会員による論文・執筆を紹介します。ご覧ください



くまさん倶楽部への投稿文です

▼ さらば喫煙(1)わかっちゃいるけどやめられない(平成23年2月1日号)
 「わかっちゃいるけどやめられない」とはスーダラ節に登場する有名な歌詞です。この「わかっちゃいるけどやめられない」話しをさせていただきます。
 喫煙者の方に禁煙の話しをすると、「体に悪いのは知っている、でもタバコをやめるのは・・・」とお考えになる場合が多いようです。「体に悪いし、タバコはいつかやめなきゃ」と思っている自分と、「タバコを吸ったときの気持ち良さは捨てがたい」と思っている自分。2人の自分がいて、心では常に綱引きをしている状態だといわれています。
 ある方は、喫煙のため肺が悪くなり、酸素を吸わねばならない位にまで悪化しました。それでも最も危険なタバコをやめられません。最後は、肺が機能しなくなりお亡くなりになりました。この方は「わかっちゃいるけど」といつもおっしゃっていました。なぜ人はこのような相反する行動をとるのかが、医学的にわかってきました。
 喫煙に伴って摂取されたニコチンは、数秒で脳内の神経に結合し、ドパミンという物質の分泌を促します。このとき、喫煙者は快感、ホッとするなどの症状を自覚します。しかし一旦禁煙すると、イライラ、欲求不満、集中困難、だるさ、不安、食欲増加などの様々なニコチンの禁断症状が出現し、禁煙が困難になります。これが、ニコチン依存症の病態です。
 タバコを合計で4本吸った未成年者は、9割の確率でニコチン依存症になるとの報告もあります。国際基準では以下のうち3項目を満たせば、ニコチン依存症と診断されます。
@喫煙したいという強い欲望、切望感。
A禁煙しようとしたが、ついタバコを吸い始めたり、ずるずると何本か吸ってしまう。
B禁煙したときの禁断症状の出現。禁断症状を和らげ、避けるために、喫煙する。
C喫煙を開始した当初の量では同じ効果が得られにくく、考えていたよりもずっと多くの量を長い期間にわたり喫煙している。
D喫煙のための仕事の中断、喫煙できない場所を避ける等、喫煙を優先するため、社会的活動に支障がでる。
E有害性が明らかだと気付いていても、喫煙を継続する。
 最後のEを簡単にいうと「わかっちゃいるけどやめられない」となります。調査によると、喫煙者の7割はニコチン依存症です。一方、喫煙者の7〜9割は、できればタバコをやめたいと考えています。禁煙補助薬の登場により、ニコチン依存症の多くは治癒できる病気となりました。
▼ さらば喫煙(2)喫煙猿とニコチン受容体(平成23年3月1日号)
 おいしそうにタバコ吸う猿。この猿の表情から、喫煙は至福の時をもたらすことがわかります。至福の時は、前回述べた「ニコチンを摂取したことによる脳内でのドパミン分泌」により生まれています。ドパミンは脳に幸せをもたらす物質。こう聞くと「タバコを吸うとストレスがとれる」という喫煙者の言葉がわかります。このドパミンですが、おいしいもので満足したときにも分泌されているそうです。
 ただしニコチンは薬物です。脳内にドパミンを大量に強制的に分泌させます。これは覚せい剤や麻薬と同じ作用です。世界保健機関は、覚せい剤も麻薬もニコチンも、依存性の強さは変わらないとしています。
 さて、喫煙刺激によりドパミンが分泌されるためには、ニコチンを受け取る神経が必要です。この神経はニコチン受容体と呼ばれています。
 喫煙猿は、元々ニコチン受容体を持っていたわけではありません。人間がタバコの吸い口に砂糖をつけて吸うように仕向けたのです。しばらく吸っていると、猿は砂糖がなくても、毎日喫煙するようになります。ニコチンの刺激により、脳の中にニコチン受容体が生まれ、ドパミンが分泌されるようになったのです。喫煙猿の誕生です。猿は、朝起きて一服、食後に一服、合間に一服、寝る前に一服といった具合に喫煙します。ニコチンへの渇望がそういう行動をとらせます。人の場合、未成年では合計たったの4本の喫煙により、9割くらいに、ニコチン受容体が生まれると言われています。ニコチンへの依存性はすぐに獲得されます。
 喫煙猿にニコチンを含まないタバコを与えると、猿はタバコを吸わなくなります。ニコチンを含まないタバコは何の魅力もないのです。このとき脳内では、ニコチン受容体が減少し、ニコチンの欲求が減っています。ニコチンを摂取したことによって生まれたニコチン受容体は、禁煙にはとてもやっかいなものですが、実はニコチンを供給しなければなくなっていくのです。
 人でも同じことが起こります。自力で禁煙する人がいます。タバコをキッパリ一気にやめます。するとお決まりのようにニコチン禁断症状がでます。ニコチン受容体がおこしていることです。この状態を3〜7日程度やり過ごしていると、だんだんタバコの欲求は小さくなっていきます。ニコチン受容体の減少です。この後、ニコチンさえ摂取しなければ(タバコを1本も吸わなければ)、タバコから完全にサヨナラできるのです。しかし、喫煙が再発する方は、吸いたいと感じたとき、1本くらいならいいだろうと1本を吸ってしまいます。そのことによりニコチン受容体が再び増加し始めます。そして初めてタバコを吸い、やめられなくなった経過を映画のコマの早送りのように経験し、元の喫煙状態に戻っていくのです。
▼ さらば喫煙(3) なぜ人々はタバコを吸い始めるのか(平成23年4月1日号)
 前回、タバコを4本吸った未成年者は9割の確率でニコチン依存症になると説明しました。一旦、タバコを吸い始め、ニコチン依存症になると、タバコは容易にはやめられなくなってしまいます。
 そもそも常習的にタバコを吸っている人には必ず「最初の1本」があります。その「最初の1本」は、いつ、どこで生まれているのでしょうか。
 研究によると、現在30歳台の日本人喫煙者は、12歳(小6)の時点で3割、15歳(中3)の時点で7割が喫煙を経験しています。そして15歳(中3)時点で3割、18歳(高3)時点で8割の人の喫煙が常習化しています。現在の喫煙者のほとんどは、未成年時代にニコチン依存症になっていたのです。私は、時々小学校で喫煙防止の授業を受け持たせてもらうことがあります。そのアンケートによると、喫煙経験のある小学生は八代にも数多くおり、開始年齢のピークは小1という結果でした。喫煙年齢はさらに若年化していることを実感し、末恐ろしくなります。
