糖尿病患者の脳血管障害と予後規定因子

平成15年5月24日 富山市
第46回日本糖尿病学会年次学術集会

【目的】糖尿病患者での脳血管障害発症の背景と予後規定因子について検討した。

【方法】自験例連続21例(男性12例・女性9例)を対象に後ろ向き断面調査を行った。入院時の生化学検査と既往歴・生活歴を検討した。認知機能障害と身体活動度については退院時の介護保険の認定書類の記載を用いた。

【成績】虚血性心疾患の既往を持つ者は6例(男性4例・女性2例)で、頸部動脈USの有所見者は6例(男性3例・女性3例)であった。どちらも男女差は無かった。女性の方が高齢で発症していた(男性68.0±7.2 vs 女性75.2±4.8, p=0.017)。ただし、糖尿病罹病期間は差は無かった(男性15.3±11.3 vs 女性18.3±7.7, ns)。
 高血圧については、投薬されているか入院時160/100mmHg以上で判定すると、3例を除き認められた。高脂血症は投薬されて居る者5例、TC≧220mg/dl;4例、TG≧150mg/dl;5例であり、病型ではIIa6例,IIb3例,IV1例,III1例であった。BMI≧25kg/m2以上は5例であった。
 それぞれの危険因子の重複の有無で性差や発症年齢が異なるなどの違いは見出せなかった。
 網膜症は15例,腎症は11例が併発していた。細小血管症の有無も、脳梗塞の病型や認知機能障害・身体活動度など予後について、差は認めなかった。
 脳梗塞の病型についてはラクナ梗塞6例、アテローム血栓性12例、心室瘤由来血栓1例・非弁膜症心房細動例は2例であった。心原性塞栓子による出血性脳梗塞の3例(男性2例・女性1例)は梗塞後のADLの低下が著しかった(2例が痴呆あり、2例が車椅子歩行)。一方でラクナ梗塞の患者には認知機能障害が残らなかった。
 糖尿病以外の危険因子を重ねて持っていたのは3つ;3例,2つ;12例,1つ;5例,なし;1例で、危険因子重複する場合に、認知機能障害が残る例が多かった(危険因子2つ以上認知障害7例、危険因子1つ以下認知障害0例、P=0.055)。
 認知機能と身体活動度の障害の併発は、どちらか1つの場合や障害を残さない場合にくらべて拡張期血圧(mmHg 併発103±15,1つ80±12, なし78±17, p=0.033)と総コレステロール(mg/dl 併発283±108,1つ190±26, なし163±49, p=0.019)が高い傾向を示していた。
 虚血性心疾患の既往のある6例は、認知機能障害、両者の併発のいずれも起こしやすい傾向が伺えた(認知機能障害4例, p=0.06、併発4例, P=0.03)。身体活動度は6例全例の支障が見受けられたが、虚血性心疾患を持たない群との有為差は出なかった。

【結論】糖尿病患者の脳梗塞の場合発症数に男女差は無かったが発症年齢は女性の方が高齢であった。虚血性心疾患の既往を持たない例に較べて、IHD群は後遺症が重篤であった。危険因子重複例に、認知機能障害を残す例が多かった。


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