糖尿病治療

1997年11月に刊行され、当時の医学水準に基づいています。
DPP-IV阻害薬やGLP-1アナログなどの21世紀の最新の知見には基づいていません。

「前言」
 糖尿病治療の目的は、高血糖に伴う急性合併症、特に昏睡を含む諸合併症を予防するとともに、慢性合併症である網膜症、腎症、神経症、動脈硬化症の発症を予防し、治療することにある。
 インスリンの作用不足により、糖尿病固有の網膜症、腎症、神経症といった細小血管病変による合併症が出現する。神経症のなかには、重度の自律神経障害も、散見される。
 また、中小動脈から大動脈にかけての粥状性動脈硬化病変の進行にともない、脳血管障害、冠動脈疾患、閉塞性動脈硬化症が出現する。易感染性や足病変、皮膚病変も忘れてはいけない合併症である。

 糖尿病を治療するにあたり考慮すべきなのは、1)病型、2)合併症の有無、3)インスリンの分泌能と抵抗性、4)罹病期間、5)年齢、6)食事運動療法の達成度、7)患者の理解度と病識、8)肥満など他の危険因子の有無などである。これらを総合して、治療法を選択する。
 特に合併症、自覚症の無い患者では治療するにあたり糖尿病治療の意義と目的を、十分に理解していただく必要がある。現状では、患者の病識と自己管理能力が糖尿病治療の正否を握る大きな要因だからである。

「診断」
 空腹時血糖、随時血糖、HbA1c、フルクトサミンなどにより耐糖能については予測できるが、より正確な耐糖能やインスリン分泌能を評価するためには、75gOGTTを行う。180分まで30分おきに採血し、インスリンを同時に提出する。空腹時のIRI>10 μu/ml、もしくはΣIRI>400μu/mlを高インスリン血症の基準としている。(120分までの時はΣIRI>300μu/ml)
 一方で明らかな糖尿病状態の時は、負荷試験は行わない方が患者の利益である。
 空腹時血糖126mg/dl、食後2時間値200mg/dl、HbA1c6.5%の何れか2つを満たすか、網膜症などの糖尿病特有の細小血管症を有する場合は、それだけで診断がつくからである。初診とは違った条件で再診してもらう。初診が空腹時であれば、坂口食を参考に朝食後2時間の血糖を診る。
 教育入院中は蓄尿で入院時、中間、退院前と尿中C-ペプチドを、食前食後の血糖/インスリン/C-ペプチドを測定する。こうして得られた基礎分泌、追加分泌のパターンをもとに、糖尿病治療方針を決定する。
 中-重症例では可能な限り自己血糖測定を導入する。インスリン導入していなければ自己負担となるが、患者さんにご理解を願っている。
 病歴で関連が疑われるときは、抗GAD抗体、抗ICA抗体、遺伝子異常(ミトコンドリア3243変異など)を検索する。

 

「合併症の精査」
 糖尿病の患者が受診すると細小血管症の評価を行う。眼科との併診で網膜症の評価を行う。網膜症がない時は1年おき、非増殖性網膜症であれば半年おき、増殖性網膜症のときは眼科の指示にしたがって、継続的に受診させる。
 外来では腎症を随時尿で定性、沈査、尿中アルブミン/クレアチニン比を提出し鑑別し、必要に応じ蓄尿で尿中アルブミン/クレアチニン比、CCrを見る。
 理学的診察で神経症を診断する。神経症の理学所見には、dysesthesia、冷感、感覚低下、起立性低血圧、便秘、排尿障害がある。検査としては、RR間隔の呼吸性変動(CVRR)、神経伝達速度測定、MIBG心シンチグラムがある。膀胱機能を神経因性膀胱が疑われたときに、ガストログラフィンによる胃透視および追跡造影をdiabetic gastropathyが疑われたときに施行する。

 頚部腹部雑音、四肢血圧と脈の触診で簡便には動脈硬化を評価する。足背動脈は触れるか、爪の血管床のrefillはあるか、白癬はないか、靴擦れ/鶏眼はないか、触覚/温度覚は保たれているか。足病変があれば、皮膚科や血管外科の併診を依頼する。単純レントゲン写真でも、動脈の石灰化で粥状硬化が評価可能である。特に腹部「側面」単純写真では定性的ながら皮下脂肪と内臓脂肪、骨粗しょう症の評価が可能である。神経症が進行すると消化管ガスが増加する。
 頸部、大腿の動脈壁の観察には、簡単に描出できるエコーが有用である。IMT(内頸動脈の内膜厚と中膜厚の和)>1mmの時を有意な肥厚としている。無理な圧迫を加えると、解離や塞栓をきたすので注意しておこなう。
 心電図、ホルター、心エコーにて虚血性心疾患の評価を行う。顕性腎症、増殖性網膜症、足病変のある患者の場合、無症候性虚血性心疾患の場合が多い。問診上認められ無くとも、冠疾患を否定することは難しい。危険因子を複数もつ患者の場合、トレッドミル、足腰が悪く十分な負荷が掛からない時はジピリダモール負荷タリウム心シンチグラムを行う。教育入院中に発見された有所見者では、カテーテル検査まで行う例が年に数件ある。