 喫煙を開始した理由の調査では、「なんとなく」と「好奇心」が最も多く、いずれにしても大した理由ではありません。
 一方、未成年者の生活環境は、喫煙開始に大きな影響を与えます。学校生活では、友人や先輩などに喫煙者がいると、「なんとなく」喫煙する確率が高まります。家庭では、父母や兄弟の喫煙が大きな要因です。特に、愛すべき母性である母が喫煙している場合、子供が喫煙を開始する確率が非常に高まります。母親が喫煙していると、小学生男子が喫煙する確率は4割超という研究結果もあります。
 未成年者が喫煙を開始するのは「喫煙する環境」が周りにあるからです。したがって、子供に喫煙をさせないためには「無煙環境」を大人が用意してあげればよいのです。最も重要なのは、学校と家庭です。「無煙環境」が子どもの喫煙を防止するのか疑問という方もいらっしゃるでしょうが、学校敷地内を完全に禁煙にして、保護者も教師もタバコを吸う姿を生徒に見せないことだけで、未成年者の喫煙は5割程度減少します。においのする分煙ではダメです。親が、飲食店などで禁煙席を利用するなど、タバコに対して厳しい態度をとることで、子供の喫煙確率は確実に減ります。まさに「子は親の鏡」、「子は親(教師)の言うことは聞かないが、親(教師)のマネはする」という格言の通りです。
 先の研究では、成人してからタバコを吸い始め、常習化していく人は、喫煙者の1割程度です。これが本来法的に認められている姿なのですが、現実はそのようになっていません。親も教師も子供に喫煙者になってほしいと思っている人はいないと思います。分煙とは、大人が裏で毒まんじゅうを食べ、においをさせながら、「これは毒だから子供は食べてはいけない」と言っているようなものです。大人が、タバコを吸わない、においをさせないなど、自身を律する無言の態度が最も効果的な「教育」だと感じます。
▼ さらば喫煙(4) 禁煙外来の流れと禁煙支援(平成23年5月1日号)
 今回は禁煙外来で行っている禁煙支援について、お話しします。
禁煙支援にはいくつかの必要な過程があります。@禁煙に対する動機を見つけ、禁煙しようと思ってもらうこと。A禁煙に対する自信を高めてもらうこと。さらに、Bニコチン依存症を離脱することを手助けすることも行います。禁煙外来に来られる方は、まず@の過程はクリアされています。
 ニコチン依存症には、禁断症状であるイライラや不安などの症状(身体的依存)と、「この場面で吸ったらおいしいだろうな、吸ってみたいな」と思う心理的依存の2つの依存があります。以前お話ししたように、ニコチンを全く補給しないでいるとニコチン受容体は消えていき、身体的依存は1カ月もすればほぼ解消するのですが、心理的依存は結構長く続きます。通常6カ月以上、人によっては数年続く人もいます。この心理的依存が解消できないまま、何かの場面で「1本だけ」をやってしまうことにより、身体的依存が復活し、多くの人が再発しています。禁煙外来ではこのことも繰り返しお話しすることになります。
 禁煙補助薬は身体的依存を軽減する薬剤です。とてもよい薬で、実際に使われた方はあまりイライラせずに禁煙に成功しています。しかし、飲んでおきさえすれば禁煙できると考えるのは誤りですので、そこは注意して下さい。
 最もよく使用するのは『チャンピックス』という飲み薬です。この薬は、脳内のニコチン受容体に結合し、禁煙に伴う禁断症状を軽減させます。同時に、喫煙してもタバコがおいしく感じにくいという特徴があります。チャンピックスを飲んで禁煙した人は、飲まずに禁煙した方に比べて、3.2倍も禁煙しやすいという結果がでています。
 禁煙外来を希望される方には、まず問診をします。喫煙本数×喫煙年数が200以上であること、問診によるニコチン依存症であることの確認が主な要件です。それぞれの人にとって禁煙しやすい環境を認識してもらいます。禁煙に挑戦される方には、できるかわからないと自信がない方が多いですので「こんなに有利な点がありますよ」と具体例を挙げて励まします。するとやれそうな気がすると前に進む気持ちが生まれます。丁度何かの大会に出場する前の子供への励ましに似ています。一方、禁煙に対しどのような支障があるかを確認し対処法を考えます。禁煙を成功させるためには、禁煙しやすい環境をいかに整えられるかということがカギになります。
 禁煙支援を山登りに例えると、支援医師の役割は案内人です。チャレンジャーがうまく山頂にたどり着けるように案内します。「遭難」しそうなときには、「こっちの方がうまくいきますよ」と助言します。助言を素直に受け入れてもらい、3カ月後の最終段階まで受診していただくと、成功する確率は9割以上です。案内人の助言を受け入れず自己判断したり、途中で受診を中断される方は、残念ながら失敗に終わる可能性が高くなります。
▼ さらば喫煙(5) 家族に禁煙をさせたいけれど(平成23年6月1日号)
 喫煙所でタバコを吸っている人が10人います。この10人の方が、どのような心理状態にあるかを知ることは、禁煙を勧める側には重要です。
 この心理状態を最も簡単に分類するには、禁煙ステージ(段階)というものが役立ちます。喫煙所で喫煙している10名の方達は、@禁煙を全く行う気持ちのない「無関心期」、A少しは禁煙に関心があり、いずれ禁煙しなくてはいけないと考えているが、すぐにやめる気はない「関心期」、B実際に数日〜数ヵ月程度禁煙したり、禁煙のための情報を収集したりして、近々禁煙したいと考えている「準備期」に分けられます。日本人の喫煙者の7割は本心では禁煙したいと考えていると言われていますので、無関心期の方は先の喫煙所の10人のうち3人程度です。関心期の方は最も多く5人くらいでしょう。準備期の方は、2人くらいおられるでしょう。「禁煙したくない?」という簡単な質問で、禁煙ステージが分かりますので、皆さんの周りの方に聞いてみてはどうでしょうか。
 さて、禁煙外来に受診される患者さんは準備期の方です。喫煙者のご家族から、「禁煙をさせたいのだけれど」と相談を受けることがありますが、気持ちが準備期に入っていないと、実際に禁煙を始めるのは至難の業です。
 禁煙ステージは通常1段階ずつしか上がりません。無関心期の方には、まず禁煙に関心を持ってもらうこと、関心期の方にはそろそろ始めようかと考えてもらうことが重要です。この1段階を進むのに、10年以上という歳月が必要な方、大病をして一気に進む方、医療者や家族の上手なアドバイスで進む方、職場など周囲の環境の変化により進む方、人によって全く様々です。すぐにやめてもらいたいタバコですが、長い目で待つことが大切です。
