髄膜腫 meningioma について

髄膜腫は脳腫瘍のなかでは最も多くみられる良性の腫瘍です。特徴は、

  1. たまたま頭をぶつけた時などに,頭部CTスキャンやMRIをとって偶然に見つかることが多いのですが,この無症候性髄膜種は最近たくさん発見されるようになってきました
  2. 症状のない大部分の髄膜種は治療の必要はなくてほっておいていいものです
  3. 脳ドックで見つかっても脳腫瘍だとびっくりしないで安易に手術を受けないことにしましょう
  4. 下のMRIは66歳の女性に脳ドックで偶然見つかった髄膜腫です.左の写真は1995年,右は2005年です。10年間で全く大きくなっていません

    髄膜腫1995年 髄膜腫2005年

  5. 髄膜腫は脳を包んでいる髄膜という膜から発生する良性腫瘍で脳の表面にできます
  6. 中年以降の女性に比較的に多いです
  7. 脳の外側の膜(髄膜)に発生するため、非常に大きくならないと症状がでづらいものです
  8. 大きくなると脳を圧迫して、頭痛,運動麻痺,けいれんなどをおこしますが、なかにはとても大きいものでも軽い症状で経過するものもあります
  9. 診断はCTやMRIという簡単な検査でかなり正確にできます
  10. 経過を見ていると,ゆっくりと大きくなることもあるけど,大きくならないことも多いのです(このはっきりした確率は不明です)
  11. 特にお年寄りの髄膜種のなかには全く大きくならない場合も多いので様子をみます
  12. 他の場所へは転移しないし良性の経過をとります
  13. 一方若い人では、たとえ小さくても慎重に経過を観察した方がよいでしょう
  14. 周辺の脳が腫れる脳浮腫というのを明らかに伴っているのは症状がなくても手術で摘出した方がいい場合もあります
  15. 症状が悪化しそうな腫瘍は手術でとる必要がありますが,完全にとってしまえば治る病気で再発の心配はいりません
  16. それぞれの脳神経外科医によってかなり考え方が違いますので,不安ならば手術を受けるかどうかはセカンドオピニオンを聞いてから決めましょう
  17. 髄膜腫は脳の中にできる腫瘍と違って脳を切らなくてもとることができますので,慎重な手術さえすれば予後は悪いものではありません
  18. 脳外科研修医の先生でも手術できる簡単なものから,ベテランがしても命が懸かるようなものまであります
  19. 頭蓋底の奥ににできたときや周りの神経や血管との癒着が強い場合は、完全に摘りきれない場合がありますし,その場合は数年~10年後に再手術となることもあります
  20. 手術の前の脳血管撮影 (DSA) は多くの症例で必要ありません
  21. 薬(制がん剤)は効きませんが,放射線治療は有効といえます
  22. 摘出不能な場所にできたものには定位放射線治療(リニアック、ガンマナイフ,サイバーナイフ,ノバリス)が使われるようになってきました
  23. 悪性の経過をたどるの髄膜腫は2%程ですが,グレード2髄膜腫は再発しやすいもので,グレード3髄膜腫はガン(肉腫)です

典型的な髄膜腫

ここにお見せする髄膜腫は中程度の大きさのものです。これでも麻痺や失語症や痴呆症などの症状はありません。(ちょっとおかしかったかな?)とても美しくて若い女性の髄膜腫ですが,子供に遺伝はしませんし,癌などと違ってたばこなどこれといった原因がなくて発生するものです。

T1強調画像 T2強調画像 フレア画像

MRIでの髄膜腫の見え方は撮影の仕方によっていろいろです。左からT1強調画像,T2強調画像,フレア画像といいます。腫瘍の横に小さく白い領域がありますが,これは脳の腫れた部分で脳浮腫といいます。髄膜腫があると腫瘍の周囲の脳に脳浮腫が生じることがあります。

ガドリニウム造影剤 ガドリニウム造影剤

最も髄膜腫が見やすくて,検査で見逃しがないのがガドリニウム造影剤を入れて撮影するものです。一般的に髄膜腫は造影剤で白く映し出されます。この腫瘍は左脳側にあります。MRIの軸面という輪切りの写真では左右が逆になりますから注意してください。脳を下から見た図になっています。

