胚細胞腫瘍 germ cell tumorについて
- 胚細胞腫瘍の病理と治療はものすごく複雑です
- ですからこの腫瘍はこの病気にとっても詳しい専門家にしかできません
- 平均年齢は15歳くらいで子供に多い腫瘍です
- 下垂体,視床下部,松果体という場所にできます
- 成熟奇形種以外は悪性腫瘍です
- 診断はMRIでほとんど分かります
- 血液の中のAFPとHCGとう腫瘍マーカーで悪性度が分かります
- 手術は予想される組織型によって全く違う計画になります
- 腫瘍マーカーが高い値で悪性度が高い腫瘍は放射線化学療法をしてから手術で取り除きます(生塩博士の考え)
- 日本での化学療法(制がん剤)はICE療法というのが最も使用されます
- 放射線治療は病理組織によって全く違ってきます
- 播種しやすい腫瘍では全部の脳と脊髄に放射線治療をしなければならないことがあります
- 後遺症は手術と放射線できまりますから,それをできる限り低侵襲に押さえるのが治療のコツです
- 髄液にのって脊髄に播種(転移)することがあります
- 内分泌(ホルモン)障害を持つ患者さんが多いので内分泌の専門家に診てもらう必要があります
- 水頭症を改善するのには様々な方法がありますがシャント手術をしないコツがあります
- 治療法を決めるために日本では全国共同研究がありました(澤村も参加してました)
- ちなみに澤村はこの腫瘍の研究で米国脳神経外科学会のマハレー賞をもらいました(^O^)
- ジャーミノーマは他のページに詳しく書いていますからここをクリックして下さい
胚細胞腫瘍の種類と大まかな治療方針
- 成熟奇形腫:手術で完全摘出すれば治ります
- 胚腫(ジャーミノーマ):できれば生検手術を行って病理診断をして,化学療法をしてから低線量全脳室照射します
- 未熟奇形腫:病理診断をして,放射線化学療法をしますが,残った腫瘍を摘出しないと高率に再発(再燃)します
- 混合性胚細胞腫瘍:どのような腫瘍が混じっているか,病理診断が最も大切です。混じっているものの中で最も悪性度の高い病理所見にあわせて治療計画を立てます。ジャーミノーマと未熟奇形腫の混合型が多いです
- 悪性転化を伴う奇形腫:手術摘出と放射線化学療法をしますが,高線量の局所照射が必要です。
- 卵黄嚢腫:AFPが非常に高いときは生検手術は必要ありません。とりあえず化学療法を1コースして化学療法反応性を見極めて,追加の化学療法や脳脊髄照射(局所追加照射)をしてから,残った腫瘍を開頭手術で全部取ります
- 胎児性癌:これが疑われた時には強力な放射線治療と化学療法が必要です,生存割合がとても低いのでできる治療は何でもします
- 絨毛癌:HCGが数千から数万の値になります。これが疑われた時には強力な放射線治療と化学療法が必要です,生存割合がとても低いのでできる治療は何でもします
上から順番に治りやすい腫瘍です
胚細胞腫瘍の治療の概略
全般的に小児脳腫瘍の治療研究体制は欧米に遅れていますが,東南アジアでの胚細胞腫瘍の発生頻度は欧米の数倍にあたるために,とくに胚腫(ジャーミノーマ)の治療に関しては日本が欧米をリードしています。厚生労働省の旧松谷班の1990年代の研究成果が現時点での日本の標準治療となっていますし,私もこの腫瘍に対してはたくさんの論文を書きました。
胚細胞腫瘍といってもいろいろな腫瘍の集まりですから,病理分類によって適切な治療方針を決めることは難しいです。日本では治療法の選択のために組織型によって,予後良好群,予後中間群,予後不良群の3群に分類しておよその目安としています。
予後良好群は胚腫(ジャーミノーマ)と成熟奇形腫です。80-90%の10年生存割合が期待できる群ですから,治癒を目指すとともに治療後遺症をできうる限り最小限度となるような治療方針を作成します。逆に,予後不良群とは死亡率が高い群ですから,機能予後の損失(ある程度の後遺症)よりも生命予後に重点をおいて,個々の患者において与えられる限りの初期治療をほどこします。予後中間群においての5年生存率は70%程度です。混合性胚細胞腫瘍のうち,胚腫と未熟奇形腫との混合型のみを中間群に入れて他のものは予後不良群として治療します。病理の結果の組み合わせで治療方法を細かく変えるのです。
胚腫(ジャーミノーマ)は胚細胞腫瘍の約70%を占めます。また15歳をピークとして思春期に多い腫瘍ですが10歳以下の小児にも稀ではありません。従来の標準治療は,全脳室あるいは全脳脊髄を含む領域に腫瘍線量として45~55Gyを用いるものでした。この大量の放射線を使う治療法では,長期生存例において精神発達遅滞(知能低下・認知機能の低下),間脳下垂体機能障害,放射線誘発二次腫瘍,脳主幹動脈閉塞などの遅発性放射線障害の発生が問題となりました。
胚腫は化学療法への感受性が非常に高くて,組織診断確定後に化学療法を行えば,大きなものであっても例外なく腫瘍はほぼ完全に消失します。でも,化学療法単独治療ではかなり高頻度に再発が起ってしまいます。
胚腫は一見したところ限局性腫瘍に見えますが,病理組織学的には脳室壁などにかなり広範に浸潤しているので少なくとも全脳室領域(24Gy/12分割あるいは25.2Gy14分割)に照射野を設定する必要があるということがはっきりしてきました。生検術で組織診断を確定した後に,カルボプラチンとエトポシドを用いるCARE化学療法かICE化学療法を3コース行ってから全脳室系に低線量照射をします。松谷班の結果では,追跡期間中央値5年の時点にて治療評価可能な130例において,無増悪生存割合91%,全生存割合98%という良い成績を出しています。さらにこのうち120例(86%)が社会復帰をしています。