 禁煙する気のない方には、@禁煙する動機が不足している(医学的知識に乏しい)人と、A禁煙する自信に乏しい人の2つのタイプがおられます。もちろん、両方の人もおられます。家族から禁煙を促す場合には、@の人に対しては新聞や医学書などで医学的情報を時々提供しておくこと、Aの人に対しては「本当は禁煙する自信がないのではないか」を尋ねておくことになります。動機はあっても自信のない方には、現在は保険適応のよい禁煙補助薬があり無理なく禁煙できることを伝え、「○○ならできるよ!」と応援してあげて下さい。
 禁煙してほしいと考えるのは「あなたへの愛情」であり、「あなたの禁煙は私たち家族への愛情」であるという気持ちを伝えることはとても重要です。そして、生活の中で禁煙しやすい環境を作っていくことです。それは、「喫煙は屋外で」とか「飲食店は禁煙で」という形になります。喫煙している方から見れば、肩身の狭い環境かもしれません。しかし、この環境は一旦禁煙を決意すると、この状況が味方となり禁煙しやすい環境へと一気に変わります。
 家族による禁煙の働きかけは、受験生の子供をいかに進んで勉強するようにするか、という命題に似ています。愛情をもって、根気強く働きかけていくことが重要です。
▼ さらば喫煙(6) 禁煙を続けるには(平成23年7月1日号)
 禁煙を決意して、希望通りタバコをやめられた方、続いてほしいものです。しかし、実際にはなかなか長続きしません。このことは読者の皆さんも実感されていることでしょう。データでは、自力で禁煙した方の1年後の禁煙継続率は10%程度です。10人中9人は、再喫煙していることになります。禁煙が続かないのは、大きく3つの理由があります。
 1つ目は、心理的依存が解消していないことです。タバコをやめた人の脳裏にはまず「あ〜、ここで吸ったらきっとうまいだろう」「こんなときに吸っていたなあ」という考えが浮かびます。
 2つ目は、タバコが吸える環境が社会の中にたくさんあることです。禁煙した方の周りに全くタバコがなければ、喫煙の再発はまずないのですが、現実はそうではありません。家庭、職場、交友関係など禁煙した方の周りには多くの喫煙環境があり、いつでもタバコに手を出すことができます。
 3つ目は、一旦禁煙に成功した方が再喫煙をしないですむ知識とスキル(技能)を知らないことです。 禁煙に成功しても、たった1本タバコを吸うだけで、身体的ニコチン依存が発生します。翌日もさらに1本、そして2本、次第に本数が増えます。そのうちタバコを買うようになり、数カ月も経てばタバコをやめられない状態になってしまいます。
 1本のタバコに含まれるニコチンは脳を刺激し、ニコチン受容体を増加させます。一方で、脳のニコチン受容体のニコチン刺激による反応性は低下していき、同じ刺激を得るためによりたくさんのニコチンを欲求するようになります。これが、再発したときにタバコの本数が増えていく理由です。「1本だけ」と思って吸った方は、それにとどまらず、とうとう元の喫煙状態になるのが常なのです。
 このことを理解していただいた上で、どうすれば禁煙を維持できるかという話をさせていただきます。身体的におこるニコチン禁断症状の山は3〜7日目です。この時期を過ぎて禁煙を継続できた方はすでに身体的ニコチン依存を克服しつつあります。厄介だったニコチン受容体もその数を減らしています。
 1カ月くらい経つと、禁煙直後のひどいイライラや喫煙欲求は軽くなり、時々タバコを思い出したり、吸いたいと思ったりする程度になります。喫煙する夢を見る方もいるかもしれません。これが禁煙の正常な経過です。このまま禁煙を継続しているとさらに症状は軽くなります。
 禁煙してよかったことを考えることはとても有用です。お金の節約、楽な呼吸、気にならない体臭、おいしい食事、痰の減少、歯磨き時の吐き気の消失、家族からの歓迎。たくさんのメリットがあるはずです。体重増が気になる方もいるでしょう。禁煙して2〜3kgの増加は正常です。運動と炭水化物や菓子等の制限をしていけば徐々に体型は戻っていきます。
 喫煙はニコチン依存という病気です。1本くらいと甘くみると、わずか1本の喫煙によりニコチン依存が再発します。禁煙外来の医師はこれを「1本だけおばけ」と称し戒めています。1本だけおばけは、酒席や行動の合間にふと出てきます。ここで本当に喫煙をせず、時をかせぎ、冷水を飲み、深呼吸や体操など他のことをして下さい。おばけはすぐ消えます。そして数年後は出てこなくなるでしょう。
 生活をタバコのない環境にすることも大切です。タバコを吸わない人の近くいることや必ず禁煙スペースを利用すること、タバコや灰皿は処分し、タバコを買う場所に行かないことなどです。1度は成功したのに再発した方は、再チャレンジしてみてはどうでしょうか。
▼ さらば喫煙(7) だって吸う人がいるじゃない(平成23年8月1日号)
 「だって吸う人がいるじゃない」。私がある宴席で、主催者に宴席での禁煙をお願いしたときの反論です。熊本ではいまだに、喫煙者を中心に物事が考えられるのです。
 さて、多くの方は「最大多数の最大幸福」という意味を理解されると思います。私たちが生きている社会はこの「最大多数の最大幸福」の追求を基本として、形成されています。
 100人で構成される社会があるとします。日本の喫煙者の割合は20%ですから、この100人のうち、喫煙者は20人、非喫煙者は80人です。80人には子供も含まれます。100人が全員宴会に出席するとして、喫煙者20人の便益のため宴席での喫煙が自由に行われると、80人の非喫煙者は全員受動喫煙を受けます。喫煙者が宴席で仮に一人3本タバコを吸うとして、そこで消費されるタバコは60本。非喫煙者はその10分の1を吸わされる計算ですから、自分は吸わないのに非喫煙の皆さんはこの会で6本タバコを吸ったことになります。受動喫煙は以前ご説明したように、非喫煙者80人に心臓病や脳卒中、ぜんそく、がんなど様々な悪影響をもたらします。こうしてみると、宴席での喫煙が「最大多数の最大幸福」の否定であることは明らかです。
