ニコチン依存症とは


T.ニコチン依存の形成過程

注:この「T.ニコチン依存の形成過程」に記した内容とイラストは、ヘルシンキで開催された「第12回タバコか健康か世界会議」で、ジョンズホプキンス大学教授のジャック・ヘニングフィールド博士が講演された内容を基に、知見を加味し記載しています。ニコチン依存症は脳の問題であり、人における実験や実証が困難であり、わからないことも多いのですが、ヘニングフィールド博士の説明は、患者さんの臨床症状や禁煙補助薬による治療効果、禁煙に失敗したときの現象と実によく合致します。人においても以下に記載したことと同様のメカニズムが起こっていると推察されますが、記載はあくまで完全なものではなく推察の部分もあること、一般の方が理解しやすいよう記載している関係上真に学術的ではないこと、内容の正確性および安全性を保証するものではないことをご了解の上、「T.ニコチン依存の形成過程」をお読みくだされば幸いです。また、当該情報に基づきいかなる損害を被っても、くまもと禁煙推進フォーラムは一切の責任を負うことはありませんので、ご了承下さい。

  1.初めての喫煙

 どの喫煙者にも初めて吸ったタバコがあります。タバコを吸うと数秒でニコチンが脳内に供給されます(BMJ 328:277-279, 2004、禁煙学:南山堂)。喫煙という吸引する方法は、注射と同じくらい一気にニコチンを体内に摂取することが可能です。ニコチンは、「一気に」、「間欠的に」摂取するのが最も依存を形成しやすく、吸引という方法は、依存の形成のために、最も適していると言えます(禁煙学、南山堂)。
 さて、初めてタバコを吸ったときから「うまい!」と思う人はまずいません。「気持ち悪かった」という感覚の人がほとんどではないでしょうか。この「気持ち悪さ」は人体の自然な反応です。タバコの煙をかいで気持ちがよいという子どもはいません。依存性のある薬物であるニコチンを受け取る神経が脳内にないからです。
 しかし、しばらく「我慢」してタバコを吸っていると、だんだんタバコを「うまく」感じるようになります。それはなぜなのでしょうか。

  2.ニコチン受容体の形成

 しばらく続けてタバコを吸っていると、脳内にニコチン受容体が「増加」してきます。ニコチン受容体の役割は、ニコチンを受け取り、脳内にドパミンを供給することです(BMJ 328:277-279, 2004、禁煙学:南山堂)。ドパミンの供給は「強制的」ですから、ニコチンを摂取したときに必ず脳内にはドパミンが供給されます。ドパミンが脳内に増えると、人は「気持ちがよい」、「ストレスがとれた」感覚を覚えます。喫煙者がタバコを吸って「おいしい」と思う理由です。
 「おいしく」感じるようになった人は、さらにニコチンを摂取します(常習喫煙化)。ここまで来ると、ニコチン摂取⇒ドパミン供給のサイクルが完成しています。
 ところで、喫煙しない人にはドパミンは脳内にないのでしょうか。実はたくさんあります。何が違うかというと、タバコを吸わない人の脳内にドパミンが供給されるのは、何かを達成したとき、おいしい食事をしたときなどです。日常の生活の中でドパミンが供給され、「満足」が得られています。
 しかし、喫煙者はいつもドパミン供給をニコチンという薬物により強制的に行なっているため、普段の生活の中、例えば食後にドパミン供給がなされません。食後に何か物足りないのは、ドパミンが足りないのです。食後にお決まりのように、喫煙し、わざわざドパミンを脳内に供給しないと「食後の満足」が得られなくなっているのです。

  3.ニコチン依存の強化

 ドパミン供給により、タバコを吸うとうまく感じるようになった脳は益々タバコを要求し、毎日同じだけタバコを吸うようになります。ニコチンによるドパミンの供給は安定的になります。ここまで来ると「ニコチン依存症」の完成です。
 喫煙は毎日同じ時間、同じ状況(例えば、朝起きてから、食後、仕事の合間など)で行なわれるようになります。常習喫煙です。常習喫煙の特徴は「毎日同じ」という特徴があります。他のことは三日坊主の人でも、喫煙は毎日続きます。ストレスのない正月も、盆も、休日も、遊んでいるときも同じです。大雨や台風のときにも同じです。
 喫煙という行為が、嗜好と呼ばれるコーヒーや紅茶、趣味の囲碁や将棋、スポーツとまったく異なるものであることはすでにおわかりでしょう。喫煙は、人が主体である「嗜好」ではなく、いわばニコチンが主体の「嗜癖」という行為です。