胎児性癌や卵黄嚢腫など死亡率が高い予後不良群でHCG-betaあるいはAFPという腫瘍マーカーがかなりの高値を示す症例では,手術をせずにまず放射線化学療法を先行させて,腫瘍が小さくなったところで全摘出することも推奨されています。これは熊本大学にいた生塩先生が提案した治療法です。手術による播腫(転移)の誘発を防ぐという利点と,最終的には完全摘出しなければ再燃率が非常に高い予後不良群にあっての摘出術を,出血の減少と腫瘍の縮小という点において容易にするのがねらいです。私は予後不良群に,イホスファミド,シスプラチン,エトポシドを用いるICE化学療法を使用しています。
注意して読まなければならない有名な論文
Kellie SJ, et al.: Primary chemotherapy for intracranial nongerminomatous germ cell tumors: Results of the Second International CNS Germ Cell Study Group protocol. J Clin Oncol 22: 846-853, 2004
20人の胚細胞腫瘍(germinomaを除く)の患者さんが,regimen A (CDDP, VP-16, CPM, BLM)とregimen B (CBDCA, VP-16, BLM)の化学療法を受けています。 完全寛解とならなかった患者さんで手術か放射線治療がなされました。
論文の要旨を読むと,評価できた17人の患者さんの内で16人 (94%奏功率) が有効 (CR/PR) になっています。6.3年の追跡期間中央値で20人中の14人(60%)が生存していました。5年全生存割合は75%,無増悪生存割合は36%です。
解説:
2004年に発表されていますが,1994年に計画された治療法の成績です。この論文に書かれている治療方針は現在では全く誤ったものと言えますので,この治療方針を模倣してはなりません。論文をよく読むと治療中と後の再燃(増悪)が20例中の14例(70%)にもなります。これらの患者さんでは予定された化学療法を継続せずに手術や放射線治療でrescueされているのです。明らかにここに書かれている化学療法のみでは腫瘍を抑えきれないです。死亡した6人の患者さんでは,3人(HCG/AFP異常高値)が放射線治療を受けておらず,1人(HCG>3000)が局所放射線治療です。14名の生存者の内で9人が放射線治療を受けています。このことは多くの患者さんで結果的には放射線治療を避け得ないということなので,最初から治療計画に組み込むべきです。この20例の中にはAFPが正常値でyolk sac tumorの組織診断であったり,組織診断がgerminomaの例も含まれていて,そもそも正確に診断されているかどうかも考えさせられます。
germinomaでさえ化学療法のみで放射線治療を加えなければ再発を抑制できないことは知られていますのに,さらに悪性度の高い胚細胞腫瘍群で,化学療法に反応すれば放射線を加えないという初期治療方針を立てることはできません。悪性度の高い胚細胞腫瘍には放射線治療を優先的に考慮しなければなりませんが,どの程度の脳脊髄照射(あるいは第3脳室照射)を用いるかということで,生存の質(認知機能の予後)が決まります。
クローバーという胚細胞腫瘍の患者さん家族のコミュニティーがあります(リンクはここをクリック)
胚細胞腫瘍の専門的知識
1. 定義・概念
germ cell tumors(胚細胞腫瘍)は,primordial germ cells (原生殖細胞)を起原として発生する腫瘍であると考えられている。主として小児期と青年期に,生殖器(精巣,卵巣)と体中心線に当たる部位,すなわち縦隔,後腹膜,松果体,神経下垂体部などに好発する。胎生初期にprimordial germ cellsは様々な臓器に分布するが,なぜ縦隔と間脳松果体部(diencephalopineal region)において停留し腫瘍化するかは不明である。12染色体短腕や性染色体異常などが指摘されてはいるが,原因となる腫瘍関連遺伝子は特定されていない。1)
中枢神経系(頭蓋内)原発胚細胞腫瘍(primary CNS (intracranial) germ cell tumors) は生殖器原発のものと較べると頻度はかなり低い。性殖器あるいは他臓器に発生する胚細胞腫瘍とは,病理組織学的にも生物学的にもほぼ同様の性質を示す。しかし,生殖器原発腫瘍が高頻度にリンパ節あるいは多臓器に転移することに対し,中枢神経系原発胚細胞腫瘍の最大の特徴は中枢神経外への転移が例外的なことである。発生部位が小児の脳深部にある視床下部や松果体部なので,手術全摘出がしばしば困難である一方,放射線・化学療法に感受性を示す腫瘍が多いので補助療法の重要性が高い。治療には極めて高度の専門的知識と経験が必要である。
2. 分類と頻度
2000年のWHOによる中枢神経系腫瘍の分類によれば (Table 1),germ cell tumors (胚細胞腫瘍)のsubentityは,germinoma(胚腫),embryonal carcinoma(胎児性癌),yolk sac tumor(卵黄嚢腫瘍),choriocarcinoma(絨毛癌),mature teratoma(成熟奇形腫),immature teratoma(未熟奇形腫),teratoma with malignant transformation(悪性転化を伴う奇形腫),mixed germ cell tumors(混合性胚細胞腫瘍)と分類される。胚細胞腫瘍とは,このように様々な組織形態を示す腫瘍群の総称であって,ある特有の病理組織像と臨床予後を表し示す病理用語ではない。中枢神経系胚細胞腫瘍の発生頻度は,東アジアでは欧米の3~5倍であるとされる。
Table 1 WHO Classification of Germ Cell Tumors in The Nervous System (2007)
