2018年9月 一般論でない統計なので不掲載

交通事故と医学論文

2018年8月

本当?でも論文になっているしという話を幾つか紹介します。 東北大の話は、茨城の市町村の検診結果をもとに、18年間9万人の死亡届を見返してみた結果です。煙草を吸う人は交通事故の結果、死んだ人が多い。
これは運転者に限りません、歩行者の被害者でも、外因死の中の交通事故死なら勘定に入ります。吸わない男は千人年あたり0.24件の交通事故死があるのに対して、20本以上吸う男は0.32件の死亡事故が観察されました。5割増しです
運転中の喫煙なら、シガーライターの脇見や灰が落ちたのに気を取られるなどの事象が考えられますが、リスク許容度が高いという喫煙者の物の受け取り方もあるのかもしれません。喫煙という健康被害を行動変容に活かせないように、運転や歩行にも、正常化バイアスが働き易いのかも知れません。
赤信号が続くとイライラしますが「お互い様」と思うか「此畜生」と思うかというのが分かれ目になります。イライラしたまま運転して良いことはありません。 名大[pdf]の脳血流を赤外線で調べながら模擬運転してもらった検討です。平均年齢70歳の高齢者と学生を比較しました。脳の前頭葉に左右差があると怒りがあると想定されます。また怒り尺度の質問紙も記載してもらいました。結果、学生は「平常心」だったのに対して、高齢者は気分の変動が激しかったです。もっとも、この検討ではTMT試験という作業効率をみる認知症の検査で、サクサク回答できる人は怒り尺度や血流の左右差も若者同様に「平常心」だったので「キレるキレ無い」は加齢よりも認知機能の方が寄与が大きいのかも知れません。一方でTMT試験は迷路を解くような試験なので徘徊や逆走、信号無視や標識不確認などの評価にも繋がります。
元気な人だけが運転している訳ではないですし、運転免許を返上しても歩行者として交通事故に遭遇することがあります。
事業用自動車の運転では若い間は大型車に乗り、年をとると個人タクシーなどに切り替えることがあります。その結果、タクシー運転手はメタボな場合が多く、加齢も相俟って脳心血管事故を運転中に発症する例はゼロには出来ません。
また、それ以外の体調不良でも、確実に申告して休んで呉れれば良いのですが、どの職場でもそうですが、インフルエンザやノロウイルスに感染発症しているにも関わらず出社して勤務する運転者もいます。事業用に限らず、休日夜間診療所でも狭心症で市民や共済に転送する患者が自分で運転してきたり、嘔吐でゲロ袋が手放せないのに運転してくる患者さんが居て「対向車がマトモとは限らない」「タクシーでは必ずシートベルトをしよう」と、返す返す再確認させられることは屡々です。
郡山には大きな病院が無いので近郷近在の交通事故は一箇所にまとまります。最後の砦の西ノ内病院が18年1万2千例余の結果を振り返った報告です。心停止24例を含む215例が意識がなく自分で救助要請が出来ない状況にありました。運転者に限れば2.6%は意識不明で担ぎ込まれています。てんかんで意識消失したまま運び込まれた運転者が多いですが、既往の無い初回が3分の1を占めています。脳血管事故や心疾患がつづき、心疾患32例の半分以上がAEDの必要な心室細動などの頻脈性不整脈でした。肝硬変だとアンモニアの処理が出来なくて肝性昏睡になります。これは予見可能ですが、消化管出血では予測はつけません。血の中のミネラルカルシウムやカリウムが狂うと意識が失われたり不整脈になりますが、電解質異常という予備知識を運転可否の基準において体調管理する知識は一般大衆には期待できないでしょう。
予見可能なのは酒と薬です。熊大の法医学教室が交通事故で司法解剖した尿から薬物などを検出した例をまとめた報告を紹介します。歩行者の4割、自転車の半分でアルコールが検出されています。車を運転している貴方が呑んでなくても相手が呑んでいることも想定しないといけません。この検討の限界は「重傷で治療をしたあとの解剖」が含まれる点です。薬物も酒も治療の間に抜けますし、治療のために投与された麻酔などが含まれてきます。アルコールに関しては過小評価になるかもしれません。

