令和2年8月産業医講話 血圧と背圧

動脈の圧力が血圧です。
血圧が高いと10年後20年後心臓の筋肉が堅くなり血管のしなやかさが失われます。
拡張機能不全と言います。
そうなると心臓に流れ込む静脈の圧力も、流れが妨げられるので上がってきます。
肺に血液が淀み、肺がむくむ肺水腫や、肺から水が滴る胸水が溜まると、息苦しくなります。これは心不全です。
心不全になるくらいになると、全身から肺に血が還ろうとしても、また淀むので、足や瞼のむくみが出てきます。
直近の報告では、軽度の認知症を調べるミニメンタルテスト(MMSE)の点数と、心不全の指標の一つ左室への左房からの血流の流入速度A波(心房収縮期波)が逆相関します。
脳も浮腫んで、心不全では認知機能も低下するようです。
長年の高血圧を放置すると、心不全で息苦しくなり、認知症も早まります。
心不全になってから、認知症になってから、対応をしても心血管のしなやかさは取り戻せません。
後出しジャンケンより、早期の降圧剤服用の必要性があります。
行動変容は認知機能が落ちてからでは叶いません。
血圧なんて何でも無いとか、高血圧は元気の印とか、薬を止められないのは嫌だとか、認知の歪みは認知機能の低下が既に有るからかも、知れません。

Shutaro Futami. Circ Rep 2020; vol2: p265 doi:10.1253/circrep.CR-19-0115


令和2年9月産業医講話 ビタミンDの不足

外出が減ると紫外線を浴びる量も減ります。
そう沢山長く浴びる必要もないのですが、ビタミンDを活性化させるためには、両手の甲と顔を夏の日向で15分冬は30分ほど晒す事が望ましいと環境省は提唱しています。電車通勤で駅から会社と駅から家まで行き帰りすれば満たされる程の時間です。
 高緯度では紫外線の量が減ります。雪の照り返しがあれば別ですが、筑波の3倍か4倍の長い時間浴びないと北海道では不足するとされます。また雪雲で覆われる秋田や青森ではやはり不足しがちです。
群馬県の病院で冬と夏にビタミンD濃度を較べると、夏は57.7%がビタミンD欠乏の目安となる25(OH)D 20ng/ml未満、冬は89.3%がビタミンD欠乏に判定されました。
 「くる病」という差別的な小児の病気がありました。2009年から2014年にかけて患者数は約3倍増加しています.魚や茸を摂る機会が昭和に較べ減少し、妊婦の時期からビタミンDが不足し、母乳への移行も少ないと乳児もビタミンDを摂れず、更には粉ミルクを忌避するなどの例が散見されるためです。
紫外線を浴びないというと夜勤者です。
古河電工の健診で1322名の日勤者にはビタミンD欠乏の目安となる25(OH)D 20ng/ml未満の人は37.7%(498名)に留まりましたが、夜勤者322名中50.1%(191名)と過半数がビタミンD欠乏でした。
 ビタミンDが不足すると骨の代謝が衰えて骨折しやすくなります。ポキッと折れるのでは無くても、背中が曲がり、その結果腰痛や頚腕症を覚えるようになります。
 またビタミンDが不足している場合、筋力も弱っているという統計もあります。ここは「屋外活動時間が長いから筋力や動作も保持されている」のか「動けないから外に出ないで引きこもってビタミンDが活性化しない」のかは区別が難しいです。
介護予防教室参加特定高齢者の体力改善とビタミンDをみると、ビタミンD濃度の高い方がサプリメントを開始した方が伸びしろが大きいという報告もあります。
 短期的には「ひきこもり」の立場で説明できると思います。しかし、ビタミンDの不足が長期的には身体活動の制約に繋がるります。予防のためには紫外線をある程度浴びるように心がけましょう。
 今年は給食が中止になる期間が長かったです。日本スポーツ振興センターの調査によると、学校給食のある日にカルシウムの推定平均必要量(EAR)以下の児童生徒は、約 34%、学校給食のない日は約 72%と言われています。
この調査ではビタミンDに触れられていませんが、親が食べるものがやはりカルシウムが不足していることが考えられます。ビタミンDとカルシウムの摂取と日光浴について今一度振り返ってみてください。


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