参考メモ

髄芽腫に対する治療に関する詳細な情報

髄芽腫に対する一般的な治療は、顕微鏡手術下に腫瘍全摘出術あるいは亜全摘出術を行い、術後に放射線治療と化学療法を行うことです。

手術による腫瘍の摘出は、組織診断を明らかにする上で重要です。またできるだけ腫瘍を全摘出するほうが、予後が良いことが明らかにされています。しかし脳幹部や、大事な血管や神経に浸潤している場合には、摘出は困難になります。

髄芽腫は、髄液と介して腫瘍が頭蓋内や脊髄の他の部位に転移(播種)することが多い腫瘍であり、播種予防のために、1940年代に腫瘍摘出後に脳と脊髄全体に放射線照射をする全脳全脊髄照射が行われるようになって救命が可能になった腫瘍です。今日も術後治療の基本は放射線治療で、1回1.8グレイ(Gy)、週5回のスケジュールで全脳全脊髄に36Gy、後頭蓋窩に18Gy(総線量54Gy)照射することが標準とされます。

1970年代にはいって、生存率の向上を目的に、術後に放射線治療に加え化学療法が併用されるようになりました。放射線治療と化学療法を併用した臨床試験で、術後腫瘍が大きく残存しているか、播種の明らかな患者さんでは、化学療法を併用することによって生存率を向上させることが可能であることが示され、放射線治療・化学療法併用の治療が広く行われるようになりました。

その後の放射線治療・化学療法併用の治療の成否をわけるリスク因子が明らかにされました。術後腫瘍が大きく残存するか播種のあるものを高いリスク群、それ以外の残存なく播種のないものを標準リスク群として、2群に分けてそれぞれに目標を設定して治療が試みられるようになりました。

小児期に36Gyの全脳全脊髄照射を受けた場合、治癒後に高次機能障害、内分泌障害などが著しいため、1990年代になって欧米では、標準リスク群の小児患者を対象に全脳全脊髄照射の線量を軽減する試みが始まりました。単純に線量を減量した場合には再発率が高くなるのが明らかにされた後、化学療法を併用することで線量を減量する試みが続けられ、1990年代後半から2000年代前半に、標準リスク群ではシスプラチン・ロムスチン(CCNU)・ビンクリスチン併用の化学療法、あるいはシスプラチン・シクロフォスファミド・ビンクリスチン併用の化学療法を併用することで、全脳全脊髄照射の線量を23.4Gyまで軽減して高い生存率を達成できることが示され、これが標準リスク群の標準的治療とみなされるようになりました。

一方高リスク群では、全脳全脊髄照射の線量は36Gyのまま、生存率をさらに向上させることを目的に、放射線治療中に化学療法を同時に行う治療や、放射線治療後に造血幹細胞移植を併用した強力な短期間に繰り返す治療が試みられるようになり、生存率の向上が報告されるようになりました。

小児患者の中でも、3歳未満の乳幼児では、放射線治療による障害が年長児に比較してもなお一層重篤になるために、術後に化学療法を行い、放射線治療は3歳を越えてから行う治療が試みられました。しかし、この治療では、3歳にならないうちに再発することも多く、また放射線治療を用いる治療を大きく下回る生存率しか達成できませんでした。このために世界では、抗がん剤の脳室内注入と強力な化学療法を併用する治療、造血幹細胞移植を併用した大量化学療法を含めた強力な化学療法を併用して放射線治療を回避する治療が試みられています。一方で、初期化学療法後に腫瘍残存がある場合には、早期に腫瘍局所に放射線治療を用いる治療も試みられるようになっています。これらの試みの中で、髄芽腫の中のdesmoplastic/nodular typeとよばれる病理組織をもつ腫瘍は、放射線治療を全く用いずに高い生存率を達成できることが示されるようになっています。

頻度の少ない成人の患者では、今も世界の多くの施設では術後に放射線単独の治療が行われています。小児患者における臨床試験の成果をうけて、高リスク群では生存率の向上を目的に、また標準リスク群では成人患者においても全脳全脊髄照射の線量を軽減するために化学療法を併用する試みが行われるようになってきました。小児患者と同様の化学療法をそのまま行った場合には、小児に比べ治療の副作用が大きく治療を継続できなくなることが多いことが明らかになってきており、どのような化学療法が実施可能で有効か検討されています。

術後の放射線治療・化学療法併用の治療は、骨髄の造血能抑制による貧血、血小板減少による感染抵抗力の低下、血小板減少による易出血性などを認めるようになるために注意が必要です。また使用する抗がん剤によりさまざまな副作用があります。全脳全脊髄照射も特に小児において適切に施行するには経験が必要です。このため、これらの治療は、脳神経外科、放射線科、小児科との治療連携が必要で、この疾患に対する治療経験のある施設で行われるのが望ましいと考えられます。

日本においては、放射線治療とイフォスファミド、シスプラチン、エトポシドを併用する化学療法(ICE療法)が広く用いられてきました。施設によっては、欧米の治療に匹敵した生存率が報告されていますが、欧米に匹敵する成果をあげることができるか確証されたとはいえません。近年は、成果をあげた欧米の治療をそのまま導入して治療する施設もでてきました。一部の施設では、実験的な臨床試験が行われています。治療にあたっては施設の治療方針をよく訊ね理解することが必要です。

再発部位は後頭蓋窩に最も多く、特に、術後の治療が放射線治療のみの場合には脳脊髄以外への転移もあります。治療後には定期的にMRI検査を行い、再発の発見に努める必要があります。

このように近年髄芽腫の治療は大きく進歩し、救命が可能となって、治癒後の生活の質(quality of life:QOL)が問題とされるようになり、今後の課題となっています。標準リスク群では、全脳全脊髄照射線量を23.4Gyまで軽減することが可能になりましたが、この場合も様々な後遺症の出現に注意する必要があります。高次機能障害は、全脳全脊髄の線量が36Gyの場合に問題となることが明らかにされていますが、23.4Gyに減量した場合、3歳未満で化学療法のみで治療された場合にも出現する可能性があり、注意深く観察される必要があります。障害の中には早期の介入により回復あるいは軽減可能なものもあり、長期にわたって障害の有無を評価し対策をとる必要があります。腫瘍や治療によって聴力障害、視機能障害が出現することがあり、注意が必要です。内分泌障害は治療後時間がたってから出現することもあり定期的な検査が必要です。治療による2次癌の可能性もあり、治癒後にも長期にわたって受診していくことが必要です。

参考サイト

髄芽腫についての脳外科医向けのHOMEPAGE

参考文献

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