 「最大多数の最大幸福」を追求すると個人の権利が侵害されることがあります。この場合には、喫煙する20名の「権利」の侵害かもしれません。しかし、非喫煙者には自身の健康を守る「権利」もあります。喫煙者の権利には「義務」を伴うことをすでにご承知でしょう。それは受動喫煙問題です。受動喫煙は体に悪いというデータ、社会において受動喫煙を避けることで病気が大きく減少したというデータから、受動喫煙の害は明白です。医学的な事実が判明した今、喫煙する方の義務は、他人に受動喫煙を受けさせないことになるかと思います。それは、分煙ではなく、完全禁煙でないと達成できません。
 このように考えると、先の「だって吸う人がいるじゃない」という言葉には、何の根拠もなく、言葉を発した人が喫煙者側に立っているだけではないかと感じます。
 ところで、20名の喫煙者は皆「好んで」タバコを吸っていると思われますか。実は20名の喫煙者のうち、14名の方は本心ではタバコをやめたいと思っておられます。タバコをやめることを阻害するのは、タバコが吸える環境です。禁煙の環境は、実はタバコをやめたい人の禁煙をも後押しするのです。  この文章を読んでいただき、明日の宴会での喫煙はどうされますか。
 宴会でいやな思いをする人をできるだけ減らす(最大多数の最大幸福の)ため、宴会が始まる前に灰皿を完全に片付けてもらうという方法もあります。灰皿のないところで、わざわざ灰皿を求め、さらにタバコを吸わない人の前で喫煙する方はまずおられません。喫煙者の方は灰皿が置いてあるから、吸っていいものと判断し喫煙されるものなのです。
▼ さらば喫煙(8) 女性と喫煙(平成23年9月1日号)
 最近、タバコを吸う女性が多くなったと感じる方も多いでしょう。喫煙者数は減少の一途ですが、女性の喫煙、特に若い女性の喫煙は減少していません。喫煙する若い女性の増加に伴って、喫煙する妊産婦や子育て中の母親の数も増加し、医学的にも大きな問題です。今回は、女性と喫煙についてお話しします。
@妊娠中の喫煙は、子宮外妊娠、流産・死産、胎児の成長障害、胎盤異常、周産期死亡、早産、妊娠中毒症、胎児奇形の危険性を高めます。禁煙するとリスクは減少します。妊婦への受動喫煙は、妊娠合併症のリスクを高めます。
A出産後の母親の喫煙は、母乳の分泌へ悪影響を与えます。母親を含めた家族の喫煙は、赤ちゃんの乳児突然死症候群のリスクを高めます。母親の喫煙は、受動喫煙により子どもの健康を大きく損ないます。母親が喫煙していると、その子どもは高い確率で未成年のうちに喫煙を開始します。
B女性の喫煙は、月経異常、経口避妊薬との相互作用、女性ホルモンの低下と男性化、早期閉経、女性特有のがん(子宮頸がん、乳がん)の危険性高めます。喫煙は、不妊の原因ともなります。
C女性は、男性より喫煙の悪影響が強く出ます。しみやしわ、どす黒い歯肉、口臭・体臭の異常、男性化(体型や多毛)など、美容や女性らしい魅力が失われる大きな原因となります。
 このように女性の一生のどの時期をとっても、喫煙は女性の健康およびその子どもへ悪影響を与えます。女性の喫煙は次世代へ悪影響を与えやすいという点が特異です。社会全体で、女性の喫煙を防止し、禁煙を促すという視点も必要だと思います。
 女性は男性の場合より環境への心理的依存が強いと言われます。女性の喫煙開始と継続には、環境の要因が大きく関係します。喫煙する女性の周囲には、家族(夫)、友人、交際する男性など喫煙者が多いことが分かっています。タバコの煙のある環境は、女性の禁煙を困難にする要因ですし、仮に禁煙に成功しても、受動喫煙は避けられません。さらに喫煙そのものが再発しやすい環境でもあります。
 一方、周囲の人が一緒に禁煙をすれば、女性の禁煙は非常に成功しやすくなります。目の前の女性ためにといった視点をもって、禁煙に取り組むのもいいのではないかと思います。
▼ さらば喫煙(9)子どもと喫煙(平成23年10月1日号)
 子どもは細胞の未熟さゆえ、受動喫煙の影響を強く受けます。卵巣内の卵子の時代、母のお腹の中にいるとき、出産後の時期、成長期すべての時期において受動喫煙の害を受けています。妊娠出産に伴う合併症、低出生体重児、発育障害、乳幼児突然死症候群、ぜんそくやせき、肺炎や中耳炎、将来の発がんや脳血管障害の発生など多くの問題があります。
 受動喫煙を常習的に受けている子どもは、1.5〜2倍喫煙を開始しやすく、ニコチン依存になりやすいこともわかっています。
 皆さんの認知度がどれくらいかわかりませんが、未成年者の喫煙は蔓延しています。日本の研究によると、成人喫煙者の8割は未成年のうちに喫煙が常習化しています。すわなち、喫煙者のほとんどは未成年期にニコチン依存になっています。ある小児科医が「喫煙は子どもの病気である」といったことは真実でした。
 平成12年の厚労省調査によると、高3男子の喫煙率は成人男性と、中1女子の喫煙率は成人女性と同レベルです。初めてタバコを吸った年齢は超低年齢化しており、小学校低学年が平均的状態となっています。熊本県内の小5〜中3生の7.4%に喫煙経験があり、初めて喫煙した時期では幼稚園・保育園が1/4に上ることは、くまもと禁煙推進フォーラムが調査し、平成23年6月23日付けの熊本日日新聞で報道されました。子どもの喫煙は、非行やドラッグへの侵入門戸であり、タバコは入門薬物です。喫煙を始めた年齢が若いほど、その子どもの死亡率は高くなります。子どもの将来に大きく影響する危険因子として、タバコ問題を社会全体で取り組む必要があります。
 未成年の喫煙の防止には、「タバコを吸い始めやすい環境」を作らないことが重要です。よく言われることですが、子どもは大人の言うことは聞かないが、大人の真似はします。喫煙しない手本を大人が示すことが重要です。広島の県立高校では、学校敷地内を完全に禁煙化したことにより、生徒の喫煙による指導件数が激減しました。ある校長先生は「教員が生徒の前で喫煙しないことで模範を示す効果は大きい」と述べられています。
 未成年の喫煙防止のためには、子どもが生活する家庭、学校、クラブ活動、体育祭、地域の祭りをすべて禁煙にすればよいと考えられます。実は、熊本県の学校敷地内禁煙化は全国最低レベルです。八代市の学校敷地内禁煙化も最低レベルです。
 「将来を担う子どものために」という視点から、家庭や学校などの禁煙を進めていく必要性を感じております。ご賛同いただける方がいらっしゃれば、周りの方々や市議の方・学校・教育委員会の方へ働きかけをしてくださることを心からお願いします。


