2019年正月は心理的負担度審査の結果でスキップ

くも膜下出血

2019年2月

脳卒中には幾つかの分類がありますが、その一つがくも膜下出血です。
頭蓋骨の裏打ちとしての硬膜、脳の表面を覆う軟膜があり、脳表の血管を吊るすような位置にくも膜が覆っています。くも膜の下、くも膜下腔は脳脊髄液が満たされていて、豆腐と容器の間の水のような立場にあります。
動脈硬化で血管の一部が弱くなると、血圧で弱った所が膨らんできます。
とくに分岐部には渦を巻く血流の剪断応力やずり応力(シアストレス)が掛かり、薄くなったり破けやすいです。そのようなところが動脈瘤になります。
50歳だと3%くらいの人に脳動脈瘤があり、5mm未満だと0.5%位年間に破裂しますが、大きくなるほど破裂し易くなり、7~12mmだと3%位破裂します。
また半年おきの経過観察で継続的に大きくなる例も要注意です。
手術の合併症の確率を上回る様なら、血管の中からプラチナ線を詰めるコイルや開頭してクリップを掛ける手術を考慮します。
家族歴があるひとは起こりやすいです。また多発性腎嚢胞の家系も来しやすいです。性別では女性の方が血管が薄いので瘤に成り易くなります。
生活習慣としては、喫煙と高血圧があると瘤が出来やすく、飲酒があると瘤が破けやすくなります。
喫煙や血圧は全身の他の動脈硬化性疾病を来すので瘤以外の全身管理も必要です。
大量飲酒では、くも膜下出血以外にも、脳出血の危険が高く、飲酒に伴う転倒で外傷に因る脳出血も増えます。
くも膜下出血は脳卒中の5~8%を占めます。
主な症状は、頭の何処と言えないくらい、広範な頭痛で痛くて蹲って海老の様に丸まってしまう事が多いです。嘔吐を伴い、そのまま意識を失ってしまう事もあります。
警告的な少量の出血の時は、髄膜刺激症状としての悪心、後頭部の頭痛でお辞儀をすると首が突っ張り顎を引けない(左右には振れる)という頭痛が見られることもあります。
出血の反応で、破けていない血管が縮み、血流が途絶えて広範な脳梗塞を起こす遅発性脳血管攣縮(スパズム)になることもあり、病院に辿り着いても25%の方はひと月以内に亡くなります。
病院に辿りけないこともあります。入浴中の急死の4%がくも膜下出血と東京都監察医務院が報告しています。運転中の事故の原因としてくも膜下出血が挙げられることから、交通事業者の中には職場の検診にMRI検査を取り入れる例も多くなってきています。


転倒、滑る、転ぶ、つまづく

2019年3月

2015年に第三次産業を中心に転倒防止のキャンペーンが張られ、2018年から22年までの第13次防でも、転倒防止が労災防止の柱の一つとして取り上げられています。
製造業でも持ち場の整理整頓が転倒防止に必要です。
通勤途中に手をついての骨折や足の筋を伸ばしての通勤労災なども高頻度であります。
交通事故マップのようにヒヤリハットで滑った場所、つまずいた場所、転んだ場所を取り上げて見える化してみましょう。
製造や事務は自分の職場で過ごすことが殆どですが、清掃などでは一定の場所に居る訳でもありません。整理整頓が行き届かない場所を通るなど持ち場以外での転倒もあります。担当者がこれで良しと思っても、出入りの人達が転ぶこともあるので、他人にとっては非定常作業と思いながら、転倒事例を見える化していきましょう。


暑熱障害

2019年4月

  1. 暑熱障害で何故死ぬか
  2. 病院へ運ぶ暑熱障害の見分け方
  3. 障碍児に関する暑熱障害の論文の紹介
  4. 熱の伝わり方と暑熱障害の発生の仕組み
  5. 休養の取り方と体温の変化

 熱中症とか日射病と言いますが、高温多湿の状況下で具合が悪くなることを言います。
 炭鉱の湧水が温泉というのは、常磐ハワイアンズの由来です。日の射さない坑道でも蒸し暑ければ鉱山労働者は倒れます。熱中症とか暑熱障害と言うのが適切になります。
 でもあまり日射の事を忘れると照り返しが大人と子供でどう違うかという事を見落としてしまいます。

 輻射・対流・伝導で熱が入り、運動で熱が産生され、蒸散・対流・伝導で熱が奪われる過程を考えながら、病気の構造と予防・対処を考えてみましょう。

[1]暑熱障害で何故死ぬか

 感染症でも暑熱障害でも体に過大な負荷が掛かった時、サイトカインと言う炎症に係るホルモンの仲間が過剰に分泌されます。
 サイトカインは血管の内張りの内皮細胞を傷つけ、血清が血管の外に漏れ易くなります。組織は浮腫を起こし、血管は虚脱し、酸素や栄養が行き届かなくなります。
 傷ついた血管を治そうと血小板が血管の中で凝固し、なおさら血流が悪くなる一方で、凝固因子や血小板の消費で、必要な止血が出来なくなるDICという状況になり、内出血や粘膜出血が起こりやすくなります。
 粘膜が傷むと腹水や胸水が出たり、便の中の細菌や毒素が体内に侵入し、さらに具合が悪くなります。
 脳の浮腫で機能が損なわれ、判断力が落ちるだけでなく、痙攣や昏睡が生じ得ます。