--------------------------------------------------------------
Germinoma
Embryonal carcinoma
Yolk sac tumor
Choriocarcinoma
Teratoma (Mature, Immature, Teratoma with malignant transformation)
Mixed germ cell tumor
--------------------------------------------------------------
日本脳腫瘍統計(Table 2)2によれば,1984年から1996年の集計において原発性脳腫瘍52,196例の中に占める胚細胞腫瘍1,478例の発生割合は2.8%となる。組織型別ではgerminoma 2.0% (1,037例),teratoma 0.2% (100例),malignant teratoma 0.2% (86例),choriocarcinoma 0.1% (46例),embryonal carcinoma 0.1% (63例),yolk sac tumor 0.1% (43例),other germ cell tumors 0.2% (103例)である。胚細胞腫瘍の中に占めるgerminomaの比率は高く70.2%(1,037例/1,478例)であり,他の腫瘍型はその10分の1あるいはそれ以下の頻度である。
Table 2 日本脳腫瘍統計による胚細胞腫瘍の発生頻度 (2003)
| 症例数 | 割合 | |
| ジャーミノーマ | 1,037 | 70.2% |
| 奇形腫 | 100 | 6.8% |
| 悪性奇形腫 | 86 | 4.8% |
| 胎児性癌 | 63 | 4.3% |
| 卵黄嚢種 | 43 | 2.9% |
| 絨毛上皮癌 | 46 | 3.1% |
| 1,478 | 100% |
この日本脳腫瘍統計の集計はWHOの分類に即していないため,およその指標とはなるが正確性を欠く。germinomaとmature teratomaを除けば純型は少なく,詳細に組織像を検討すればmixed germ cell tumorの頻度が高くなる。例えば,immature teratomaにgerminomaが混在する症例では,mixed germ cell tumorと病理診断されるべきであり,診断と治療は,germinomaとimmature teratomaの両者の性質を踏まえて行うことになる。また純粋なembryonal carcinoma,yolk sac tumor,choriocarcinomaの頻度はTable 2に示すものよりも遥かに低いものであろうし,ここではmalignant teratomaとされるものの定義も明らかではない。
14才以下の小児例では,germinomaの頻度は全原発性脳腫瘍の9.8%となり,小児に多い。発生頻度と部位には性差があり,松果体原発腫瘍は男児に圧倒的に多く女児に少ない,またgerminoma以外の組織型は男児に多い。発生部位は,80%以上が第三脳室近傍すなわち,視床下部・下垂体後葉 (neurohypophyseal germ cell tumors) と松果体 (pineal germ cell tumors) の2つの部位に集中する。両部位に同時に発生する (synchronous tumor) ことはめずらしくない。女児に発生するgerminomaは,視床下部に多く松果体部は極めて稀である。頻度は低いが,大脳基底核,視床,脳幹部,脊髄,小脳にも原発することがある。
時を経て胚細胞腫瘍が中枢神経系に2度発生することがあり,これをmetachronous germ cell tumorという。例えば,小児期に松果体部teratomaが発生しそれが治癒し,10年を経て思春期に神経下垂体部にgerminomaが新たに発生する場合などである。3このmetachronous germinomaと再発との厳密な意味での鑑別は難しい。
3. 臨床症状
臨床症候は腫瘍の発生する脳の部位に依存するが,それぞれの腫瘍型によっても若干異なる。
松果体の胚細胞腫瘍の大部分は,第三脳室後方から中脳水道の閉塞による閉塞性水頭症を生じる。それゆえに頭痛と嘔吐,あるいは軽度の意識障害を初発症状とすることが多い。かつては高度の水頭症のためParinoud症候などを呈して入院する例もあったが,最近では中脳被蓋の圧迫症状である眼球運動障害まで進行している例は少ない。
視床下部から下垂体後葉を発生母地とする胚細胞腫瘍は,多飲・多尿(中枢性尿崩症)で発症することがかなり多い。下垂体前葉まで腫瘍が浸潤すれば,成長ホルモンの分泌低下による低身長など前葉不全も伴っている。前葉不全による副腎機能低下で尿崩症が不顕化している場合は,副腎皮質ステロイドホルモンの補充で尿崩症が顕在化して尿比重が低下し尿量の著明な増加を見る。高度の間脳下垂体不全でのナトリウム調節障害,意識障害,知能低下などの重症例も時に遭遇する。
germinomaは本来浸潤性の腫瘍であり,視神経交叉を侵すことが多く,視力・視野障害を合併していることも稀ではない。視力が保たれている例においても,様々な視野欠損を呈する症例があるので,視野検査は必ず行っておいた方がよい。また,germinomaは中枢神経組織を破壊性に浸潤し,視力・視野障害は不可逆性であることが多いので,診断と治療を遅らせてはならない。4)
大脳基底核に生じた腫瘍は大脳高次機能低下,錐体路障害による片麻痺,知的機能の障害などを呈するが,初期には局所症候に乏しいこともありかなり進行してからでないと発見されないのが通常である。脊髄に生じたものでは横断性対麻痺や膀胱直腸障害もあり,視床や延髄などであればそれらの部位特有の局所症候で発症する。
