平成25年下期衛生講話

特定保健指導の対象者は氷山の一角

2013-09

高血圧・喫煙・高脂血症・糖尿病、この危険因子が集積し、腹囲やBMIの基準が上回ると特定保健指導の対象者になります。しかし、全員がなるわけではありません。
メタボ健診の結果に該当しても、投薬の必要な場合は、特定保健指導から除外されます。除外されたことを、病気が無いと勘違いしないで下さい。
危険因子を重ねて持つ人の三分の一は投薬が必要で除外され、三分の一は肥満や腹囲の基準を満たさないので除外され、対象となるの残りの3割ほどです。
メタボ判定は冠動脈硬化症を前提に、分別しています。
しかし、脳血管障害、なかんずく脳出血は低コレステロールや女性で発症の懸念があり、メタボ判定が心血管疾患発症のハザードの全てではありません。
ニッポンデータ80などで自分の健診結果を見比べて見ましょう(NIPPON DATA パソコン用サイト)
脳出血では、メタボ除外者が危険になります。秋田や青森などの昔の脳卒中地帯では2桁の低いコレステロール痩せた人が200mmHgを超える収縮期期血圧でバタバタと倒れました。
「高血圧・低コレステロール・過度の飲酒・喫煙・比較的痩せ」の場合は、脳出血のリスクが高まります。禁酒禁煙がまず大切で、他の人より低い血圧を目指しましょう
くも膜下出血では家族歴によって脳動脈瘤の出来やすさに差があります。
脳梗塞には3つの類型があります。
ラクナ梗塞は高血圧・タバコ。
頚動脈硬化症は高脂血症・糖尿病・肥満。
心房細動は、生活習慣とは違い、飛びぬけて危険な塞栓性出血性梗塞のハザードになります。小渕元首相・オシム監督・長島監督が心房細動の犠牲者です。

胃の集団検診

2013-10

Hピロリ菌の感染率が多かった、昭和の日本では、若くして胃がんになる人が多かったです。
予防も仕組みが不明であったので、出来ませんでした。そのため、早期発見のためのバリウム検査が普及しました。

しかし、衛生状態の改善により、昭和30年代にはどの世代も8割が感染していたHピロリ菌の保菌者が減少しました。
いまでは、50歳代でも5割になっています。それ以下の世代では2割未満になります。

平行して、胃がんの罹患率も低下してきています。
昭和50年頃は、10万人あたりの男性の胃がん発症数は、40歳代48.9件、50歳代151.1件、60歳代356.4件でした。
しかし平成10年代末になると、40歳代20.2件、50歳代76.9件、60歳代229.1件に減少しています。
ピロリ世代の高齢化に伴い、推計では今胃がんのピークの世代が65歳から74歳で10万人ほどですが、2025年にはその前期高齢者の胃がんも9万人に減るようです。一方、75歳以上の後期高齢者の胃がんの数は9万人から14万人に増えると見積もられています。
胃がんの件数や死者数は、年齢構成の変化によって、頭打ちになりますが、殊・現役世代の胃がんは、どんどん減っていきます。

一方で、胃がんの検査にまつわる費用は変わりません。金銭的な面や拘束される労働時間以外に、健診をすることでの副作用の課題もあります。

バリウムで20例ほどがアレルギー症状を呈し、腸閉塞や腸管穿孔が20例ほど報告されて死者も稀に出ております。報告に上らない、便秘や腹痛は皆さんの中にも体験されたことがあると思います。
大腸の病気があると、先ほどの副作用が多くなります。安倍さんが罹った炎症性腸疾患、増え続ける大腸がん、腸の壁が凹んで便が詰まる憩室症。これらの病気は、バリウムの健診がはじまった当初は稀でしたが、平成に入って多くなっています。開腹手術の経験者や、腸の所見を指摘された人たち、習慣性の便秘や痔がある 人は、予め申し出て、胃透視を回避された方が、賢明です。
昭和50年頃は、10万人あたりの男性の大腸がん発症数は、40歳代10.2件、50歳代27.2件、60歳代64.3件でした。
しかし平成10年代末になると、40歳代19.8件、50歳代67.2件、60歳代192.3件に増加しています。
大腸がんの腸閉塞は前提にせずに検査できた昭和の頃と異なり、今は胃がんと大腸がんの頻度は、現役世代では一緒なのでバリウムの副作用もクローズアップされてきます。

対象者を絞って検診することで、有害事象と早期発見のバランスをとることが可能です。
発症が5歳遅れてきていることから、50歳以上に対象年齢を上げるというのも一つの方法です。

胃がんについても起こしやすいピロリ菌の有無と萎縮性胃炎の炎症を反映する数値を、採血検査で調べることが出来ます。
ABC法と言う方法で、ピロリ菌に対する抗体価とペプシノーゲンI/IIの値を調べます。一人3000円ほどです。
神奈川県の平成21年度胃がん検診実績報告書では、男性に対して、検診車など間接撮影での胃がんの発見率は0.23%でした。21,025名の男性がバリウムを呑んで、精査の結果49例に胃がんが確定し、そのうち31例が早期胃がんでした。
ペプシノーゲン法を行なった男性では、横須賀市5,909名に胃がん27件(早期18件)で0.457%でした。
胃カメラを最初から検診に組み込んだ大和市1,624名では、胃がん8件(早期5件)で0.493%、という結果でした。

