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モダンメディア 42(9) 31-35, 1996

臨床検査ひとくちメモ No.131

インターネットは医療や臨床検査の分野で
  どのように利用されているのでしょうか。

東京医科歯科大学医学部附属病院検査部 西堀眞弘

published edition<some minor corrections were made after published>

目次

I.インターネットとは
II.医学・医療分野での利用
III.臨床検査分野での利用
おわりに
文献


I.インターネットとは

 最近いろいろな分野でインターネットが話題に登っています。実際に利用した経験をお持ちの方はまだ少ないと思いますので、まず一般的な説明から始めましょう。インターネットはもともと米国が核攻撃に備えて指揮命令系統を分散させ壊滅的打撃を避ける目的で開発された軍事技術だったのですが、実際にはコンピュータの操作に慣れている研究者や技術者の国際交流を中心に利用が広がりました。その後インターネット上の文字および画像情報を極めて簡単に閲覧できるソフトが発明され、一般社会への急速な普及が始まりました。
 インターネットの全体像を知ることは容易ではありませんが、テレビや放送局のしくみを知らなくても番組を見ることができるように、利用に当たっては必ずしも技術的な内容を理解する必要はありません。そこで、ここでは利用者の立場で最低限理解しておくべき特徴に絞ってまとめておきましょう。

1.あらゆる情報伝達・情報交換を、一元的にかつ革命的低コストで実現する世界規模のコンピュータネットワークである
 手紙、電話、テレビ、ラジオ、パソコン通信など別々に行っていたことが、ひとつのネットワークで驚く程安くできるようになるということです。大切なことは、費用面での困難を解消する道具であって、今まで全く不可能だったことができる訳ではありません。

2.通信の速度、品質やセキュリティーを保証する責任者がいない
 費用が安いことの裏返しとして、送られる情報が正しいかどうか、中味を勝手に覗かれないか、途中で改ざんされないかどうか等については全く保証がなく、すべて自己責任で利用しなければなりません。また通信速度が遅くなったり、突然止まってしまうことさえあります。情報交換の中心である電子メールを例にとると、ボランティアがリレー式に運ぶ鉛筆書きの葉書のようなものと言えば、どのような危険があるかが想像できるでしょう。

3.インターネットでは誰でも情報の受け手になれるだけでなく、誰でも情報の発信ができる
 現在情報発信の主流となっているのは「ホームページ」と呼ばれる形態です。これは電子的な掲示板のようなもので、バソコンをインターネットに接続し、数千円のホームページ閲覧用ソフトを使えば世界中のホームページを見ることができます。さらに数千円の情報発信用ソフトを追加し、決められた形式に合わせて文書や画像を登録するだけで、自分のホームページから世界中に情報を発信することができます。

4.刻々と変化し規模・技術共に爆発的に自律成長しつつある
 全体像や将来像についてはいろいろなことが言われていますが、あるとき正しいと言われたことが次の日には違ってしまう程変化が激しく、かつ世界中の参加者が誰の管理も受けずにさまざまな試みを進めているので、本当のことは誰にも分からないというのが実態です。

5.インターネットについてのすべての最新情報はインターネットで取り寄せることができる
 例えば、自分の知りたい情報がどこにあるか、自分の知りたい情報を探すにはどうしたらいいかなどといった情報もインターネットで取り寄せることができます(表1)。またインターネットの利用に必要な最新版のソフトの多くは、インターネットを使ってわずかな費用で取り寄せることができます。このように、新しい情報である程インターネットを使わないと得られないため、インターネットの利用者とそれ以外の人々との間では、ますます情報格差が広がってしまうことになります。

表1 見たい情報が載っているページが探せるホームページ

Yahoo-INDEX(URL http://www.yahoo.com/
アメリカの大学生が始めたインターネットの索引ページの元祖。キーワードによる検索と内容に沿った分類をたどる2種類の方法で探すことができる。

NTTホームページ(URL http://www.ntt.jp/
 最も早くから開設されている日本の代表的ホームページ。国内のホームページの膨大なリストが掲載され、「日本の新着情報」には大量の情報が日々追加されている。閲覧者が多いのでなかなかつながらないことがある。

CSJインデックス(URL http://www.iijnet.or.jp/csj/
 最も実用的な日本語の検索ページのひとつ。必要な情報だけがうまく整理してあり、初心者でも探しやすい。キーワードによる検索と内容に沿った分類をたどる2種類の方法で探すことができる。


文献[5]より引用)