新聞への掲載文および投稿文です

▼ たばこ増税の根拠は条約に
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2011.9.24
 小宮山厚労相のたばこ増税の発言に対しさまざまな意見がみられます。個人的意見や勇み足と述べた方もいましたが、詳細をご存じないようです。1つの根拠を紹介いたします。
 日本は「たばこ規制枠組み条約」という国際条約を批准しています。世界のほとんどの国がこの条約を承認しており、まさに喫煙に関する標準規格と言えるものです。
 条約の目的は、たばこの消費と受動喫煙によってもたらされる健康・社会・環境・経済の破壊から、現在と未来の世代を守ることです。
 第6条「たばこの需要を減少させるための価格及び課税」において、増税は、様々な人々、特に年少者のたばこの消費を減少させる。それは、たばこの消費の減少を目指す保健上の目的に寄与する、と明記されています。
 さらに、第17条「経済的に実行可能な代替の活動に対する支援の提供」では、たばこの労働者及び耕作者、販売業者のために経済的に実行可能な代替の活動を促進する、とあります。
 人は不健康より健康を、子や孫には非喫煙を望むと思います。条約はその望みをかなえるためのよく考えられた道しるべであり、厚労相の発言は正論です。政府・財務省、行政には条約の速やかな履行を望みます。
▼ 「分煙」は無効「全面禁煙」を
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2011.7.28
 受動喫煙の害についてテレビでも話される産業医大の大和浩教授の実測データに基づく講演を、県母性衛生学会で拝聴した。
 それによると、窓を閉め切りベランダで喫煙しても、レール部分から煙が室内に入り無効。換気扇の下で喫煙しても、すべては吸引されず、喫煙者が辺りの煙を引き連れてくるから無効。玄関前や庭で喫煙してもドアのすきまから入り込み、居間まで汚染される。遠く離れた屋外で喫煙してきても、喫煙者の吐き出す息には15分間以上有害物質が含まれており、喫煙者の呼気によって室内の空気が汚染される。
 要は非喫煙者が臭えばダメということだろう。分煙でなく禁煙しか家族への受動喫煙防止策はないようだ。
 屋外で17m離れた場所で喫煙しても受動喫煙は防止できなかった。駅やバス停、路上など公の場の喫煙は禁止すべきではないか。歩きたばこは煙が喫煙者の後方へ流れるため、さらに広範囲に受動喫煙が起こる。
 家族や公のため、家庭も路上も分煙ではなく、禁煙化が必要だ。
▼ 敷地内禁煙を 県内全学校で
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2011.5.14
 熊本市教委はことし9月をめどに、幼稚園を含む市立のすべての学校敷地内を禁煙化する方針を明らかにした。
 喫煙者の7割程度はすでに禁煙の意向を持っていると言われる。学校の先生ならなおさらだろう。生徒や家族のためにもこの機会に禁煙を実行し、困難だった場合は、禁煙外来を受診されることをお勧めしたい。
 学校活動や運動会では敷地内禁煙は守られるだろうが、放課後のクラブ活動、地域活動でも禁煙の規則が守られるよう、クラブ活動指導者や体育協会、地域の方々にもその旨をしっかり伝えておくべきだろう。一部では規則を守り、一部では守らない二重基準では、それを目の当たりにしている子どもの健全な教育は望めないからである。周知が行き届くまで、校門周辺の禁煙徹底やポイ捨て防止にも目配りが必要だ。
 研究の結果、学校敷地内禁煙により、生徒の喫煙経験率が低下し、喫煙する先生の禁煙を促すことが分かっている。禁煙になれば受動喫煙の心配もなくなる。
 他の多くの都道府県ではすでに全県的に実施されていることである。基本的な喫煙防止策である敷地内禁煙がなされていない他の自治体や県立・私立学校でも早く敷地内禁煙を開始していただきたい。

▼ 先客万来には まず禁煙環境
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2011.2.18
 新幹線全線開業にあたり熊本では産業振興のための活動がなされています。客人には都市部や外国の方を期待されてのことでしょう。
 さて、今や日本の主要都市において、受動喫煙を受けることは少なくなりました。しかし、熊本では、駅、バス停、飲食店、ホテルなど多くの場所に喫煙所があり度々受動喫煙を受けます。昨年県議会は、国の受動喫煙防止策を無視し、独自に喫煙所を設置するという請願を採択しました。熊本は受動喫煙を防止しようとする機運が乏しいようです。
 7年前の世論調査でも受動喫煙を迷惑と考える人は7割、喫煙者だけみても4割以上は迷惑と回答しています。海外では、完全禁煙にすることで心臓や呼吸器疾患が激減しました(TUV)。もはや受動喫煙は迷惑を超えた問題となっています。
 受動喫煙のない環境は、県外や外国のお客に来てもらうための必須条件です。行くたびに受動喫煙を受ける熊本。彼らはどう感じるでしょう。もてなしの好影響も霧散します。千客万来を望むなら、官民ともまず社会をたばこのない環境に変えるべきではないでしょうか。喫煙所を撤去し受動喫煙が全くなくなれば、熊本にはクリーンエアーという大きな付加価値が創造されます。

