小児脳腫瘍について

 脳腫瘍は小児に発生する固形癌の中では最も頻度が高くて,かつ死亡率の高い疾患です。脳腫瘍は他の臓器の腫瘍と比べて病理組織がいろいろ様々ですから,全ての脳腫瘍は稀少疾患(とてもまれな病気)といえます。さらに病理組織診断が同じであっても発生する部位と患者さんの年齢によって予後が変わるために,治療法の選択がとても複雑になります。

 低年齢児の脳は放射線治療でとても障害を受けやすいので,化学療法が重要な治療手段となっています。髄芽腫や胚細胞腫瘍などの悪性腫瘍では脳神経外科医と小児科医の協力が欠かせません。現在日本では小児脳腫瘍の症例はたくさんの施設に分散していて,全ての子供たちに高い水準の治療ができていないこともあり,地域ごとの治療センターを確立することが望まれています。また,複雑な治療法の選択は常にcase-to-case decision(個々の患者で逐一異なること)であり,深くてレベルの高い知識をもち経験豊かな小児神経腫瘍医の育成が求められています。

 まず最初に主治医を選ぶ場合に,悪性腫瘍を含めて大部分の小児脳腫瘍では,手術治療の選択と結果が予後(治るかどうか)を決める最も大きな要素だということを考えなければなりません。小児脳腫瘍の手術経験の件数が多い脳神経外科医を捜して下さい。もちろん小児科医と麻酔科医のいない病院での治療はできません。また,治ったとしても重い後遺症をもって生存して行く子供たちが多いです。後遺症をできる限り少なくする治療方法を選ばないと,成長した後に自立した人生を送れません。

 住んでいる地域を問わずに,セカンドオピニオンからさらにサードオピニオンも聞いてもいいと思います。子供の長い一生がかかっていますから,この点は妥協しないようにして下さい。日本脳腫瘍ネットワーク小児脳腫瘍の会などの患者会がこれらの情報を集めて下さることを期待しています。

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左側のサブメニューが解説の目次です。各項目をクリックすると,それぞれ詳しい説明にジャンプします。

成人の腫瘍やめずらしい腫瘍,髄膜種下垂体腺腫聴神経腫瘍ラトケのう胞転移性脳腫瘍血管芽腫(フォン・ヒッペル・リンドウ病),リンパ腫松果体のう胞類表皮のう胞松果体のう胞コロイド嚢胞ランゲルハンス細胞組織球症(LCH) 類皮のう胞(類皮腫)AT/RT線維形成性乳児星細胞腫/神経節膠腫 (DIA/DIG)神経芽腫,中枢性神経細胞腫 セントラルニューロサイトーマ,神経節細胞腫,神経節膠腫,胚芽異形成性神経上皮腫瘍 (DNT),血管外皮腫 (hemangiopericytoma,ヘマンジオペリサイトーマ)などは、ここの病名をクリックすれば説明ページが開きます。


ベイラー大学の寺島先生の講演のご案内

開催日 2011年11月19日(土)
時間 13:00 - 16:00(開場12:30)
場所 秋葉原UDX4F ギャラリーNEXT 3
参加費 無料「脳腫瘍(小児)の診断・治療と今後について」
ベイラー医科大学/テキサス小児がんセンター 寺島 慶太


説明を詳しく受ける権利

 インフォームドコンセントという言葉が有名になりました。患者さん側からみれば,十分納得のいく説明を文書などで詳しく受けてから,医師の提案した治療方法に同意して治療をしていただくということです。小児脳腫瘍と診断されたら担当医師からいろいろな説明を受けるはずです。考えられる病名,症状の説明,治療の必要性,予想される病理組織、治療の方向性,治る可能性,手術の必要性とリスク,化学療法の説明,放射線治療の説明,考えられうる後遺症と社会復帰の可能性などです。

 特に小児の化学療法については標準的治療や保険診療で認められたものがほとんどないので,患者の保護のための倫理的事項が守られなければなりません。効果の確定していない化学療法プロトコールは、一種の臨床試験に近いものになるので,小児の悪性腫瘍に用いる化学療法は各施設の倫理審査委員会または機関審査委員会(IRB)で承認されているのが普通です。同時に患者への説明文書が承認されているはずですから,それを見せていただきましょう。

 私たちが使っていたICE化学療法というのも北海道大学病院の倫理審査委員会で承認されていました。 倫理委員会で通った文書をそのままお見せすることはできませんので、ICE化学療法の説明文(クリックすると見れます)として簡単に書きました。もちろんここに書いてある以上にかなり詳しい説明を実際には行います。


