血中レプチン値と糖尿病合併症

東京大学医学部附属病院糖尿病代謝科  塩之入太、石橋俊、田村嘉章、矢作直也、
飯塚陽子、大橋健、大須賀淳一、原田賢治、島野仁、後藤田貴也、山田信博

[目的]肥満は2型糖尿病のみならず、虚血性心疾患(IHD)の独立した危険因子であるが、その詳細な機序は不明である。そこで、血中レプチン値と肥満、脂肪蓄積部位、糖尿病および血管合併症(IHDと腎症)の関係について検討した。

[方法] 対象は外来患者322名(男156例、女166例。年齢 59±11才)で、糖尿病は187例、高脂血症263例、高血圧66例であった。早朝空腹時の血中レプチン値を測定した。男性では血中レプチン値>5ng/ml 、女性では>10ng/mlを高レプチン値血症と定義した。68例については臍高でのCTを施行し、皮下脂肪面積(S)、内臓脂肪面積(V)を計測した。陳旧性心筋梗塞、明らかな労作性狭心症をIHD(+)とした(49例)。糖尿病腎症については、微量アルブミン尿陽性(II期;33例)、顕性蛋白尿陽性(III期;16例)、血清クレアチニン増加(IV期;3例)に分類して検討した。

[結果]血中レプチン値平均値は男性4.6±5.5 ng/ml,女性 9.4±6.1 ng/mlであった。糖尿病と非糖尿病との間には有意差は観察されなかった。HbA1cとの間にも相関関係は観察されなかった。腹部CT施行者(n =68)において解析すると男女とも、S(R2=0.20, p=0.001)には有意の相関関係が認められた。血清脂質と血中レプチン値との間には相関は認められなかった。男性でのみ、高レプチン血症者で高血圧患者の頻度が有意に多かった(HT; 15/29, non HT; 23/124. P<0.001, OR=4.71)。糖尿病患者も多い傾向を示したが、有意ではなかった(DM;21/93 , non DM;9/55. P=0.085, OR=2.05)。男性では、危険因子が3個以上の集積しているメタボリック症候群に類似した状態の症例に高レプチン血症がみうけられた(男性:>5ng/ml; 21/37, 1~5ng/ml ;31/102, p<0.01, OR=3.01。女性:>10ng/ml; 8/50, 1~10ng/ml; 19/84, n.s.)しかし、IHD群と非IHD群の間に血中レプチン値の有意な差は観察されなかった。糖尿病腎症各病期と非合併群の間に血中レプチン値の差は観察されなかった。

[結論]血中レプチン濃度は女性で高値であり、BMIと皮下脂肪も決定因子であった。男性においてメタボリック症候群の例で高レプチン血症が多く、血圧との関係が示唆された。糖尿病や耐糖能と血中レプチン値との間には相関が認められず。IHDや糖尿病性腎症との関係も認められなかった。


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