季節の感染症

2017-sep

季節の感染症ということでお話ししますが、病気の特徴については何回か読んだり聞いたりしたことがあるでしょうから、感染対策の虚実を中心にお話しします。

[1]潜伏期間

昨日寝冷えしたからお腹を壊したとか風邪を引いたという人が居ます。
でもそれは潜伏期間を無視した物言いです。
インフルエンザは5日ほどの潜伏期間があります。
ノロウイルスとよく似た嘔吐の冬の感染症のロタウイルスの見極めは潜伏期間と罹病期間です。ノロウイルスは1泊2日で、ロタウイルスは2泊3日と覚えましょう。子供が吐いたのを掃除すると次の日お母さんが倒れます。そんな期間だとロタよりノロが疑わしくなります。
ある職場のインフルエンザとノロウイルスの発生日時ですが、インフルエンザの方は2~3日でパッと拡がって居ます。これは此処に書いてある誰が発端では無く、ある会議で無理して出席した最初の「ゼロ号患者 patient zero」がこの人達に渡して潜伏期間の幅3~7日で発症したことが疑われます。
ノロウイルスの方は5日間隔でぽつぽつ出ているので孤発例と思われます。

[2]ウガイと手洗い

みんなで並んで一斉にウガイをする絵やタオルと固形石鹸の絵を示します。
一見、予防の啓発の様ですが、考え直してもらいたくて下手ですが描きました。
インフルエンザなど多くのウイルスは飛沫感染です。ガラガラ、シズクを吹きだして、ペッと吐き出したのが、また水が跳ねて、そうやってシズクの中にウイルスがあると半径1m位に届きます。
並んで待っている後ろの人、隣で手を洗っている人に跳ねてもしそれが風邪ひきさんが咽喉痛でウガイをしているなら、伝染させてしまいます。
しずかに個別にウガイをするのは良いですが、みんな仲良くやりましょうというのは、駄目です。
ウガイはヨードなどでは粘膜を痛め傷口をつくり侵入門戸を開けてしまうので却って感染しやすくなります。水道水はそういうことがありませんし、歯磨きの洗剤など界面活性剤はインフルエンザウイルスを弱めます。歯のネトネト、バイオフィルムは細菌の巣窟ですし、感染予防にはウガイと歯磨きが良いかと思われます。
タオルの表面ではインフルエンザのウイルスやノロウイルスは半日以上生き延びます。家族や生徒で共有すると伝染のピンポンになります。ブドウ球菌の耐性菌MRSAやノロウイルスは石鹸ではやられませんので、やはり共有で感染の輪が広まります。

[3]触れる所のウイルス

客船にっぽん丸のトイレの使い捨て紙タオル

この写真は客船のトイレで撮影しました。
「ドアノブに手を触れず、ペーパータオルで包んで開けて下さい、終わったら捨てて下さい」と表示してあります。
次は便座や手摺り・ドアノブにどれくらいの量、ノロウイルスがついて居るか?15000が便座、6000が手摺り、100がドアノブです。
紙を介して開け閉めすると、手にウイルスが裏移りし難くなるとともに、拭き取り掃除と同じで、きれいになるという一挙両得です。
お尻を拭いて、大便所からドアノブを開けて、洗面台に辿り着かないと、手を洗うチャンスがありませんから、そこまでの道のり、次にトイレを使う人に、リレーしないためにも、客船の表示のようにしてもらえればとおもいます。
ペタペタ触ると、イカが墨を塗りたくる様で最新の任天堂のビデオゲームのようになっていまします。
生ガキでなくても、シジミやアサリの方が、却ってウイルスを持っているという統計が乗っています。
チェリーストーンという言い方で、ボストンなどでは蛤の貝柱を刺身で食べたりしますが、日本ではお味噌汁など火を通すとお考えでしょう。
でも砂抜きなどの間に傍らでサラダを作ったりすると、食材同士の交叉で、ウイルスがペタペタ着くことを見落とさないで下さいね。

相手との距離も問題です、派遣会社員と職場の課長・高校生と教師ならハグは今ならセクハラです。でも、保育園や幼稚園なら抱っこおんぶは愛着障害の対応の一つです。 飛沫ではなく接触の域になります。
育児や介護で、オムツ替えをして食事介助をする、平行作業があるかもしれないです。てのひら・指だけの消毒ではどうしても手の甲手首が疎かになりがちです。
看護では一患者一手洗い、一処置一手指消毒が、接触感染予防策として基本になってますが、家でも上の子の鼻水を拭いた手で下の子にスプーンでご飯を食べさせる動作を見直してみてください。

