AT/RT (atypical teratoid/rhabdoid tumor) 非定型奇形腫様/ラブドイド腫瘍について
- AT/RTは日本語の適切な訳がありませんから,そのままAT/RT(エーティーアールティー)と呼ばれます
- 乳児や幼児にできる腫瘍で3歳未満に多いです
- 胎児期の細胞から発生すると考えられています
- 小脳に多いのですが大脳にも発生する腫瘍です
- 症状や画像などが似ているために髄芽腫と誤診されることがあります
- 頭蓋内圧亢進症状という頭痛や嘔吐,意識障害(反応がにぶい)で発症することが多いです
- 発症した時にはすでに巨大な腫瘍になっていることが多いです
- 髄液にのって脳の他の部分や脊髄に転移(髄液播種)します
- 診断はMRIでしますが,最初から必ず脊髄の方も調べなければなりません
- 3から4割で診断時にすでに播種が生じています
- 残念ながら小児脳腫瘍の中では最も悪性度が高くて治療も難しいものです
- 多くの子供たちが発症から1年以内で亡くなります
- 世界的にも確立された治療方法(標準治療)はありません
- まず手術でできるだけとりますが,とり切れた時に助かる可能性がでます
- 手術で取り切れたと思ってもあっという間に再発(再燃)することがありますから,化学療法や放射線治療を急ぎます
- 化学療法といっても大量の制がん剤をつかうものです
- 化学療法のしかたとしてはIRS-IIIという方法に準じたものが期待されているようです
- 放射線治療ができた例で長期生存が報告されていますが,低年齢なので放射線障害も大きくでます
- 3歳未満の子供たちにはできれば放射線治療をしないで化学療法だけで治療するという選択肢もあります
- でもそれでは助からないことも多いので,診断時に播種がない例では,3歳未満の低年齢も含めて局所照射54グレイを選ぶこともあります
- 乳幼児を含めて長期生存例ではup-front radiation therapy(放射線治療からはじめる)がなされていたという最近の報告は見逃せません
AT/RTの最新の情報
Tekautz TM, et al.: Atypical teratoid/rhabdoid tumors (ATRT): improved survival in children 3 years of age and older with radiation therapy and high-dose alkylator-based chemotherapy. J Clin Oncol 23: 1491-1499, 2009
2009年のJ Clin Oncolという権威のある雑誌に載った論文です。 31例中22例が3歳未満であり,全員が手術摘出を受けて30人が化学療法を受けました。2年全生存割合は3歳未満で17%,3歳以上では89%と大きな差があったとのことです。3歳以上の患児では術後放射線治療と大量のアルキル化剤の投与で治る可能性があると書かれています。また小数例ですがICE化学療法 (ifosfamide, carboplatin, etoposide) が有効であったとのことです。一方,多くの患児が3歳未満で発症しますが,その年齢層で2年の時点での死亡割合は8割を超えると理解しなければなりません。また3歳未満の例では化学療法の最中に腫瘍再燃(増大進行)してしまうし,診断からの無増悪期間中央値は4ヶ月にしかならず,現時点では有効な化学療法のレジメンは見あたらないと考察されています。長期生存例では乳幼児も含めてup-front radiation therapyがされているとのことです。
AT/RTの最新の情報
Chi SN, et al.: Intensive multimodality treatment for children with newly diagnosed CNS atypical teratoid rhabdoid tumor. J Clin Oncol 27: 385-389, 2009
下に書いてあるChiという先生の学会発表の結果が論文になったものです。2004年から2006年まで25例のAT/RTの子供が治療されて20人結果がまとめられています。年齢中央値は2歳2ヶ月,14例 (70%) では播種がなく,11例で全摘手術がされました。15人が放射線治療を受けていますが,年齢と播種があるかないかで放射線治療が選択され,局所照射54グレイ(11人)のみか脳脊髄照射36グレイ(4人)が加えられています。2年無増悪生存割合は53%で,全生存割合は70%でした。照射前化学療法はmodified IRS-III regimenが使用され,その後にchemoradiation induction, postradiation induction, maintenance, continuation, intrathecal therapyなどの複雑な治療法が組まれていますので原著を読まなければ解りません。 評価可能であった12例の照射前化学療法の有効性 (objective response) は58%でした。この論文を詳しく読むと半数近くの子供で治る可能性がある治療ができたということになります。
AT/RTの学会発表
Results from a single-arm multiinstitutional study of multiagent intrathecal and systemic chemotherapy with age- and risk-adjusted radiation therapy for childern with newly diagnosed CNS atypical teratoid./rhabdoid tumor (DFCI 02-294). Chi S, et al. ISPNO 2008, Chicago