[2]病院へ運ぶ暑熱障害の見分け方

 そこまでではない暑熱障害の時にはどのような処置を行えばよいでしょうか?
 区別するには、普通の事が出来る人は、病院へ連れて行く必要はないということです。自分でペットボトルの蓋をあけて呑んで保健室にきて寝かせて下さいというなら、寝て呑みたいように飲めば良いです。あとで昼寝の話もします。
 いつも出来る事が出来ないなら、脳の傷害を疑い、病院へ連れて行った方が良いです。呑んでも吐いてしまうようなら、粘膜障害で経口摂取しても十分な脱水の補正は出来ないと考えて、やはり連れて行きましょう。
 保健室に歩いてこれたのは脳の機能が保たれていると言ってもいいですが、フラツキが酷いなら運動機能が低下していると思いましょう。
 力尽きているとペットボトルも持ち上げられません、手が震えてこぼしてしまいます。握力が落ちれば蓋も開けられません。口に運ぶのは協調運動が保たれているからですが、脳の傷害があると口にボトルを持ってこれません。
 嚥下能力に支障があると肺に誤嚥してしまいます。
 これらの場合は点滴で水分を補いながら痙攣などの症状が出無いかを注意深く観察するために病院へ連れて行く必要があります。
 通常はそうなのですが、意思表示・衣類の着脱・歩行など四肢の機能・嚥下能力など、日常の生活動作の水準もよく把握したうえで評価することが大切です。

[3]障碍児に関する暑熱障害の論文の紹介

 多動性のある子どもは体温が上がりやすいです。ダウン症は意思表示が苦手ですが自律神経の発達に課題がある場合があるので体温調節が出来ません。重複障害があると暑いから脱ぐという動作も出来ません(前田・高麗)。乳児でありがちですが寒かろうと保護者が重ね着をさせてしまうが故の脱水などがあります。保護者側の一方的な判断で進めないで十分な観察や事例の振り返りが必要になります。
 立場が強いと保護監督者の主観と児童生徒の状態にギャップがあっても是正されないことがあります(南部)。これは訓練で乗り越えさせるべきだという指導側の一方的な自己肯定で児童生徒が苦しむことがあります。

[4]熱の伝わり方と暑熱障害の発生の仕組み

 バトミントンや卓球では日は射しませんが、風に影響されるスポーツなので、通風が看過されてしまいます。そのため熱中症になります。柔道も剣道も室内で行いますが、持久力をつけたいという思いが強いと1時間も2時間も休憩なしに乱取りをさせてしまう事があります。剣道着は風通りが悪く蒸します。
 室内プールでは湿度が高いです(南部)、屋外プールではそれこそ照り返しがきついです。生徒はプールサイドのコンクリートの上で体育座りで焦げているのに、先生は監視台の上で照り返しも少なく風通りがよかったり、相手を変えながら水の中に居るので、子供の暑さを忘れてしまうことがあります。
 日向のベビーカーの顔の辺りの温度は50度でした。日陰では36度でした。身長170cmの親の顔は34度ですが、120cmの子供の顔は48度近くでした。この辺は、輻射=日射病という言葉の通りです。保育園だと紫外線も含めて園庭を遮光布で覆うところもあります。建物がプレハブになると、軒先が浅くなるので、教室の日差しも変わると考えて下さい。
 対流と蒸散ですが、体表を冷やすと深部温度も遅れて下がります。霧吹きと扇風機で30分休んでから、保護具で包まれた換気の悪い服装で動くと、冷やさずに作業するよりも0.5度低い体温で推移し、38度を超えませんでした。(時澤ら)

[5]休養の取り方と体温の変化

 小まめに休憩をとり日陰で風にあたれば高体温には陥らずにすみます。
 熱帯夜だと寝苦しくなります。夜更かしは体に悪いと言いますが、7時間睡眠と4時間睡眠で労働を模した時に体温を較べると、午前中はそれほど開きませんが、昼食の休憩中十分休んでいる群では0.2度ほど体温が下がるのに、睡眠時間が短いと体温の下がりが悪く、午後仕事をしている間、0.4度ほども差が着いてしまう実験結果があります。昼寝をすれば解消するかというと30分では差が出なかったそうです。(時澤ら)
 食事が十分とれないと脱水になります。ご飯とおかずには塩分も糖分も含まれています。なにも特別な清涼飲料水でなくても、食べることで本当は水だけで済む筈なのです。でも朝飯抜きだと塩分も糖分も欠けたまま水だけだと血清のナトリウムが低下し発汗で失われる塩分も補えないので血圧が下がり具合が悪くなります。
 ここでポカリスゥエットなどの経口保水液が大事というのは短絡的です。朝飯を欠食しないという生活習慣が大切です。
 植木屋さんや大工さんにお茶出しをするように水分と間食と言うのも一つの方法だからです。おやつの間は休憩時間、休憩しないでぶっ続けというのが暑熱障害には悪い事です。
 大人については二日酔をしない節度ある飲酒という指導も重要です。
 これくらいという油断と、これを乗り越えなければという根性論を排して、ゆとりをもって夏を迎えましょう。


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