▼ 禁煙への挑戦 応援しています
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.12.26
 値上げを機に禁煙されている多くの方に禁煙外来医として申し上げます。ニコチン禁断症状は3〜7日がヤマです。完全禁煙後2〜3カ月経過した皆さまはすでに身体的依存を克服されています。今はひどいイライラは軽減し、時々吸いたいと思うくらいだと思います。この症状も禁煙継続によりさらに軽減していきます。
 禁煙してよかったことを考えてください。お金の節約、楽な呼吸、気にならない体臭、おいしい食事、たんの減少、健康不安の解消、家族の歓迎。よいことはたくさんあります。体重増を心配する方もいるでしょう。禁煙後2〜3キロの増加は正常です。運動と炭水化物や菓子等の制限で徐々に体形は戻っていきます。
 喫煙はニコチン依存という病気です。1本くらいと甘くみると、わずか1本の喫煙によりニコチン依存が再発します。われわれはこれを「1本だけおばけ」と称し、戒めています。1本だけおばけは、酒席や行動の合間にふと出てきます。
 ここで本当に喫煙をせず、時をかせぎ、冷水を飲み、深呼吸や体操など他のことをしてください。おばけはすぐ消えます。そして数年後は出てこなくなるでしょう。生活をたばこのない環境にすることも大切です。すばらしい挑戦を応援しています。

▼ タバコ環境と疾患・禁煙のすすめ
掲載紙:熊本日日新聞「呼吸器疾患の予防と治療」欄  掲載日:2010.12.10
 たばこを吸うと寿命が縮むといわれます。研究によると、寿命は平均4〜10年短くなるようです。寿命は短くなりますが、寝たきり期間は、逆に5年長くなるというデータもあります。最近の調査では、すぐ禁煙したい人が2割、いつか禁煙したい人は6割もいますが、なかなかやめられないのが現実のようです。それは多くの喫煙者が「ニコチン依存症」という病気になっているためです。
 日本の喫煙者の8割は、未成年のうちに喫煙が常習化しています。文科省が行った調査によると、母親が喫煙する場合、その子どもに喫煙の傾向が強く見られます。未成年の喫煙を防ぐには、たばこのない「無煙環境」をつくることが重要です。学校を全面禁煙にしたことにより、生徒の喫煙指導件数が激減したという広島県の実例もあります。全国の8つの都道府県では既に全ての学校の敷地内が完全に禁煙となっています。しかし残念ながら、熊本県は2001年時点で18%と全国最低です。
 未成年者の喫煙とともに受動喫煙をなくすことも重要です。換気扇の下やベランダで喫煙すれば回避できると思われがちですが、たばこの有害物質は、換気扇から完全に排出されず室内を漂い、受動喫煙がおこります。さらに、有害物質は喫煙者の衣服に付着し、吐く息からもでてくることが明らかになっています。
 カナダでは、受動喫煙防止のための法律を制定しました。公共の場、職場の禁煙に加えてレストランを禁煙にした段階で、大きな変化がおこりました。心筋梗塞の発生が17%、心臓血管疾患が39%、せきやぜんそくなどの呼吸器疾患は30%も減少したのです。このような公共の場の完全禁煙の効果は他の国からも次々に報告されています。厚労省は、国内の受動喫煙による死者が年約6800人に上ると推計しています。
 たばこのない環境は、未成年の喫煙防止、受動喫煙防止のために必須です。そのためには、灰皿をなくすことが近道です。禁煙して後悔する人はいません。その環境作りのため、ご協力いただければ幸いです。

Q たばこを吸い続けると、体にどんな悪影響が出ますか。やめる方法は。
A 喫煙は、肺や気管支の病気のほか、心臓病や脳卒中などを引き起こします。認知症の患者さんにも、喫煙者が多いことがわかっています。たばこをやめるには@自力でやめるA薬局で薬を買って使うB医療機関の禁煙外来を利用する―という3つの方法があります。@とAを成功させるコツは、やめようと思う日を決め、その日からきっぱりとやめること。Bは医師の助言を受けながら、禁煙補助のための飲み薬や貼り薬を使う方法です。治療期間は3カ月で、成功率は約7割です。保険が適応されれば、おおむね2万円弱の予算で、禁煙治療が受けられます。

▼ たばこ関係者支援し禁煙を
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.10.20
 厚生労働省研究班は日本の受動喫煙による死者が年6800人になると発表した。熊本県では年97人が死亡している計算になる。アスベストは、吸入により平成22(2010)年まで年平均3000人が死亡と推計され、使用禁止となった。受動喫煙はアスベスト以上の死者数である。たばこの煙との共存は難しい。望まない死亡抑制のため規制は道理だ。
 県議会において、熊本県における「受動喫煙防止対策」の現実的な対応を求める請願採択された。趣旨はたばこ関連産業と喫煙者の権益のため、喫煙場所の確保・整備により、非喫煙者と喫煙者が共存できる社会の実現とある。
 科学的検証の結果、受動喫煙防止には完全禁煙のみが有効だと世界は認めた。煙は薄まっても有害である。煙との共存では、市民の8割になる非喫煙者は至る所でたばこ煙を吸入してしまう。議事録には科学的検証をした形跡はない。議会は科学的根拠に基づいた国の禁煙施策を過度な規制と否定した。県は灰皿設置を推進していくのだろうか。死者がでている事態である。独自の議決の科学的根拠を示すべきだ。
 たばこ関連産業の多い熊本だからこそ、たばこ規制枠組み条約にある関係者の転作・転業への金銭的支援を他県に先駆けて実施し、一方で受動喫煙防止のため禁煙を推進するのが、県や議会の本来の役割ではないだろうか。

