テモゾロマイド(テモダール・テモゾロミド)temozolomide (商品名 Temodal) について

  1. 口から飲む経口剤という制がん剤でカプセルに入っています,飲めない患者さんには注射でも投与できるようになりました
  2. 適応症は悪性神経膠腫(悪性グリオーマ)です
  3. 悪性神経膠腫の定義は広いですし,膠芽腫,退形成性星細胞腫,退形成性乏突起膠腫などに加えて,髄芽腫,上衣腫,PNET,脳幹部神経膠腫なども含まれます
  4. 欧米では膠芽腫と退形成性星細胞腫だけに認可されていて,それらの腫瘍には標準的治療薬とされています
  5. 例えば膠芽腫には2とおりの方法で使われます
  6. 一つ目は主に入院で,放射線治療期間中に照射の前の日に毎日飲む方法で,1日に体表面積あたり75mg (75mg/m2)使います
  7. 2つ目は主に外来で,維持療法といって28日(4週間)に5日間だけ飲む方法で,1日に体表面積あたり100から200mg (100-200mg/m2)使います
  8. 空腹時に飲むのが原則なので,お腹いっぱいの時には飲まないようにしましょう
  9. 患者さんが元気であれば働きながら飲んで行くこともできます
  10. 維持療法はだいたい月に1回で6ヶ月とか2年間とか続ける方法です
  11. 有効性は後ろの方に書いてありますので読んで下さい
  12. 副作用(有害事象)は全般的にとても軽いと評価していいでしょう
  13. 軽い骨髄抑制(白血球や血小板の減少),吐き気と嘔吐,便秘,頭痛,体のだるさや頭痛などです
  14. 吐き気はテモゾロマイドを飲む前に吐き気止め(ナゼア,カイトリル,ゾフランなど)を飲んでおくと抑えられます
  15. 白血球(好中球)の減少は血液検査で見て行きますが,あまり強くでると感染症や出血の危険があるものです
  16. リンパ球減少というのに特に注意した方がいいです
  17. 骨髄抑制の強いときには間質性肺炎ニューモシスティス・ジロヴェチ肺炎(カリニ肺炎とはいいません)という重篤な感染症が生じることがありますから,予防的に抗菌剤(バクタ,ST合剤)を飲むか,ベナンバックスの吸入を定期的にします
  18. この肺炎はステロイド投与をたくさん受けている時,リンパ球の数や機能が低下した時に最も注意です
  19. B型肝炎が悪化して重症化することがありますから,肝炎ウィルスを保有しているかどうかを検査してからテモダールの投与を受けます
  20. テモダールの使用が長期間になると副作用は強くなってきますから飲む量の調整が必要になります


テモダールの飲みかた

テモダールはpH 7.4以上のアルカリ性になると効果が無くなってしまう薬です。空腹時は胃の中は強い産生ですが,胃の中に食物が入っている状態でこの薬を飲むと薬の効果が落ちます。ですから,空腹時に飲まなければならない薬剤です。夜寝る前だと飲みやすいと思います。
カプセルを飲めない小児には,脱カプセルといってカプセルをはずして薬を取り出して飲ませる方法があります。でもこれは抗がん剤に触れることになるので当然お医者さんと相談してどうするか決めます。でもそれしか方法の無い小さな子どもでは工夫して脱カプセルをしなければなりません。カプセルから取り出した薬はリンゴジュース(酸性)か何かに溶かして飲ませます。ポカリスエットなどでもいいですが,アルカリ性の飲料は避けなければなりません。


テモゾロマイドの悪性グリオーマへの効果について

New England Journal of Medicineというとても権威の高い雑誌に膠芽腫へのテモダールの効果が発表されました。

Stupp R, et al. : Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma. N Engl J Med. 2005, 352: 987-996, Hegi M, et al.: MGMT gene silencing and benefit from temozolomide in glioblastoma. N Engl J Med. 2005, 352: 997-1003

