衣腫で32%,AT/RT(rhabdoid tumor)で14% でした。PNET46例の5年全生存割合(5年の時点で生き残っている)は31%でした。8例(17%)が放射線治療を受けないで再発なく5年間生存しています。
ここで使われている併用化学療法は私の使用しているICE化学療法(イフォスファミド,シスプラチン,エトポシド)とスペクトラムがとても似ています。化学療法を駆使しても結局のところ大部分の子供たちに放射線治療がされていて,生存率もとても低いと感じました。でも,このような小さな子供たちには,化学療法でがんばって放射線治療の時期を遅らせるということはとても大切な試みです。
2005年5月国際脳腫瘍会議
シクロフォスファミド,シスプラチン,エトポシド,ビンクリスチンの化学療法を行った後で,1コースの大量化学療法を地固め療法(consolidation)に使った報告です。播種がある症例にはメトトレキサート大量化学療法が使われています。化学療法で腫瘍が完全消失した場合と6歳未満には放射線治療を行わずに,それ以外では23.4グレイの全脳脊髄照射が追加されました。12例(28%)で放射線治療を行うことがなかったということです。43例の大脳PNETが治療されて,20例(46.5%)が腫瘍がない状態で生存していると発表されました。
導入化学療法での化学療法が原因の死亡(induction death)は3例で,大量化学療法での死亡(consolidation death)は1例ですから,全体での化学療法死は9%です。生存している1例(5%, 1/20例)で白血病が生じたとのことです。
さらに長期間の観察が行われれば生存率は下がりますので,この治療法でも長期生存は4割弱と見なさなければなりません。従来の放射線化学療法と比較して大きなインパクトのある成績ではないように思えました。播種のある例ではやはり極めて高い死亡率となります。
澤村自身の経験
私自身は,1992年からPNETに対して積極的全摘出術,術後の脳脊髄照射に加えてイフォスファマイド,シスプラチン,エトポシドを用いるICE化学療法をしていました。私が髄芽腫に行っていた治療方針と同じです。3歳になるまでは脳脊髄照射を行わずに化学療法を先行させて,3才以上の患児には化学療法を1コース行った後で放射線治療を加えます。この化学療法は術後2年間の間に6〜8コース継続します。腫瘍局所には54グレイの線量を用いて,脳脊髄照射は3-5歳では18グレイ,それ以上では24-25グレイを使いました。でも1990年代の中頃までは2.5歳になれば放射線治療をしていました。
2007年までにこの治療方針で15才未満のPNETを12症例治療しましたが,2011年6月時点で8例が腫瘍再発がなくて生存していました。この治療法は確立されたものでありませんが,1991年までに北海道大学で手術と放射線治療で治療した8症例で長期生存例が全くないことと比較すれば良好な成績とも思われます。ただし,私の経験した12例中の9例で手術全摘出が可能であったので,この放射線化学療法の成績を単純に良いとは評価できません。なぜなら播種がなくて手術で完全摘出できるPNETの予後は他のものより良いからです。今後に他の施設でも検証されなければこの治療は正しいかどうかは判りません。
それにもう一つ大きな問題が残されています。大脳に発生するPNETには大脳に大量の放射線治療が必要なのです。ですから,3歳になったといって放射線治療を安易にできる訳ではなくて,治療後の認知障害(知能指数の低下)の進行する可能性は髄芽腫に対するものよりさらに大きいのです。だからといって,化学療法だけで放射線治療をしないで患児が生き残れるという保証はどこにもありません。両親との長く深い話し合いになりますが,結論は出ません。
私も3歳未満で手術で完全摘出できない場合と播種がある症例では,通常の化学療法の後で幹細胞移植と大量化学療法を行うべきであろうと考えています。ただし条件があります。通常化学療法に反応するPNETでは大量化学療法の価値もあるのでしょうが,通常化学療法に反応しないPNETに大量化学療法をしても,その効果は期待できないと考えられます。また全摘出(gross total removal)できていても両側の前頭葉に放射線治療をしなければならない例では,知能の障害が高度になることは目にみえていますので,大量化学療法の選択余地はあるのでしょう。しかしPNETは,化学療法を大量にしたからといって簡単に治癒率が上がるような生易しい腫瘍ではないので,今後も冷静に世界から報告される長期成績を見ていかなければなりません。大量化学療法ができるということ(feasibility)とその化学療法で確かに長期生存割合 (survival rate)が上がるということは全く違ったことなのです。それに放射線治療の障害は年齢だけではなくて,PNETの発生した大脳の場所によっても違うということを認識しなければなりません。前に書いた前頭葉と違って,片側後頭葉であればかなりの局所線量でも認知機能はさほど落ちません。このPNETの治療法選択のための観点は,髄芽腫とはかなり異なります。