どこで治療を受けるのが良いか

 よく質問されますが,難しくてわかりません。でも考えてみましょう。

 手術だけで治る腫瘍があるとしましょう。でもその手術は難しそう。それならば小児の脳腫瘍に経験の多い熟練した脳神経外科医を捜した方がいいですね。それで腕のいい外科医が見つかって,手術で全部とれてほとんど後遺症もなかったとしましょう。でも,ほんとは,その腫瘍が手術をする必要がないものだったらどうします?? その手術はまったく無駄ですね。なぜ子供は開頭術を受けたのか,こんなことはあってはならないのですが現実にあります。なぜ起こるのでしょう。小児脳腫瘍の治療を受けるための解説に書いたように小児の脳腫瘍があまりにいろいろあるから,手術前の予想がよく外れるのです。治療に踏み切る前に,症状やMRIをみて,治療の方向性をしっかり判断できる医師が必要なのです。手術をする前に,手術が本当に必要かどうか(しないほうがいい場合もあります),どの程度の手術をしたらいいのかを極めて正確に判断できるお医者さんを探すというところが,全ての出発点ではないでしょうか。

 化学療法とかほかの補助療法とかはまたそれから後の問題です。でも小児脳腫瘍は補助療法が必要なことも多いので、少なくとも小児科(特に小児神経と内分泌の専門の先生),麻酔科、放射線治療設備,病理部,眼科、耳鼻咽喉科,などなど,欲を言えば限りがないのですが、その程度はそろっている病院で最初から治療を受けるべきです。手術だけ脳神経外科で受けてから、他の病院に移って放射線治療や化学療法を受けたりすると治療が手遅れになってしまうこともあるのです。


医療費の問題

 小児脳腫瘍は小児慢性疾患の手続きをすると医療費が補助されます。小児慢性特定疾患患者の医療費等の自己負担額を公費負担する制度です。対象疾患(11疾患群)のうちの悪性新生物群に入ります。 この制度を受けるには申請が必要ですから申請書類を地域のお役所の窓口に提出してください。脳腫瘍と言われたらすぐにこの書類を主治医の先生に書いてもらわなければなりません。提出が遅れると最初にかかった医療費の自己負担分が返してもらえないことがあります。 承認の場合には医療受診券が発行されます。公費の有効期間は原則1年以内ですから,継続する場合には毎年申請が必要となります。2004年に制度が変わって,病気がほとんど治ったと見なされる状態では保護を打ち切られます。
注意してほしいのは,脳腫瘍の場合は,病理組織が良性であっても小児慢性特定疾患慢性疾患(悪性新生物)として認められることです。髄膜腫,上衣腫,頭蓋咽頭腫も入ります。病名別の早見表(ここをクリック)がありますから見て下さい。自己負担額と申請の仕方はここをクリック。


小児脳腫瘍の診療体制(特に長い入院になる悪性腫瘍の場合)

脳神経外科:手術をします
小児血液腫瘍:通常化学療法や末梢血幹細胞移植をつかう大量化学療法は小児科病棟でします
小児内分泌:視床下部や下垂体ホルモンの検査と治療をしていただきます
小児神経:症候性てんかんの治療や精神身体の発達を見守っていただきます
放射線科診断部門:CT, MRI, PETなどなど
放射線科治療部門:通常の分割照射から定位放射線治療やIMRT(強度変調放射線治療 )など
手術部:訓練されたスタッフが必要です
病理部門:脳腫瘍の病理診断は難しいです
小児外科:長期留置型のカテーテルの挿入をお願いします
眼科:視野検査や視力測定です
耳鼻科:化学療法前後に毎回,聴力検査をしていただきます
リハビリテーション:麻痺とかがあれば必要です
麻酔科:小児の麻酔に慣れた先生がいいです
集中治療室:とくに重い状態のこどもをお願いします
院内学級:大きな総合病院では整備されています
ファミリーハウス:家族の方が長期宿泊するための施設です

どの部門一つが欠けても小児脳腫瘍の治療は満足にはできないと感じます


保険診療で使えるようになった制がん剤

2005年に厚生労働省「抗がん剤併用療法に関する検討委員会」(薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会)で小児固形癌に使える制がん剤が認められました。小児悪性固形腫瘍に使えるので脳腫瘍はこの仲間に入ります。例えば平成17年2月14日小児固形癌にシスプラチン,エトポシド,メスナ,イホスファミドが承認されたと書いてあります。逐次変わると思いますので厚労省のホームページを見てください。その後,カルボプラチン,ビンクリスチン ,プロカルバジンも脳腫瘍に対して承認されましたが,組織型などを確認してください。テモゾロマイドは悪性神経膠腫に対して認可されました。

ICE化学療法はシスプラチン,エトポシド,イホスファミド(メスナ)を使う抗がん剤併用療法です。

CCNU(カルムスチン)はとても有効な薬剤ですが,日本では認可されていないので使えません。使うとなると個人輸入ですが,とても面倒ですし混合診療になる可能性があります。イホスファミド(イフォマイド,イホマイド)と シクロフォスファミドはとても似た制癌作用を示す薬剤と考えてください。 名前も似てます。


ソフィーの選択のお話

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