【目的】最近色彩工学の領域で、RGB3原色で記録された皮膚や粘膜のデジタル画像から各画素の分光反射率を推定する新技術が開発された[1]。そこでこの技術を臨床応用し、病変部位を分光反射率画像として捕捉することにより、(1)撮影装置や照明条件に依存しない病変部の色情報の画像記録と再現、(2)人間の視覚認知能を超える診断技術の開発(例えば皮膚の色素成分あるいは酸素飽和度の分布の画像化、視診では区別しにくい皮膚・粘膜病変の鑑別や潜在病巣の可視化)などの画期的新診断手法を実用化する。
【方法】(1)健常ボランティアの皮膚や粘膜について、デジタルカメラで撮影した画像のRGB値と分光反射率の測定値を多数収集し、RGB値から分光反射率を推定するパラメータを作成する。(2)それを用いて次の機能を持つソフトウエアを作成する。1)RGB画像の各画素のRGB値からパラメータテーブルを用いて分光反射率を推定する。2)推定された分光反射率と各照明の分光放射率から、各々の照明下における各画素の反射光のスペクトルを計算する。3)得られた反射光のスペクトル、コンピュータの表示装置の出力特性および等色関数(ある単色光と同じ色刺激を網膜に与えるRGB値の対応を示す関数)から、実際の反射光と最も近い色刺激を網膜に与えるRGB値を各画素について計算し、照明補正画像とする。
【結果】作成したソフトウエアで再現された画像と実物の比較実験を行ったところ、色がうまく一致しない場合があった。原因を追究したところ、病室、外来、処置室、手術室など、視診が行われうる場所では、医師が極めて多様な照明下で視診を行っており、それに反応して起こる人間の眼の色順応が、皮膚や粘膜の色に大きな影響を与えることが明らかとなった。そこで色順応の影響を取り除く機能をソフトウエアに付加したところ、極めて実物に近い色を再現できた。
【考察】本研究班は、対象が皮膚や粘膜に限定されるものの、照明に依存せず通常のデジタルカメラを使って実物と同じ色を記録・再現できるシステムを、世界で初めて開発した。さらに測定や推定の精度を高めれば、分光反射率からメラニン、還元ヘモグロビン及び酸化ヘモグロビンの分布を推定し、さらに酸素飽和度の分布を推定して画像化するなど、画期的な検査装置の実現が可能と考えられる。
【文献】
[1]三宅洋一.ディジタルカラー画像の解析・評価.東京大学出版会, 2000.
【謝辞】共同研究者としてご尽力頂いている千葉大学の三宅洋一、津村徳道、奥山真寛、上村健二の各氏、武蔵野赤十字病院皮膚科の渡邊 憲氏、東京医科歯科大学の田中 博、宮崎安洋、田中直文、荒川真一、千葉由美、大橋久美子の各氏、コニカミノルタテクノロジーセンター株式会社の浩 博哲、内野文子、大和 宏の各氏、株式会社ナナオの橋本憲幸氏に深謝する(本研究の一部は平成15年度科学技術振興機構科学研究費補助金(文部科学省)基盤研究(C)(2)課題番号15590480 による)。