【背景】我々は分光推定の技術を応用して、市販の3バンドのデジタルカメラで撮影した皮膚のカラー画像から、メラニン、ヘモグロビンおよびオキシヘモグロビン色の3種類の色素分布を画像化できるシステムのプロトタイプの試作に成功した。画期的な臨床的有用性を期待したが、予想に反して臨床家からはあまり好意的な反応が得られなかった。
【目的】資本主義社会における画期的診断装置の開発には、技術的困難の克服と同時に、開発投資を正当化できる臨床ニーズを予め開拓しておくことが不可欠である。医師が診断時に頭の中で想起している各所見の典型画像は、時間とともに変化する動的な視覚情報に基づいて蓄積されたものであり、それらは静止画像から得られる情報とは異なる。そこで我々は、再現精度を落として計算負荷を減らし、ビデオカメラから入力したカラー画像からメラニン、ヘモグロビンおよびオキシヘモグロビン(図の各フレームの右上、左下、右下に表示)の3種類の色素分布をリアルタイムに画像化できるよう改造し、臨床ニーズを引き出す効果を検証した。
【方法】画像入力装置を従来のデジタルスチルカメラからオートホワイトバランス機能付きビデオカメラに変更し、ビデオ信号をデジタル化しリアルタイムにパソコンに送るようにした。撮影光源はストロボから常時点灯可能なキセノンランプに変更した。データ精度を12bitから8bitに落とし、演算処理をすべてルックアップテーブル化した。
【結果】臨床家による評価では、改造前のシステムとは異なり、動画像のリアルタイム表示には総じて極めて強い関心が示された。図に示す阻血や圧迫による皮膚の色素分布の時間的変化などの観察により、褥創や糖尿病性壊疽や麻酔時の酸素飽和度低下の超早期発見、潜在的な末梢循環障害や人工物装着部位の循環障害の早期発見、皮膚移植片の循環状態の監視などの具体的用途の可能性が指摘された。
【結論】時間をかけて入念な処理を施した静止画像ではなく、ある程度精度を犠牲にしてリアルタイム処理した動画像を提供したところ、臨床ニーズの開拓に極めて効果があった。