 ふらつきや目眩、物忘れや麻痺など、脳血管障害と思われる症状があれば、頭部MRI, MRAを行う。微細なラクナ梗塞はMRIのほうが検出しやすく、MRAで血管の変化を観察することができる。MRAは乱流により、過大評価してしまうので、有所見者は脳血流SPECTや狭窄が著しい場合は頸部動脈の造影を脳外科と相談し検討する。

 膵癌などの除外診断を目的に腹部エコーを行う。糖尿病治療のみの患者では検査機会が乏しく見落としがちになるので、消化管の透視、内視鏡を勧めている。
 肝細胞癌以外の腫瘍は年に6例から8例が当外来で発見される。糖尿病コントロール以上に体重減少をきたした例では、膵癌、膵への転移が考えられる。ヘリカル CT, MRCPが膵疾患の検索に有用である。
 安定していた糖尿病のコントロールが急速に悪化した場合、末端肥大症やクッシング症候群などの、内分泌疾患も疑う。

「非薬物療法」
 食事療法と運動療法は糖尿病治療の基本であり、NIDDMの多くの場合、非薬物療法が適切に行われることで、良好な血糖コントロールを得ることができる。
 個別食事指導は栄養部で施行している。初回時とフォローアップの2回がルーチンである。一回目はフードモデルを用い、食品交換表の使い方を覚え、食事記録の記載をもとに2回目の指導で良い点/悪い点を指摘する。入院の最後の試験外泊ではデジタルカメラを併用し食事の内容の検討を行うことも検討している。

「薬物治療」
 NIDDMでは一般的には非薬物療法により十分な血糖コントロールの改善が得られなければ、経口糖尿病薬の適応となる。それでも、十分な血糖値の改善が得られなければ、インスリン療法の適応となる。患者の病態や糖毒性を急速に解除したい場合には、非薬物療法に続いてインスリン療法を行う。勿論、IDDMでは非薬物療法とともにインスリン治療が行われる。
 高血糖による症状が著しい場合、術前管理、妊娠時/妊娠計画時などで血糖コントロールが目標に達しない場合が速効型インスリン頻回打の絶対適応である。
 昏睡やケトアシドーシス/乳酸アシドーシスなどの場合、検査や経口摂取不十分で輸液管理下にある場合が経静脈的インスリン投与の絶対的適応である。
 それ以外は、患者の合併症、予後、理解度と実行性、食事運動療法の到達度や患者の病態を勘案しながら、相対的に個々の患者にあわせて決定する。

 FBS, HbA1cは高値だが食後過血糖のない例では、追加分泌が維持されているが基礎分泌が不足していると理解できる。第一選択としてはSU剤が適当であろう。肥満のある患者や、SU剤だけでコントロールがつかなかった場合はインスリン抵抗性改善薬もしくはビグアナイド剤を併用する。
食後過血糖のある症例では、αグルコシダーゼ阻害薬の良い適応である。肥満、高インスリン血症を合併しているときはインスリン抵抗性改善薬を使用することができる。これらの患者では血中インスリン濃度は高く、インスリンの作用不足を、吸収を緩徐にすることや感受性を増強することで補う。
 基礎分泌が十分だが追加分泌に乏しい時は速効型インスリン分泌刺激薬を用いる。また、αグルコシダーゼ阻害薬に下痢や放屁で不耐性の患者にもナテグリニドなどは良い適応である。
   経口剤でコントロールがつかなければ中間型インスリンを用いる。朝6-8単位から開始し、2単位刻みで増加させる。12単位を超えるようなら朝夕に2:1に分割して使用する。インスリン作用が遷延し低血糖をきたす恐れがあるので老人の場合は、夕のインスリン量は少なめに設定する。
 糖毒性の強い場合、網膜症がなければ、その解除をめざすため、教育入院中であれば、短期間、速効型インスリン頻回打を導入し、血糖と追加分泌の正常化を図ることもある。その後、経口剤やインスリン2回打ちに移行する場合が多い。

