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臨床病理 48(補冊) : 201、2000年9月30日
The Japanese Journal of Clinical Pathology 48(Suppl.) : 201, 2000.09.30
第47回日本臨床病理学会総会 P-1

バイオインフォマティクス時代における
臨床検査医の独自性確保について


西堀 眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

published edition

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【目的】 専門医の生命線である大学講座の存続、後継者の確保および母体学会の維持が困難となりつつある臨床検査医について、その背景となる要因を分析し、ヒトゲノムの解読が完了した今、来るべきバイオインフォマティクス時代に向けて、独自の診療部門および学問領域の確保を図る。
【方法】 より広く認知されている他の専門医あるいは専門職との競合を強く意識し、臨床検査医のみが共通して備えている固有の技能を必須とするか否かという観点から、[A]従来より臨床検査医が担当するとされてきた分野、および[B]今後拡大が予想される潜在的担当分野につき分析する。
【結果】 [A](1)臨床検査医による長年の育成努力が実り、大学院卒の検査技師が続々と誕生しつつある中、医療機関の検査部門は、いずれ経営者のニーズを的確に実現する能力を備えた優秀な検査技師を中心にして独り立ちし、臨床検査医の関与なしに運営が可能になる。臨床検査医は検査技術については検査技師の、マネジメントについては経営者の能力を超えるものではない。(2)数値で得られる検査データの解釈能力は該当疾患の専門医を超えるものではない。(3)病理診断を含む形態診断は、放射線科医同様に経験の蓄積が独自の価値を生むが、病理専門医あるいは血液専門医の担当分野以外に専門領域を形成する程の広がりはない。(4)感染対策は本来感染症専門医の担当であり、臨床検査医はそれが拡充されるまでのつなぎに過ぎない。(5)新たな検査法の開発には資本と技術力が不可欠であり、臨床検査医は既に理学部出身のバイオ研究者を擁した企業の敵ではない。(6)治験についても臨床医とコーディネータの連携が確立されれば割り込む余地は少ない。
[B](1)遺伝性疾患は既に専門医が診療部門を開設し実績を重ねている。(2)バイオインフォマティクスを用いた遺伝子解析および発症素因分析については[A]の(5)と同じである。(3)ただしその結果をどのように各個人および社会に還元するかについては、米国で大きな混乱を招きつつ試行錯誤されている段階である。この解決には、遺伝子診断をはじめとする臨床検査の精度や臨床的意義に加え、コンピュータ利用とEvidence Based Diagnosisに精通し、かつ全人的に個人の健康管理を支援できる医師の存在が不可欠である。疾病の発症後は該当の専門医の能力が勝るが、発症前のリスクマネジメントの段階では、判断の根拠が臨床検査情報のみであり、また健診専門医との比較では臨床検査により精通している点から、その受け皿として臨床検査医の優位性が発揮できる可能性がある。
【結論】 現状維持では臨床検査医の存在できる場所は縮小の一途を辿る。ただし、近い将来社会的ニーズの急拡大が予想される「テーラーメード予防医学」とでも呼ぶべき新たな臨床医学領域においては、臨床検査医は最も有利な立場にあり、独自性を確保できる可能性がある。
【文献】 西堀眞弘:臨床検査医学の21世紀に目指すべきもの.Laboratory and Clinical Practice 17(2) : 127-130、 1999

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