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臨床病理 50(補冊) : 102、2002年10月30日
The Official Journal of Japanese Society of Laboratory Medicine 50(Suppl.) : 102, 2002.10.30
第49回日本臨床検査医学会総会 F2-4

フォーラム2 EBLMの進め方と問題点−系統的レビューを中心に

系統的レビュー(Systematic review)とは

西堀 眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

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Evidence-based Laboratory Medicine(EBLM)の実践は、これまで治療介入の分野で培われてきたEvidence-based Medicine(EBM)の手順に、臨床検査独自の検討項目を加味したものとなる。即ち、(1)患者の診療上の問題をリストアップし、(2)該当するエビデンス、つまり検査の性能を示す証拠をできるだけ探し出し、(3)その中で科学的な根拠を選別し、必要に応じ複数の根拠を総合したうえで、(4)患者固有の臨床的状況と本人の意向を考慮に入れ、検査を実施すべきか、実施するならどの検査を選ぶかを判断する。
例えば「新生児感染症が疑われた症例には高感度CRPを測定すべきか」という問題を考えてみよう。この際特にEBLMを意識しなければ、関係のありそうな医学雑誌の特集号を探すか、MEDLINEや医学中央雑誌で文献を検索し、総説が見つかればそれを、見つからなければ個別の研究の結果を参考にする。ところが実際にやってみると、文献によって対象患者、測定法、カットオフ値、そして結論である診断精度がまちまちで、どれを信用していいのか分からない。このような状況で威力を発揮するのが、前述の(2)と(3)のステップであり、この過程を系統的レビュー(Systematic review)と呼ぶ。
(2)のステップでは、該当しそうな文献をできるだけもれなく、かつ余計なものが紛れ込まないよう、効率よく検索するノウハウが必要になる。例えば検索のキーワードとして「新生児感染症」という用語がよいか、あるいは「新生児」と「感染症」に分けて別々に検索し、その積集合をとった方がよいかなど、さまざまな組み合わせを考え取捨選択しなくてはならない。
(3)のステップについては、「科学的な」という言葉の、ここでの意味を誤解しないよう注意が必要である。即ちこれまで人類が得た医学的根拠は、実際に試した結果に基づく帰納的なものがほとんどである。したがって、個別の問題毎に必ずしも適合する根拠が得られるとは限らないうえ、たとえ得られたとしても、集団で証明された根拠が目の前にいる患者に当てはまるという保証はない。したがって「科学的根拠」とは、科学的に真実と考えられる根拠、という意味ではなく、科学的に正しい方法で試すことによって得られた根拠を意味する。
そこでこのステップでは、各々の根拠を得るのに用いた方法が、科学的に正しかったかどうかを判断する。実はこの試すという行為には、さまざまな落とし穴がつきもので、うっかりすると偏った結果を招いてしまう。例えば前述の例で、高感度CRPが正常値を示したために確定診断に至らなかった症例を検討対象から除いてしまうと、偽陰性率は真の値より低く、偽陽性率は高く算出されてしまう。そのような問題点を見落とさないためには、統計学と医学の知識、および医学研究についての豊富な経験を背景とし、批判的に吟味することが求められる。
以上のような過程で文献を選別した後、カットオフ値や診断精度を統計学的手法で統合したうえで、次の(4)のステップに進むことになる。

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