4. 検査と診断
胚細胞腫瘍の診断においては,血清と髄液中のAFP (alpha-feto protein)とHCG-beta (human chorionic gonadotoropin-beta subunit) の測定は必須検査となる。後述するように,これらの腫瘍マーカーを多く分泌するものほど悪性度が高い傾向がある。個々の症例によっての差異は非常に大きいが,choriocarcinomaでのHCG-betaは10,000 ng/ml前後,yolk sac tumorでのAFPは4,000 mIU/ml前後とかなりの高値を示す悪性腫瘍もある。germinoma例でのHCG-betaは,測定限界値が低い精度の高い検査法を用いればほとんどの例で陽性(異常高値)となるため,かつていわれたようなHCG-beta産生性(あるいは分泌,陽性)germinomaという概念は揺らぎつつある。
HCG-betaは必ずしも胚細胞腫瘍特異的ではなく,頭蓋咽頭腫などの鞍上部腫瘍でも陽性となる症例があることに注意しなければならない。髄液中でのc-kitの測定も病態と関連して胚細胞腫瘍の診断に有用である。5 HCG-betaの値は血清値よりも髄液中の方が高いので髄液の測定も行った方がよい。
髄液の腫瘍マーカー測定と伴に,髄液細胞診で腫瘍細胞の有無をみることも重要である。しかしながら,この髄液細胞診断には疑陽性あるいは偽陰性の頻度が高い。髄液中に明らかな腫瘍細胞の浮遊がある時には,放射線治療を全脳脊髄領域に拡大することも考慮されなければならない。
胚細胞腫瘍が間脳下垂体系に発生した場合には,ほとんどの例で尿崩症や下垂体前葉障害を生じているので,負荷試験を含めた内分泌学的な検査が必要である。また,この診断と平行してホルモン補充療法を行わなければならない。視床下部障害あるいは尿崩症に続発する低ナトリウム血症にも遭遇することがあるので,電解質検査とその補正も常に念頭に入れる。例え松果体にのみ腫瘍が存在する例でも,神経下垂体部にMRIではみえない腫瘍(occult germinoma)6が存在することもあるので内分泌検査は全例に行われることが推賞される。
画像診断はMRIで行うが,病理像が様々であるため,その所見にも一定のものはない。mature teratomaを除く全ての胚細胞腫瘍は髄液を介して髄腔内播種する可能性があるので,治療を開始する前には必ずガドリニウム像強を加えた全脳全脊髄のMRI診断を行なう。ただし,teratomaにおける石灰化は診断的価値を有するために,CT scanも行った方がよい。画像上での診断名で鞍上部germinoma(suprasellar germinoma)という用語が長く使用されてきたが,これは適切ではない。灰白隆起,下垂体後葉や下垂体柄を含むneurohypophysisに発生するものが多く,neurohypophyseal germinomaと呼称するのが正しい。
原則的には,全ての症例において定位的生検などにより組織学的診断を治療に先行させ,治療方針を立案することを原則とした方がよい。例えば,胚細胞腫瘍の中でも最も多いgerminomaは治癒の期待できる小児脳腫瘍である。7-10)従って,germinomaであるという確定病理診断を得ることが,最も効率的に最も低侵襲に患児を治癒に導くための,必須の条件となる。逆に,悪性度の極めて高いembryonal carcinomaの患児をgerminomaと仮定(誤診)して治療すれば,その患児を救うことはできない。
またgerminomaは,手術全摘のみで治癒を得ることはできず,放射線治療を加えなければ再発するし,組織生検であっても全摘出であっても完全寛解導入率に変わりはない。11) germinomaにおいての手術は,確定病理診断を得るための診断的手術であることが第一義となるので,侵襲的手術であってはならず,可能な限り定位的腫瘍生検術を選択する。近年,閉塞性水頭症を合併する症例において,第3脳室経由で神経内視鏡を用いる生検術と第3脳室底開窓術が行われることがあるが,胚細胞腫瘍は髄液を介して播種する性格を有しているためこの操作が播種を助長するという懸念は捨て切れない。
腫瘍マーカーが陰性のものをnonsecreting germ cell tumorといい,この群ではもちろん診断のための腫瘍生検は必須となる。逆に腫瘍マーカーが陽性となるものはgerm cell tumorの診断がつき,組織診断を必用としないという考えもあるが,著者はAFPやHCGがかなりの高値を示す悪性例でもできる限り定位生検術を行い,より正確な病理診断と治療を計画する方針をとっている。
病理組織所見は実に多様であり詳述はできないので他書を参照されたい。germinomaの特殊染色では,PLAP (placental alkaline phosphatase) が陽性となることが診断の大きな根拠となり,部分的にHCG-betaが陽性を示す細胞も出現する。定位的生検術で得られる腫瘍検体は小さく,病理組織検査に不十分なことがある。特に画像診断でmixed germ cell tumorが疑われる症例では,画像所見,腫瘍マーカーと病理診断を比較検討して,生検した以外の腫瘍部分に予想外の組織像が存在し得ることを考慮して治療計画をたてることも重要である。必用であれば放射線・化学療法中やその後に,二度目の生検術あるいは残存腫瘍摘出術を行うことも常に考慮に入れる。
5. 治療
