小児脳幹部神経膠腫(脳幹部膠腫,脳幹部グリオーマ ) intrinsic brainstem gliomaについて

びまん性橋膠腫(グリオーマ) diffuse pontine gliomaのこと

  1. 脳幹部内部に発生する予後不良の小児腫瘍です
  2. 小児では3歳から7歳くらいの幼児に多いのですが,大人にもみられます
  3. 思春期以降や成人の脳幹部神経膠腫はここに書いてあることはあてはまりませんので読まないで下さい
  4. 脳幹部は脳の中でも最も重要な部位とされ,大脳からの神経線維が集中して走る部位ですし,呼吸中枢や意識の中枢があります
  5. 脳幹部は上の方から順に中脳,橋,延髄と呼ばれます
  6. この中でも多くは橋に発生するので,橋グリオーマと呼ばれることもあります
  7. 初期症状はふらついて歩くのが不安定になること(失調性歩行)が多いです
  8. 3ヶ月くらいでゆっくり進行して気づかれるものから、3週間くらいで急激にひどい症状になるものまであります
  9. 四肢の運動麻痺ばかりでなく顔がゆがむ(顔面神経麻痺)や眼の位置がおかしい(眼球運動障害)などの脳神経症状もでますが,小児は自分から症状を訴えることが少ないです
  10. MRIでは脳幹部(とくに橋)が腫れて大きくなります
  11. MRIのFLAIR(フレア)画像とかT2強調画像で,白くぼーっと滲んだように映ります
  12. 腫瘍の一部が造影剤で白く増強されることがありますが,この場合はやや悪性の所見を示します
  13. 末期になっても頭の中に水がたまる水頭症が起きにくいのも特徴です
  14. 摘出手術は脳幹部の重大な機能障害を生じるのでできませんし、手術しても何の意味もないことが多いです
  15. 開頭手術で少し取って病理診断をすると提案された時には,お子さんにとって何の利益になるのかはっきりした理由を聞いて下さい
  16. 脳幹部神経膠腫の病理組織は星細胞系腫瘍です
  17. 星細胞系腫瘍とは,びまん性星細胞腫,退形成性星細胞腫,膠芽腫をいいます
  18. まれに脳幹部に毛様細胞性星細胞腫神経節膠腫ができますがこれはまた別のものです,混同しないようにして下さい
  19. 手術で摘出できない部位であるために,MRIをみてから放射線治療が行われます
  20. 化学療法は効かないと思った方がいいですし,強くお勧めできるものはありません
  21. ニドランやカルボプラチンやビンクリスチンやエトポシドやテモゾロマイド(テモダール)などが使用されることもありますが、効くという証拠はありません
  22. テモゾロマイドという新しい抗がん剤はすでに試されていますが大きな期待はできません
  23. 多くの場合,放射線照射により一時的な腫瘍の縮小効果と症状の改善は得られますが,長期の治療効果はきわめて不良で再増大(再燃)します
  24. 一般的には50グレイから54グレイという放射線量が用いられますが,ちょっと多いかも
  25. 放射線治療を細かく分けてたくさんの回数で行うhyperfractionationという方法で高い線量(70グレイくらい)をかけようという試みがなされましたが利点はありませんでした
  26. 脳幹部の腫れが強くなって症状が悪化してきたときにはステロイド(リンデロン、デカドロン)を使うと一時的に症状が改善します
  27. 脳幹部膠腫の子供たちが1年くらいのうちに死亡する確率は50%程度ですし,小児の脳腫瘍の中でも死亡率が最も高い腫瘍です
  28. 2008年末の段階では特別な治療法というのはありませんから,できる限り自宅に近いところで治療を受けましょう,この病気の場合は遠方の経験数の多い施設へ移動するということはしない方がいいです
  29. びまん性橋膠腫とは違って,毛様細胞性星細胞腫は化学療法で小さくなりますし放射線治療が有効なことも多いです
  30. 小児と異なり成人の脳幹部神経膠腫(星細胞系腫瘍)では,長期生存例もあります,病理診断は同じでも生物学的には異なった特性を持つものでしょう
  31. 神経線維腫症の1型(NF-1)の患児にできる脳幹部膠腫は大きくならないので治療をしてはいけないので気をつけて下さい
  32. NF-1の患者さんは放射線治療を安易に受けてはいけません
  33. 毛様細胞性星細胞腫やNF-1に合併する脳幹部膠腫との鑑別診断は慎重にしていただきましょう