がん検診

2018年8月

 がん検診には大きく分けて2つのものがあります。
国民均一に受けて全体の中からガンを拾い上げる事で死亡を減らそうとする政策に基づいた「対策型がん検診」です。「死亡率を減らすことが明らか」「不利益が利益を上回らない」の2点で決まります。発見することが出来ても死亡率が減らないなら採択されませんし、不利益が上回るような採択されません。
 一方で、実用化されて間が無いので死亡率の減少が実証されていない方法、照射される放射線が多かったり何例に一例かは医療事故が避けられない内視鏡など、癌の無い人にとって侵襲が多いものは、有用であってもガンの一次健診には採択されません。

 概ね住民健診でお報せがくるのは、女性の「子宮がん検診(主に頸癌)」「乳がん検診(マンモグラフィー)」と男女問わず「肺がん(単純正面X線写真)」「胃(毎年のバリウムか、隔年の胃カメラ」「大腸(便潜血)」の5つがあります。
 直接のがん検診では無いのですが、肝炎ウイルス検査も住民健診のお知らせに入って居ます。前立腺のPSAや胃のピロリ菌などは市町村が実施することは妨げないという扱いになります。
 任意型は自費での人間ドックや所属する健康保険組合での追加サービスなどで行われるものです。

 また、ガンの成り易さを勘案して、一般診療の枠で行われる内容もあります。

 胃がんは以前は40歳以上の成人を対象にバリウムの検査を行っていました。しかし、若い人に胃がんが減ってきました。60歳以上では6割か7割がピロリ菌を持っていました。その分胃がんになる人も多かったのですが、直近の中学生の調査では1%ほどしかピロリ菌を持っていないようです。ピロリ菌が居無いと1万人に1例年間胃がんが出るか出ないかなのに対して、保菌者は千人に一人、保菌していて潰瘍があるようだと百人に一人、胃がんが見つかる計算になります。以前は皆が持っていたので40歳代の胃がんも稀では無かったのですが、1980年と2010年の胃がんの発生率を見ると50歳で半減し、1980年の40歳の胃がんの頻度と2010年の50歳の胃がんの頻度が同じ程度になって居ます。こうなると画一にバリウムを実施する利益と不利益を考えると、副作用の件数は同じなのに、見つかるガンが少なく、不利益が上回る事になります。原則50歳以降に胃がん検診を行い、40歳代は実施することを妨げない扱いになりました。

 一方で大腸がんは数も増えていますが、胃がんの逆で、2010年の40歳の大腸がんの頻度と1980年の50歳の大腸がんの頻度が同じ程度になって、働き盛りの大腸がんの伸びも認められます。
 大腸がんがある人に胃のバリウムをすると腸閉塞の様な不利益が浮上してきます。また、大腸がんの検診は、まず検便なので、副作用はごくわずかです(便の採取の時のポケットから便器にスマホを落とすなど)。
 大腸がん検診で便潜血が見つかったらどうすれば良いでしょうか?これは実際に大腸カメラを受けて下さいとしか言いようがありません。正常化バイアスと言って大腸癌でない理由を人間は探したくなるものです。痔だから!月経だったから!もう一回やって便潜血が出たら!など内視鏡を回避することばかりに頭を使わないようにしてください。
 1000人検査すると30~40名に潜血があります。そして2名ほどが実際に、ガンがあります。分母を千人とすると打率は2厘なので外れと思うでしょうが、分母を便潜血のある40名とすると打率が5分になるので随分な確率になります。痔が繰り返して起きる種類の肛門癌もありますし、婦人科腫瘍が直腸に転移して便潜血になる事もあるので、痔や不正出血を大腸カメラの回避の口実にしない方が賢明です。また、腸の潰瘍、安倍首相の罹っている潰瘍性大腸炎・炎症性腸疾患もガンではありませんが早期発見すべき病気ですし、炎症性腸疾患も痔から見つかることが有りますから、大腸カメラは大切です。便潜血の検査が見落としやすいのは右側の大腸、盲腸の近くの大腸癌です。その辺りではまだ便が固まって居無いお粥のような状態なので擦れて出血するようなことが少ないので、過小評価=見落としに繋がります。腫瘍が大きくなってから見つかることが、右側結腸癌では多くなります。