2004年から2007年にmodified IRS-III regimenという方法で治療された22人の患児の報告です。とても大まかには,6週間の導入化学療法の後で,放射線治療(化学療法併用)がされて,さらに地固め科学療法が6週間,維持化学療法が 26週間,追加の化学療法をさらに6週間する方法です。制がん剤の髄腔内投与も行われました。転移のない例(M0)では局所照射confomal RTを54グレイしてます。3歳以上で転移(播種)のある例では36グレイの脳脊髄照射がされています。年令の中央値は2.5歳,テント上が12例で,テント下が10例でした。半分の患児でおよその全摘出がなされています。16例(73%)で転移がないM0というstageでした。予定の治療がすべて完遂できたのは22人中の12人であり,放射線治療を受けたのは17人でした。放射線前の化学療法奏功率(CR+PR)は62%という高い数字です。2年の時点での無増悪生存割合は48%で,全生存割合は67%でした。化学療法の副作用は当然強いもので,化学療法死が1例あったとのことです。
この報告をみる限り,ほとんど救うことのできないとされたAT/RTの子供たちにも生存の機会はあると思えます。
AT/RTの学会発表
CNS ATYPICAL TERATOID RHABDOID TUMOR (ATRT) IN CHILDREN LESS THAN 36 MONTHS: A CANADIAN PEDIATRIC BRAIN TUMOR CONSORTIUM (CPBTC) EXPERIENCE. Lafay-Cousin L, et al. ISPNO 2008, Chicago
カナダでの調査です。3歳以下の脳腫瘍の子供531人のうちの24人(4.5%)がAT/RTでした。平均診断時年令は12.6ヶ月です。テント上が33%,テント下が58%, 脊髄が8%です。24人中の10人(42%)で診断時からすでに播種転移がありました。8人が手術だけ,7人が化学療法のみを受け,9人が放射線化学療法を受けています。腫瘍が治まっていた無増悪生存期間中央値は9ヶ月,外科手術のあとで追加治療を受けた16人の生存期間中央値は16ヶ月でした。1年生存割合50%,2年生存割合は19%です。90%以上の切除を受けた子供の生存期間がながかったようですが,放射線治療と大量化学療法は予後に寄与しなかったとしています。結果的に3人の子供が生存していて,その生存期間は,20, 21, 78ヶ月だそうで,これらの子供は90%以上の切除がされて,1例は放射線治療を受けて,2例は大量化学療法を受けていました。
AT/RTの学会発表
German pediatric atypical teratoid/thabdoid tumors: Interim analysis of the ATRT-CNS study and retrospecitve analysis. Peters O, et al. ISPNO 2008, Chicago
ドイツからの19症例の治療報告です。1例で完全摘出,5例で亜全摘,9例で部分摘出,4例で生検術がなされました。手術後に,2コースの導入化学療法(doxorubicin, dactinomycin, cisplatin, vincristine, methotrexate)を行った後に,54Gyの局所照射とcarboplatinの併用がされ,さらに最初の化学療法とおなじものが1コース投与されました。 地固め療法として6コースのCCNU, cisplatin, vincristine, methotrexate)が追加されています。無増悪および全生存割合は79%であり,生存期間の平均値は50ヶ月と報告されました。 最初の2コースの化学療法の奏功率は,1 continued complete response, 2 complete response, 13 partial response, 3 stable diseaseとかなり高いものです。有害事象の際立ったものは粘膜障害と感染症であったと記録されていますが,目立った脳脊髄障害は報告がなかったということです。結論として,AT/RTは化学療法に感受性のある腫瘍であるが,化学療法の有害事象はかなり強いとされています。
AT/RTの参考文献
Squire SE, et al. Atypical teratoid/rhabdoid tumor: the controversy behind radiaiton therapy. J Neurooncol 81: 97-111, 2007
この論文を呼んでみて下さい。とても良くまとまっています。
- AT/RTは小児脳腫瘍の2-3%
- 髄芽腫に応用される治療では治らない
- 手術摘出と化学療法のみではかなりの例で局所再燃が生じている
- 長期生存例は,初期治療に大量化学療法と放射線治療を応用した時に期待できる
- vimentin, EMA, SMAの陽性率が高い
- 第22染色体22q11 の異常が高率にある
- complete resectionがoverall survivalに有意に影響する
- Intergroup Rhabdomyosarcoma III Study (IRS-III) のガイドラインで治療され長期生存した例が散見される
- high-dose platinum-based or alkylator-based chmotherapyが応用されることが多い
- 放射線治療の基本的役割は局所再発を防ぐことであるが,脳脊髄照射をとりいれるregimenが多い
- 診断後,3歳未満の低年齢児であろうともできれば早期の放射線治療が必要であろう
- 低年齢児のために局所放射線治療に止めざるを得ないという考え方もある
- 再発の1/3から1/2は髄液播種である
- 腫瘍床には50-55Gy程度,脳脊髄には23-30Gyを用いることが多い
- photon-IMRTの有用性はわからない
- radiosurgery (SRS) で局所を治療できれば有効であろう
AT/RTのその他の知識
- AT/RTの生存期間中央値は1年前後
- INI1(rhabdoid suppressor gene, SMARCB1)のgerm line mutationがあると,腎臓や脳にrhabdoid tumorが多発することがある(rhabdoid predisposition syndrome)
- INI1遺伝子欠損は免疫組織染色でみることができるし,nuclear INI1 proteinのnegative staining (lack of INI1 expression)はAT/RTの診断にかなり有効な手段