前述のように胚細胞腫瘍とは種々の組織型の総称であり,またmixed germ cell tumorsの存在により,WHOの病理分類によっても適切な治療方針を決めることは難しい。北海道大学では1992年より,治療法の選択のために,組織型・伸展度・腫瘍マーカーによりTable 3のように3群に分類しておよその目安としている。8-10,12,13) 以来50例以上の胚細胞腫瘍をこの分類に則って治療したが,現時点までの変更点は,前述したようにほとんどのgerminomaはHCG-betaを産生するのでこの分類の基準から除いたのみである。血清あるいは髄液中のHCG-beta が比較的に高値となるgerminomaの再発率が高いのか否かは現時点では結論がついていない。
Table 3 Classification of Intracranial Germ Cell Tumors for Treatment Selection
- 1. Good Prognostic Group
- germinoma
- mature teratoma
- 2. Intermediate Prognostic Group
- immature teratoma
- mixed germ cell tumors consisted of germinoma with either mature or immature teratoma
- 3. Poor Prognostic Group
- embryonal carcinoma
- yolk sac tumor
- choriocarcinoma
- mixed germ cell tumors including a component of embryonal carcinoma, yolk sac tumor, choriocarcinoma, or teratoma with malignant transformation
- teratoma with malignant transformation including a component of such as squamous cell carcinoma, adenocarcinoma, or other sarcomas
good prognostic groupとは,80-90%の10年生存割合が期待できる群であるので,腫瘍からの治癒を目指すとともに治療後遺症をできうる限り最小限度となるような治療方針を作成する。逆に,poor prognostic groupとは生命予後が極めて不良な群であり,機能予後の損失よりも生命予後に重点をおいて,個々の患者において与えられる限りの初期治療をほどこす。intermediate prognostic groupにおいての5年生存率は70%程度である。7,9)
mixed germ cell tumorsのうち,germinomaとmatureあるいはimmature teratomaとの混合型のみを中間群に入れて,他のmixed germ cell tumorsは予後不良群として治療する。しかし,松谷らは,teratoma with malignant transformationの中で悪性度が高い腫瘍組織部分の量的割合が少ないものを中間群として治療するべきであるとしている。7) しかしながら,手術でかなりの部分の腫瘍を摘出してしまわなければこの病理診断は得られず,実際的ではないと思われる。HCG-betaあるいはAFPがかなりの高値を示す症例では,組織生検をせず放射線化学療法を先行させることもあるが,14,15) この場合においてはpoor prognostic groupとして治療計画を立てるのが適切なのであろう。
また,欧米では単にgerminomatous germ cell tumorsとnon-germinomatous germ cell tumorsの2群に分けて治療方針が論じられることが多い。Non-germinomatous germ cell tumorsとはgerminomaとmature teratomaを除く全ての腫瘍群を総称する。しかし,この中には様々な程度の悪性度を有する腫瘍が混在するために一括して治療方針を決定することには無理がある。
6. 化学療法
胚細胞腫瘍は,cisplatinを基剤とした化学療法(platinum-based chemotherapy)に感受性が高い腫瘍として知られている。従って,化学療法を選択する場合にはcisplatin(CDDP)あるいはcarboplatin(CBDCA)を中心にregimenが組まれfirst-line chemotherapyとして応用される。現在一般的に用いられている多剤併用化学療法としては,PE (EP) 療法,ICE(VIP, PEI)療法,PVB療法,BEP療法などがある。
| regimen | combination of agents |
| PE (EP) | cisplatin (or carboplatin), etoposide |
| ICE (VIP, PEI) | ifosfamide, cisplatin, etoposide |
| PVB | cisplatin, vinblastine, bleomycin |
| BEP | bleomycin, etoposide, cisplatin |
PE療法とは,cisplatinとetoposide (VP-16),あるいはcarboplatinとetoposideを併用する化学療法である。PE療法に更にifosfamide (IFOS)を加えたものをICE療法という。ICE療法の場合の白金錯体は,carboplatinよりもcisplatinが併用されることの方が多い。このICE療法は,VIPあるいはPEI療法と同じものを意味する。PVB療法とは,cisplatin, vinblastine (VBL), bleomycin(BLM)の3者併用療法をいう。BEP療法とはbleomycin, etoposide, cisplatinの併用である。いずれにせよ基本となるものは,cisplatinかcarboplatinを中心とした多剤併用療法であることにかわりはない。16-25)
