第55回定例会
第56回定例会
第57回定例会
21世紀の初頭、産業疲労研究のニーズは拡大しているとみてとれる。いくつかの条件が重なっていることは確かだ。一つは、私たちの働き方が大きく変化していることと関連が深い。労働分野での規制緩和や、IT化の促進、企業の管理方式の変化などがあいまって労働形態(働き方)が多様化していることは事実である。これらのことは革新的で、労働者の能力発揮や自己実現にとっても挑戦的な要素が大きいとみられていた。しかし、現在の経済環境が、企業の選別と集中を要求するあまり、こうした労働分野での意欲的な変革について、企業内部で熟成するゆとりがないためか、活用の方法に大きなブレを来している。当然、「新しい働き方」についての評価は人によってまちまちである。こうした現在の状況は、産業疲労研究のニーズそのものとみることができ、かつ役割を果たす格好のチャンスとみる。しかし、私たちがそのニーズをしっかりと受け止め、この状況打開に適切なデータ集めができているか、また、私たちの間で熱意のある議論ができているか、社会へ有効な情報発信ができているかと自問すると、残念ながら「否」である。
昨年、30年ぶりに「自覚症しらべ」の改訂を行った。多くの会員の協力によるもので、研究会の成果物としては久々のヒット作品といえる。詳細は、「労働の科学」5月号(2002年)や研究会のホームページに掲載されているのでそちらを参照いただきたい。松下電器の山本理江さんからは、「今年から毎年新版自覚症しらべを実施することになった」旨の便りをいただいている。これはすごい。「やった」と双手を上げたい。しかし、欲張りな内心を正直に吐露すれば、山本さんたちの英断はむしろ少数で、せっかくの労作なのにいまひとつ盛り上がらないなあというのが実感である。これから本当に使ってもらえるのだろうか。やや不安である。
2つの原因を考えたい。第1は、労働者の疲労は、作業の経過において疲労のすすみ方を調べるような「疲労」ではないと、産業疲労の研究者たちが判断したのかもしれない。作業や作業環境の改善がすすみ、作業の経過のなかで見てわかるような(亜)急性疲労が問題となる職場は減っていて、慢性疲労の問題が浮上していることは確かだ。この急性疲労から慢性疲労への転換は、疲労研究の方法の転換を要請している。第2は、私たちの最近の研究スタイルと関連することではないか、と思う。前版ができあがった1970年以降のことを考えても、「自覚症状しらべ」はよく使われてきた。比較的簡単なチェックによって、リスクアセスメントがすすむよさがあったからにちがいない。もう一歩、突っ込めば、「自覚症状しらべ」は現場と研究者をつなぐツールであって、このツールを手がかりにして現場へ入り込もうとしていたように思う。「自覚症状しらべ」を使うことと、実際の仕事を見ることは同じことであった。仕事をみないと何故、時間とともに、○が増えてくるのかわからない。
いまどきはどうか。私たちの労働現場を見る機会が減っているように思えてならない。見学はできても、時間をかけた観察がなかなかできない。それ以上に現場との連携によって実勤務、実作業を追ってデータを集める手法が根付かない。観察の必要性を訴え、現場との連携によって現場へ入り込む熱意に欠けているのかもしれない。いずれにしろ、せっかくのニーズがありながら、みすみすそのチャンスを逸している。そして、結局、現実の変わり様の早さを止めるどころか、早さについていけず、本質が見えないまま、つぎの方法論が提案できないでいる。労働現場が産業疲労研究の原点である。働き方がいかようにかわろうとも、労働者の喜び、労働者の嘆きは労働の現場から発せられる。
産業疲労研究会には、多様な人材が離合集散を繰り返している。働く場、生活の場と連携しながら、世代を超えて議論のできる場として「産業疲労研究会」は生きつづけたい。ゆっくりと、そして丹念に現場観察の結果を持ち寄り、産業疲労の視点から見た実態報告と、「働き方」の行方について議論したい。そこが掘り起こされてくれば課題もわかるし、方法論も自ずと決着が付く、と期待する。
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2000年度、2001年度はともに2回の定例研究会を開催した。第53回定例研究会は2000年2月5日に和歌山県立医科大学で開催した(詳細は前号に記載)。第54回研究会は、北九州で開催された第73回日本産業衛生学会の自由集会として2000年4月26日に開催した(参加45名)。本定例会では特別講演を2つ企画し、特別講演1では、宮北隆志氏(熊本大学)が「農業労働と疲労対策」と題し講演を行った。特別講演2では、古川政志氏(松下電器ビデオ事業部)・千田恭子氏