小児の典型的な脳幹部神経膠腫のMRIです。多くは脳幹部の橋というところを中心にして発生 (pontine glioma) し,上方の中脳や下方の延髄に浸潤して伸びていきます。この様な典型的なものでは手術をしなくてもMRIで確定診断がつくものですから,開頭手術は何の利益もありません。この画像は,MRIのT2強調画像と言います。ガドリニウムという造影剤を静脈注射してMRIをとると一部分で白く増強されることが多いです。腫瘍は大きいのですが,水頭症にならないのが特徴です。これでも症状は軽く,たいていの場合はこのくらいの大きさになってから発見されます。


小児脳幹部神経膠腫(びまん性橋グリオーマ)ではないかもしれない時というのは

何か典型的な橋グリオーマと違う時には開頭手術による生検術での病理組織診断が必要なときもあるかもしれません(でも結局,放射線化学療法しかないので利益がないかも)
症状が出てから腫瘍が発見されるまで6ヶ月以上経過しているときは,何かがちがうかもしれません
思春期以降のものでは長期生存がありますから,年齢が高い場合は違った治療と予後があるかもしれません
逆に,3歳未満でも予後が良好なことがあります
画像所見が典型的ではない時,でもこれは医師の画像診断能力よって大きく異なります
MRIで境界が極めて明瞭で,びまん性に見えない時で,T2/FLAIRで均一に高信号になる時
腫瘍全体(一部ではなく)がガドリニウムで均一に増強される時
腫瘍が橋内部から発生していても,ほとんど大部分(一部分ではない)が橋の外側に突出している時
では何が考えられるかというと,毛様細胞性星細胞腫,神経節膠腫,PNET,AT/RTなどです


小児びまん性脳幹部神経膠腫の病気の進行

放射線治療をすると大部分の患児で病気の進行がとまって症状が良くなります
この症状の改善は30グレイくらいの放射線が入ったところくらいで生じます
放射線治療を終了してから,また病気が悪化(再燃)してしまうまでの期間 (PFS, TTP) は,5ヶ月から9ヶ月くらいが目安です
生命を失ってしまうまでの期間(OS)は,中央値で7ヶ月とも16ヶ月とも記載されています
放射線治療が終了してから数ヶ月の期間しかないのですが,この時間を大切にしようというのが大部分の医師の考え方です


最新の情報(分子標的治療 nimotuzumab

この10年で,悪性神経膠腫(グリオーマ)が成長するために必用とする分子(サイトカインなどのタンパク質や受容体)がたくさん知られてきました。今までは実験室の中でのお話でしたが,現在ではたくさんの薬(化学療法剤や抗体)が実際の患者さんに使用されてきています。臨床試験の段階から薬剤として期待されてきているものもありますが,欧米でのお話であり,日本では治験も始まっていません。たとえば,EGFRという受容体 (ErbB1) の働きを抑えるnimotuzumabという抗体が,欧州では小児悪性神経膠腫(脳幹部神経膠腫)に期待を持たれましたがあまり良い結果は出ていないようです。しかし残念ながらいまのところ,国外から個人輸入してでも使って下さいと強くお勧めできる薬剤はありません。


最新の情報(テモダールの効果がない

Jalali R , et al.: Prospective evaluation of radiotherapy with concurrent and adjuvant temozolomide in children with newly diagnosed diffuse intrinsic pontine glioma. Int J Rad Oncol Biol Phys, 2009 (Epub)

すでに同様の結果の論文はあるのですが,同じことがまた確認されました。20人の子供が治療されたのですがテモゾロマイドの上乗せ効果はなく,放射線単独治療と比べて生命予後の改善はなかったとされました。でも詳しく読むと,1人の患者さんが病気の進行がなく4年以上生存しています。この患者さんがびまん性橋膠腫ではなくなにか他の腫瘍だったのかどうかは解りませんが,例外的に長期生存例があるのかもしれません。


最新の情報(3歳未満の脳幹部神経膠腫は予後が良いことがある,何か違う)

Broniscer A, et al.: Young age may predict a better outcome for children with diffuse pontine glioma. Cancer 113: 566-572, 2008

3歳に満たない10人のこどもの脳幹部神経膠腫 (diffuse pontine glioma)を調べた報告です。4人のこどもが亡くなって,6人のこどもが生存していたとの事です。 3年の時点で腫瘍が進行しないで生存していた(無増悪生存率)のは45%,全生存率は69%だったそうです。治療は,放射線のみ2例,放射線化学療法6例,化学療法のみ2例です。この生存率は,もう少し年齢が上の脳幹部神経膠腫より遥かにいいものです。書いた先生は,3歳未満の脳幹部神経膠腫は,通常のものとは生物学的になにか異なった腫瘍ではないかと考えています。