 30歳代では女性の方が癌が多いです。10万人当たり女性は150例ほどの癌があり、男性の50例の3倍になります。この差は、子宮頸がんと乳がんから生じます。
東京五輪の頃にくらべれば、性感染症が減っていて、ヒトパピローマウイルスの関与がある40歳代の子宮頸がんは半分になって居ます。しかし、まだまだ多いので子宮頸がんの検診は20歳から始めることになっています。それだけHPVの関与は大きいのでワクチン接種が望まれます。純潔教育だけ声高にしても望まない性行為は皆無にならないですし、喉頭がんや食道がんなどにもHPVは関与し女性だけのワクチン接種ではなく男性にも拡げていくべきでしょう。

 乳がんは1965年の50歳と2010年の40歳が同じ頻度、10万人当たり10名の割合で生じています。乳がんの検診にはレントゲンのマンモグラフィーが用いられます。ただし働き盛りの東洋人の女性ではマンモグラフィーで検診するのが困難な場合があります。乳房の脂肪が少なく、乳腺そのものの量が多い、高密度乳腺(デンスブレスト)の人が多いのです。写真の様に真っ白なので、乳がんで白い塊があるのか?正常乳腺が発達しているのか判りにくいです。同じように触診法でも堅い乳房なのでしこりなのか正常乳腺なのか見分けにくいです。子育てが後ろ倒しになる分、授乳中のための乳腺の発達も重なる人がいます。
 対応として超音波やMRIをマンモグラフィーに併用することも考慮されます。
 しかし、J-Start研究の結果では一次検査で陽性になる人が8.8%から12.6%に増え、1500人が乳腺の試験切除などの侵襲的な検査を余計に受けることになりました。実際に乳がんを見つけるのも0.33%から0.50%に増えていますが、過剰診断という不利益を考えると必ず全員にと言うのは躊躇われる結果になっています。
 対策型とは外れますが、乳がんは遺伝子素因があるので、血族に若くして乳がんや卵巣がんになった人が居たり、膵癌など他の癌が多い場合には超音波やMRIを併用するか、2年に一回はマンモグラフィーを行い、住民健診の無い年に超音波を任意で受けるという方法も考えられます。