これらのregimenの有効性を正確に比較することはできないが,中枢神経系腫瘍以外でも代表的な標準的治療であるICEとBEP療法の転移を呈する進行性胚細胞腫瘍に対しての効果は,ほぼ同等であったという共同研究の結果が発表されている。21,22著者の用いているICE療法は,一日あたりifosfamide 900mg/m2, cisplatin 20mg/m2, etoposide 60mg/m2を5日間連続投与して1コースとするものであるが,この投与量は他臓器原発の胚細胞腫瘍に対して用いられる量より少ない。26文献報告を参照する場合は,同一のregimenであっても投与量に差があり,当然のことながら副作用の程度も異なることに注意する必用がある。
最近では, gemciatbine, docetaxel, paclitaxelなどの効果も注目されているが,27) 現時点ではfirst-line chemotherapyとして確立されたものではない。これらの薬剤の真の有効性は大規模臨床研究の結果を待たなければならないが,現時点では再発した腫瘍に対してのsalvage therapyとして効果が期待されるものである。また,末梢血幹細胞移植(PBSCT)を応用する超大量化学療法は,salvage therapyとして有効性の報告はあるが,悪性度の高いgerm cell tumorをこの化学療法単独で治癒せしめうるものではなく,一方で副作用のため化学療法死の危険さえ伴う方法であり毒性が高すぎるため,これも治癒率と副作用を鑑みれば現時点では普遍的な治療法とは言えない。
7. ジャーミノーマについては他のページにあります(ここをクリック)。
8. 奇形腫 teratomas
奇形種は,皮膚附属器・骨・軟骨・消化器官・筋肉・脂肪組織・結合組織・神経などの三胚葉由来組織が混合し異常増殖する腫瘍である。mature teratomaは,高分化型の腫瘍で全ての構成要素が分化した組織からなる。胎生初期の未分化組織に類似した像,あるいは同定ができない組織像を含む場合にはimmature teratomaと診断する。teratoma with malignant transformationは,奇形種の内部に扁平上皮癌や腺癌などの癌腫や中胚葉性の肉腫などを含むものである。ただし,teratomaの中に他の胚細胞腫瘍の部分像を含むときにはmixed germ cell tumorの範疇に入れる。CTとMRIでの脂肪組織や骨化の混在は確定診断の根拠となる。
中枢神経系に発生するteratomaは,主として小児に発生する比較的稀な腫瘍である。悪性型を含むteratomaの頻度は,日本脳腫瘍統計(BTRJ)2によれば,全原発性脳腫瘍中の0.4%となる。しかしながら,中枢神経原発胚細胞腫瘍の内では,germinomaに次いで多く見られる腫瘍型である。7,9,33-35図6に見られるように悪性度を有するteratomaは10歳以下の低い年齢層に多い。また,Tapper等によれば,小児のteratoma254例の内,中枢神経系に発生したものは9例 (3.5%) であったという。36

図 5:日本脳腫瘍統計によるteratomaとmalignant teratomaの年齢分布。
症候性であっても一般にmature teratomaの進行は緩徐であり,また,全く腫瘍増大もせず,症状が進行しない症例や,臨床経過が10年を越える症例もある。従って,この様な例ではあえて根治治療をせずに,注意深い経過観察で良いこともある。高分化型のteratomaは,脳神経外科手術による完全摘出で治癒するが,13,35発生母地が脳深部にあるので手術摘出には高度で熟練した手術技量を要する。松果体teratomaは完全摘出を行うことが可能であるが,視床下部原発のteratomaは視床下部や下垂体機能を温存するために,部分摘出に止めた方がよいことも多い。部分摘出であっても成熟奇形種であれば,再増大しない場合もあることを念頭に入れる。
治療の困難さは,部分摘出後の残存腫瘍をいかに扱うかにある。すなわち,奇形種は様々な部分組織像を混合するため,取り残した腫瘍に悪性組織が残存する可能性を否定できないからである。慎重な経過観察を行い,もし再増大した場合には,再手術による組織像の確認を行い,治療方針を再考するのが妥当であろう。35,37
mature teratomaよりimmature teratomaを見る頻度は高い。しかし,immature teratomaは他の胚細胞腫瘍の組織像,例えばgerminomaなどを含むことが多く,この場合はmixed germ cell tumorとの診断になる。immature teratomaは,一見境界が明瞭であるが,周囲神経組織に浸潤していることが多く,完全摘出しても部分摘出しても再発・再燃する可能性が高いので,術後の補助療法が欠かせない。未熟奇形種の生命予後は中間群に分類され,適切な後療法を行えば治癒する機会も高い。7,9,35)
immature teratomaの補助療法には,放射線照射単独,あるいは放射線治療と化学療法を組み合わせて用いる。髄腔内播種を来す頻度は低いので,放射線治療は局所照射として40~50Gy程度の線量を加える。しかしながら,年齢と腫瘍発生部位に応じた放射線量の検討が個々の患児において必要となる。teratomaは腫瘍組織構成成分が多様であるので,図6にみられるように同一の腫瘍の中でも部分的に治療反応性が異なることがあることに注意する。