6.インターネットを理解するにはよく分からないまま実際にさわってみる以外にない
 インターネットの利用に踏み切れない方々の多くは、よく理解してからでないと不安だということが最大のハードルになっています。しかしこれまでの説明でも明らかなように、実際に利用せずに理解するのは困難です。取り敢えず情報を閲覧するだけなら難しい操作は必要ありませんし、どんなに間違った操作をしても、知らないうちに誰かに損害を与えたり、自分が被害を受ける心配はありません。


II.医学・医療分野での利用

 最初に利用が進んだのはインターネット上に公開された遺伝子、蛋白質、微生物、癌治療などの欧米のデータベースです(表2)。今では国内外の大学、研究所あるいは病院の紹介や研究内容、患者教育の教材、医薬品添付文書、医薬品副作用情報などが閲覧できます(表3)。またインターネット上での学術論文の公開[1-3]や、電子メールを使った医療相談なども始まっています。

表2 医学研究に利用されるホームページ

BIOSCI bionet Newsgroup Archives(URL http://www.bio.net/archives.html
 分子生物学に関するネットワークニュースの記録保管所。次々と流されるニュースの記事が保管してあり、時系列順とキーワード検索の2種類の方法で記事を探すことができる。

DNA Information and Stock Center (DISC)(URL http://disc.dna.affrc.go.jp/
 農林水産省の農業生物資源研究所が提供する遺伝子関連データベースの検索ページ。さまざまな蛋白質やそれに対応するDNAを、DDBJ(日)、EMBL(欧)およびGenBank(米)といった世界中のデータベースから探し出すことができる。さらにスーパーコンピュータ等を使用したDNA・タンパク質配列の相同性検索のサービスを無料で利用することもできる。

WFCC World Data Centre for Microorganisms (WDCM) (URL http://www.wdcm.riken.go.jp/
 理化学研究所にある国際的な微生物バンクのデータベース。研究などに使いたい菌株がどこで入手できるかを簡単に検索できる。

The NCBI WWW Entrez Browser(URL http://atlas.nlm.nih.gov:5700/Entrez/index.html
 米国バイオテクノロジー情報センターが提供する分子生物学文献、遺伝子、アミノ酸配列、蛋白立体構造のデーターベース検索ページ。対話方式で検索対象を絞り込め、操作法が簡単なので、初心者でも扱いやすい。立体構造を見るには専用の表示ソフト(無料)をインストールする必要があるが、立体表示された分子をリアルタイムで自由に動かせるなど素晴しい機能がついている。


文献[6]より引用)

表3 医療関連のホームページ

UMIN(URL http://www.umin.u-tokyo.ac.jp/
 大学医療情報ネットワーク(略称UMIN)の事務局が運営するホームページ。日本の医療に関する情報や医療関連ホームページのデータベースでは最も充実している。

医薬品添付文書(URL http://center2.umin.u-tokyo.ac.jp:443/drug-data/index-F.html
 医療情報システム開発センターからデータの提供を受け、名古屋大学がデータベース化している。薬の名前から添付文書の内容全文を検索できるという大変便利なページであるが、残念ながらUMINの登録者以外は見ることができない。

医薬品副作用情報(URL http://www.umin.u-tokyo.ac.jp/fukusayou/
 厚生省の配布している「医薬品副作用情報」のデータを厚生省薬務局と日本薬剤師会(中央薬事センタ−)から提供を受けて1992年3月のNo.110から掲載している。社会的に著しく必要性の高いページであるが、残念ながら情報の更新に3ヵ月以上の遅れがある。

国立がんセンター・がん情報サービス(URL http://wwwinfo.ncc.go.jp/NCC-CIS/0sj/indexj.html
 国立がんセンター学術情報ネットワークによる、がん患者やその家族、治療にあたる医師、看護婦、その他の医療従事者のための情報を提供しているページ。まだ作成途中であるが、乳がんに関するかなり詳しい解説や、緩和ケア病棟を有する病院のリストなどを見ることができる。


文献[5]より引用)