化学療法が効かないことで知られている上衣腫・退形成性上衣腫と同様の考え方をとれば,腫瘍局所にだけ高線量の放射線治療をして,脳脊髄照射をしないという選択肢もあるのでしょう。でも気をつけなければならないことは,上衣腫よりPNETは播種(転移)しやすいこと,上衣腫よりPNETの方が局所浸潤能が高いことです。ですから単純には両者を同一には論じられません。でもなお,広範囲な大脳照射を避けるために限局的な放射線治療に止めるという選択肢は残ります。
2次腫瘍としてのPNET
2005年の5月から7月にかけて続けて3人の子供たちのPNETの相談を受けました。3人とも小さい頃に白血病を患って化学療法と中枢神経への低線量放射線治療を受けて,白血病が治ってから何年もたっていました。大脳にPNETが発生したのですが特徴があって,PNETの病理組織の中に膠芽腫glioblastomaの成分が入っているとのことでした。このような2次腫瘍 secondary cancerとしてのPNETはとても治しにくいものです。通常のPNETよりも悪性度がさらに高い腫瘍ですし,まだ子供で十分な放射線治療ができない上に,白血病治療のためにすでに全脳脊髄照射が行なわれているためでもあります。過去にも同じような例を3例見たことがあって,偶然にしては数が多すぎるのですが,白血病治療の後の2次脳腫瘍の発生率が気になります。2次腫瘍(2次癌)として生じるPNETの報告は,ほとんどが放射線治療と化学療法を受けた子供たちです。放射線治療だけというのは極めて例外的ですから,これを放射線誘発腫瘍とは言えません。
supratentorial PNET(テント上原始神経外胚葉性性腫瘍)の専門的知識
テント上PNET(原始神経外胚葉性腫瘍,supratentorial primitive neuroectodermal tumor) は,1973年にHart and Earleにより提唱された。テント上に発生する小児の未分化な腫瘍群の中で髄芽腫,神経芽細胞腫,松果体芽腫のいずれにも属さない腫瘍群の総称である。臨床的にはPNETをさらに広義に捉えて松果体芽腫や神経芽細胞腫を入れることもある。
病理所見では,密に増殖する極めて未分化な小形円形細胞(small round cell) を主体とし,腫瘍の部分像においてグリアや神経細胞への分化傾向を示すことがある。悪性神経膠腫の特徴である出血や壊死を伴い,核分裂像はおおくMIB-1染色率が60%を越えることも珍しくない。核異型 nuclear anaplasiaの強いものほど治療抵抗性と捉える意見がある。臨床像としては,急激に増大しかつ髄腔内播種をきたしやすいことが特徴である。これらの特徴は,小脳に発生する髄芽腫と類似しているが,両者の治療成績や生物学的特徴の違いからWHO分類においてはそれぞれ独立した疾患として記載されている。髄芽腫に多く認められる第17遺伝子短腕の異常が大脳PNETでは認められない。
その発生頻度に関する報告は極めて少なく,Gaffneyらは小児脳腫瘍の約2.5%と報告している。成人例の報告もあるものの概ね10歳以下,特に5歳未満の乳幼児に多い。発生部位は基底核を含む大脳半球がほとんどを占める。髄液を介しての播種転移を生じ,死亡率が極めて高い悪性腫瘍である。
peripheral PNET(Ewing's sarcoma ユーイング肉腫)はpPNETと略されますが,脳に発生するPNETとは異なる腫瘍ですから注意して下さい
pPNETは頭頸部では,小児と若年成人の髄膜や頭蓋底に発生します。いわゆるCNS PNETとは異なった予後があり異なった治療法が用いられますし,治療の国際共同研究もあります。第11染色体と12染色体の間でのtranslocationが生じた結果のEWS--FLI1 fusion geneが原因として明らかになっています。Euro-E.W.I.N.G. 99 clinical trialという研究で565人の患者さんのこの腫瘍遺伝子の変異のタイプ (fusion types)と再発までの期間が調べられましたが,予後に差はなかったとのことです。Children's Oncology Group (COG)の研究でも遺伝子変異のタイプでは無増悪生存期間や全生存割合に変わりはなかったとのことです。