  4.禁煙と離脱症状

 例えば、禁煙の飛行機や列車などを降りた後、たくさんの人が喫煙している光景を目にします。そのとき、喫煙者の脳内ではニコチン受容体によりニコチンの要求が起こり、イライラしているのです。
 禁煙を試みた方がイライラするのも同じです。わかりやすいように解説すると、「ニコチン、ちょうだーい」の大合唱です。このイライラをニコチン離脱症状といいます。

  5.タバコが吸えず、イライラしているときにタバコを吸うと

 タバコが吸えずイライラしているときにタバコを吸うと、喫煙者はホッとします。写真の顔がそのことを表しています。文字通り「一服」ついています。しかし、次のタバコを吸わないと、次のニコチン離脱症状が待っています。終わることのない喫煙サイクルにはまってしまっているのです。

  6.サルも人と同じ顔をする

 この写真は、実験で喫煙をさせられるようになったサルの写真です。この写真をみると、サルにとって、喫煙行為は「気持ちがよい」もののようです。人間の喫煙者と同じ表情をしています。ニコチンは依存性のある薬物なのです。



 これまで述べてきたことを要約します。
@喫煙により脳にニコチンが到達します。
Aニコチンはニコチン受容体を介して、脳内にドパミンを放出させます。
Bドパミンは快感や快楽をもたらします。
Cニコチンは代謝され、時間とともに欠乏してきます。
D喫煙者は、ドパミンによる快感を回復させようとニコチンを切望します。実際にはイライラ感じています。喫煙者のいう「ストレス」です。この「ストレス」は、喫煙したことにより生じています。
Eタバコを吸いたい、イライラ、タバコを我慢できない感覚です。この感覚は、喫煙し、ニコチンを供給することでしか解消されません。やむを得ず、次の喫煙行為に向かわざるを得ないのです。
これがタバコをやめることが非常に困難な理由です。

U.ニコチンという薬物の依存性の強さ

 ニコチンは依存性のある薬物の代表です。しかし、他のアルコール、ヘロイン、コカインなどの依存性物質と比較して、どのくらい依存性があるのでしょうか。
 依存のなりやすさ  ニコチン>ヘロイン>コカイン>アルコール
 使用中止の困難さ  ニコチン=ヘロイン=アルコール=コカイン
 離脱症状の厳しさ  アルコール>ヘロイン>ニコチン>コカイン
 死亡リスク(健康被害の大きさ)  ニコチン>アルコール>(ヘロイン=コカイン)
 社会における普及度  ニコチン>アルコール>(ヘロイン=コカイン)
参考資料: A report of the Tobacco Advisory Group of the Royal College of Physicians: Is nicotine a drug of addiction?

 タバコ(ニコチン)は、依存のなりやすさ、使用中止の困難さ、健康被害の大きさにおいて、ヘロインやコカインなどの麻薬や覚せい剤以上の強さがあります。一方、ヘロインやコカインと比較すると、社会において非常に普及している(いつでも、どこでも購入できる)という薬物です。

V.タバコ添加物

1.2009年、日本たばこ産業JTは、タバコに添加している化学物質を公表しました。

2.ASH(Action on Smoking and Health)の報告書
ASHという海外の機関は報告書において以下のようなコメントを出しています。

@遊離ニコチン
タバコ添加物は、高いレベルの遊離ニコチンを喫煙者へ供給するために利用される。この遊離ニコチンがニコチン依存を作り出すための決め手となる。アンモニアは、煙をアルカリ性にすることにより、この目的をかなえるため添加される。
A味の演出
添加物は、タバコ煙を「魅力的」にして「無毒」であるかのような味の演出をする。
B風味
甘味料やチョコレート、いちご味の風味は、子どもが最初にタバコに手をつけたとき「おいしい」と感じることを意図している。メントールは、タバコ煙のイライラするいやな感覚を隠すことができる。
C気管支拡張剤
ココアなどの添加物は、気道を開くことで、ニコチンやタールをより多く、肺の奥深く到達させることができる。
D臭いを隠す
添加物は、社会環境における受動喫煙の害を小さくみせるため、タバコ煙の臭いを隠し、タバコ煙が見えなくするために使われる。

上記の記述は、ASH以外にも、日本の研究者も多く参加しているTobacco Free * Japan公式文書にも同様のことが記載されています。

■タバコは、ニコチンを喫煙者に送達する目的をもって高度に設計・操作された製品である
■タバコはそのうちの10%が化学物質とその他の添加物で構成されており、単なる農産物ではない
■タバコ業界は、タバコの最重要成分はニコチンであり、タバコから供給される一定濃度のニコチンが嗜癖性(依存性)を維持するために必要であることを知っている

 タバコは、農産物ではなく、計算しつくされた「工業製品」です。