冠状断 冠状断

造影剤を入れて撮影した冠状断という画像です。MRIはいろいろな方向から腫瘍を見ることができますが,これは正面から見た図です。よく見ると腫瘍の上と下のはじっこに線状に糸を引いたように造影される部分があります。これをテールサイン(しっぽのサイン)といいます。腫瘍が硬膜に沿って延びている可能性があることを示しています。

手術後 手術後

手術後のMRIです。腫瘍は全部取れていて後遺症もありません。圧迫されて変形していた脳はきれいに元に戻っていますし脳浮腫も消えました。一般的に若い人の脳ほどきれいに元に戻ります。
注意しなければならないのは,少しでも取り残した場合には,何年か後に10%-20%くらいで再発があることです。もちろん完全に取れた時の再発はほとんどありません。


メニンジオーマ・ギャラリー

髄膜腫髄膜腫髄膜腫

髄膜腫 髄膜腫 髄膜腫

髄膜腫 髄膜腫 髄膜腫

髄膜腫髄膜腫 髄膜腫

髄膜腫 髄膜腫


8年間の観察で大きくならなかった髄膜種(左1996年,右2004年)

髄膜腫1996年 髄膜腫2004年


髄膜腫の手術後の再発は?

手術でとり切れたと思っても再発することがありますし,手術で残った腫瘍が何年も全く大きくなってこないこともあります。手術で完全摘出したといわれても,10年くらい見ると10%弱で再発する可能性があると思った方がいいかもしれません。

MIB-1(ミブ)

再発を予想するのには,病理の所見を見ます。 上の写真がMIB-1(ミブ)というのを染色したものです。細胞の核が青く染まっているのは細胞が増えない。濃い茶色に染まっているのは細胞が増えようとしていることを示しています。ですから,このミブが多く染まっていると再発し易い髄膜腫といえます。この写真の腫瘍は5%くらい染まっているので,再発するあるいは残っている髄膜腫が大きくなる確率が高い(グレード2)と判断します。


手術後の合併症としての感染

髄膜腫は,脳の膜である硬膜や頭蓋骨に腫瘍が浸潤(細胞がしみ込む)ことがあります。ですから,腫瘍と一緒に,硬膜や頭蓋骨を取り除くことがあります。そうすると,欠損した硬膜や頭蓋骨を,補填(他のものに置き換える)しなければなりません。

硬膜の場合は,人工硬膜(ゴアッテックス,シームデュラ)などを用いたり,大腿筋膜,頭蓋骨膜を使ったりします。人工硬膜は異物ですから,細菌感染の原因になることがあります。とくにゴアッテックスの感染はたくさんみました。ゴアッテックスに感染が生じた場合にはそれを除去しないと何度も感染を繰り返します。頭皮や骨弁の感染と間違えてゴアッテックスを取り除かないで感染を繰り返すこともしばしばです。髄膜炎がなくて人工硬膜が感染した場合には単にそれと骨弁を取り除くだけでいいのですが,硬膜がないことを心配してまた新たな人工硬膜をおいてくるとそれにまた感染します。シームデュラは2008年に発売されたばかりの新製品ですからわかりません。私自身は大腿筋膜を使ったことはありません。開頭部やその周辺から採取できる頭蓋骨膜(異物ではない自家組織)で硬膜の欠損部を覆っていますが,相当に大きな硬膜欠損もこれで対応できます。

頭蓋骨の補填には,かつてはリジンがもっともよく用いられました。しかしこれも術後感染が多いものでした。セラミッックの人工頭蓋骨の感染も何度か除去したことがありますから,セラミックなども同じかもしれません。チタンメッシュの感染率が一番低いような印象をもっていますが,証明はできません。


これから下は専門知識です

a. 病因・病理

 髄膜腫は髄膜 meningesより発生した腫瘍という意味で用いられているが,組織学的にはくも膜細胞,線維芽細胞,あるいは髄膜血管組織より発生するものが含まれるので,WHO分類の亜型に見られるような様々な組織像を呈する。一部の髄膜腫は,第22染色体上の腫瘍抑制遺伝子の欠損あるいは変異によって発生すると推定されている。発生頻度は原発性脳腫瘍の25%程で,神経膠腫と共に頻度の高い腫瘍といえる。好発年齢は40歳代,50歳代で女性に多い。近年増加の傾向にあるのは,MRI診断の普及と伴に無症候性髄膜腫の発見頻度が飛躍的に増加したためである。

