血管芽腫 hemangioblastoma について
(フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL も)
どんな病気?
- 脳腫瘍のうちの発生頻度は1.7%で珍しい腫瘍です
- 発生部位は小脳が主で,たまに延髄や脊髄にもできます
- 発症年齢は10~50歳代ですが,成人に多い腫瘍です
- たいていは1つだけ小脳にできます
- 小脳や脊髄,脳幹部の血管芽腫に,網膜の血管芽腫,腎嚢腫や腎細胞癌,膵嚢腫,副睾丸嚢腫などのいくつかが合併すればフォン・ヒッペル・リンドウ病と呼ばれる遺伝性疾患ですが,とてもめずらしいものです
- フォン・ヒッペル・リンドウ病は専門家の間ではVHLと呼ばれます
- von Hippel-Lindau 病のみならず,孤発性の血管芽腫の一部も,第3染色体上の von Hippel-Lindau 腫瘍抑制遺伝子の変異によって生じるとされています
- 小脳半球に発生した血管芽腫は嚢胞(水たまりみたいな袋)を形成しやすく,その際,実質性の腫瘍部分が壁在結節(小さいかたまり)を作ります
- 病理組織学的には,毛細血管とfoamy stromal cellからなる良性の腫瘍です
症状と診断は?
- 小脳症状(ふらついて歩きにくい,はきけ,めまい)や眼振(眼が細かく動く)で病気が明らかになることが多いでしょう
- 小脳から出て大きくなると第4脳室を詰めてしまうので脳の中に水(髄液)がたまります
- 第4脳室とは髄液の出口で、これを閉塞性水頭症といいます
- 頭痛,嘔吐,うっ血乳頭(眼の網膜が腫れる)などの頭蓋内圧亢進症状というのが水頭症の症状です
- 血液検査で赤血球増多症を合併することがありますが,これは腫瘍がエリスロポエチンという血液を増やす因子を作るためです
- MRIでは,のう胞(袋に水がたまったようなもの)を高頻度に認めます
- 腫瘍の本体は造影剤で増強効果をうけて白く丸く映ります
- 腫瘍はたいてい丸くてはっきりした形にみえます
- 診断でまちがえやすいのは,小脳星細胞腫やのう胞性転移性腫瘍です
- 椎骨動脈撮影では,著明な腫瘍濃染像(血管がいっぱい)がみられて確定診断が可能です
- 血管の固まりみたいな腫瘍ですから出血しやすいです
治療は?
- 手術で完全にとってしまえば完治する良性の腫瘍で,転移はしません
- 小さいものの手術は簡単(^O^)
- 大きなのう胞があっても手術で壁在結節(嚢胞の中の固まり)さえとってしまえば治ります
- 手術でとれると水頭症も治りますし、小脳症状も改善して快適になることがほとんどです
- 3 cmを越えるような大きな血管芽腫はまた別の病気と考えた方がいいほど危険なものになります
- 大きなものでは手術で大量の出血がありますし,脳の正常な血管とはがせなくて脳梗塞を合併してしまうこともあります
- とくに脳幹部にくっついた大きな血管芽腫の手術はリスクが高いのでどこで手術を受けるかをほんとに慎重に考えて下さい
- 延髄や脊髄に潜り込んでいても取れないというわけではなくて,小さいものなら手術はうまく行きます
- これらを手術する場合は脳幹部血管腫のたくさんの手術経験がある脳外科医を捜した方がいいです
- 放射線外科(ガンマナイフやリニアック)で治療することもできます
- 辺縁線量で15-20グレイくらいをかけます
- 放射線外科で治療をしても残念ながら腫瘍が消えることはありません
- 腫瘍が縮んだり大きくならない確率が70-85%くらいと思われます
- 2割前後で放射線による浮腫が起こりますが,これが延髄や脊髄に起こると意外に長引いて重い後遺症を生じることがあります
- 放射線外科治療は手術のリスクが高いと思われる時に考えますが,そのような腫瘍では放射線治療の副作用のリスクも同じように高いので慎重に考えなければなりません
- 分割照射は副作用が少ないと考えられますが,はっきりした治療効果は判っていません
- まず手術摘出を優先的に考えた方がいいでしょう
血管芽腫の手術の難しさには症例によって天と地の開きがあります