図 6 1-5:neurohypophyseal mixed germ cell tumorの若年成人男子例。発症時のMRIでは大部分が増強されるが,腫瘍の左前方に脂肪組織を示す小さな信号域を認める(1: 単純MRI,2: 増強MRI)。経蝶形骨洞生検術でmature teratomaとgerminomaの所見が得られた。ICE化学療法により増強される部分の腫瘍は消失したが,逆に単純MRIと単純CT(3単純MRI,CT4)で認められる脂肪組織を含む部分が顕著に増大している。この腫瘍は後に亜全摘出したが(5),病理所見は類皮腫であった。teratomaにおいてはこのような奇異な治療反応性がみられることがある。
癌腫あるいは肉腫の部分像を含むものは死亡率も高く予後不良なteratomaである。神経機能温存を考慮しつつ行う他のteratomaとは観点を変えて,手術はできうる限り全摘出を目指し,治療戦略を立てる必要がある。髄腔内播種の危険性があり,放射線治療は全脳脊髄照射として,腫瘍局所には45~60Gy程度を照射する。松果体部に原発した悪性転化を伴うteratomaであれば,60Gyまで線量をあげることができるが,視床下部では最大54Gy程に止めざるを得ない。この場合も精密な線量分布計算と,視神経への線量を下げるなど,放射線治療医のきめ細かな配慮が求められる
9. その他の腫瘍型
図8に見られるように,embryonal carcinomaとyolk sac tumorとchoriocarcinomaの年齢分布は類似する。germinomaよりはいくらか年齢層が低い。

図 7:日本脳腫瘍統計によるchoriocarcinoma, embryonal carcinoma, yolk sac tumor, とその他組織型が明確ではない胚細胞腫瘍の年齢分布。
embryonal carcinomaは,胎生初期のembryonic ectoderm(胎生外胚葉)のembryonic pluripotential stem cellが癌化した細胞配列に類似した組織形態をとる悪性腫瘍である。極めて稀に純粋な脳原発のembryonal carcinomaの報告があるが,中枢神経系においては睾丸に発生するような純粋なembryonal carcinomaの診断を得られることはほとんど無い。38神経組織に浸潤性増殖をし,出血や壊死像を含み多数の核分裂像を有し特徴的な細胞配列を示さないことも多く,immature teratomaの悪性型やchoriocarcinomaと混在した場合には判別しがたい。CK(cytokeratin),PLAP,AFP,HCGは,部分的に陽性所見を示すことがある。AFP強陽性の部分があれば,yolk sac tumorとの合併を考慮する。
松果体に発生することが多く,臨床経過は純粋なgerminomaやteratomaよりもかなり早い。MRI上境界明瞭な腫瘍で,石灰化を伴うこともあり,T1強調ガドリニウム増強像では強く増強されることが多い。注意すべき点は,MRIではgerminomaとの鑑別診断が極めて困難なことであろう。高率に髄液播種するので,embryonal carcinomaを疑ったときには必ず全脳脊髄を含むガドリニウム増強MRIを撮像する。髄液播種の出現と進行も早いので,治療経過中も脳から腰仙椎までを含むMRIを頻回に反復する必要がある。
日本脳腫瘍統計によれば,5年生存率は46%である。(脳腫瘍統計ref)たとえ初回治療に成功して完全緩解を得たとしても高率に再発をきたし,原発部位周辺脳への直接浸潤と髄液を介した転移で致死的経過をたどることが多い。全脳脊髄を含む放射線治療と強力な化学療法を選択する必要がある。7,9,39 病勢の進行が早いので,放射線照射と化学療法は病理組織診断がつき次第早急に行う。手術のみでの治癒は期待できず,摘出術によって誘発される髄腔内播種には十分に留意する必要がある。また,放射線化学療法の後に摘出可能病変が残存する場合には再手術を計画した方がよい。

図8:松果体部と視床下部に発生したmixed germ cell tumorの増強MRI(左側)。定位的生検術によりimmature teratomaとembryonal carcinomaの混じる病理像が認められた。1コースのICE化学療法と54Gyの放射線治療により腫瘍は著明に縮小し(中央),治療8ヶ月後には更に退縮している像が認められる(右側)。teratomaにおいて,放射線化学療法の後に腫瘍の完全消失を認めることはほとんどない。
yolk sac tumorは,胎生初期の卵黄嚢(embryonic yolk sac)を囲む胎生内胚葉(embryonic endoderm)由来の腫瘍であると考えられている。embryonal carcinomaより更に稀な腫瘍であり,視床下部よりも松果体に好発する傾向がある。純粋型は少ないが,APFが極めて高値を示す腫瘍ではどこかにyolk sac tumorの組織像が部分的に混在することを念頭に入れて治療する必要がある。組織学的には,円柱様ないし楕円形の上皮様細胞の網状配列構造を示す腫瘍であり,一部にSchiller-Dubal bodyと呼ばれる血管周囲に集族する特徴的な細胞配列が見られる。これは,一層あるいは多層の上皮様細胞が,中心となる血管をやや離れて取り囲むように並ぶ構造を言う。また,PAS陽性の好酸性球状体が見られAFPが強陽性となる。
血液中あるいは髄液中のAFPが1000ng/mlを越え,時には数万の値をとることもある。しかし,mixed germ cell tumorやembryonal carcinomaでも,AFPは1000ng/mlを越える値を示すことがあることがあるので腫瘍マーカーのみでは確定診断に至らない。高率に髄液播種を来すため,MRIのT1強調ガドリニウム増強画像にて,全脳脊髄を検索する必要がある。
