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慢性硬膜下血腫

1.慢性硬膜下血腫について

慢性硬膜下血腫とは、頭部外傷後慢性期(通常1〜2ヶ月後)に頭部の頭蓋骨の下にある脳を覆っている硬膜の下の脳との隙間に血(血腫)が貯まる病気で、血腫が脳を圧迫して様々な症状がみられます(図1)。


図1:慢性硬膜下血腫
頭部外傷後の慢性期に頭蓋骨の直下の硬膜と脳の間に血が貯まる疾患で、血腫が脳を圧迫し症状が発現します。血腫は被膜に覆われています

慢性硬膜血腫は通常、高齢で男性に多く見られます。一般的は軽微な頭部外傷(時には外傷の事実がはっきりしない場合も少なくありません)の後の慢性期(3週間以降)に頭痛、片麻痺(歩行障害)、精神症状(認知症)などで発症します。年間発生額度は人口10万人に対して1〜2人とされています。

原因は一般には軽微な頭部外傷で脳と硬膜を繋ぐ橋静脈の破綻などにより硬膜下に脳表の髄液などと混ざった血性貯留液が徐々に被膜を形成(図2)しつつ血腫として成長するとされています。


図2:慢性硬膜下血腫
慢性硬膜下血腫は硬膜と脳表との間に存在します。
血腫は被膜に包まれた袋状を成しています。

血腫を覆う膜(被膜)は厚い外膜と薄い内膜から構成されています。好発部位は前頭,側頭,頭頂部で、右か左かの一側性のことが多いのですが,時には両側性(約10%)に見られます。

また乳幼児の慢性硬膜下血腫(水腫)は,用語の混乱もありますが、硬膜下液貯留状態で、成人の慢性硬膜下血腫とは臨床的に異なった病態として考えられています。従ってここでは成人慢性硬膜下血腫について解説をいたします。

2. 慢性硬膜下血腫の症状の特徴について

軽微な頭部外傷が原因とされていますが、頭部外傷があったかどうかわからない場合(例えば,酔っぱらっていた、少し呆けている人など)が10〜30%に存在します。一般に外傷後3週間〜数カ月以内に発症します。50歳以上の高齢者の男性に多くみられます。その他の発症に影響する因子として1)大酒家,2)脳に萎縮がある(頭蓋骨と脳の間に隙間が多い),3)出血傾向がある場合や脳梗塞の予防の薬(抗凝固剤)を飲んでいる場合、4)水頭症に対する短絡術などの術後,5)透析、6)癌が硬膜に転移している場合などがあげられ、慢性硬膜下血腫を生じやすい条件として注意を要します。

症状としては,典型例では簡単な頭部外傷後.数週間の無症状期を経て頭痛、嘔吐などの頭蓋内庄亢進症状,片側の麻痺(片麻痺)やしびれ、痙攣、言葉がうまく話せない(失語症)、呆けや意欲の低下などの精神障害とさまざまな神経症状が見られます。これらの症状は年代によってかなり差がみられ,若年者では主に頭痛,嘔吐を中心とした頭蓋内庄亢進症状,加えて片麻痺,失語症を中心とした局所神経症状がみられます。一方,高齢者では潜在する脳萎縮により頭蓋内圧尤進症状は少なく,痴呆などの精神症状,失禁,片麻痺(歩行障害)などが主な症状です。呆けだけで発症する慢性硬膜下血腫もあり、比較的急に呆け症状が見られた場合には慢性硬膜下血腫を疑うことも重要です。なぜならばこの呆け症状は治療可能な痴呆症(認知症)として注目されています(treatable dementia)。

また時として急激な意識障害,片麻痺で発症し,さらには生命に危険を及ぼす場合(脳ヘルニア)の急性増悪型慢性硬膜下血腫も存在します。この時は重症な脳卒中と極めて似た症状を示します。