大きな嚢胞(水たまり)を伴う小脳内部の小さな血管芽腫です,右の方に小さく白い塊が見えるのですが,それだけが腫瘍で,濃い灰色に見える部分はのう胞といって液体がたまっているだけです。これはとても(といっては何ですが比較的に)簡単な手術例です。小脳失調によるふらつきや水頭症よる頭痛と嘔吐などを出しますが,手術後に症状は改善します。一般に小脳半球という場所にできたものは大きくても手術の成功率はとても高いです。小さいものでは場所と症状によってはガンマナイフも有効なことがあります。しかし,手術で摘出できるものは摘出した方が確実に治ります。

これも血管芽腫です。おそらく小脳発生なのでしょうが,延髄の両側に強く癒着していて延髄の血管も腫瘍の中に入っていて,腫瘍血管には動脈瘤も合併していて破裂しました。この腫瘍を摘出するのは不可能にも思えましたが,無事にできました(下の写真)。患者さんも私もへとへとになりました。
でも,このような血管芽腫の手術はうまく行くとは限りません,手術不可能と考えた方がいいかもしれないと今でも思っています。手術すると決めればものすごく高いリスクを患者さんも外科医も背負うことになります。放射線治療をして治るサイズではないので他に治療法はありませんが(>_<) 大きな血管芽腫を手術する提案をされたら,少なくとも執刀医の経験数は尋ねましょう。
フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL の治療方針
- 遺伝性の病気です
- 脳と脊髄の血管芽腫が多発したときにVHLといいます
- 腎臓ガン,褐色細胞腫,膵臓の腫瘍,精巣上体嚢胞腺腫などが合併します
- 網膜の血管芽腫,腎嚢腫,腎細胞癌なども含めて現在ではいろいろ安全な治療手段があります
- 治療の後遺症少なく暮らすには小脳と延髄脊髄の血管芽腫の治療がもっとも大切です
- VHLでは複数の血管芽腫が小脳や脊髄にできますので,手術を何回か受けなければならないこともあります
- どの腫瘍を摘出してどの腫瘍をそのままにしておくかの判断は難しいです
- 症状もなくて偶然発見された小さい血管芽腫は様子を見るだけでいいです
- 巨大なものはとんでもなく難しいので,フォン・ヒッペル・リンドウ病の可能性のある子供たちは症状がなくても早めにMRI検査を受けるようにお勧めします。腫瘍を巨大にしてはいけません

フォン・ヒッペル・リンドウ病の患者さんの脊髄(胸髄)にできた血管芽腫です。上下の脊髄が腫れたり,脊髄の中に空洞(腫瘍のう胞あるいは脊髄空洞症といいます)ができます。
手術治療は症状が出るまで,あるいは症状がかなり強くなってからしかしません。なぜなら,たくさんできる(多発)することが多くて,複数回の手術になってしまうこともあるからです。手術をするたびに,四肢のしびれや麻痺などの後遺症がのこる可能性もあるので,この手術は,脊髄腫瘍の手術経験が相当にたくさんある脳外科医にしかできません。
フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL の診療ガイドライン案
フォン・ヒッペル・リンドウ病 VHL の血管芽腫が大きくなるかどうか
Ammerman JM, et al.: Long-term natural history of hemangioblastomas in patients with von Hippel–Lindau disease: implications for treatment. J Neurosurg 105: 248-255, 2006
10年以上経過を見た19人のVHLの患者さんで143個の血管芽腫が追跡されました。138個で腫瘍増大しましたが症候性となったものは58個でした。特に注意しなければならないことは,血管芽腫がstuttering pattenという増大傾向をとることです。step-wise growthともいわれます。要するに,大きくなってもまた増大傾向が停止するという珍しい傾向があるということです。 平均増大期 growht period が13ヶ月で,平均静止期 quiescent period が25ヶ月と書かれています。15か月増大してその後に25ヶ月大きくならないで静止するという意味です。のう胞性血管芽腫の増大速度と症候性となる確率は高いと書かれています。また脊髄血管芽腫では22mm3以上のもので症候性となる確率が高いとの結果です。
症例と病理教室(医学生と医師向き)