(松下産業衛生科学センター)両氏が「現場における負担軽減策」をテーマに講演した。
第55回研究会は、2001年2月24日に名古屋市立大学医学部新厚生会館(参加18名)で開催した。一般演題4題と、第4回自覚症状しらべ改訂ワークショップを酒井世話人代表の司会で行った。
第56回定例研究会は、高知で開催された第74回日本産業衛生学会の自由集会として2001年4月5日に行った。特別講演として吉竹 博氏(高知大学)が「自覚症しらべの問題点−利用した経験から」をテーマに講演を行った。その後、第5回自覚症状しらべ改訂ワークショップを行った。参加者は54名であった。
第57回定例研究会は、2001年10月11日天理大学で開催した(参加18名)。特別講演として岡田 明氏(大阪市立大学)が「作業負担軽減のための人間工学規格−その応用と規格整備の動向について−」とテーマに講演を行った。その後、第6回自覚症状しらべ改訂ワークショップが行われた。
2001年10月9日には作業条件チェックリスト研修会が愛知機械工業株式会社熱田工場で行われた(参加者34名)。
研究会ホームページは、随時新たな情報と差しかえられており、1996年12月27日以降のアクセス件数はのべ3950件であり(2001年3月現在)、月平均150件である。研究会の登録会員は、2001年3月現在で215名である。
2000年度、2001年度会計報告は以下に示す通りである。
2000年度研究会会計の決算報告は以下の表に示すとおりであり、すでに第55回研究会総会で承認されている。
───────────────────
2000年度 産業疲労研究会
会計報告
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収入
昨年度繰越 303,554円
平成12年度本部補助金 60,000円
会員登録費 38,000円
利息 214円
小計 401,768円
支出
会報印刷費 32,550円
郵送料 36,540円
謝金 30,000円
プロジェクター使用料 3,000円
次年度繰越金 299,678円
小計 401,768円
総計
収入−支出 0 円
──────────────────
2001年度研究会会計の決算報告は以下の表に示すとおりであり、すでに第57回研究会総会で承認されている。
───────────────────
2001年度 産業疲労研究会
会計報告
───────────────────
収入
昨年度繰越 228,891円
平成13年度本部補助金 60,000円
会員登録費 9,500円
利息 246円
小計 298,637円
支出
例会補助金 50,000円
封筒印刷費 8,190円
郵送料 38,480円
文具代 9,660円
次年度繰越金 192,307円
小計 298,637円
総計
収入−収支 0円
──────────────────
000年2月24日(土)10:00〜16:00
名古屋市立大学医学部新厚生会館
担当世話人:井谷 徹
<一般演題>
演題:1.
医療事務作業者における労働負担調査 −作業内容と負担の関連
鈴村初子、城 憲秀、坂村 修、
井谷 徹(名古屋市大・医・衛生)
病院医療事務従事者の労働・作業状況や疲労・ストレス状況を把握し、それに基づく対応策の検討を目的として本研究を実施した。対象は、病院医療事務従事者207名(年齢30.6±7.5歳・勤続年数2.8±3.1年)であり、これらの対象者に身体・精神的負担状況や作業条件に関する質問紙調査を行った。このうち21名ではパフォーマンステスト、タイムスタディ、心拍変動測定も実施した。医療事務従事者では、慢性疲労傾向が強く、JCQの結果からは仕事の要求度の値が高かった。また、作業条件では温度、照明等の作業環境が不適切との回答も多かった。タイムスタディからは窓口作業中は90%以上の時間が立位姿勢であり、負担が高いと思われた。以上の結果から、医療事務作業は、量的負担が大きく、同一姿勢による長時間の拘束がみられた。作業内容や方法の見直し、作業環境の整備の必要性が示唆された。
演題:2.