 発生部位としては傍矢状洞部,円蓋部,大脳鎌,蝶形骨縁,鞍結節部,嗅窩,テント,小脳橋角部,中頭蓋窩などがあり,たとえば円蓋部髄膜腫のごとく,それぞれの部位に髄膜腫という語をつけて診断名として用いている。主たる診断名にはmeningothelial, transitional, fibroblastic, psammomatous, angiomatous meningiomaがある。髄膜腫の最も特徴的な組織学的構造物は渦巻形成 whole formationといえる。石灰沈着である砂粒体 psammoma bodyの存在も診断の手がかりとなる。髄膜腫を組織学的にみていると1つの腫瘍の中に先にあげたタイプが混在して認められることも多い。ほとんどの例が良性で孤発性であるがまれに悪性髄膜腫 malignant meningiomaとされるものが存在し髄膜腫中の2%程度である。神経線維腫症2型(NF-2)は多発性髄膜腫(髄膜腫症 meningiomatosis)を生じることがある。


WHO分類 (2007年)

Grade I:meningothlial, fibrous (fibroblastic), transitional (mixed), psammomatous
angiomatous, microcystic, secretory, lymphoplasmacyte-rich, metaplastic
Grade II : atypical meningioma (mitotic index > 4 in10 high-power fields), clear cell meningioma, chordoid meningioma
Grade III : anaplastic (malignant) meningioma (mitotic index > 20), rhabdoid meningioma, papillary meningioma

改正された注意点:古くからて脳への浸潤がある髄膜腫は再発率が高いことが知られていた (Perry 1999)。新しい定義では,Brain invasion by a meningioma is now an independent criterion for WHO grade II. 組織型に関わらず,脳への浸潤がある髄膜腫はgrade II である。この分類は再発率は高いものの患者の死亡割合と関連するものではないことに注意する。高い増殖能を有する髄膜腫はmitotic index (MIB-1) によってgradingを決める。

逆に,grade IIIの髄膜腫は肉腫と考えられ死亡割合(腫瘍死)は高い。grade III 髄膜腫は脳への浸潤や脳血管への癒着浸潤,頭蓋骨,筋軟部組織,頭皮に深く浸潤して再燃を繰り返す。また隣接する硬膜などの原発巣近傍再燃のみならず広範に頭蓋内組織へ転移する。この病理診断を得た場合には,ガン(肉腫)であることを患者に説明して,可能であれば再手術にて根治的郭清手術を行なうことを検討しなければならない。少なくともgrade IIとIIIの髄膜腫の組織型は記憶に留めておいた方がよい。


b. 症状・経過

 髄膜腫は良性脳腫瘍の代表格で臨床経過も長いものが多く,発生部位に関連する局所神経症状やけいれん発作で発症する。大きくなれば頭痛や記銘力低を生じることもある。傍矢状洞部,円蓋部,大脳鎌を合わせると髄膜腫の半分以上を占める。傍矢状洞部は,しばしば下肢より始まるJackson痙攣や焦点発作,一側下肢痙性麻痺を呈する。また,大脳鎌髄膜腫が両側前頭部にまたがっていれば,痙性対麻痺をきたすことがある。鞍結節部髄膜腫は視力視野障害で発症し,斜台錐体骨や海綿静脈洞部髄膜腫は眼球運動障害を呈する。三叉神経痛にて発症する錐体骨尖部髄膜腫も稀ではない。前述したようにMRIが広く普及した今日では,無症候性の小さな髄膜腫が偶然に発見されることも非常に多く経験される。

c. 検査と診断

 頭蓋単純撮影で限局性の骨肥厚 hyperostosisがみられることがある。CTでは脳組織よりやや高吸収値域を呈するものが多く,一般に造影剤で高度かつ均等に増強される境界鮮明な腫瘍像を示す。MRIでは,T1強調画像でもT2強調像でも多様な信号を呈する。ほぼ等信号を示して周囲脳組織とのコントラストに乏しいことがあるが,Gd-DTPAによる造影効果は顕著であり腫瘍が明瞭に描出される。T2強調画像で腫瘍周囲脳の強い浮腫像を認めることも多い。冠状断,失状断を利用することによって,脳実質より発生した腫瘍と髄膜腫との鑑別は容易である。特に,小脳橋角部,中頭蓋窩あるいは傍矢状洞部の小さな腫瘍に対しては,CTと比較してMRIは髄膜腫の描出力に優れている。脳血管造影で外頚動脈系血流の供給があることが診断上重要であったが,検査法である脳血管造影の意義は低下しており,MRIで診断は確定できる。

d. 治療と予後

 高齢者の髄膜腫では数年の経過をみても増大しないものが多く,非常に緩徐に成長するので無症候性のものは経過観察とする。症候性のものや周囲の脳浮腫の強い症例など治療適応となる例では,外科的に全摘出すれば完全治癒を期待できる。手術成績は向上しているが,部位的に全摘出不可能であったり取り残しがあれば再発することもある。近年は,定位的放射線外科治療(radiosurgery)の発達により,手術困難な部位の髄膜腫への放射線治療の適応が拡大しているが,手術ほど確実な方法ではない。


