久保田佳奈子の症例と病理教室
血管芽腫 hemangioblastomaについて
小脳症状で発症した40代男性の症例

真偽のほどは解りませんが頭の中で血液が流れる音がするというのが主訴です。その後に軽度の歩行失調と構語障害が出て発見されました。この程度のものでもAVMと同じように血管雑音を自覚することがあるのかもしれません。画像をよく見ると右の小脳扁桃のもので,延髄はただ圧迫されているだけです。血管芽腫はエリスロポエチンを産生して多血症になることがあるのですが,この患者さんは16.6 MIU/mlで正常値でした。

右のPICAが主たるfeeding arteryです。でもPICAのretromedullary segmentからshort feedersが流入していますから,油断をすると延髄背側障害という厳しい手術合併症を生じる可能性は十分あります。この腫瘍は正中後頭下開頭で全摘出できましたし,神経脱落症状を残していません。難易度は中等度のものです。
術直後のMRIです。
上記の症例の病理所見

弱拡では多数の血管が腫瘍の中に見られる,赤血球を含む大小の血管腔で構成される腫瘍である。

間質に増殖する淡桃色の胞体や空胞が豊かなstromal cells,この部分はcellular variantと呼ばれる。stromal cellでは,VEGF(血管内皮増殖因子)とVHL protein(フォンヒッペルリンドー病関連蛋白)が染まるので,この腫瘍細胞が激しい血管増殖を促していると考えられる。

毛細血管の増殖を主とするreticular variantと呼称される部分もある。大きな血管芽腫ではcellular variantとreticular variantが混在してあるのが通常である。
フォンヒッペルリンドー病と血管芽腫の発生


フォンヒッペルリンドー病に合併した大きな右小脳半球血管芽腫です。大きなものでは静脈環流障害(鬱滞)のために脳浮腫を来すことが多いし,その分,手術時の静脈圧が高くて止血が難しいと考えなければなりません。水頭症を呈して症状は重篤でしたが,右後頭窩開頭で比較的簡単に全摘出できて回復しました。小脳半球に生じるものは手術で大きな障害を残すことはほとんどなく術後の症状症状の回復も順調なことが多いです。



同じ患者さんです。上記の手術の5年後に新たな血管芽腫が激しく増大しました。これは小脳虫部なので両側の上小脳動脈がfeeding arteryとなります。bilateral occipital transtentorial approachという特殊な手術方法でしか摘出できません。幸いこの腫瘍も無事に全摘出できました。
VHLの患者さんはこうなる前にもう少し頻回に脳のMRIをして慎重に経過観察をしなければなりません。少なくとも2年に一度のMRIは必要です。逆に,stuttering patternがあり,増大傾向を示しても増大停止することがあるので,手術するかどうかの判断は頻回にMRIをして慎重にしなければなりません。VHLの患者さんはとても多数回の手術を受けるのでどうしてもしなければならない時だけ手術摘出をします。