某中小企業規模製造業に従事する作業者の作業負担感について
赤築秀一郎、藤井敦成、神代雅晴(産業医大)、近藤雄二(天理大)、川上満幸
(東京都立科学技術大)、山田琢之(なごや労働衛生コンサルタント事務所)
目的:今後、深刻化していく問題点の1つに労働力の高齢化がある。そこで、今回、加齢に伴う作業者の作業負担感の変化、身体的労作と身体的・精神的混合労作との違い、加齢と職務適応能力との関連性について調査した。
方法:中小企業規模の機会製造業に従事する男性従業員121名(20-59歳)を対象とした。年齢による変化を観察するために5歳ごとの区分を行った。以下のアンケート調査を無記名にて行った。作業疲労感を評価するため、自覚症状しらべ、SACL、蓄積的疲労徴候インデックス、腰痛のJOA-Scoreを用いた。職務適応能力を評価するため、Work
Ability Indexを用いた。
結果:全体的に対象者の負担感は高い傾向にあった。40-49歳群に、疲労に関する訴え率のピークが認められた。55-59歳群では、大部分で良好な結果が得られた。労作種別に関して、疲労に関する訴え率は身体的労作群よりも身体的・精神的労作群に高い傾向が得られた。職務適応能力について、40-49歳群にて低下を認めた。
演題:3.
近年の過労死裁判例の傾向(1)
演題:4.
近年の過労死裁判例の傾向(2)
三柴丈典(近畿大・法)
近年の過労死裁判例の傾向を、@労働の過重性判断の力点、A使用者の責任認定根拠 A−(1)安全配慮義務か注意義務か A−(2)安全配慮義務(注意義務)の具体的内容、B因果関係の判断枠組み、C過失相殺(の類推適用)の4視点から分析する。報告は2部に分け、@Aを前半、BCを後半に配分する。@では、裁判例において、労働の過重性(ストレッサー)が、労働の長時間性を中心とするものから、むしろ労働による精神的緊張ないし負担にわたるまで幅広く認められている状況を報告。Aでは、(1)で、安全配慮義務概念の基礎的説明と注意義務概念との相違を説き、裁判例の使用状況を述べた後、(2)で、裁判例が認める具体的義務内容を、4類型に分けて報告する。Bでは、特に自殺事案に注目し、裁判例の因果関係判断のあり方を分析する。その特徴として、(1)事実的因果関係と法的因果関係の区別、(2)共働原因論や相対的有力原因論の採用と排除、(3)二段階にわたる因果関係判断、(4)民事損害賠償請求事案と労災補償認定請求事案との近接化、(5)行政の労災認定基準の不考慮、といった点を述べる。Cでは、過失相殺(の類推適用)につき、その「公平」性を分析する。
<第4回自覚症状しらべ改訂ワークショップ>
第4回ワークショップは、9名のワーキンググループメンバーのほか、多くの産業疲労研究会参加者が出席し、議論が交わされた。本ワークショップでは、試行調査を実施した全国6事業所での調査結果に関する中間報告を行った。延べ865名から得られたデータを因子分析したところ、旧T群が主体の「ねむけ」、旧U群を中心とした「注意集中困難」、旧V群が多く含まれる「不快」、局所の痛みやだるさを表す「運動器症状」、目のつかれを表す「視覚症状」、それにストレス感のような「焦燥抑鬱」の6因子が検出された。参加者による討論を行ったが、例数をもっと増やすこと、改善志向を強めること、早期に改訂調査票を発表すること等の助言が出された。討議の結果、さらに詳細な分析ができるような調査を今後も継続することにした。
2001年4月5日(木)18:00〜20:00
高知グリーン会館ホール
担当世話人:酒井一博
<特別講演>
「自覚症状しらべの問題点−利用した経験から」
吉竹 博(高知大学)
現在、改訂作業が進んでいる「自覚症状しらべ」について、調査票利用経験から、調査票が有する問題点を明らかにされた。