 インスリン導入時は、体重あたり0.2u/kgのインスリンを用いる場合が多い。60kgであれば、12単位である。FBS150mg/dlを目標に段階的に増量する。
 即効型インスリン頻回打であれば一日合計12単位=各食前4単位から開始し、1単位刻みで増量する。各食前血糖が130ー150に落ちているのに、空腹時血糖が130ー150にならないようなら、基礎分泌を補う意味で眠前に一日投与の中間型インスリンの1/4を投与する様に変更する。インスリン依存型の症例では長時間作用型のノボリンUなどを使用する。
 インスリン抵抗性や糖毒性の強い患者では、次第に低血糖を来したり、インスリン分泌が改善したりする例が多い。早朝空腹時や各食前の血糖が120を割るようであれば、インスリンの減量を考える。1単位から2単位づつ減量する。一日6単位程度になれば、経口血糖降下薬に切り替えることも可能である。
 外来での生活習慣が入院中は改善し、薬物療法が不要になることも多く、非薬物療法の重要性を患者に十分に理解させるべきである。

「関連疾患」
 高血圧、高脂血症を併発している例が多い。

高血圧/腎症の予防
 高血圧では、腎保護作用とインスリン感受性を考慮し投薬する。
 Cre< 2.0mg/dl(高齢者では1.5mg/dl or Ccr > 40ml/min)の場合は糖尿病性腎症の予防効果のあるACE阻害薬を使用している。介入試験ではCre 3.5mg/dlまでの症例で腎症の進展を遅らせる効果が認められたが、ACE阻害薬は高カリウム血症などもともなうので、Cre< 2.0mg/dlまでが適応と考えられる。また、Ca2+拮抗薬、神経症がない患者では糖脂質代謝に好影響のあるα-1拮抗薬も考慮する。いずれも、T/P比の大きいものを選ぶ。AT-II受容体拮抗薬は部分腎摘ラットでは腎保護作用が認められている。糖尿病患者への蛋白尿減少効果もACE阻害薬と同等であり、糖尿病患者への長期投与試験の結果が待たれる。
 正常血圧の糖尿病性腎症患者の進展予防試験として、EUCLIDが施行された。蛋白尿の減少作用が確認された。また、60%の患者に非増殖性網膜症を認めた。2年間の観察期間中、非投与群では23%に網膜症の進展したが、投与群では13%が進展したにとどまった。ACE阻害薬の新たな作用に対して、今後の検討が待たれる。(Lancet '97. EUCLID)

高脂血症
   糖尿病にともなう高脂血症は血糖値の正常化にともない改善を見るが、原発性高脂血症の合併もしばしばある。
 アポ蛋白定量とリポ蛋白分画、Lp(a)を提出し、アキレス腱軟線撮影、LDL受容体活性, リポ蛋白リパーゼ蛋白量、遺伝子変異検索を必要に応じて追加している。
 治療目標は動脈硬化症の1次予防では LDL コレステロール(=TC-HDL-TGx0.2)で140mg/dl以下、2次予防(虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症、脳血管障害のある例)ではLDLコレステロールで100mg/dl以下に置く。本稿の主眼の糖尿病の患者の場合は、既に冠危険因子を抱えているためLDLコレステロールで120mg/dl以下が目標となる。
 食事療法でも改善のない場合、スタチン系を第1選択に、VLDL,レムナントが高値の症例ではフィブラート系を使用する。
 スタチン系の一次予防試験WOS, フィブラート系の一次予防試験Helsinki Heart Studyではともに30%以上の心事故の抑制が見られた。正コレステロール時にもスタチン系薬剤の投与が有効であり(CARE study)、粥腫の安定化作用が背景にあるのではないかと考えられる。meta analysisでは脳血管障害もスタチン系製剤の投与で30%の減少を見ている。
 フィブラート系では、コレステロール値の改善は9%にとどまるものの、動脈硬化惹起作用の強いレムナントを減少させ、フィブリノーゲンが低値になるため凝固線溶系の改善効果も心事故の抑制に働くと考えられる。
 肥満、インスリン抵抗性をともなう中年男性では高中性脂肪血症と低HDL血症をきたしている場合が多い。インスリンの作用不足のため、LPL活性が低下し、一方でVLDLの合成が高まりレムナントが増加していると考えられる。コレステロール値のみが注目されるが、高TG血症、低HDL血症も看過されるべきではない。当科の50才未満の虚血性心疾患患者では、中性脂肪の平均が200mg/dl 近くと高く、HDLは低値であった。一方で、コレステロール値は240mg/dlと軽度の上昇に止まった。レムナントが多いと動脈硬化が促進される。このような時は、フィブラート系を優先させる。Atrovastatinはスタチン系だが、TGを20%低下させる作用があり、typeIIb, type IVの高脂血症にも適応があると思われる。
 その他にニコチン酸製剤、EPA製剤、イオン交換樹脂があげられる。 ニコチン酸製剤は耐糖能悪化に注意を払う必要があるが、Lp(a)を低下させる作用があり有用である。EPA製剤、イオン交換樹脂はスタチン系/フィブラート系が禁忌の腎障害のあるときも使いやすく、EPA製剤は血小板凝集抑制作用があるので閉塞性動脈硬化症や糸球体腎症のある患者では有用である。

