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医療情報学 21 (Suppl.、第21回医療情報学連合大会論文集) : 812-813、2001年11月28日
Japanese Journal of Medical Informatics 21(Suppl., Proceedings of the 21st Joint Conference on Medical Informatics) : 812-813, 2001.11.28

3-E-2-1 データベースと標準化 / 一般口演セッション: 学術情報システム・臨床研究支援

デジタル生体医用画像の色研究に関する
学際的国際電子学会の創設について

○西堀 眞弘

東京医科歯科大学医学部

抄録: 医学における画像診断の電子化は時代の趨勢であり、デジタル画像における正確な色再現の重要性は言うまでもない。しかし三原色による色情報の記録方式では、再現できる色の範囲に理論的限界があり、姑息的キャリブレーション法が提案されているものの、その正確性が定量的には保証できない。この問題に対し工学分野では、既に我が国の主導により、対象物表面のスペクトル反射率を1単位画素毎にまるごと記録し、撮像・表示デバイスおよび照明に依存せず正確に色を再現できる根本的な解決手段、即ちマルチスペクトルイメージング技術が開発されつつある。この技術の医学応用は、医学分野における色再現の問題を原理的に解決する決定打として期待されるとともに、工学分野では技術の有用性をアピールする場として強く期待されているため、近年両分野の研究者間で連携の気運が著しく高まってきた。
ただし今のところ、国際的に見ても研究拠点は数カ所に過ぎず、かつ研究者もさまざまな施設に点在しているため、従来の形態の研究会や学会を設立し、運営負担を参加者の熱意にのみ頼るのでは、特に資金面で維持が難しいと予想される。そこでIT化の徹底により、間接経費を極小化した国際電子学会の創設を試みた。その結果、医学と工学の両分野から選ばれた、6名の外国人を含む25名の理事のもと、会則に会費無料を明記したうえで、これまでに全書類の日英バイリンガル化、電子メール新聞と電子ジャーナルの創刊、英文教科書の編集発行およびホームページによるこれら全情報の無料公開に成功した。また年1回の学術集会は既に3回を重ね、内容の事前公開、質問の事前受付およびディスカッションの内容報告等により、欠席者への参加手段の提供を試みてきた。今後は学術集会へのリアルタイム遠隔出席の実現と、電子発行物の正確な色再現が課題である。

Creating Interdisciplinary International E-academy of
Digital Color Imaging in Biomedicine

Masahiro Nishibori

Tokyo Medical and Dental University

Abstract: A large potential risk of erroneous diagnoses caused by inaccurately reproduced colors has been left in medical imaging. This problem requires interdisciplinary collaboration of medicine and engineering science to be resolved, but medical researchers specialized in this area are very few and specialists of color science, especially those of multispectral imaging, are scattered all over the world.
From this point of view, there must be an international and interdisciplinary society to promote research collaboration among them, but a conventional one will require a large budget that tends to bring pressure of commercialism that may impose some bias on its management. In order to avoid it, Digital Biocolor Society (http://biocolor.umin.ac.jp/) was established on April 2000, according to the policy of the minimal cost operation by full use of the information technology and the volunteer spirit.
As a result, it succeeded in making all publications and notifications bilingual, namely English and Japanese, and issuing them only in electronic form, with charging no membership fees. Also, it has already achieved unique results, which are publication of an English textbook and identification of gaps between medical field and engineering field in understanding each other, for example, a belief that every color can be represented by the RGB system because we have only three kinds of color sensors.

Keywords: medical imagingdiagnosisdigital imagingcolor reproductionmultispectral imaging


1. 背景

 医学における画像診断の電子化は時代の趨勢であるが、診断精度への悪影響を防ぐためには、デジタル画像における正確な色再現の重要性は言うまでもない1)2)3)4)。しかし三原色による色情報の記録方式では、再現できる色の範囲に理論的限界があり、姑息的キャリブレーション法が提案されているものの、その正確性が定量的には保証できない。
 この問題に対し工学分野では、既に我が国の主導により、対象物表面のスペクトル反射率を1単位画素毎にまるごと記録し、撮像・表示デバイスおよび照明に依存せず正確に色を再現できる根本的な解決手段、即ちマルチスペクトルイメージング技術が開発されつつある。この技術の医学応用は、医学分野における色再現の問題を原理的に解決する決定打として期待されるとともに、工学分野では技術の有用性をアピールする場として強く期待されているため、近年両分野の研究者間で連携の気運が著しく高まってきた5)6)7)8)9)10)
 そこで、この分野に特化した学際的な活動母体が必要となったが、医学領域でこの分野を指向する研究者はまだ僅かであることに加え、工学系の色研究拠点、特にマルチスペクトルイメージング技術の研究拠点は、国内の数施設に加え、世界中に散らばっているため、国際的な活動が必須となる。したがって通常の運営方法では多額の経費を必要とし、安易に産業界に支援を求めた場合、資本の論理により方向性が歪められる恐れが生じる。

2. 目的

 デジタル生体医用画像の色再現性の研究に特化した学術団体として、2000年4月に「デジタルバイオカラー研究会」を設立するに当たり、IT化の徹底と純粋なボランティア精神の貫徹により、間接経費の極小化を試みた。