「自覚症状しらべ」を利用して感じた問題として、第1に、内的状態の言語化の難しさがあげられる。回答者の周辺条件における差、あるいは設問内容の社会的望ましさなどが回答に影響を与える。例として、U群(注意集中の困難)は、内容的に偏見を生じせしむる余地があり、回答者に対して無言の圧力を与えることも考え得る。このような影響は、その症状があるという回答をしにくくするものであろう。第2に、調査票は、回答者の「今」の状態を質問しているが、「今」という時点は個々人で幅があり、回答者によってタイムラグの大きさが違ってくる可能性も指摘される。このことが回答の評価に影響を及ぼすこともあるかもしれない。3番目の問題として、症状判断基準のずれがありうる。作業前後で調査すれば、前後の判断基準は変化していることもあり、一般的に、作業後の訴えは症状が高い方向に向かって変化する。また、高齢者と若齢者で反応を比較すると、若齢者の方が高い反応を示すことが多い。これも基準が個人間や特定集団間、条件間で異なることを示唆している。設問の意味分析の問題が第4の課題として考えられる。たとえば、「気分がわるい」という表現は拡散的・心理的・非構造的であり心の表層を表すものと考えられるが、同じような意味で使われうる「気持ちが悪い」は収斂的、生理的、構造的で心の深層を表すものである。このように設問の表現によっては、回答内容に差が生じる可能性もあるので十分に注意すべきである。
さらに、訴えに至る心理的メカニズムも個人によって異なる。同じ条件でも、repoterとnon-reporterによって訴えの差が発生する。
以上のような問題点をご指摘された後、これらの問題を十分認識したうえで、今後の改訂作業をなすべきことやその他多くのご助言を頂戴した。
(文責 事務局)
<第5回自覚症状しらべ改訂ワークショップ>
特別講演に引き続き、第5回自覚症しらべ改訂ワークショップを開催した。多数の自由集会参加者のほか、11名のワーキンググループメンバーが出席した。継続中の試行調査第2次中間報告が行われた。データは全国10事業所の延べ1450名から得られた。因子分析結果からは、5因子が検出された。前回のワークショップで検出された「焦燥抑鬱」的内容を表す質問群は、「注意集中困難」と同一成分となった。因子数が前回ワークショップ時とは異なっており、今後、サンプル数の増加や解析手法を再検討するなどの検討が必要と思われた。参加者による討論からは、もっと新しい職種の調査を行うべき、例数のさらなる増加などの要望がだされた
2001年11月10日(木)13:00〜16:30
天理大学杣之内キャンパス研究棟3階会議室
担当世話人:近藤雄二
<特別講演>
「作業負担軽減のための人間工学規格−その応用と規格整備の動向について−」
岡田 明(大阪市立大学)
第57回産業疲労研究会は、大阪市立大学大学院の岡田 明氏を招いて「作業負担軽減のための人間工学的規格−その応用と規格整備の同行について−」の講演を催した。岡田氏は、ISO/TC159の国内委員会委員やTC159/SC3の幹事国委員会などを勤められれており、国際規格等を踏まえた国際動向やいま流行しているハーマンミラー社の人間工学的配慮を施したアーロンチェアーに何故、人気が集まっているかなどを導入部としながら、人間中心のツールとして人間工学的発想の重要性についての話しを展開された。
人間工学とその応用に関する課題では、ユニバーサルデザイン、バリアーフリーとして行われている商品や町づくりの事例をもとに、今なぜ人間中心のモノづくりが求められているのか、これまでなぜ人間中心のモノづくりが進まなかったのかについて考察をされた。人間工学規格については、国際標準化機構ISO(アイソ)の技術委員会159(TC159)で審議されている国際規格を中心に、ISOを審議する組織や規格に至る道筋について紹介された。欧米と日本における作業負担評価と規格の考え方の違い等に触れられた後に、今後の課題として、使える人間工学データベースの構築、設計のためのデータ翻訳手法の確立、人間工学を知っている人材の育成を図りながら、人間工学標準・ガイドラインづくりを進めていくことの必要性が強調された。
(文責 事務局)
<第6回自覚症状しらべ改訂ワークショップ>
ワーキンググループメンバー5名が出席して、例会参加者とともに自覚症状しらべの改訂について意見の交換を行った。全国の12事業所から延べ1549名のデータを収集した。これらのデータを因子分析したところ、5因子または6因子が検出されたが、いずれの場合も、因子負荷量の上位5質問を選択し、これらの項目ついて再度因子分析を実施すると、6因子のときには元の因子数には戻らず5因子に縮小した。5因子では元と同じ因子が設定された。したがって、現在の結果からは5尺度が妥当と考えられた。今後の課題として設問の選択、尺度の名称の決定、発表の方法などがあげられた。最終的な判断は、2002年11月19日に開催する最終打ち合わせで決定することとした。