III.臨床検査分野での利用

 このような流れの中で、臨床検査分野でも既にいくつかのホームページが開設されています(表4)。ここでは、中でも特にインターネットの持ち味を活かし、国際的に見ても最先端の情報発信に取り組んでいる「臨床検査医のページ」をご紹介しましょう。これは著者の所属している日本臨床検査医会の有志が試験運用しているホームページで、臨床検査領域における新しい診療支援活動として今後の展開が期待されています。に示した目次のページが多少殺風景な感じがするのは、低速回線でも待たずに閲覧できるように画像の掲載を最小限に抑えているためです。
○臨床検査公開コンサルテーション: ネット上に臨床検査医学のシンクタンクを創ろうという提言[4]から生まれたページです。臨床検査に関する質問を電子メールで受け付け、回答すると共に一部を代表的なQ & Aとして順次掲載しています。
○新規保険収載臨床検査項目: 新しく健保収載になった臨床検査項目の点数、算定条件、測定法、臨床的意義を解説しています。既掲載分は項目名からだけでなく、適用日付および点数表区分からも検索できるようになっています。
○世界の保健医療ニュース: 世界の保健医療情勢を刻々と伝えるWHOトピックスをセレクトし、翻訳して掲載しています。臨床検査関連の話題と共に、エボラ出血熱、エイズ、狂牛病などホットな話題も提供しています。
○臨床検査医ニュース: 日本臨床検査医会の年6回発行の機関誌ではカバーしきれない新鮮な情報を掲載しています。役員名簿、年間行事予定、各種集会プログラムなどの活動内容も公開しています。
○臨床検査関連の製品情報: 臨床検査関連の実務や研究に携わる方々と、関連製品を供給するメーカーやディーラーの方々との効率的な情報交換のために、試験的に提供しているページです。
○臨床検査公開サーベイ: ホームページの画像発信機能を利用して、形態診断の外部精度管理活動の普及を試みているページです。インターネットに接続すれば、どこからでも驚く程鮮明な画像を見ることができます。
○臨床検査公開講習会: 臨床検査医学の卒後教育事業の一環として、ホームページの利用を試みているページです。現在試験的にM蛋白判定用の免疫電気泳動像とその解説を掲載しています。

表4 臨床検査関連のホームページ

臨床検査医のページ(URL http://www.jaclap.org/
 臨床検査医有志が試験運用中のホームページ。新規保険収載検査項目一覧や、気軽に臨床検査に関する質問ができるページなど、日々の診療に役立つ情報を発信している。また臨床検査医関連のニュース、世界の保健医療ニュースあるいは臨床検査関連の製品情報の発信や、インターネットを使った公開サーベイあるいは公開講習会といった試みも行われている。

臨床検査情報学専門部会ホームページ(URL http://itp4.hmi.yamaguchi-u.ac.jp/cpcli/cpcli.html
 日本臨床病理学会の臨床検査情報学専門部会が運営しているホームページ。学術講演会のプログラムや、日本臨床病理学会がまとめた「日常初期診療における臨床検査の使い方」(作成中)などの情報を発信している。

第43回日本臨床病理学会のページ(URL http://hawk.hama-med.ac.jp/congress1.html
 臨床検査分野の中心的学会である日本臨床病理学会の第43回総会のプログラムや演題募集要項などの情報を発信している。

臨床検査技師のページ(URL http://www.bekkoame.or.jp/~simaneko/
 臨床検査技師有志が開設しているホームページ。臨床検査の基礎知識や、臨床検査技師の日常業務などが親しみやすく紹介されている。

臨床検査医学ホーム・ページ(URL http://www.pitt.edu/~aksst/GHNet/Lab/lab.html
 米国の大学院生が作成したホームページを、米国在住の日本人研究者が日本語訳したページ。オリジナルの情報が発信されている訳ではないが、検査実施機関、学術団体、各種検査の解説、オンライン・ジャーナル、学会開催予定など、臨床検査医学関連の情報を発信しているホームページの膨大なリストが掲載されている。

The American Society of Clinical Pathologists (ASCP) (URL http://www.ascp.org/
 米国臨床病理学会のホームページ。各種アナウンス、生涯教育、出版物、会員募集などの詳細な情報が掲載されている。



おわりに

 インターネットについては、革命的な効用が喧伝される反面、セキュリティーの不備や反社会的利用についての批判も多く聞かれます。しかし善かれ悪しかれ、社会のあらゆる分野で早晩避けては通れない存在となることは明らかです。いたずらに不安を抱いたり、逆にむやみにのめり込んだりすることなく、本質をよく理解し正しく使いこなしていくことが、臨床検査の分野でも求められていくようになるでしょう。


文献

[1]
第15回 医療情報学連合大会ホームページ(URL http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~medinfo/15th_jcmi/index.html
[2]
日本医療情報学会ホームページ(URL http://www.osaka-med.ac.jp/jamiM.html
[3]
医療情報学雑誌データベース(URL http://www.miyazaki-med.ac.jp/jjmi/jjmi.html
[4]
木村 聡:検査医会への一提案 コンサルテーションに答えられる電脳情報網を創設しよう、LabCP Vol.13:128-129、1995
[5]
西堀眞弘:1時間でわかるインターネット・エッセンス(URL http://202.242.169.152/works/work19960329.html
[6]
西堀眞弘:インターネットを活用した病態解析支援(URL http://202.242.169.152/works/work19960330.html

[-> Archives of Dr. mn's Research Works]