 ここからは任意型検診を受けるべき人?という話です。世の中は不平等ですが、成り易さがどれくらいか、自分の立ち位置を調べてみるのも大切です。肝臓がんなら、まず肝炎の検査から始めます。肝炎に罹って居無かったら次は、飲酒や肥満などの程度を考えましょう。お酒も脂肪肝も、進行して肝臓が肝硬変になるとそこから肝細胞がんが生じやすくなります。肝硬変か否かはまず一回くらい任意の腹部超音波を受けてみる事をお奨めします。また職域以外の採血で、血小板の値を知りましょう。画像で脂肪肝があるようなら毎年一回は超音波を受けてみましょう。血小板の値からは、肝硬変の程度が推定できます。Fib-4という指数を計算して2を超え3に近いようなら肝硬変の恐れが強いです。血小板の値が低いほど肝硬変が進行していて肝細胞がんが起こりやすい状態に陥って居ます。普通20万程度の血小板が15万だと年間1~2%が肝細胞がんになります。10万を下回る様なら7~8%が肝細胞がんになるので、半年か3か月に1回超音波検査を受けた方が良くなります。
 膵臓がん、膵臓は胃の裏にあって消化酵素を十二指腸に注ぎます。膵臓の尾部には血糖を下げるホルモンのインスリンを出すランゲルハンス島があります。
 吉本の芸人さんに多い病気に膵炎があります。脂っこいものをお酒で流し込むような生活をしていると脂肪を分解する酵素が出過ぎて、自分の膵臓を消化してしまう、膵炎に陥る事があります。そのような荒れた膵臓からは膵がんが生じやすくなります。膵臓に嚢胞があると20倍ほど膵癌が出来やすくなります。膵管に粘液が貯まるIPMNなどでも膵癌が出来やすくなります。何もなくても一回は任意の検査で嚢胞や膵管拡張が無い事をみておくと良いかもしれません。膵臓がんになると尾部に炎症が及んでインスリン分泌が減り糖尿病に新規になったり以前からある糖尿病が増悪することが有ります。そのような場合も膵臓の画像検査を勧めます。
熱心に膵臓がんの検査を行っている地域に尾道市があります。先進的な取り組みで早期の膵臓がんが多く見つかって居ますが、膵臓の精査には膵臓そのものに内視鏡を進めるERCPなど侵襲性の高い検査が多く、住民に画一に実施するのではなく、危険因子の多い人に絞り込んでの、任意型の検診になります。

 食道がんは今は検診に含まれていません、胃のバリウムで稀に食道がんが見つかる事がありますが、バリウムで見つかる食道がんは進行していて治すのが難しいです。しかし、胃カメラによる胃検診が普及すると早期の食道がんが見つかる機会が増える事が期待されます。食道がんは繋がっている粘膜の性質上、喉頭がんや咽頭がんと重複して発症することが有ります。三笠宮は20年で10数回の癌を発症し、音楽家のなかにし礼やつんく♂も2回の再発を経験しました。アルコールというよりアルコールが分解してできたアセトアルデヒドが高いと粘膜障害性があり癌が起こりやすくなります。食道は子宮頸部と同じ扁平上皮で、ヒトパピローマウイルスが感染していると咽頭がんや喉頭がんが発症しやすいです。アルコールの問題を取り扱っている久里浜病院では食道がんに成り易いかを調べる計算法をウエブサイトに掲載しています。飲酒や喫煙があり、若いころお酒を呑むと顔がすぐ赤くなった人は食道がんにも要注意です。

 先程の乳がんの表の中に「中間期がん」という言葉がありました。検診と検診の間で見つかるガンです。見落とし=医療ミスの場合ももちろんありますが、中間期ガンが生じる理由の一つに、ガンの育つ速度の違いがあります。  倍加時間と言うのは100人のがん患者さんのガンの直径が2倍になるのにかかる時間の事で、100人中50位真ん中くらいの育つ速さです。だからもっと早い場合も遅い場合もあるのですが、ガンの種類同志を較べたり、治療の効果判定同士で比べるときに用います。  肺がんには小細胞がんと扁平上皮癌、腺がんがあり、ごくまれに大細胞がんがあります。そのうち一番早いのは小細胞がんです。80日で倍に育ちます。約1年400日目には2の5条=32倍の大きさになります。逆に言えば半年前は4分の1の大きさなのでお正月に1mmだったものが6月に4mmで見つかれば良いが次の年には3cm超えていますので年一回の検診ですべて見つけるのは困難です。  扁平上皮癌は倍加時間が100日なので、1年で8倍ですからまだ何とかなります。でも、扁平上皮癌は心臓や食道の陰になっているので見つけにくいという課題があります。腺がんは200日なので少し余裕があります。スリガラス状のGGOという種類の肺腺がんは倍になるのに480日掛かるので、二年前の写真と見比べないと進展が判りません。肝細胞がんも腺がんですが、半年に1回超音波をして5mmのモノが半年後10mmになったころを見計らって電気で焼いたりアルコールを注射して固定する治療を重ねていきます。


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