解説:一つだけ注意しておくことがあります。3歳未満の子供たちは骨の増殖速度が速いです。ですから,腫瘍が顕著に増大しても後頭窩の骨の拡大も早くて脳幹部の圧迫症状である意識や呼吸障害が出るのが遅いという例もあります。


最新の情報(分割回数を少なくして短期間の放射線治療

Janssens GO, et al.: The role of hypofractionation radiotherapy for diffuse intrinsic brainstem glioma in children: a pilot study. Int J Radiat Oncol Biol Phys (Epub) 2008

3歳から13歳まで,びまん性脳幹部グリオーマの9人が治療されました。3グレイを13回あるいは5.5グレイを6回で3週間で放射線治療を済ませようとする試みです。全ての患児で2週間以内に症状の改善が見られました。腫瘍の再増悪(progression)までの期間中央値は4.9ヶ月,全生存期間中央値(OS)は8.6ヶ月でした。

解説:著者が結論で書いているように,治療期間が短いというのがこの治療法の利点です。生命予後が短くどうしても命を救えないからこそ,短期間で治療を終えて,症状の改善の早い放射線治療が良いとしています。


最新の情報(モテキサフィン・ガドリニウムと放射線治療)

Bradley KA, et al.: Motexafin gadlinium and involved field radiation therapy for intrinsic pontine glioma of childhood: a Children's Oncology Group phase I study. Neuro Oncol 10: 752-758, 2008

44人の橋グリオーマの患児が,54グレイ/30分割の放射線治療とモタキサフィん・ガドリニウム (1.7-9.2mg/kg daily)で治療されました。副作用はグレード3から4の高血圧と肝障害でした。生存期間中央値は313日(10ヶ月)でした。

解説:この報告は臨床第1相試験といって新しい薬剤の有害事象(副作用)と使用量をみるためのものです。HIF1-alpha (hypoxia-inducible factor-1 alpha)という物質を抑制するMotexafinが放射線治療の効果を上げるかもしれないという考えからの試験です。でもあまり期待できないと思われます。


最新の情報(ビンクリスチンとエトポシド化学療法

Korones DN, et al.: Treatment of children with diffuse intrinsic brainstem glioma with radiotherapy, vincristine and oral VP-16: a Children's Oncology Group phase II study. Pediatr Blood Cancer, 20: 227-230, 2008

3歳から14歳まで,びまん性橋内部グリオーマの30人が治療されました。54グレイを上限とする放射線治療と同時に,ビンクリスチンを1日目,8日目,15日目に静脈注射,エトポシドを1日目から21日目まで続けて服用する化学療法が2コース行なわれました。放射線治療が終わってからは10コースまで続けられました。7人の患児で奏効(PR)して,18人の患児では不変(SD)で,2人では進行(PD)しました。結果的に30人が命を失って,1年生存割合は27%,2年生存割合は3%でした。生存期間中央値は9ヶ月でした。結論として,この化学療法は生存期間を延長できないし,また血液毒生や嘔気や感染などの有害事象(副作用)が生じたと書かれています。

解説:化学療法を放射線治療に加えても副作用がでるのみで何もならないと言うことがまた確認されたという印象です。


2005年5月の国際脳腫瘍学会

シスプラチン,ロムスチン,メトトレキセート,ハイドロキシウレアの併用化学療法の結果が発表されました。化学療法を先に行っておいて放射線治療は症状の悪化などの時に使われました。生存期間はわずかに延長するのですが,腫瘍が治る率は変わりませんでした。また化学療法を行うために入院期間の延長があり,もともと非常に予後が短い患児が自宅に帰る期間が短くなります。

テモダールの効果は期待できない

Broniscer A, et al: Role of temozolomide after radiotherapy for newly diagnosed diffuse brainstem glioma in children: results of a multiinstitutional study (SJHG-98). Cancer 103:133-139, 2005

初発例のびまん性脳幹部膠腫29例(年齢中央値6歳)に対し放射線治療後に同様なテモゾロマイドの投与(200mg/m2を5日間連続投与)を行った報告では,生存期間中央値12ヶ月で全例が死亡し脳幹部神経膠腫の予後を改善することはできないとされました。

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