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2001年10月9日(木)13:00〜16:30
(株)愛知機械工業熱田工場
担当世話人:井谷 徹
第6回作業条件チェックリスト研修会は、2001年10月9日(木)に株式会社愛知機械工業のご協力と井谷世話人の企画で、愛知機械工業熱田工場で行われました。はじめにチェックリスト研修の目的、意義、対象職場の概要説明後、職場見学を各グループごとで行い、追加項目の検討などを行いました。昼食後、チェックリストを用いて職場巡視を行いました。この職場ではラックを用いた部品類の整理整頓、パンフレット運搬カートやつり下げ電動工具の導入、使用頻度による工具配置などきめ細かなところまでよく改善されている職場でありました。職場巡視後、よい点、改善点についてグループディスカッションを実施し、最後に全体討議行い、参加者から活発な意見やコメント等がありました。参加者が提案した改善点については、職場担当者の方々から、経験に基づいた様々なコメントを頂きました。今回の参加者は、現場の産業保健スタッフ、衛生管理者のほか、学生の参加も多くみられ、非常に和やかな雰囲気の中、研修会が進められ、参加者にとって大変有意義なチェックリスト研修会でありました。
参加者の声
榎原 毅
(名市大院医 労働・生活・環境保健学分野)
2001年10月9日(火)愛知機械工業株式会社熱田工場にてチェックリスト研修会が開催された。参加者は34名であった。「改善志向型チェックリスト」を用いた参加型産業保健活動の意義の理解と使用方法習得がその目的であった。コーディネーター役の井谷世話人からチェックリスト研修会の目的・意義・方法論について説明があり、その後チェックリストをもとに自動車エンジン生産ラインの職場を巡視し、小グループ別討論・発表を行った。
作業条件チェックリストは改善志向型になっており、問題点を指摘するのではなく、改善の必要性をチェックする形になっている。また、併せて良い事例や良い工夫についてメモを残すことで、よい改善例を多職場へ水平展開することができる。職場巡視の際、我々はどうしても要改善点ばかりに注意が集中しがちであるが、本チェックリスト方式のおかげで職場巡視の視野が広がった。実際にこの職場を見学させて頂いた際に、作業者自身が日常の作業の中で常に作業改善を意識し、生産性・安全性・快適性向上に積極的に取り組んでいる事例を数多く発見でき、本チェックリストの有効性を実感することができた。
研修会最後の総括として、世話人である酒井先生の話の中で、産業保健活動の基本は「ポケモン」だと教わった。@現場へ出向いていって(歩(ポ))、A実際の現場を観察し(見(ケ))、B労働者の意見に耳を傾けること(聞(モン))、この実践が重要とのこと。まさに本チェックリスト研修会の実践内容であり、この方法論を用いれば労働者主体の新しい産業保健活動が展開できると感じた一日だった。
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農業の3Kと現場改善
菊池 豊
(生物系特定産業技術研究推進機構基礎技術研究部安全人間工学研究)
私は生研機構という、農林水産省の外郭団体に所属し、農業機械の安全問題や、労働負担軽減等の研究に取り組んでいます。
「生命の世紀」と呼ばれる21世紀、農業の発展が注目されています。しかし、実際の農業現場は、3K(危険、汚い、きつい)作業が山積しています。持続的に発展するためには、3C産業(Comfort、Clean、Creative)へ転換する必要があると思います。
それらを後押しするために、対策選択型チェックリストの農業版である「農作業現場改善チェックリスト(以下、チェックリスト)」を2000年に発行しました。チェックリストでは、共通的なカテゴリーとして、1)重量物運搬の負担軽減、2)作業姿勢の改善、省力化、3)作業場・圃場の整備、4)作業環境の改善、5)機械・道具の安全使用・管理、6)農薬・燃料の安全使用・管理、7)福利厚生、衛生管理等の対策49項目を列記しています。
チェックリストは印刷物、ホームページ(http://anzenweb.brain.go.jp/webdata/index.htm)閲覧を併せて9,000人に普及し、現場で活用されています。農業現場は、常に季節や、作物、周辺環境等が変化する特徴に合ったのだと思います。
