大阪大谷大学
栄養・健康食品研究会

平成27年3月16日、消費者庁が大阪で開催した食品表示法の説明会を聴講しました。その概要を報告します。

1. 食品表示法の概要について

これまで食品衛生法・JAS法・健康増進法の三法で規定していた表示規則を整理し統一するのが目的で、(薬学の学生が勉強している範囲では)個別の規則について大きな変更はありません。栄養表示が義務付けられる等の変更があります。

アレルギーを起こしやすい「特定原材料」の表示は、パッケージの表示面積が狭い場合でも必要です。(生鮮食品のとき不要であることは変更ありません。)特定原材料の表示は、個別表示を原則とし、一括表示も可能であるとのことです。つまり、現在行われている方法(原材料欄とは別の箇所に特定原材料だけを列記)でも良いですが、原則として原材料欄内に書いて欲しいとのことです。キャリーオーバー等の事情で極少量しか含有されない場合、原材料欄に食材を列記するのは現実的ではないので、従来方式の欄外一括表示で対応するということです。また、従来パンやマヨネーズに小麦や卵が含有されていることは常識的に分かるからという理由で小麦や卵の表記が免除されていましたが、これからは表記が必要になります。知識が充分でない子供にも分かりやすいようにという配慮であるとのことです。

原材料と添加物を、区別して表示することになりました。「添加物」と題を設けて表示しなくても、スラッシュや罫線や改行などで分けて表示すれば良いとのことです。添加物の一括表示や用途名併記などの規則は変更ないようです。

成分が通常の食品よりも多く含有されている場合や少なく含有されている場合のルールが変更になっています。

移行のための猶予期間が設けられるので、平成27年4月から直ちに変更しなければならない訳ではありません。

2. 機能性表示食品について

健康増進法で定める「特別用途食品(特定保健用食品を含む)」・「栄養機能食品」とは別に、食品表示法で「機能性表示食品」が定められます。ただし、一つの製品が特定保健用食品と機能性表示食品を兼ねたり、栄養機能食品と機能性表示食品を兼ねたりすることは認められません。

特定保健用食品では、(一部の規格基準型を除いて)製品ごとに臨床試験が必要でした。機能性表示食品では、製品について臨床試験をしても良いですが、製品について臨床試験を行わなくても、成分についての臨床試験データがあれば申請できます。しかも、他の研究者が発表した臨床試験データを引用しての申請が可能です。ここが大きな規制緩和ということになります。ただし、申請に必要な臨床試験データを引用で済ませる場合、学術論文として出版されていることが必要です。また、有効性データの他に、安全性のデータも必要です。レビュー(総説)が出版されているか、申請者が自分で論文を調査してレビューをまとめることが必要なようです。

食事摂取基準に掲載されている栄養素をもって機能性表示食品を申請することは認められません。ただし、以下に挙げる物質は機能性表示食品として申請できます。(栄養素としての機能とは別に健康機能が広く認められ、トクホがたくさんある物質がこれに該当するようです。)タンパク質関係では各種アミノ酸と各種ペプチド、脂肪酸関係ではγ-リノレン酸、アラキドン酸、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、食物繊維では難消化性デキストリンとグアーガム分解物、ビタミンA前駆体のβ-カロテン、α-カロテン、β-クリプトキサンチン等です。

「疾病リスク低減表示」は禁止です。薬効表示との境界はトクホと同様と思われます。特に「免疫力増強」という表現が警戒されているようで、例を挙げて説明されていました。免疫力増強を表示するためには、一部の細胞や一部の遺伝子発現を指標としたデータでは不充分で、免疫全体の機能を評価する必要があるとのことです。許可表示は、製品で臨床試験を行ったか成分の臨床試験データを引用したかで異なります。成分の臨床試験データを引用して申請した場合、許可表示は「○○については△△の効果が有ると報告されています。この製品には○○が含有されています。」と、文を区切る必要があります。

食経験が充分にあるかが問われます。日本の制度では今までなかったもので、EUやアメリカの制度に倣っていると思われます。ただし食経験が充分にとはどの程度の基準であるかは、明確ではありません。(EUは厳しくアメリカはあいまいです。)

今回、EUのようなポジティブリスト制にすることは見送られました。ポジティブリストにすると、リストに載っていない食品を健康食品にすることができず、新規開発を妨げるとの判断であるとのことです。

3. その他

消費者庁では質問や相談を受け付けているが、全国から質問や相談が集中するとパンクしてしまうので、食品製造業界の方はできるだけJAや業界団体で相談したり、地方自治体の担当部署で相談したりして欲しいとのことです。

感想

機能性表示食品について個人的な感想を申しますと、当初審議が始まったと報道されたときに喧伝されたほど安直なものでななく、結構厳しいです。決して効果が無いのに効果が有ると表示することが許可される訳ではなく、薬効表示も禁止です。今回の規制緩和は、製品で臨床試験を行わなくても、成分についての既存の臨床試験を引用することで申請が可能であるという点にあると思います。

「免疫力増強」については、私は自分の過去の研究の経緯から、思うところがいろいろあります。健康食品業界が期待しているような「免疫力増強」を、免疫学の世界ではなかなか研究していないのが実情です。近年は日本食品免疫学会で、たくさんの報告が行われています。いわゆる「免疫力」を評価する方法についても、日本食品免疫学会で検討されているところです。