
転移性脳腫瘍
metastatic brain tumors
大事なこと
- 脳転移の多くは定位的放射線外科治療(ラジオサージェリー)で治療できますし治療成績も良いので,手術よりも放射線外科治療(リニアックメス,ガンマナイフ,ノバリス,サイバーナイフ,トモテラピーなど)が優先されるようになってきました
- 放射線外科治療ができない大きなものだけを脳外科で手術します
- 転移性脳腫瘍の大きさが 3 cmくらいが,放射線治療と外科手術の境界線です
- 放射線外科治療の入院は1日とか3日とかの短期間で済みますが,手術となると最低でも2週間くらいでしょう
- 転移の数が多いと全脳照射といって脳全体に照射をすることもありますが,これは分割照射を利用しますからガンマナイフではできません
- 脳転移が生じてしまった患者さんの予後は一般的には不良です
- でも,乳がんや肺がんの多発脳転移でも,治ってしまって10年以上元気な人もいます
- 化学療法は原発巣の組織で決まりますから,脳外科ではしません
- 内科,外科,放射線科,脳外科などのチーム医療で診ていただきましょう
- できれば地域のがんセンターや癌をたくさん扱う病院へ行くべきです
- 最低限でも放射線治療の設備が整っている病院で治療を受けましょう
- 今は,癌をもった患者さんに脳転移が起こっても,治療をあきらめる時代ではありません
1. 病因
- 体のどこかに癌ができて,それが脳へ転移したものを転移性脳腫瘍(脳転移)といいます。
- 原発巣(最初に癌ができた場所)としては,肺癌が約50%くらいで,次いで乳癌,胃癌,頭頸部癌,結腸癌,子宮癌の順となります
- 転移は脳のどの場所へも起こります
- 原発巣になにも症状がなくても,脳転移が最初に症状を出すことがあります
- 特に肺癌では脳転移が見つかってから,原発巣を探してみると肺に癌あったということがあります
- 精度の高いMRI検査をすると,単発(一つだけの転移)よりも多発性のもののほうが多いです
- 転移の場所としては,大脳の皮質と白質の境界部にできることが多いです
- 嚢胞(水たまりの袋みたいなのもの)を伴うものを嚢胞性腫瘍といいますが、これは腺癌の転移に多いものです
- 転移性脳腫瘍のまわりの脳には脳浮腫(脳のはれ)を生じることが多いですし,これが症状を出していることがあります
- 癌細胞は周囲の脳組織に浸潤していますから手術だけで完全にとりきれるチャンスは少ないです
- 病理所見では,脳の小血管周囲あるいはくも膜下腔に沿ったがん細胞の浸潤をみることが多いです
- 特殊な転移として,とても稀なのですが癌性髄膜炎(脳脊髄の至る所にがん細胞が広がる)というものがあります
- これは,がん細胞が脳脊髄のくも膜下腔に広がって増殖するもので,水頭症を併発します
- 乳がんなどでは,治ったと思って10年くらい経った後に脳転移が生じて再発することもありますが,これは治すことができる再発ですからあきらめない
2. 症状・経過
- 転移性能腫瘍のできた場所に応じて,さまざまな局所神経症状が出ます
- 麻痺,ふらつき,失語症,複視などなんでも起こります
- もしく脳浮腫による頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状がでます
- 症状は数週間の期間に進行する場合が多いです
- てんかん発作(けいれん発作)で発症する例もあります
- 嘔吐などが強くなって放置すれば脳ヘルニアを起こして意識障害が生じます
- 腫瘍の内部で出血を起こして急激に症状が進行することもあります
- 頭蓋底部に病変が存在すれば,複数の脳神経を侵して多発性脳神経麻痺を起こしてくることもあります
- 癌性髄膜炎では頭痛や嘔吐などの髄膜刺激症状を認めます
3. 検査と診断
- MRIは非常に小さな転移巣も発見することができます
- 治療方針を決めるために正確な数を把握しようとするときにはMRIは絶対必要です
- MRIで転移性脳腫瘍は,低信号から高信号を示すものまでいろいろです
- ガドリニウム造影剤で増強されてくっきり写ります
- 腫瘍中心壊死のためリング状に増強されると膠芽腫との鑑別が難しいことがあります
- 周辺脳浮腫(腫瘍の周囲の脳が腫れている)が特徴です
- シンチやペットPETを使って診断すると脳転移が見つかることも多いです
- 癌の患者さんが急速に神経症状や頭痛・嘔吐などを生じたときにはまず脳転移を疑います
- 逆に転移性脳腫瘍が先に診断されて原発巣の検査をすることも多いです
- 癌性髄膜炎では水頭症がみられ,脳脊髄髄液の細胞診が必要です
- 癌患者さんでゆっくり進行する変わった脳症状が出て,脳転移巣がみられない場合には,進行性多巣性白質脳症 PML や,傍腫瘍性症候群 paraneoplastic syndromeとしての亜急性小脳変性症や辺縁系脳炎 limbic encephalitisの可能性も考えなければなりません
4. 治療・予後
- 残念ながら癌からの治癒を期待することは難しいこともあります
- ですから脳転移の治療は基本的に寛解導入あるいは緩和療法となることもあります
- 脳転移を生じたがん患者さんの平均余命は半年くらいですが,逆に今はたくさんの患者さんが脳転移から助かることがあるのであきらめてはいけません
- 脳転移だけなら十分にコントロールできることが多いのです
- 転移性脳腫瘍に対する放射線外科の治療成績は注目すべきものがあります
- 一回照射による放射線外科の腫瘍局所制御率は80%を越えます
- 3個以内の多発転移例であれば放射線外科にて寛解を得られる症例は多いです
- しかし,大きさはおよそ2.5-3 cm以下に限られます
- 逆に,大きな単発転移であり患者さんの状態が良好,かつ数カ月以上の生命予後が期待できれば,外科摘出術の適応となります
- 多発であっても手術で有意な生存期間を明らかに延長できると確信できれば摘出することもあります
- しかし摘出術のみでの局所コントロールは不可能ですから,手術適応の決定はきわめて慎重でなければなりません
- 原発巣が根治不能の多発脳転移では,対症的治療として副腎皮質ステロイドやグリセロールを投与して脳浮腫を治療します
- 多発転移の場合は,原則的に全脳照射という脳の全部の領域に放射線を当てるのが標準治療と言えます
- しかし,全脳照射は生命予後の短い患者さんの入院を長期化させます
- さらに正常脳に対する障害(認知症の発生)も強いので,できれば全脳照射は避けた方がいいと考えています
- 化学療法は原発巣の組織型によってさまざまな選択になります
- たとえば腎癌の脳転移ではインターフェロンが効きます
- 全体での生存期間中央値は6か月に満たないので,とても予後が悪いと明らかに予想される患者さんに対する脳神経外科での過度の積極的治療は避けられるべきです