▼ 喫煙する妊婦は児への健康被害を考えて
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.10.2
 育児放棄により食事を与えられずに、低栄養で体重が増えない乳幼児の悲惨な事件が報道される。実は、妊婦が喫煙することは、お腹の中の赤ん坊(胎児)にとって、同様の虐待とも言える行為である。
 妊婦が喫煙すると、ニコチンの作用で臍帯や胎児の血管が収縮して血流量が減少し、胎児への酸素や栄養の供給が低下する。また高濃度の一酸化炭素が胎児を更に酸欠状態におとしいれる。
 喫煙妊婦からの出生する赤ちゃんの体重は平均200g少なく、早産、死産も増え、乳幼児突然死症候群(SIDS)による死亡率も高い。その上、米国のデータによると、キレやすい子供、抑制のきかない人間になりやすく、将来暴力犯罪を犯したり常習犯罪者になる率が高いという。
 医者のお説教に対して反感を持つ人も多いだろうが、妊婦の場合、タバコによる健康被害を受けるのは胎児である。あなたのお腹の中で、赤ちゃんの身体そして脳が形成されている大事な妊娠中、そしてその前後も、絶対に禁煙してもらいたい。

▼ 敷地内禁煙を小学校で願う
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.5.10
 娘の小学校のPTA総会に出席した。総会の最後でPTA会長から「灰皿を設置して所定の場所で喫煙してもらいましょう」という提案があった。これに対し私は「敷地内全面禁煙」をお願いした。
 その理由として1.小学校は子供たちの健康な心と体をはぐくむ場所だからタバコの煙は似つかわしくないこと2.お隣の阿蘇市は既に「敷地内禁煙」が実施され、早晩南阿蘇村でも同様の通達が予想されること3.通達に渋々従うのではなく自ら高い見識を持って全面禁煙に踏み切ることの意義を訴えた。
 残念なが私の願いは受け入れられず今年度は「灰皿設置」ということになった。成人は法律で喫煙することが許されている。だからといって医療従事者が病院内でタバコを吸うことは許されない。それは子供たちの健康な心と体の育成を担う教職員も同様であろう。「がんや脳卒中、心筋梗塞のリスクを高め平均で5歳も寿命が短くなるタバコをどうして先生は吸うの?」と子供たちに質問されたとき先生はどういう合理的な答えで子供たちを納得させられるのだろうか。

▼ 受動喫煙減へ 灰皿は撤去を
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.4.18
 国は「公共の場は原則として禁煙」とするよう求める通知を自治体に出した。多くの人が受動喫煙を受けている日本では、推計で年間1万人以上の人が死亡しているためだ。
 禁煙に灰皿は無用の長物のはずだが、撤去をせず建物の入り口に移動する施設が多い。灰皿は消すためではなく、そこで吸うためのものとなり、利用者すべてが受動喫煙を受ける。入り口にまん延する煙は建物内にも入り込む。
 喫煙者の7割は、本心では禁煙したいが、ニコチン依存のためできないという。それなら喫煙者に厳しくみえる灰皿撤去も、本心を実現しやすい環境と言える。禁煙した人は受動喫煙を受けるたびに「今まで迷惑をかけていた」と感じるという。喫煙中は、自身の発した煙の行方はわからないものらしい。
 4千種の化学物質、200種の有害物質を含む煙の行方を、モラルで制御できれば苦労はない。年間数千人の交通事故死を防止するため法規制がある。受動喫煙による死亡数はそれ以上である。受動喫煙防止に禁煙という規制は必要だろう。
 灰皿を据えれば受動喫煙が起こる。灰皿の撤去が受動喫煙死を減らすことは、海外で証明済みである。受動喫煙を容認する灰皿「移動」をやめ「撤去」を求めたい。
 参考資料:受動喫煙とおとなの健康:ファクトシート

▼ 無煙環境こそ 喫煙の防止策
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.2.22
 本紙に「熊本保健科学大、県内大学初 全面禁煙へ」という記事が掲載された。志は「模範を示す」ため。主役である学生のための環境を整えようという高い志に拍手を送りたい。私の学生時代、医学部はたばこ煙がもうもうと漂う喫煙環境だった。喫煙の害、ニコチン依存などの喫煙防止のための防煙教育もなく、たくさんの医学生が喫煙していた。
 この環境で喫煙を始め、ニコチン依存になった同窓をたくさん知っている。医学生ですらこの様である。あらゆる喫煙環境から喫煙者が生まれ、ニコチン依存症になっていく。英国の研究では、喫煙規制のない学校の学生喫煙率は30%、分煙では21%、敷地内禁煙では10%であったという。広島では全県立高校を敷地内禁煙にした後、喫煙指導件数の減少が加速し激減した。
 「喫煙しない模範」の大きな効果である。人は環境の影響を受ける。日本では年間11万人以上が喫煙により死亡している。学校も保護者も、学生に喫煙者になって欲しいと思う人はいないだろう。熊本保健科学大にならい、全ての教育機関は敷地内を禁煙化してほしい。たばこ煙のない「無煙環境」の提供こそが一番効果のある喫煙防止策である。

▼ ドラマの「卒煙」 喫煙シーン要らない
投稿紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 投稿日:2010.1.27
 TBSの番組で特上カバチというドラマがある。この中で主演の堀北真希さんは役柄上喫煙する。非喫煙者である堀北さんはドラマのために「喫煙の練習」を1カ月もしたそうだ。
 たばこには強い依存性があり、4本吸えば90%以上の確率でやめられなくなると言う。実生活でニコチン依存症になれば、彼女は今後がん、慢性閉塞性肺疾患、心臓病、脳卒中など多くの病気のリスクを抱え寿命を縮める。歯周病、肌のしわやしみ、骨粗しょう症など老化の促進が起こる。将来自身の子への悪影響もある。(参照:厚生労働省タバコ病辞典
 人気女優がドラマで喫煙してみせれば、女性の喫煙者が増えることは確実である。若者がよく見るこのドラマでは、他の女性の共演者も多く喫煙する。若者にドラマや映画の影響は大きい。役者もドラマをみて喫煙者になる若者も不憫だ。
 悪役やくつろぐ場面を演じるのに喫煙シーンを使うことから、テレビも映画も自律的に卒業してはどうだろう。たばこからの卒業を「卒煙」と言う。ドラマの卒煙は役者だけでなく、視聴者にもよい影響を与える。他国はすでに卒煙している。折しも今年の世界禁煙デーは、女性向けたばこ販売に関するテーマである。