ところで、製造業では、「多能工」といい、製品を部品から完成品まで自分で組み立てる職人による生産を始めているそうですが、昔から農家は「百姓」と呼ばれていました。農業は100個の知識、技能が必要という意味であったからとも言われております。つまり、農家は昔から多能工であり、農業を営む醍醐味の一つといえます。実際に「篤農家」と呼ばれる幅広い知識、技能を持っている方々が沢山います。今後、農業が持続的に発展し、3A(Anzen安全、Anshin安心、Antei安定)産業へ移行することを期待し、農家の皆さんを後押しして参りたいと思います。
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最近思ったこと
山本理江(松下健康保険組合・産業医)
最近研究会などで「生きかた・働きかたを見つめなおす」ということが提案されているのを耳にすることが多くなった。哲学的な感じ?がして近づきにくい。自分がこれまで頑張ってきた生き方を否定されるのはつらい。また、パターン化したスタイルを変えるにはエネルギーが必要になる。ついつい生活習慣の改善という安直な方向へ行きたくなる。働き方を変えるとすると経済的にも負担だ。そんな様々な負の作用を超えてまで「生きかた・働きかたを見つめなおす」ためにはどうすればよいのだろう。他人が提案するのではなく、個々人の価値観を生き方に反映させることなのではないかと思ったので、次のような方法を考えてみた。
まず、自分にとって価値のあるものとその重さを問うてみる。例えば家族50点、自分の健康40点、仕事30点、趣味10点など、思いつくものをならべて点数をつける。その割合を24時間に当てはめてみる。そうすると家族で過ごす時間9.2時間、睡眠7.3時間、仕事5時間、趣味1.8時間。自分自身の価値観が望んでいる「生きかた・働きかた」を時間であらわすとこうなるのだろう。これと実際の時間の使い方とのギャップがストレスを生む。こんなふうに考えてみれば、「生きかた・働きかた」を変えていくことに対する心理的な負の作用が少しは軽減されるのではないだろうか。
もう一つ、最近ときどき思うのは“もし、私が原始時代に存在したらなにを考え何を求めるだろう?”まず食料を確保したい。自分や子供たちを獣から守る洞窟がほしい。余裕があったら壁に絵を書いたりするのもいい。それ以上思いつかないのは私の創造力が乏しいからなのか。けれど、これで十分なのかもしれない。言い換えれば“健康”、“安全”、“文化”が含まれているからだ。それにくらべて、現代に生きる私はどうだろう。原始時代に求めたはずの健康、安全、文化を代償にして他のものを手に入れようとしている。それが何かを言葉で明確にできないが、実験的に表現してみると“便利”、“見栄”、それから“自己実現”。そんなことを考えながら原始時代と現代を行ったり来たりしている。
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国際技術支援で思うこと
宮下和久(和歌山医大・衛生)
国際協力のあり方をめぐって、その戦略、方法が論議されて久しい。労働安全衛生に関する国際協力も、従来の施設(ハコ)、機器(モノ)のハード主体の支援から、技術支援、教育等のソフト支援に大きくその軸を移動させている。
国際協力事業団(JICA)では、主として開発途上国を対象とした技術セミナーを多領域の分野で開催しているが、筆者は労働衛生分野の一つの技術セミナーである「作業環境改善技術Uコース」の企画、運営に数年前から関与する機会を得ている。対象は、開発途上国の労働安全衛生に従事する行政技術職あるいは研究職等の専門職で、10名程度をJICA大阪センターに毎年受け入れている。