[3]殺菌より拭き取り、優良誤認

 首からぶら提げたり、部屋に置物になって塩素系などの殺菌剤が漂えば、ウイルス対策を「やった気になる」、酷い商材が此処かしこで取り扱われています。[消費者庁H26pdf]
こういう商品は国民生活センターなどが有効性が乏しい一方で皮膚や目・呼吸器の健康被害があるので買わないように呼びかけています。
たしかに噴霧のアルコールによる手指消毒剤ではノロウイルスは死にません。ただし皮脂を浮かせて表面について居るウイルスをペーパータオルで拭う事は出来ます。数を減らせば当たりも減ります。
空気清浄器も同様です。HEPAフィルターなどで吹き出し口の空気は漉しとられてきれいになって居ます。でも風下に行くにしたがってその間に居た人の塵埃が加わります。部屋のウイルスが空気清浄器でゼロにはならないのです。
フィルターでは無くプラズマなどを謳っている製品もあります。これはこれで問題です。静電気が髪の毛を下敷きに吸いつける理屈で埃を減らすのですが、フィルターの2割程の性能しかありません。殺菌目的でオゾンが発生する製品もあります。[国民生活センターH21 pdf]ウイルスや細菌をやっつけるには1ppmより高い濃度が必要です。一方で、人間のほうはオゾンに弱いのでアメリカの基準では0.05ppm、日本では0.1ppmが上限です。ちなみにオゾンの仲間、光化学スモッグの発令基準は0.12ppmです。対策をした製品では吹き出し口で0.05ppmを切るように設定しているので吹き出した空気が殺菌する力は望めません。一方で実際に規制以上の濃度のオゾンを出す商品が有り健康被害が報告されています。オゾンの脱臭の実感のかなりの部分が粘膜障害の結果というのは覚えておいてください。
首から下げた名札型の商品[国民生活センターH25pdfもウイルスが入る口の高さには塩素系の消毒剤は立ち上りません。ぶら提げた札が接触する皮膚や衣服が漂白されて被害が出てそれも自分では無く、混雑した電車の中の他人が被害という笑えない話になります。
みぞおちの辺りだと子供の顔の高さで眼や口に消毒剤がくっ付くのです。

[4]インフルエンザとノロと他の風邪

 通常はノロウイルスは11月下旬から始まり、正月過ぎに終息します。
 ちょうどその時期子供の鼻かぜのRSウイルスがピークを迎えます。
 ノロウイルスの子供を小児科に連れて行くとRSウイルスを貰って帰り、RSウイルスの子はノロを拾って帰り、また具合が悪くなるという塩梅です。
 ただし、2017年に関しては、RSウイルスの流行が8月に始まったので、例年のような「クリスマスの交換」は無いかもしれません。
 インフルエンザの流行が実際に始まるのはクリスマス頃です。期末試験のころに熱など上気道症状が有った場合は例年RSウイルスのことが多く当然インフルエンザウイルス抗原検査が陰性になります。インフルエンザの薬はRSウイルスには効果ありませんが、外来では出す出さないの揉め事が毎年繰り広げられます。
 RSウイルスはウイルスが去った後が厄介で、引き続き肺炎を伴ったり中耳炎を起こす子は多いです。

[5]インフルエンザの流行の規模とワクチンの効き目

1000名ほどの事業所のうち、50~100名ほどが1シーズンで休みます。職場でワクチンを打っている方が6割程の感染数、4割引の欠席数で済みます。
NNT(number needed to treat)一人の罹患を防ぐのに何人に投薬すれば良いかという計算をすると40人打つと一人減る勘定になります。
全員を防ぐことは出来ません。それでもワクチンで減らし、手洗いで減らし、掃除で減らし、ノロウイルスなどでは調理法で減らしていきましょう。 流行を早期に知るには、日本医師会の取りまとめているインフルエンザ治療薬の処方数のページも流行をしる端緒になります。http://prescription.orca.med.or.jp/syndromic/kanjyasuikei/index.html 県や国がインフルエンザ拠点の受診者数をまとめていますが、報告が週報なので先週の数字になってしまいます。ただし、警報レベルになった4週後がピークになる事と上り坂と同じく下り坂で警報が解除になるのはその更に4週後ということは頭に入れて置いてください。

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