「薬剤併用時の注意」
 SU剤は肝代謝であり、肝硬変や老化等で肝機能が低下している例では、腎で代謝されるインスリンに切り替えるか、ラスチノンやグリミクロンと言った作用の短く、弱い薬剤に切り替える。
 αグルコシダーゼ阻害薬は排便異常を来す。通常は少量からの使用で慣れる事ができる。しかし、腹膜に癒着のある場合(手術、子宮内膜症、腹膜炎、骨盤内炎などの既往)、腸炎(憩室炎、クローン病、潰瘍性大腸炎)、膵炎では適応を慎重に考慮する。肝疾患の場合も、肝性脳症の恐れがあるときは使用しない。
 ビグアナイドは、高齢者や肝障害、腎機能障害、虚血性心疾患のある患者、IDDM, ミトコンドリア異常症では使用しない。最近FDAよりメトフォルミンが再認可されたが、上記の患者では米国での適応から除外されている。高齢者や肝障害、腎機能障害の症例で、乳酸アシドーシスが報告されている。
 インスリン感受性改善薬は、その有用性は論を待たないが、インスリンの基礎分泌と追加分泌が十分であるなど事前の検討が必要である。肝障害が命に関わる副作用として知られている。また、特に女性で浮腫、希釈性の貧血が見られ、基礎疾患がある場合心不全を来すので注意すべきである。

 スタチン系、フィブラート系ともに、横紋筋融解症の報告がある。いずれも、腎機能低下例であり、Ccr < 40ml/minの場合にはCPKをチェックする。筋肉の把握痛、尿の着色、CK>1000iu/dlの上昇があるときは中止/減量する。スタチン系の内、メバロチンは腎代謝肝排泄で腸肝循環する薬剤である。フィブラート系もCcr > 40ml/minでは、AUCに変化はなく、CCr<30ml/minでAUCが6倍になる。ともに、Ccr < 40ml/minに成らない限りは体内の薬物血行動体に変化はない。理学所見とCPK, Creの慎重な観察を忘れさえしなければ、併用に差し支えはないが、糖尿病では急速に腎症が進行する場合もあり要注意である。
 また、糖尿病患者に原因のはっきりしないCPKの上昇が見られることがあるので、脂質降下薬のそれと見きわめに難渋する事がある。

 フィブラート系とACE阻害薬は、いずれも耐糖能を改善する。ACE阻害薬、α-1拮抗薬とAT-II受容体拮抗薬はグルコースクランプ法での比較で20%前後インスリン感受性を改善する。これらの薬剤の併用導入時は、低血糖に留意する。
 Ca拮抗薬投与時のインスリン感受性は様々である。βblockerはインスリン感受性を明らかに増悪させる。昨今では使用例は少ないと考えるがサイアザイド系の薬剤を用いると糖脂質代謝の増悪を見る。その適応には慎重でありたい。循環動態の改善が得られても糖脂質代謝の増悪の為に予後が悪化する事の無いよう個々の患者で慎重な経過観察が必要である。

 Temocapril(エースコール)を除き、ACE阻害薬は腎排泄性であり、腎機能低下例では投与を慎重にする。レニン-アルドステロン系を抑制するので、高カリウム血症に留意し、使用開始後、クレアチニンとカリウムを定期的に検査する。
 代表的なenarapril(レニベース)ではCCr<60cc/minでAUCが5倍、CCr<40cc/minでAUCが15倍となる。Temocaprilは胆汁排泄経路もあるのでCCr<40cc/minでもAUCは3倍である。  高齢者、脱水時や利尿薬併用時はレニンーアンギオテンシン系が亢進しており、新たに投与するときは思いがけない過度の降圧があるので注意する。
 AT-II受容体拮抗薬はCCr<40cc/minでも2倍であるが、やはりCCr<20cc/minでは控える。
 ACE阻害薬/AT-II受容体拮抗薬はともに両側性腎動脈閉塞症のときは腎血流を低下させるために禁忌であり、動脈硬化症が進行している患者の場合、腹部の聴診や腎ドップラーエコー、レノグラムにて腎動脈閉塞の有無を確認したほうがよい。

