造血幹細胞採取に疑問

2011-03-30

広島に被爆後救援で入った人たちの白血病発症は21年で113名。分母は5万名弱(8月7日と8日に広島に入った場合はダブって数えて5万人)観察期間を掛け合わせると百万人年超で113名。確かに有意に多い[pdf]が、2倍から3倍増えるだけとも言える。全員の造血幹細胞を集めるほど多いのか?
本当の放射線後遺症は、ことに急性のそれは、2日から4日で生え変わる消化管の粘膜で幹細胞が死に絶え、結果として腸が剥き出しになり酷い下痢を生じる。また、皮膚が壊死し、下の筋肉も死に絶えて、皮膚移植しても生着できない状況で、体液を喪失して死んでしまうのが、東海村の作業者の予後決定因子である。
ここを生き延びて、初めて白血病になれる。もちろん、血液幹細胞が無くなって貧血や免疫抑制状態・出血傾向に陥ることを血液の専門家が懸念を示すのは専門内に責任を持つという事である程度の理解を示すが、皮膚を予め培養するとか、末梢血から幹細胞回収を行っておく前に、作業手順で放射線管理をきちんとするのが先決、防護用具をキチンとするのが次善の策であろう。
骨髄移植してやるから特攻せよというのが、人倫を弁えているのか?蛸壺な視野では困る。

虎の門病院(東京・港区)の谷口修一・血液内科部長によると、原発事故を巡り事前採取が行われた事例は世界的にもないが、「命がけで作業にあたる人たちを守るために行うべきだ」と訴える(読売新聞2011年3月26日
東日本大震災・福島原発事故に際して日本造血細胞移植学会からの声明pdf
放射線被曝に対する造血幹細胞移植の効果は血液毒性の修復に限定されており、他の臓器に対する障害を救済するものではありません。このため、安全性の確保には限度があり、決して全面的に危険な作業を可能とするものではありません。日本造血細胞移植学会は当局に対し、自己造血幹細胞保存をしてまで作業に従事させることなく、それ以前に作業者の危機を回避できるよう輪番制を採る等の策を講じられることを推奨するとともに、作業員の人権と安全に十分配慮されることを強く要望するものです。

症例検討会に参加していなくても、新潮文庫で読める事が判った。
固形癌の推定過剰数が0.2Gy以上の11000名に対して過剰症例600名。白血病は、0.2Gy以上の13000名に対して過剰症例85名。一方、0.2Gy未満(=160mSv)だと36000名に対して白血病過剰症例9名、固形癌が過剰症例156名。これは、1950-2000年の晩期の影響の数字である。固形癌の分母と白血病の分母が異なるのは、結腸での推定線量と骨髄での線量を用いているため。よしんば、観察数にしても観察49,204名中、204症例の白血病がみられるだけである。観察数というのは、原発の影響がなくても対照でも発症していた発ガンを含んだナマの数である。


空間中の放射線量や吸入による内部被曝も懸念材料ではあるが、産業医学領域ではっきりと障害が出易いのは、手指である。作業をするときの衣類や靴で防御可能な体幹や下肢と違って、繊細な作業を行う手にはきちんとした保護具が用意できない。ロボットも実用化されていないとなると、レンチやスパナの分の距離と作業時間だけが線量を減らすツールにしかならない。戦前の放射線の医師は無造作に照射野に手をかざして指を失った。また、実際の被曝事例として、非破壊検査用の密封線源の事案が多い。千葉の事例では、インジウムで2名が治療を必要とする被曝を負い、1名は後に指を失った。
今回も水たまりの中での作業などで、末梢の壊疽などが危惧されるのは確かである。そのような事案があれば、幹細胞を四肢に注射する血管新生も期待されようが、これもまた確立された医療ではない。血管だけ再生しても、他の皮膚や骨、筋肉の再生があるかは未知だからである。


日本学術会議の見解(pdf2011-04-25)は、幹細胞を動員する薬剤のリスク「造血幹細胞を末梢血に動員する当該薬剤は造血幹細胞を刺激する作用を持っており、被ばく時に作用が持続していた場合に放射線誘発白血病のリスクを高める 可能性がある。また、当該薬剤は化学療法剤投与によりがんリスクを増やす可能性」を懸念し、JCOの経験をふまえ、保存することは不要か つ不適切と判断している。事前の処置は安心感より不安感 を作業者に増幅する可能性もあると懸念している。


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