-> PDF version
-> presentation file (PDF)
-> Archives of Dr. mn's Research Works

生体の分光反射率の画像化による新しい無侵襲病態検査法の基礎的検討
西堀 眞弘1) 渡邊  憲2) 宮崎 安洋3) 田中 直文4) 荒川 真一5) 千葉 由美6) 二宮 彩子7) 大橋 久美子8) 田中  博8) 上村 健二9) 奥山 真寛9) 宮田 公佳10) 中口 俊哉9) 津村 徳道9) 三宅 洋一11) 滝脇 弘嗣12) 大和 宏13) 内野 文子13) 洪 博哲13) 橋本 憲幸14)
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部1)
武蔵野赤十字病院皮膚科2)
東京医科歯科大学大学院環境皮膚免疫学3)
東京医科歯科大学医学部附属病院手術部4)
東京医科歯科大学歯学部附属病院歯周病科5)
東京医科歯科大学高齢者看護・ケアシステム開発学6)
東京医科歯科大学生体・生活機能看護学7)
東京医科歯科大学難治疾患研究所生命情報学8)
千葉大学工学部情報画像工学科9)
国立歴史民俗博物館10)
千葉大学フロンティアメディカル工学研究開発センター11)
徳島大学医学部皮膚科12)
コニカミノルタテクノロジーセンター(株)システム技術研究所13)
(株)ナナオ 映像商品開発部14)
A Trial of Non-invasive Visualization of Skin Physiology Using Spectral Information
Masahiro Nishibori1) Ken Watanabe2) Yasuhiro Miyazaki3) Naofumi Tanaka4) Shinichi Arakawa5) Yumi Chiba6) Ayako Ninomiya7) Kumiko Ohashi8) Hiroshi Tanaka8) Kenji Kamimura9) Masahiro Okuyama9) Kimiyoshi Miyata10) Toshiya NAKAGUCHI9) Norimichi Tsumura9) Yoichi Miyake11) Hirotsugu Takiwaki12) Hiroshi Yamato13) Fumiko Uchino13) Po-Chieh Hung13) Noriyuki Hashimoto14)
Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Hospital1)
Dermatology, Musashino Red Cross Hospital2)
Environmental Immunodermatology, Tokyo Medical and Dental University3)
Operating Center, Tokyo Medical and Dental University Hospital4)
Section of Periodontology, Tokyo Medical and Dental University Hospital5)
Gerontological Nursing and Health Care System, Tokyo Medical and Dental University6)
Fundamental Nursing and Life Support, Tokyo Medical and Dental University7)
Department of Bioinformatics Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University8)
Department of Information and Image Sciences, Chiba University9)
National Museum of Japanese History10)
Research Center for Frontier Medical Engineering, Chiba University11)
Dermatology, the University of Tokushima School of Medicine12)
System Solution Technology R&D Laboratories, Konica Minolta Technology Center, Inc.13)
R&D Visual Products, EIZO NANAO CORPORATION14)
Abstract: One of promising applications of spectral color pictures, which provides pictures include spectral reflectance information for each pixel, is visualization of the distribution of three major skin pigments, melanin, hemoglobin and oxyhemoglobin. The spectral reflectance of each pixel of a skin picture can be estimated by observation from a picture taken using a three-band camera because the three principal components are sufficient to approximate the reflectance spectra of normal skin. Our experiments shows the dynamic changes of melanin, hemoglobin and oxygen saturation of the human skin surface are successfully visualized in real time by a prototype system using a current digital video camera. This technology will bring drastic evolution in the field of preventive medicine.
Keywords: Multispectral imaging, Spectral color pictures, Visualization, Skin pigment distribution, Peripheral oxygen saturation

1. 背景
分光画像(Spectral Color Pictures)とは、最近工学分野で実用化が進んでいるマルチスペクトルイメージング技術を用いて、画素ひとつひとつの分光反射率を記録した画像である。分光画像の撮影には通常5バンド以上の色の数が必要であるが、皮膚や粘膜に限れば最低3色で各画素の分光反射率が推定できる。さらにそのようにして得た分光画像からは、皮膚や粘膜の主要な3色素成分、即ちヘモグロビン、オキシヘモグロビンおよびメラニンの分布を推定できる1)2)3)
2. 目的
市販のRGB3バンドのデジタルビデオカメラを用いて撮影した皮膚や粘膜の分光画像から、ヘモグロビン、ヘモグロビンとオキシヘモグロビンから求めた酸素飽和度およびメラニンの相対濃度分布をリアルタイムに推定・表示する装置を試作し、新しい無侵襲病態検査法としての医学的有用性を検討する。
3. 方法
上記試作装置で手掌皮膚を撮影しながら、(1)血圧計で上腕動脈の血流を遮断後再開通した場合の変化、および(2)透明なアクリル板で手掌を一定時間圧迫した場合の変化を経時的に観察した。また(1)では、同側の示指にパルスオキシメータを装着して動脈血酸素飽和度を同時測定した。
4. 結果
動脈血流の遮断により、皮膚表面のヘモグロビンと酸素飽和度は著しく減少し、再開通により回復した。前者に比べ後者はやや遅れて変化し、前者は再開通時に一時的な増加が認められた後定常状態に回復した。動脈血酸素飽和度は、血流遮断時と再開通後の数秒間は測定不能となったが、測定可能となった時点では殆ど変化は見られなかった。また短時間の圧迫で前者は著しく減少したが、後者の変化は比較的軽微であった。
5. 考察
今回の方法は3バンド撮影のため分光反射率の推定精度に限界があり、かつ測定対象の絶対値は得られないとは言え、末梢組織の生理的変動を画像としてダイナミックに捕らえることに成功した。今後本技術の展開により、発症に直結する生体物質の局所的変化を発症前に捕える事ができれば、従来の医療技術とは一線を画する効果が期待できる。
糖尿病性壊疽を例に説明すると、発症するのは糖尿病患者の一部であるが、現状では個別患者の発症を直接予知する手段はなく、かつ他にも多くの合併症が起こりうるため、各々に対する予防対策は散漫にならざるを得ない。しかしながら本技術を応用すれば、個別患者の末梢組織の低酸素状態から発症時期を予測し、かつ発症リスクの高い部位を絞り込んで集中的に予防措置を講じ、さらに予防措置による低酸素状態の改善効果をモニタすることにより、極めて効率的に発症を防ぐことが期待できる(図1)。
6. 研究費について
本研究の一部は平成16年度文部科学省科学研究費補助金「生体の分光反射率の画像化による新しい無侵襲病態検査法の開発」(課題番号:15590480)による。
参考文献
[1]西堀眞弘:医療におけるカラー画像の重要性 −医学の立場から−.Medical Imaging Technology 20(1) : 117-122、2002.
[2]Masahiro Nishibori, Norimichi Tsumura and Yoichi Miyake :Why Multispectral Imaging In Medicine? Journal of Imaging Science and Technology 48:125-129, 2004.
[3]西堀眞弘、渡邊憲、宮崎安洋、田中直文、荒川真一、千葉由美、大橋久美子、田中博、奥山真寛、上村健二、津村徳道、三宅洋一、大和宏、内野文子:医用実物色画像の記録再現のための基礎的検討.医療情報学 24(1):133-138、2004.

図 1 潜在病巣の可視化による発症前予防