他疾患合併糖尿病

「肝疾患」
 肝硬変の患者では、門脈血のシャントが生じ、肝実質が減少している。筋肉も減少している。その結果、インスリン抵抗性が生じ、耐糖能低下を来している患者が多い。著明な食後過血糖が特徴的である。基礎分泌は保たれており、空腹時血糖は軽度の上昇、HbA1cは汎血球減少症で上昇しない、しかし、尿糖と口渇多飲が認められると言う例がみられる。
 可能な限り速効型インスリン頻回打を導入する。インスリンは腎代謝であり使いやすい。 高度肝機能低下例では糖新生の低下のため、低血糖発作が遷延する。朝夕は普通の患者と同じインスリン量を用い。夕は少なめにして、低血糖を予防する。
 SU剤は肝代謝であり作用が遷延しやすい。αglucosidase 阻害薬は理論的には有用な薬であるが、排便異常を来し重症例では肝性脳症の引き金になるという副作用情報に基づき、Child B以上の例では禁忌としている。
 予後の上から厳しい食事制限はQOLを低下させる上、異化を亢進させると肝性昏睡をきたす恐れがある。一日30Kcal / kgで食後高血糖が著しいときは摂取カロリーを分けて間食を行う、分子鎖アミノ酸製剤は摂取カロリーには含めない。

サイトカイン
 慢性肝炎患者に対する、インターフェロン導入患者では、糖尿病の増悪、新規の発症に注意する。免疫的機序により自己抗体の出現 がみられ、当科でも抗GAD抗体陽性のIDDMの発症を経験している。また、インターフェロン導入時に、正常耐糖能者でも眼底出血を来すことが多いので、開始前に眼底の再評価をおこない、施行中も頻回の眼底観察と隔週の眼科受診が望ましい。
   Kawanoらによれば開始時は網膜病変を認めなかったが65名中25例の網膜出血と28例の軟性白斑に認めた。糖尿病患者に限れば12人中11例であった。イターフェロンの種類には関係なく、殆どがが4週間以内に網膜症を来している。インターフェロンの副作用として血小板減少も挙げられるので、慎重を期する必要がある。(AJ Gast.'91(2):309.KAWANO)。

「循環器」
 糖尿病は虚血性心疾患や脳血管障害を来し、2次予防の観点からも血糖コントロールを行う必要がある。当科における心カテーテル患者の検討では、1/3が糖尿病、1/3が高インスリン血症や境界型糖尿病、正常耐糖能は1/3のみであった。また、糖尿病のほか、脂質、高血圧の管理も合併症予防のために必要である。
 急性心筋梗塞と脳血管障害ともに受診時に高血糖であれば予後が悪い。
     実際に心大血管事故を起こした糖尿病であれば、HbA1c6.5%以下, FBS 120-150mg/dlを目標に直ちに、厳格なコントロールを行う。
 急性心筋梗塞受診時にインスリン静脈投与をして、100-120mg/dlにコントロールし、その後強化療法で経過を追ったcase controle studyでは、一年後の死亡率は1割減少した。
 ただし、注意しなければならないのは低血糖が虚血発作の引き金になりかねないこと、脳血管障害のある患者では低血糖症状がマスクされることである。

 細小血管症と異なり、境界型糖尿病の時期から粥状動脈硬化症は進行する。虚血性心疾患の患者では、できれば全例に耐糖能異常のスクリーニングを目的にOGTTを施行すべきである。75gで、インスリンと血糖を30分おきに180分まで測定する。OGTTが境界型、ΣIRIが300μu/ml/2hr以上、空腹時インスリン値が10μu/ml以上であれば、食事指導と運動処方をおこない、糖代謝異常の改善をはかる。
 OGTTを全例に出来ないときでも、HbA1c, FBSと空腹時インスリン値のみを検討するだけではなく、食後1時間の血糖とインスリン値を測定し、食後過血糖や高インスリン血症の有無を検索する。糖脂質代謝異常が認められれば、生活習慣への介入を行う。



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