Le Deley MC et al. Impact of EWS-ETS fusion type on disease progression in Ewing's sarcoma/peripheral primitive neuroectodermal tumor: prospective results from the cooperative Euro-E.W.I.N.G. 99 trial. J Clin Oncol 28:1982-1988, 2010
van Doorninck JA, et al.: Current treatment protocols have eliminated the prognostic advantage of type 1 fusions in Ewing sarcoma: a report from the Children's Oncology Group. J Clin Oncol 28:1989-1994, 2010
診断
頭痛や嘔吐,意識障害などの頭蓋内圧亢進症状にて発症し,すでに大脳半球の巨大な腫瘍として認められることが多い。随伴する大脳巣症状は腫瘍の発生部位に依存する。意識障害が急速に進行して重篤な状態に陥ることもあり,診断と治療を急がなければならない。
単純CTでは,比較的境界明瞭で等吸収域もしくは高吸収域の腫瘤として描出され,内部に嚢胞や壊死巣を示す低吸収域を混在する。CTでの高吸収所見は腫瘍細胞密度が高いことを反映している。巨大な嚢胞性腫瘍として捉えられるPNETも稀ではない。腫瘍実質部分は強く造影され,石灰化も過半数に認められる。MRIでは,T1強調画像で低信号域として描出され,腫瘍実質はガドリニウムにより増強効果を示す場合が多い。腫瘍周囲脳浮腫は存在するものの腫瘍の大きさに比較すれば軽度である。血管に富み出血性の腫瘍であるので腫瘍血管のflow-voidの所見を伴う。髄腔内播種を生じることが多いため全脳脊髄MRIは必須である。可能であれば髄液細胞検査をする。
治療
PNETを疑えば治療の開始を急ぐことが肝要である。基本的な治療方針として,開頭手術による摘出と術後の放射線化学療法を計画する。しかし症例数が少ないことから標準化された治療方法はなく,大規模なランダム化比較試験の結果報告もない。病理所見と臨床像の類似性から髄芽腫に準じた治療方法が選択されることが多いが,決め手となる治療はないのが現状である。
体重の少ない幼小児に発生する大きな易出血性の脳腫瘍であり周辺脳との境界も明らかではなく,また手術摘出率は予後を大きく左右するため,手術には熟練した術者があたらなければならない。手術のリスクが高いと判断される場合には,定位脳手術により病理診断を行い,放射線治療や化学療法を先行させることもあるが,腫瘍縮小が得られた後に摘出術が可能と判断されれば,やはり開頭手術にて全摘出をはかった方が良い。
積極的腫瘍摘出術により頭蓋内圧亢進症状の寛解と病理診断を得た後には,できうる限り早く術後の補助療法を行う必要がある。術後の数週間,病理診断のために待機したり術後合併症の治療を行っている間に,腫瘍の著明な再増大に遭遇したなどということは稀ではない。たとえ亜全摘や全摘手術を成し得ても,早期再燃の確率は非常に高いので,頻回にMRIを行って再燃の有無を確認しながら治療を進める。
放射線治療は必須である。54Gy程度の腫瘍局所照射と脳脊髄照射を行うが,脳脊髄照射線量は患児の年齢によって慎重に判断されなければならない。特に3歳未満の患児に関しては重篤な放射線脳障害の発生率が高く,脳脊髄照射時期を3歳まで待機する治療法が選択されることが多い。
最も問題となる脳脊髄照射 craniospinal irradiationの線量は徐々に低下傾向にはある。Chintagumpalaらがまとめたところによれば,Reddyらは34-40Gy, Cohenらは36-40Gy, Albrightらは4歳以上で36Gy,1.5歳から3歳で23.4Gy,Timmermanらは35.2Gy, Jakachiらは4歳以上で36Gy, Pizerらは36Gy, Massiminoらは10歳未満で31.2Gy, 10歳以上で39Gy, Chintagumpalaらは標準リスクで23.4Gy,高リスクで36-39.6Gyの線量を選択している。