3. 慢性硬膜下血腫の診断について

症状より壮年〜老年期の男性で頭痛,片麻痺(歩行障害,上肢の脱力),記銘力低下,意欲減退,見当識障害、痴呆の精神症状が徐々に進行する場合,まず本疾患を疑うことが診断の第一歩です。高齢者などでは老人性痴呆,脳梗塞として扱われている場合が少なくありません。もちろん成人でも男女問わず軽度の頭部外傷後数週間経過してから前述のような症状が見られたならば本疾患を疑うべきです。特に飲酒家で数カ月前に頭部外傷の既往があればより本疾患である可能性が高いといえます。

画像診断として,まず通常の頭部単純X線撮影での診断は特殊な石灰化した慢性硬膜下血腫以外は不可能です。診断を確実にするにはCTスキャンが有効かつ必須です。CTスキャン所見の要点をまとめてみます。

1)血腫形状

一般に頭蓋の円蓋部の頭蓋骨直下と脳表の間に三日月形(凹凸レンズ状)の血腫を認めます。また血腫腔内に隔壁を認め,いくつもの部屋に分かれた多房性の場合もあります。左右両側性の場合が10〜20%にみられます。

2)CT上の血腫の色合い(CT吸収値)

血腫内溶液はCT上、その色合い(X線CT吸収値)によって一般に4型に分類されています(図3)。

  1. CT上脳実質の色より黒い血腫(低吸収域型)
  2. CT上脳実質と同じグレーの血腫(等吸収域型)
  3. CT上脳実質の色より白い血腫(高吸収域型)
  4. 黒、グレー、白が混在した血腫(混合型)
    (水平に鏡面を形成する血腫は特に鏡面形成型)

図3慢性硬膜下血腫のCT像

低吸収域型(両側性) 等吸収域型 高吸収域型
 
混合型 鏡面形成型(両側性)  

3)血腫の存在によるCTの間接的所見

血腫自体の周囲への圧迫所見(mass effect)としての脳室系の変形偏位、脳の正中構造の対側の偏位が認められます。血腫が接する脳表の脳の溝の消失も特徴的です。

4)造影剤を使ったCTの所見

血腫の被膜や血腫に接する脳の溝,脳のひだひだ(脳回)の血管が強調され,血腫の存在が明らかになります(図4上)。

図4 同一症例での慢性硬膜下血腫のCTとMRI

単純CT 造影CT
MRI(T1強調画像) MRI(T1強調画像)冠状断

その他の検査としては脳血管撮影とMRIがあげられます。脳血管撮影はCT出現以前においては必要な検査法でしたが,近年本疾患の診断ためにはほとんど行われなくなりました。

MRIでは血腫は一般にTl強調画像あるいはT2強調画像の撮影法でも白く(高信号域)映ります。しかし出血の時期によって色合い(信号域)が異なる場合があります。MRIは周囲の脳構造を鮮明に,またあらゆる断層面が描出できるので、幅の薄い血腫,CTスキャンでは時として診断に苦慮する両側性の等吸収域型の血腫や血腫の広がりをみるうえできわめて有用です(図4下)(図5)。MRIは本疾患において診断的価値は高く,今後ますます繁用されると思われます。

図5 同一症例での慢性硬膜下血腫のCTとMRI

単純CT MRI(T2増強画像)
(CT出不明瞭な慢性硬膜下血腫がMRIで明らかとなります)

4.治療の実際

血腫の大きさが小さい場合で自然に治癒する場合もありますが、極めてまれな例です。基本的な治療法としては外科的治療が推奨されています。

1).外科的治療

以前は全身麻酔下に大開頭・被膜摘出術(図2)が行われていましたが,現在は石灰化した慢性硬膜下血腫,難治性再発性慢性硬膜下血腫などの特殊例以外には大開頭術は行われていません。通常の慢性硬膜下血腫に対しては一般に穿頭やtwist-drillによる閉鎖式血腫ドレナージあるいは穿頭(1〜2ヶ所)に加えて血腫排液・血腫腔内洗浄術(以下,穿頭血腫洗浄術)を行うのが主流です。穿頭血腫洗浄術は血腫被膜を残したままですが,血腫除去による減圧と血腫内容の洗浄除去により出血源となる被膜の炎症性変化を消退することができ,本来の吸収過程に向かわせ血腫腔の消滅を図るもので,本疾患の治療法として今日普遍化された手技です。又近年では血腫が多房性で難治性の症例などに内視鏡を併用した穿頭血腫洗浄術も行われています。