追加の知識(悪性髄膜腫への定位放射線治療

Mattozo CA, et al.: Stereotactic radiation treatment for recurrent nonbenign meningiomas. J Neurusurg 106: 846-854, 2007

臨床的にも病理学的にも良性とはいえない髄膜腫に対する定位放射線治療の成績です。SRS(1回照射)とSRT(分割照射)が使われました。25人の患者さんで52個の髄膜腫が治療されました。治療中に8例(32%)でさらに悪性化が生じています。治療によって3年間増悪がなかったのはグレード1で100%とグレード2の11例で83%,グレード3の1例では無効でした。SRSのほうがSRTより無増悪生存期間が長かった傾向がありました。


追加の知識(ハイドレア化学療法

Neuton HB: Hydroxyurea chemotherapy in the treatment of meningiomas. Neurosurg Focus 23: 2007

単なる総論なのですが,2007年の段階でハイドロキシウレア(ハイドレア)の効果を論評したものです。この論評でも悪性の髄膜腫にはハイドレアが最も期待できる化学療法剤であろうと書かれています。ということは,他には有効そうな薬剤がないともとれます。ハイドレアによる化学療法は1900年代の半ばに注目されましたが,それ以来これといった進歩はありません。中には効く例もあるかもしれないというところが,ハイドレアの悪性髄膜腫に対する効果といえましょう。多数例での証明はありません。


追加の知識(ガンマナイフか分割照射治療か

Matellus P, et al.: Evaluation of fractionated radiotherapy and gamma knife radiosurgery in cavernous sinus meningiomas: treatment strategy. Neurosurgery 57: 873-886, 2005

フランスのマルセイユの同一施設で分割照射とガンマナイフ治療の結果が検討された報告である。初発あるいは術後残存した海綿静脈洞髄膜腫の38例を分割照射で,36例を放射線外科(ガンマナイフ)で治療した。 追跡期間は前者で89ヶ月,後者で64ヶ月であった。広範な伸展範囲を有するものあるいはSekhar分類でのgrade III and IVは分割照射の群に多く,平均腫瘍体積は分割照射群で13.5 ml,ガンマナイフ群で5.2 ml であった。actuarial progression-free suvival (PFS)は,分割照射群で94.7%,ガンマナイフ群で94.4%であった。症状の改善率はほぼ同等であり,腫瘍縮小率は分割照射群で29%に対してガンマナイフ群で53%であった。有害事象は分割照射群の方が高率となっているがこれは照射容積の違いによるものが大きい。著者らは結論として,ガンマナイフ治療はより簡便であり腫瘍縮小率も高いので優先的に検討されるべきであり,分割照射はガンマナイフ治療が適さない症例で行なうべきであるとしている。


追加の知識(定位分割照射治療の有効性

Milker-Zabel S, et al.: Fractionated stereotactic radiotherapy in patients with benign or atypical intracranial meningioma: long-term experience and prognostic factors. Int J Radiat Oncol Biol Phys 61: 809-816,, 2005

1985-2001年に年齢中央値55.7歳,317人の髄膜腫患者を定位分割照射で治療した。target volume中央値は33.5mlであり,total dose中央値は57.6Gy (1.8Gy/day, 5 times/week)であった。5.7年の追跡機感中央値での腫瘍局所制御割合は93.1% (295/317)であった。22人(6.9%)で腫瘍増大が生じたがgrade IIの症例に多かったいうことである。また,60ml以上の体積の髄膜腫の再燃割合は15.5%であった。 有害事象としての神経症状の悪化は8.2%にみられ,視力の低下,三叉神経障害,耳鳴などであった。


文献

Perry A, et al.: Malignancy in meningiomas: a clinicopathologic study of 116 patients, with grading implications. Cancer 85: 2046-2056, 1999

 

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