▼ 家庭と学校は「無煙環境」に
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2010.1.13
 小6男児が撃ったエアガンの弾が別の男児の目に当たり重傷を負わせたという事件が昨年11月起きた。エアガンは家にあったらしい。子供は何にでも興味を持つ。危険なものを置いて「触ってはいけない」では事故がおきる。初めから置かないことが肝要だ。
 ところで研究によると、日本人の喫煙経験は14歳で5割に上る。常習化は16歳で5割である。喫煙者の8割は20歳未満で常習化している。概算すると、熊本県では10万人の未成年者が喫煙している計算になる。未成年期に身近にあったたばこを好奇心で吸い始め、ニコチン依存となり成人以降もやめられないのが喫煙の実態である。成人式会場で恍惚の表情で喫煙する若者を見れば納得する。
 子供の周りには多くの喫煙環境がある。子供にとって分煙とは、毒のある物を裏で食している大人が食べてはいけないと諭している状態。食べてしまうのが子供だ。その大人も昔好奇心で始めたのだ。喫煙により毎年11万人もの人が死亡している。若年からの喫煙は最も害が大きい。たばこは危険なものである。熊本県の公立小中高校で敷地内禁煙をしている学校の割合は全国最低。家庭と学校は初めからたばこのない「無煙環境」にすべきではないだろうか。

▼ たばこ増税で 喫煙減り賛成
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2009.12.4
 民主党の政策集通りにたばこ増税が提案された。大賛成だ。増税になれば喫煙者は減る。その結果、喫煙による病気と年間11万と言われる死者も確実に減る。受動喫煙も未成年者の喫煙も減る。受動喫煙を減らすための労力も減る。安易な大衆いじめとの批判がある。3度の飯と違い、たばこはなくても生きられる。喫煙者はニコチン依存のためにやめられないだけで7割はやめたいのだという。診療の場で尋ねると、喫煙者は子や孫には喫煙してほしくないと答えるが、それがたばこに対する本音だろう。
 税収減を声高に言う政治家がいる。国民の健康より金のことを第一に考える政治が今の時代必要だろうか。増税で困るはずのたばこ店主が言った。「好きで売るのではない。客の体を壊しているのだから。だが生活もある」。アフガン人が言った「好きで大麻を作るわけではない」と同じ構図である。
 日本が批准したたばこ規制枠組み条約では代替業への支援が明記されている。増税を実施して得た資金をたばこ店や農家の転業支援に使うべきである。支援実施のためにも増税は大幅がよい。それが喫煙者も望んでいる子や孫の喫煙防止に役立つのである。

▼ 禁煙が基本と認識を変えては
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2009.10.29
 熊本市内の飲食店で「禁煙ですか」と尋ねると「いえ吸えますよ」と期待はずれの返答がくることが多い。店員の認識は「喫煙が基本」なのであろう。昭和の時代、社会は男性中心で大多数は喫煙者であった。飲食店も、ホテルも、旅客業も、応接室も、学校や病院でさえも「喫煙が基本」であり、灰皿を用意することはもてなしであった。
 時代は変わった。喫煙者自身への健康被害以外に、たばこを吸わない人が周囲にただよう煙を吸うことによる受動喫煙の害も明らかになった。日本の受動喫煙による死者は年間1万人に上るという。
 世界保健機関は「受動喫煙に安全レベルはない。排気も空気清浄機も役に立たない。完全禁煙のみが有効」と警告している。他国では公共の場などで禁煙法が施行され、受動喫煙がなくなり心臓病死が減少している。
 日本の成人の「非喫煙率」は75%、全人口のそれは80%。日本人のほとんどはたばこを吸わない。基本とすべき仕様は明白である。世界のかなりの国が法的規制で禁煙に向かっている。他国にできることを日本ができないはずはない。「禁煙が基本。灰皿はないのが当然」と認識を変えてはどうだろう。それが社会を変える力になる。

▼ 依存症対処に「控える」ダメ
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2009.9.22
 飲酒運転とひき逃げ容疑で逮捕された警官がアルコール依存の疑いであったことが報じられた。これまで福岡県警は「酒を控える」よう指導していたそうである。本人も「控える」と約束はしていたらしい。今後県警は専門医と連携するという。正しい対処であると思う。禁煙治療の立場から、依存治療に「控える」とか「減らす」という概念はない。「節煙ではなく断煙」である。アルコール依存の治療でも「節酒ではなく断酒」を指導するという。自らの意思でどうにもできないから依存症なのである。
 依存が解決しにくい要因として、社会や周囲が「自分の意思や努力で対応できるだろう」と思いやってしまうことがある。日本の飲酒人口は6000万人。アルコール依存はその8%とのデータもある。喫煙人口は2600万人で、ニコチン依存は実にその約7割を占める。「控える」という言葉が問題を先延ばしにする。簡単に7日程度もやめられない、「わかっちゃいるけどやめられない」のは依存のためである。アルコールやたばこへの依存症の方は数多くいる。まず周囲が依存の問題に気付き、専門医療機関受診を勧めてほしい。

▼ たばこは薬物 喫煙は「病気」
掲載紙:熊本日日新聞「読者のひろば」欄 掲載日:2009.8.20
 芸能人の覚せい剤使用が連日の話題となっている。覚せい剤は脳を刺激し、ドパミンという脳内物質を分泌させ、使用者に快感をもたらす。得られた快感は一時的なため、その快楽を求め、覚せい剤使用が繰り返される。
 この怖い覚せい剤と同じ作用をするものが我々の身近にある。たばこである。覚せい剤使用者はまず喫煙しており、専門家はたばこを入門薬物とみる。たばこに含まれるニコチンは、覚せい剤と同様脳を刺激し、ドパミンを分泌させ快感をもたらす。ニコチンが切れるとイライラし、吸うとホッとしストレスがとれる「感覚」を覚える。この繰り返しにより、ニコチンへの依存とたばこはストレス解消になるという認知が形成される。喫煙が毎日休みなく続く理由である。診療でニコチンの禁断症状に苦しむ人をみるにつけ、たばこは自分の意志で好きで吸っているのではなく、依存性のある薬物であることを実感する。
 現在、ニコチン依存症は保険で治療が可能である。覚せい剤だけではなく、たばこは薬物であり、喫煙は脳の病気(たばこ病)であることに多くの人が気付いてほしい。