さて実際の穿頭血腫洗浄術ですが,通常は局所麻酔下に行い得ますが,患者様の協力が十分に得られない場合(不穏など)や呼吸障害などがある場合は全身麻酔下に行います。手術手順を下記に示します。

  1. 頭部の切開部分を剃毛し,CTスキャンで想定される血腫の中心に1個の約3cmの小皮膚切開を加えます(図6−@)。小固定鈎をかけ創を広く開き,穿頭器にて小孔(burr hole)を開けます。血腫が大きい場合には2個の穿頭を行う場合があります。
  2. 硬膜表面を双極電気凝固子にて十分焼却後,硬膜のみを十字状に切開すると慢性硬膜下血腫の外膜が露出されます。その直下には血腫が透見できます。この外膜を切開すると流動性,非凝固性のモーターオイル様の暗赤色の血腫が流出します。カテーテルチューブを慎重に血腫腔内に挿入し,さらに血腫を吸引します(図6−A、図6術中写真)。
  3. 血腫吸引後,同カテーテルチューブを用いて,血腫腔を温生理食塩水で排出される液の血性成分が薄くなるまで十分に洗浄を行います。
  4. 洗浄終了後は血腫腔内に生理食塩水を満たし腔内の残存空気を排出し,同カテーテルチューブを皮下から誘導して閉鎖ドレーンとして留置(図6−B)し閉創します。排液チューブは排液の少なくなる1〜2日後に抜去します。



図6 慢性硬膜下血腫・穿頭血腫洗浄術

一般に術後きわめて早期より症状は改善しますが,血腫腔の消失はCTスキャン上数週間を要します。とくに高齢者においては長期化する場合が少なくありません。

2).保存的療法(非手術療法)

前述したように手術加療が原則ですが,小血腫例や無症候例などでは血腫内容液に対して浸透圧利尿剤を用いた薬物療法を行う場合があります。実際には浸透圧利尿剤〔商品名:マニトールやグリセオール等〕の連日点滴投与を行います。しかし長期間の連用が必要で入院期間の長期化,とくに高齢者などにおける電解質異常などの合併症の問題もあり適応には慎重でなければいけません。

5.穿頭血腫洗浄術の問題点

穿頭血腫洗浄術の術後の問題点・合併症として下記のような事項があります。

1).慢性硬膜下血腫再発

術後の再発は約10%にみられ,とくに高齢者などで脳萎縮の強い例,血液凝固異常を有する例,髄液短絡術後症例などでは再発を生じ易いとされています。手術手技による明確な差は現時点では得られていません。経過観察後,症状が再発したり血腫の消退傾向がなければ再手術を行います。

2).術後痙攣

血腫除去,洗浄の刺激により,とくに高齢者などで全身性痙攣を生ずる場合があり,前もって抗痙攣剤の投与が必要な場合があります。

3). 緊張性気脳症(tension pneumocephalus)

術後の血腫腔の残存空気が温められ膨張する(Montgolfier syndrome)ために脳を圧迫し頭蓋内占拠性病変として症状を呈する。治療として脱気を必要とする場合があります。

4). 術後感染症

術後の感染として硬膜下膿瘍、髄膜炎を合併することがあります

6. 終わりに

高齢化社会のなかで慢性硬膜下血腫症例は増加傾向にあります。急激な脳卒中様発症もあれば,頭痛,精神症状,片麻痺をはじめ多彩な症状を呈し、脳血栓,老人性痴呆(認知症),脳腫瘍などとの鑑別を要する場合もあります。しかし本疾患のほとんどは、正しく診断がなされタイミングを逸することなく治療が行われれば完治する予後のよい疾患です。本疾患を過誤しないためには先ず本疾患を念頭に置く事が重要と思われます。

関連サイト

http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/000781.htm#Symptoms

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