【背景】近年検査室のコストが問われる余り、質の問題が置き去りにされている。にも拘らずその重大な危険性を主張する理論的根拠は殆ど確立されていない。そこで本学会臨床検査室医療評価委員会では、検査室の質を構成する要素を網羅的に分類、整理し「病院内検査室の満たすべき要件(案)」(以下要件案)を会員に報告した(臨床病理2005年12月号 理事会議事録1186〜1189頁に掲載)。しかしこれだけでは収支の数字に対抗できるような数値的根拠は示せず、また異なる施設間や施設内での比較も困難である。
【目的】そこで本研究では、要件案の各要素につき数値または指数化データを入力すると、検査室の質の総合指標を収支と同時に計算、表示するプログラムを作成し、客観的に質を評価する指標を明示・共有する共通基盤としての有効性を検証する。
【方法】プログラムを次の仕様とする。(1)ホームページ上に表示される入力画面に、前述の数値等を入力すると、図に示すようなグラフが表示される。例えば上から1番目と2番目の検査室のコスト(対収入額で基準化、左側に延びる棒グラフ)だけを比較すると前者が有利だが、品質(右側に延びる棒グラフ)を含めて比較すると、コスト差を凌ぐ後者の質の高さが分かる。(2)データ項目の選択や計算時に与える比重、指標の利用目的等は、すべて利用者に委ね、本学会の保証や推奨はないことを明示する。(3)公開サーバとセキュリティを確保した非公開サーバを用意し、公開の同意が得られた施設のみ前者にデータを入力する。その他の非公開施設は、守秘義務の遵守と自施設のデータ入力を条件に、後者を用いて自施設と他の非公開施設のデータを互いに閲覧できる。
【結果】希望を募り実施した試用実験を経て、参加施設にアンケートを実施した結果、施設特性別の比較、検査科毎のデータ区分、入力項目の追加、指標の細項目の改善、計算ロジックの公開、政策決定担当者や医療事務担当者向けの解説等の要望が寄せられた。
(本研究の一部は平成19-20年度本学会学術推進プロジェクト研究により実施した)