講義、環境測定、分析実習、労働省、中災防等の関係機関への訪問、工場実地見学実習など盛り沢山で、約2ヶ月のプログラムである。企画、運営の委員会は、プログラムに実際に携わった立場から、受け入れ側としての実施効果、問題点、また、研修生側の意見、希望を討論のテーブルに上げ、次のプログラムに反映させている。学習目標GIO、SBOを達成するための考え方として、研究生のバックグラウンド、その国のニードに合ったプログラム、参加型プログラムが非常に重要であることを痛感している。従来はどちらかというと、労働衛生の日本の制度、考え方を隅から隅まで“教え込む”講義の多い研修プログラムであったものを、実習主体、それも現場に学ぶ参加型へと大きく転換を図ろうと試みている。丁度本年度から、JICA神戸センターの生物学的モニタリングコースと合併して「作業場におけるリスクアセスメント」として衣替えしたのを契機に、参加型セミナーをさらに充実させていくことになった。この参加型受け入れ現場として、従来から本研究会世話人の茂原治先生の住友金属和歌山工場および和歌山健康センター、中災防大阪センター河合俊夫先生と私が関与してきた和歌山県漆器組合が引き続き参画していくことになっている。そこでは、測定分析技術を身につけた上で、実際に現地に赴き、デザイン、サンプリング、分析、評価を行うことになっている。さらに、現地実習の一環として、研修生と地域産業に携わる人々、広くは、地域住民との交流を企画している。こういった参加型の国際技術支援を推進することによって、受け入れ先の人々との交流の輪を広げ、ひいては日本と研修生の国、地域との間で技術的交流のみならず経済的、文化的交流の発展につながればと願っております。このような包括的な国際協力が、これからの国際協力の一つの方向性ではないかと思っております。
ところで、本コースに加えて新しいJICAの労働衛生技術支援コースとして、作業管理・エルゴノミクスに関連するコースも検討されていると聞いております。これも、ぜひ、参加型研修コースとして企画・運営されていることを期待し、一会員として本研究会としても支援できればと願っているところです。
[目次へ]
名称及び事務局
第1条 本会は,日本産業衛生学会産業疲労研究会(以下,研究会という)と称する.
第2条 本会の事務局は,世話人会の指定するところにおく.
第60回 定例研究会(第76回日本産業衛生学会自由集会)
日時:2003年4月24日(木)18:00−20:00
場所:社会福祉会館大ホール(山口市)
特別講演 座長 瀬尾 明彦(東京都立科学技術大学)
テーマ:自動車の運転における快適性、疲労軽減への取り組み
(シート、ペダル、シフトの機械特性と人間特性のマッチング)
農沢隆秀(マツダ株式会社クラフトマンシップ開発グループ)
ワークショップ コーディネーター 酒井 一博(労働科学研究所)
テーマ:作業条件改善のための調査ツールの提案に向けて
−疲労部位調査票と職場改善チェックリストの検討−
[目次へ]
本年度4月より城 憲秀に代わって私、武山英麿が事務局を担当することとなりました。微力ながら会員の皆様のご支援を賜りつつ、本研究会を盛り上げていきたいと考えております。何卒、よろしくお願い致します。
昨年発行予定の第10号が諸般の事情から発行できませんでした。そこで誠に勝手ながら、この度、第11号との合本で発行させて頂きました。会員の皆様方には心より詫び申し上げます。
また、研究会ホームページもしばらく更新が滞っていた時期があり、会員の皆様方にご迷惑おかけしました。現在、定例研究会などの報告、ご案内などできるだけ頻繁に更新していきたいと思います。会報やホームページは、会員相互の情報交換の場としても、今後もよりよいものにしていきたいと思います。ご意見、ご希望など、どんどん事務局にお寄せください。次号は本年5月に発行予定です。
事務局:〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1
名古屋市立大学大学院医学研究科労働・生活・環境保健学分野
TEL:052−853−8171,FAX:052−859−1228
E-mail : eisei@med.nagoya-cu.ac.jp
ホームページ:http://square.umin.ac.jp/of/
| 事務局: | 〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1 |
| 名古屋市立大学医学部衛生学教室内 | |
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| FAX:052−859−1228 | |
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