一般的には化学療法を加えることが多いが,化学療法の有効性は証明されるには至っていない。髄芽腫に有用であることで知られるロムスチン,ビンクリスチン,プレドニゾン併用化学療法によるPNETの治療成績は3年治癒生存率で35%と著しく不良なものであった。さらに,髄芽腫において5年生存率80%という報告があるビンクリスチン,ロムスチン,シスプラチン併用化学療法を行った結果も,PNETにおいての5年生存率は37%に過ぎない。幹細胞救援を併用する大量化学療法の有用性が検討されているが長期成績の報告はない。
欧州での共同研究(German brain tumor trials HIT 88/89 and 91)から,イフォマイド,エトポシド,メトトレキセイト,シスプラチン,シタラビンを照射前に投与した40例と,シスプラチン,ビンクリスチン,ロムスチンを照射後に使用した23例の成績が報告された。全体での3年生存率は48%であり,照射前化学療法を行った群に早期増悪例が多かったとされている。放射線治療では,脳脊髄照射35Gyに加えて腫瘍局所線量は少なくとも54Gyが必要であると結論づけている。しかし,これらの治療を十分行っても発生部位での局所再発は非常に多い。
予後
PNETは極めて死亡率の高い疾患である。中枢神経系内転移の有無が明白な予後不良因子となる。188例が登録されたChildren's Cancer Group Study 921の3年無増悪生存率は,転移のない群では53%であり転移のある群では14%と著しい差があった。PNETの長期生存例を渉猟すれば,開頭手術による全摘出と脳脊髄照射は治癒を求める上では最低限必要な因子であると推定される。
また,腫瘍の存在部位が生命予後予測因子としては最も大きい。例えば,大脳に表在性にあるPNETは手術でgross total removalができるが,大脳基底核,視床,脳幹部,第3脳室などを侵すPNETにおいてはそれができないからである。この意味では腫瘍の存在部位が,治療法選択に影響を与える。
再発に対する大量化学療法と血液幹細胞救援 HDC with HSCR
Raghuram CP, Moreno L, Zacharoulis S : Is there a role for high dose chemotherapy with hematopoietic stem cell rescue in patients with relapsed supratentorial PNET? J Neurooncol. 2011 Aug 18. [Epub]
2011年にRaghuramが,乳児15例,松果体芽腫15例を含む,計46例の再発sPNETへのHDC with HSCRの治療成績をまとめた。15例が生存しており,その内の13例が放射線治療を受けていなかった。中でも3歳未満の患児の12ヶ月全生存割合は67%と高く,一方で松果体芽腫の生存割合が低かった。結論として,再燃PNETに対するHDCは幼児例において生存が期待できる可能性があり,放射線治療を行わなくてもよい例があった。逆に年長児と松果体部PNETではこの治療法での治療成績は極めて悪いとしている。
PNETとpineoblsastoma 松果体芽腫
Miller S. et al.: Genome-wide molecular characterization of central nervous system primitive neuroectodermal tumor and pineoblastoma. Neuro Oncol 13:866-79, 2011
PNETの方がpineoblastomaよりgenimic imbalanceが多い。gain of PCDHGA3, 5q31.3 がPNETの62.1%とpineoblastomaの100%,FAM129A, 1q25がPNETの55.2%とpineoblastomaの50%に検出された。CDKN2A/B (9p21.3) 欠失と予後不良例との相関性がある。PNETには顕著なmolecular heterogeneityがあると結論している。
2011年時点での報告であるが,PNETとpineoblastomaの腫瘍関連遺伝子に関してはこの程度の解析に留まっている。
文献
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