ヨーロッパとカナダで行われた臨床試験の結果です。573人の患者さんは放射線治療(60グレイ)のみと放射線治療(60グレイ)とテモゾロマイドを併用する群に振り分けられて治療されました。テモゾロマイドはまず75mg/m2の量を放射線治療中に毎日飲むという方法で投与されています。それから150-200mg/m2(5日間服用,28日周期)を1コースとして6コースまで追加します。

追跡期間中央値28ヶ月の時点での全生存期間中央値は,放射線治療単独群が12.1ヶ月であったのに対して,テモゾロマイドを併用した群では14.6ヶ月でした。ちょっと寂しいのですが,テモゾロマイドを併用すると2.5ヶ月の生存期間の延長が得られています。放射線とテモゾロマイドの併用群での2年生存割合は26.5%で,放射線治療単独群では10.4%でした。

副作用としては7%の患者さんにグレード3-4の血液毒性が見られていますが,これはとても軽いものと評価できます。

膠芽腫の腫瘍細胞の中にMGMTという遺伝子があります。この遺伝子は化学療法の効果を消してしまう働きをするということで知られていました。MGMTという遺伝子のプロモーターの部分にメチル化がある膠芽腫をもつ患者さんの方が生命予後がよいことが判りました。プロモーターのメチル化がある膠芽腫に,放射線治療とテモゾロマイドを使った治療をすると,全生存期間の中央値は21.7ヶ月であったとのことです。ところがメチル化がないとテモゾロマイドを追加してもはっきりした効果がないようであるとも書かれています。この事実は,メチル化を調べることによってテモゾロマイドを投与した方が良いかどうかがあらかじめ判るということを示しています。

この2つの論文は,グレード3と4の星細胞系腫瘍(退形成性星細胞腫と膠芽腫)に対して,放射線治療とテモゾロマイドの併用が世界的な標準的治療として用いられるようになるというインパクトを与えました。もちろんテモゾロマイドの服用で得られる効果は大きなものではなくて,この2つの腫瘍型の死亡率がとても高いという事実を覆すものではありません。しかし,この30年くらいの間にほとんど何の進歩もなかった悪性星細胞腫の化学療法に大きな転機をもたらした臨床研究には違いありません。メチル化があるかないかを調べる方法は難しいので,一般化されるのはまだ将来のことになります。


テモゾロマイドの使用方法の方向性

Wick W, et al.: New (alternative) temozolomide regimens for the treatment of glioma. Neuro-Oncol 11: 69-78, 2008

5/28 days regimen : 200mg/m2/day, dose intensity 1000mg/m2/28 days
daily regimen : 75mg/m2/day, dose intensity 1575mg/m2/28 days
10/28 days regimen : 150mg/m2/day, dose intensity 1500mg/m2/28 days
14/28 days regimen : 150mg/m2/day, dose intensity 2100mg/m2/28 days
21/28 days regimen : 100mg/m2/day, dose intensity 2100mg/m2/28 days

最近はテモゾロマイドの使用量を増やす投与法が試みられています。少量分割投与で,総投与量を増加させるという方向です。これは腫瘍細胞の中のMGMTという酵素を減少させるためにはテモゾロマイドを続けて投与した方がいいし,そうすればテモゾロマイドの抗腫瘍効果が上がるという推論に基づいたものです。確実な根拠となるデータはまだありません。


小児の悪性グリオーマへの効果について

 第1染色体短腕に欠失がある退形成性乏突起膠腫(grade 3)と退形成性乏突起星細胞腫(grade 3)に対するPCV(プロカルバジン,ロムスチン,ビンクリスチン)化学療法はとても有名な治療方法ですが,星細胞腫には効きません。小児の星細胞系腫瘍には有効な制がん剤はないといっても言い過ぎではない時代が続きました。