島根医大で検討した所、開学以来胃透視で発見した悪性腫瘍は6例です。その間に実施された胃透視は毎年300例ほどだそうです。医大なので透視は外部委託ではなく自営で、材料費などの56万円、一人1500円で済むそうです。これで推定すると1件の悪性腫瘍を発見するには280万円となります。
一方、ピロリ菌の陽性率が2割、精査対象110例強あたり1件の胃がんがあるという、JA島根などの実績から計算すると、ABC法では200万円となるそうです。

ABC法で行い、将来のためにピロリ菌の除菌も積極的に行なう方が安上がりかもしれません。除菌の薬代は、先発品で9158円、ジェネリックで2000円ほどになります。癌になってからの治療よりもならずに済むことで、費用も効果も得ることが出来ます。

心臓性急死

2013-11

「狭心症」という言葉には、「心臓の血流が悪くなって胸が痛む」という定義があるので、「胸が痛く無い」心臓の酸欠には「無痛性心筋虚血」という言葉を当てはめます。
さて八千件近くあった大阪市消防の救急隊の内科系出動のうち、心臓性急死は約90件、死に至らない急性冠動脈症候群(=心筋梗塞+ST上昇を伴わない虚血性心疾患)は110件ほどでした。
そのうち狭心症症状、胸痛などの自覚症状があったのは、死亡例のうち8分の1ほど、急性冠動脈症候群の半分ほどでした。
胸が痛く無いから、心臓じゃないだろう?そう思っていると実は心臓で、症状が出ないからと、コレステロールを下げるクスリや降圧剤を先送りしたり、運動だけで血糖を下げようとしているうちに、血管が詰まってしまう事もシバシバです。
危険因子のコントロールをクスリで行ってから、安全に運動出来る体調を確認する事も必要です。
血管の壁に粥腫もなく線維化もなくしかし血が流れなくなる事もあります。冠攣縮性狭心症といって太い血管が痙攣してしまって流れが妨げられたりします。毛細血管が縮んでしまう病態の人も居ます。 この様な人は日頃は症状が掴めません。負荷心電図検査や冠動脈CTを実施するときは正常な口径の血管に正規の量の血液が流れているからです。
外径が広がって行く、粥腫が外へと伸びて行って、内腔が保たれると、運動しても血の流れは十分あるので、どんなに壁が動脈硬化を起こしていても、狭心症や虚血性心疾患の心電図変化は観察されません。しかし、その粥腫がニキビが潰れる様に弾けた時に血栓が血行を途絶し突然死を迎えるばあいもあります。
粥腫ではなく、徐々に線維化や石灰化を起こしながら、動脈硬化が進行して行く場合は、血流の上限を超えると狭心症のサインが出ます。そのような安定型狭心症では、自分でも体調管理が出来ますし、検査でも画像での裏付けが容易に得られ治療に結びつきます。少しづつ負荷を加える事で、側副血行路を育てる、心臓リハビリテーションも有効です。自分の知らない間に血管が脇から延びて来て、自然のバイパスが出来上がるので大事に至らない事もあります。
症状がない、だから健康とは言い切る訳にもいきません。検査も万全ではありません。

紫外線と目

2013-12

光の強さと持続時間の長さが障害を決めます。
角膜(黒目)の障害は、上皮細胞が紫外線で死んでしまうので、発症します。上皮がなくなると口内炎などのように沁みます。瞬間的に強い光を浴びる溶接などでは秒から分単位ですが、スキーなどの雪眼は日の単位です。
結膜(白目)の障害は、屋外スポーツでもおこります。紫外線を浴びているうちに瘢痕になり、年の単位で瞼裂炎をおこします。それが肥厚して角膜を覆う翼状片になるには数十年かかりますが、こうなると手術が必要になります。沖縄の久米島では中高年の3割に翼状片が見られます。
金沢の中学生の 検診では、メガネの文化部では1割たらずしか瞼裂炎をおこしません。屋外の体育会部活動だと6割ほど瞼裂炎になります。子供に生意気だと言わず、サングラスなども必要です。コンタクトレンズではUV対応でも白目は保護しません。
夏は日差しが高いので強くても目に入り込みにくいです。しかし冬は日差しが低いので側面や雪面から反射します。冬の紫外線は夏の半分ですが雪は8割照り返すので、夏の海辺より目に入る紫外線は数割多くなります。それ故、雪眼炎という名前が、紫外線による角膜上皮障害に付けられます。
ブラックライトや紫外線硬化樹脂などの照射でも作業者は前を向いて保護具をつけていると思いますが、脇の人はつけていないこともあります。メガネの脇から入った光が、メガネのコーティングで効果的に反射し角膜にあたることもあります。衝立や側面をカバーした保護メガネが、このような有害光線を防いでくれます。
溶接では、電気性眼炎になる率が高いです。また、ヒュームも含めて結膜の刺激を受けて、花粉症の発症率も高く出ます。
火炎をじっと見詰める、ロウ付けでは赤外線の遮光が白内障の進展鈍化に欠かせません。


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