3. 方法

(1)すべての出版物や連絡書類等について印刷物を廃し、英語と日本語での併記を原則として、ホームページと電子メールで代替した。(2)会の運営に伴う役員報酬や旅費等は支給せず、会費を無料とした。(3)ただし、本研究会が年に1度主催する学術集会、デジタル生体医用画像の「色」シンポジウムは、従来通り参加費制とした。

4. 結果

 通常の学術団体に必要な機能は、すべて以下のように代替に成功し、経費は無視できる程度であった。研究会ホームページ(http://biocolor.umin.ac.jp/)には会報のバックナンバーも掲載されるので、以下に記載されている内容はすべて無料で閲覧可能である。

4.1 電子メールで代替されたもの

4.2 ホームページで代替されたもの

4.3 活動の成果

4.3.1 Degital Color Imaging in Biomedicine

 平成12年度科学研究費補助金による助成を受け、4名の共同編者のもとに17名の著者による14編の論文を収載した英文成書で11)12)、ホームページには電子版を掲載した。

4.3.2 色についての先入観

 本研究会の活動を通じ、これまで次のような先入観が、医学と工学の相互理解を妨げていたことが分かってきた。

  1. センサー細胞は3種類しかないから3原色ですべての色を再現できる→スペクトル感度特性曲線の重なりにより等色関数のRGB値が負になる部分は表示できない
  2. 表示装置の物理的特性には限界があるので完璧な色再現など不可能→ヒトのセンサー精度はかなり低いためスペクトルを近似再生するだけで効果覿面
  3. ヒトのセンサー精度はかなり低いため色再現精度を向上しても効用は少ない→多元的情報の同時複合処理による精度向上で生存に必須な認知能力は高度に発達
  4. 既に普及したRGBベースのインフラの入れ替えなど不可能→光源とRGBのデータで分光反射率の推定が可能なので、分光反射率の近似再現は現表示装置でも可能

5. 将来計画

 今後は、先にあげた先入観を払拭する戦略の推進、学術集会へのリアルタイム遠隔出席の実現、および電子発行物の正確な色再現が課題である。

参考文献

[1] 西堀眞弘:形態検査領域における標準化の試み.第1回デジタル医用画像の「色」シンポジウム抄録集25-28、1999年(→http://mn.umin.ac.jp/work19990508a.html)

[2] 西堀眞弘:デジタル医用画像の色再現の差と診断への影響.第19回医療情報学連合大会論文集336-337、1999年(→http://mn.umin.ac.jp/work19991125.html)

[3] 西堀眞弘:形態検査画像のデジタル化により生じる問題点とその対処法.第2回デジタル生体医用画像の「色」シンポジウム抄録集8.1-8.5, 2000年(→http://biocolor.umin.ac.jp/sympo200004/proc18.pdf)

[4] 小笠原克彦、他:デジタルカメラで撮影された色画像の画像サイズが読影判断に及ぼす影響 ―赤色疑似病変を用いたROC実験―.第2回デジタル生体医用画像の「色」シンポジウム抄録集8.1-8.5, 2000年(→http://biocolor.umin.ac.jp/sympo200004/proc16.pdf)

[5] Masahiro Nishibori : The Role of Multispectral Imaging in Medicine. Proceedings of International Symposium on Multispectral Imaging and Color Representation for Digital Archives, 114-116, 1999(→http://mn.umin.ac.jp/work19991021.html)

[6] 西堀眞弘:医学領域におけるマルチスペクトル・イメージングの役割.ディスプレイ・アンド・イメージング8(4) : 279-282、2000年(→http://mn.umin.ac.jp/work20000630.html)

[7] 西堀眞弘:デジタル医用画像の色の標準化について―「診断等価性」導入の提言―.医療情報学20(2) : 165-167、2000年(→http://mn.umin.ac.jp/work20000603.html)

[8] Masahiro NISHIBORI : Problems and Solutions in Medical Color Imaging. Proceedings of Second International Symposium on Multispectral Imaging and High Accurate Color Reprocuction, 9-17, 2000(→http://mn.umin.ac.jp/work20001010.html)

[9] Masahiro NISHIBORI : Proposal for Standardization of Digital Color Imaging in Morphological Laboratory Diagnosis. Digital Color Imaging in Biomedicine, 53-60, 2001(→http://mn.umin.ac.jp/work20010228.html)

[10] 西堀眞弘:Digital Imaging and Color in Medicine.3D映像15(1) : 3-9、2001年(→http://mn.umin.ac.jp/work20010324.html)

[11] Masahiro NISHIBORI : Making the First Textbook: 'Digital Color Imaging in Biomedicine'. Proceedings of the 3rd International Conference on Multispectral Color Science (MCS'01), 53-60, 2001(→http://mn.umin.ac.jp/work20010618.html)

[12] 西堀眞弘:Digital Color Imaging in Biomedicine の発刊について.第3回デジタル生体医用画像の「色」シンポジウム講演予稿集18-21, 2001年(→http://biocolor.umin.ac.jp/sympo200107/proc18.pdf)