 最近開発されたテモゾロマイドは第2世代の経口アルキル化剤で,成人の退形成性星細胞腫と膠芽腫に対して有効性が認められていますから,小児の悪性神経膠腫の治療にも期待が持たれています。小児の星細胞系腫瘍では成人と同様に放射線治療期間中に75-90mg/m2を42日間連続投与して用いる方法が検討されていますが,現時点では明らかな有効性を示唆する報告はいまだ見られません。

 小児の治療抵抗性悪性神経膠腫と脳幹部神経膠腫に対する第2相試験が欧州で行われました。200mg/m2を5日間連続投与したものですが,残念ながら登録された55例においての客観的な奏効率は極めて低く有効性は認められないと結論されました。さらに初発例のびまん性脳幹部膠腫29例(年齢中央値6歳)に対し放射線治療後に同様なテモゾロマイドの投与を行った報告では,生存期間中央値12ヶ月で全例が死亡して,テモゾロマイドが脳幹部神経膠腫の予後を改善することはないとされました。

 ちなみに,成人例では第1染色体短腕欠失を認める乏突起膠腫と乏突起星細胞腫(grade 2)にテモゾロマイドの非常に高い有効性が報告され,PCV化学療法に代用し得る薬剤であるとされています。小児においても乏突起膠腫系腫瘍はテモゾロマイドに反応する神経膠腫であるのかもしれません。

  おそらく,毛様細胞性星細胞腫の第2あるいは第3選択肢として,再発胚細胞腫瘍の維持化学療法として,髄芽腫やPNETの維持化学療法としてなどで使用できるのではないかと考えています。しかし,科学的な根拠はまだありませんし,どのような小児のグリオーマに有効なのかはこれからの臨床研究を待たなければなりません。


テモダールの副作用

テモゾロマイドで生じる有害事象の最も有名なのがニューモシスティス・ジロヴェチ肺炎で,この肺炎の死亡率が高いので予防的に抗菌剤を服用します。
これとは別にテモゾロマイドは,リンパ球の数を減らしたりリンパ球の活性(機能)を抑えたりします。リンパ球はウィルスから体を守る働きをしていますから,テモダールはウィルス性疾患を悪化させることがあります。例えばB型肝炎ウィルスをもっている人(不顕性感染者とB型肝炎の後で治った人)では,B型肝炎が悪化(再燃)して重症化することがあります。ですからテモダールを飲む前にB型肝炎ウィルスをもっているかどうかの血液検査 (HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体) をして,感染者ではこれを予防するためにバラクルード(核酸系逆転写酵素阻害薬エンテカビル)を飲んだほうがいいです。

Grewal J et al: Fatal reactivation of hepatitis B with temozolomide. N Engl J Med 356:1591-1592, 2007


テモダールの晩期有害事象

テモゾロマイドはアルキル化剤と呼ばれる仲間の制がん剤です。遺伝子に作用する薬ですからそれ自体で発がん性をもっています。そのためにテモゾロマイドを服用して数ヶ月から数年後に急性白血病 treatment-related acute leukemiaになったという報告があります。ほんとの白血病になる前には骨髄異形成 myelodysplasiaという状態になります,これは血液検査をすると異常値が出るので発見できます。とても稀ですし,テモダールを服用しないと治らない神経膠腫グリオーマがあるのですから,この確率が低い将来の心配をしない方がいいです。


テモダールの値段

20mgが1カプセルで3,345円,100mgが1カプセルで16,746円します
体表面積が1.5m2の成人で維持療法に使えば,1日あたり300mgになりますから5万円くらい,月に5日間飲むとして25万円です
医療費が3割負担の患者さんでは,テモダールの薬剤費だけで月に7万5千円の自己負担がかかることになります
その他に受診費用とか検査料金とか他の薬代が加算されてきます
高額医療制度というのがあって月にある程度額以上の医療費の自己負担が生じた場合には患者さんの自己負担が軽減されますから,手術や放射線治療を受ける入院中は高額医療になってしまうのでこの値段はあまり気にしなくていいでしょう
問題は退院してから外来で維持療法を受けることを勧められたときの毎月の自己負担額です

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