発症1年以内の死亡率が高い極めて悪性度が高い腫瘍型であり,放射線治療と化学療法が欠かせない。手術による確定診断をまず考慮し,松果体原発のyolk sac tumorであれば全摘出を目指す。治療方針は概してembryonal carcinomaと同様であるが,治療効果は血中のAFPを測定することで的確に判断される。14,15,40 AFPの値が正常化しても,MRIで腫瘍サイズの縮小が見られないときには,teratomaとの混合腫瘍を疑うべきである。術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy)や術前照射を行って腫瘍サイズを縮小させてから,腫瘍の全摘出を行うという手段も有効である。15 現在,AFP産生腫瘍細胞は,HCG産生性のchoriocarcinomaやembryonal carcinomaと比べて,比較的高い放射線化学療法感受性を有すると考えられている。日本脳腫瘍統計による5年生存率は,3割程度と総じて予後は不良なものの,絨毛癌よりは治癒例の報告は多い。ただし,髄液播種で発症した例や播種が制御できなかった例では,患児は高率に死の転帰をたどる。
純粋なchoriocarcinomaは,胚細胞腫瘍の中で最も稀な腫瘍で,mixed germ cell tumorの一部像として見られることの方が多い。性差があり男児に多く発生し,約4分の3の症例が松果体原発腫瘍である。trophoblastに由来する悪性度の高い腫瘍であり,syncytiotrophoblastやcytotrophoblastが混合する異常な細胞増殖からなる。synchtiotrophoblastは,抗HCG抗体を用いる染色で濃染する。多くの核分裂像を含み,血管に富む易出血性の腫瘍であり,腫瘍内には新旧の出血巣が認められる。

図 9:視床下部に発生したchoriocarcinomaのMRI像。T1強調像では腫瘍内出血が高信号域として捉えられ(左側),T2強調像では視索から大脳基底核,中脳の腫瘍周辺浮腫が見られる(中央)。ガドリニウム増強像では,視床下部からトルコ鞍へ伸展する不均一な腫瘍部分増強を認める。悪性胚細胞腫瘍の特徴的なMRI像である。血清HCG-betaは20,000 mIU/mlを超える値であり,それのみでchoriocarcinomaといえるような典型例であった。

図 10:視床下部に発生したchoriocarcinomaの病理像(左からHE染色, HCG染色, PLAP染色)。腫瘍の大部分にHCG陽性細胞が認められるが,一部ではPLAP陽性のgerminoma細胞様の腫瘍細胞も散見される
性腺原発のchoriocarcinomaが脳転移を来す頻度は,脳原発choriocarcinomaの発生頻度を遙かに上回るため,女性でchoriocarcinomaの診断を得た場合には,原発腫瘍よりも転移性癌を考えた方がよい。逆に稀ではあるが, 脳原発choriocarcinomaのうち約1/3が肺に転移する。41腫瘍内出血で発症したり,あるいは出血で症状の悪化を見ることも多いのが特徴である。この場合には,脳卒様の急激な症状の悪化を呈する。他に視力視野障害や皮膚の色素沈着などみることもある。この腫瘍を有する患児では,血清中のHCGが極めて高値となるために,思春期早発症で発症した報告も散見されるが,これらはみな男児であるのが特徴といえる。42,43
検査所見で最も重要な点は,血清中あるいは髄液中のHCGとLHが極めて高値を示すことである。松谷等の調査では,choriocarcinoma4例の血清中HCGは平均10,715 ng/mlであり,2例の髄液中では平均577 ng/mlであった。CTとMRIにおいてもchoriocarcinomaの最も特徴的な所見は腫瘍内出血像である。すなわち,若年成人男性あるいは男児の松果体あるいは視床下部に発生した腫瘍で,腫瘍内出血を伴いHCGが1000 ng/ml以上の高値を認める場合には,choriocarcinomaを強く疑う。
脳原発choriocarcinomaに関しての放射線治療の有効性は立証されてはいないが,脳転移を来した性腺原発choriocarcinomaへの全脳照射効果は有効とされている。44化学療法は,cisplatin, carboplatin, etoposide, ifosfamide, bleomycineなどが用いられる。41,45,46) 純型の予後は不良で,生存例は症例報告として稀に記載される程度である。
mixed germ cell tumorsはteratomaに他の胚細胞腫瘍が混在する場合が多い。一つの胚細胞腫瘍に,germinoma, teratoma, choriocarcinoma embryonal carcinomaがすべて混在する例も報告されている。47) choriocarcinomaにembryonal carcinomaあるいはyolk sac tumorが混在する極めて悪性度の高い腫瘍は,10歳以下の小児の松果体に好発する。この場合,血中と髄液中のHCGとAFPの値は極めて高値となる。7,47,48
悪性度の高い胚細胞腫瘍に対する強力な補助療法は,患児に大きな精神的・身体的負担を与える。放射線治療による遅発性脳神経障害や化学療法に起因する原発性性腺機能低下症など避け得ない後遺障害を生じることもあろうが,生命予後を第一義に考慮して,完全緩解導入を目的とした密度の高い初期治療計画を立てるべきである。寛解が得られず進行したときあるいは再発を認めたときに有効な治療手段はない。salvage therapyとして,末梢血幹細胞移植を応用する大量化学療法も行われているが,たとえ再度の寛解を得られることはあっても治癒を期待できることはない。
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