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3-G-2-1第17回医療情報学連合大会 17th JCMI(NOV,.1997)

形態検査の外部精度管理にWWWを利用する研究

西堀 眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

Use of WWW in a Control Survey of Morphological Laboratory Tests

Masahiro Nishibori

Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University Medical Hospital(mn.mlab@tmd.ac.jp)

Abstract:The world wide web (WWW) system was adopted in a control survey of morphological laboratory tests to give the participants much easier access than conventional surveys using slidefilms. The participants of the survey examined photographs of laboratory tests put on a home page (http://202.242.169.152/clap/survey.html), sent answers via e-mail, and reviewed the model answers published later at the same home page. During two months, 889 times of access to the home page were made, and six voluntary answers were received. No problem on digitizing photographs and distributing them was detected except for one case of displaying a picture. In conclusion, the WWW system can be successfully substituted for slidefilms in morphological control surveys and brings many advantages.

Keywords: internet, world wide web, control survey, laboratory test, standardization



1.はじめに

 検査精度の施設間格差を是正するため、各検査施設に同じ検体を配布して成績をチェックする「外部精度管理」すなわちコントロールサーベイが定期的に行われている。形態学的検査については、通常標本を撮影したスライド写真が配布されるが、この方法は費用と手間がかかるため、対象症例数が限られ、個人単位または小規模施設の参加が困難で、判定用画像の均一性に不安が残るといった問題点があった。一方、インターネット上で急速に普及しつつあるワールドワイドウエブ(WWW)は、マルチメディア情報発信機能に優れており、送り先の距離や数にかかわらず、全く同一の画像を容易に配布することができる。そこで本研究では、判定用写真をワールドワイドウエブ(WWW)のホームページに掲載し、インターネットに接続するだけで容易に参加できるサーベイを試行し、その実用性と効果を検証した。

2.方法

 サーベイの範囲は尿検査、血液検査および細菌検査とし、出題および技術的監査を4人の臨床検査専門医に依頼した。問題として提出された16枚のスライド写真はKodak Photo CDTMシステムでデジタイズし、画像編集ソフトのAdobe PhotoshopTMを用いて加工した。ネットワークの負荷に配慮し、それぞれの画像データは、検査所見を読み取るのに支障を来さない範囲で、ファイルサイズができるだけ小さくなるようにJPEGフォーマットで圧縮した。加工した画像データは、代表的ブラウザソフトであるNetscape NavigatorTMとInternet ExplorerTMを用い、数種類のCRTおよび液晶ディスプレイ上に表示し、問題がないことを確認した。画像ファイルはすべて72dpiで 372 x 254 pixel の大きさに統一したが、圧縮後のファイルサイズは最小20kバイトから最大144kバイトまで大きな差が生じた。
 次いでこれらの判定用画像をインターネットのホームページ(URL http://202.242.169.152/clap/survey.html)に設問および参加要項と共に掲載し、4人の専門家のインターネットを介したチェックに基づいて修正を行った後、サーベイの実施を日本臨床検査医会の機関誌とインターネットニュースでアナウンスした。海外からのアクセスの可能性も考え、ホームページ上の文章は日本語だけでなく英語も並記した。参加には特に条件を設けず個人もしくは施設単位のどちらでも可能とし、定められた形式に沿って電子メールで回答が送られてくれば直ちに正式な参加として受け付けた。回答の集計作業後、結果、模範回答および講評を同じホームページに掲載し、参加者が自己採点および自己評価を通じて各々の技術向上を図れるようにした。

3.結果

 インターネットを通じてコンピュータディスプレイ上に表示された判定用画像は、何回かの修正を要したものの、最終的には16枚すべてが専門家によるチェックをパスしたため、当初提出された設問はすべてサーベイに用いることができた。アナウンス後ホームページへのアクセスは2ヵ月間で889回を数え、判定用画像16枚、データ量にして約660kバイトの伝送にかかった時間は2分から20分以上と大きくばらついた。この間個別に回答を依頼するなどの事前打ち合わせは全く行わなかったが、病院検査部3施設および臨床検査技師3名から正式な回答が電子メールで寄せられた。加えて米国、ロシアおよび南アフリカ共和国から電子メールによる問い合わせがあった。なお、回答者1名から、判定用画像16枚のうち1枚だけ表示できないとの指摘があったが、原因は不明であった。殆どが基本問題であったため誤答は少数であり、この1例を除き他に画質不良を疑わせるような回答は全くなかった。また結果および講評のページには、掲載後数ヵ月を経ても月平均約60回のアクセスがあった。

4.考察

 検体検査と比較し、形態検査はその精度が個人の技能に大きく依存し、かつ多様な所見を読みこなす必要がある。そのため本来は十分な数の設問と個人や小規模施設を含めたコントロールサーベイが望ましいにもかかわらず、これまではスライド写真の複製、参加要項の印刷と郵送、参加者登録、問題用紙の印刷と郵送、回答の返送、集計結果・講評の印刷と郵送など、繁雑な作業に阻まれ、限定的な実施にとどまっていた。そこでWWWの導入を試み、複製したスライド写真を逐一チェックする作業を回避したうえ、印刷物の発行をホームページへの掲載に、郵便を電子メールに置き換え、従来のコントロールサーベイに共通する事務作業を大幅に軽減した。さらにインターネットには事実上国境がないため、今回海外から強い関心が寄せられたことを考えると、国際的なサーベイへの規模拡大も十分に可能である。ただし実地応用には、検討すべき課題がいくつか残されている。
 その中で特に重要なのは、スライド写真をWWWで代替した場合に、十分な画像品質が維持できるかという点である。スライド写真上の画像をホームページに掲載すると、デジタイズ、データ圧縮、通信経路、表示のそれぞれの過程で劣化・修飾が起こりうる。特に、網膜に届く情報量を最終的に規定する表示装置は、解像度等が現在の標準的なスペックでは不十分な可能性がある。特に、色再現性に関しては表示装置間の標準化が遅れており、色調の変化が所見に大きく影響するような検査では致命的な問題となり得る。一方今回、圧縮作業後の画像ファイルのサイズに大きな差が見られたいうことは、正しく検査所見を読み取るために必要十分な情報量は、形態検査の種類や所見によって著しく異なることが示唆される。幸いにも今回は用意したスライド写真のすべてが問題なく掲載できたものの、試行ということで限られた分野からの基本的な出題のみであったことから、より広い分野やレベルの高い設問に用いられる画像についても、掲載可能かどうか数多くの経験を蓄積する必要がある。
 ホームページに掲載できる判定用画像の枚数については、今回の試行により、サーバの容量よりむしろインターネットの通信容量に大きな制約を受けることが明らかとなった。16枚送るのに20分以上かかるようでは、折角アクセスしても参加を諦めてしまう可能性が高い。日本では社会的インフラとしての認識が著しく不十分であったため、インターネットの通信容量の拡充には十分な投資が行われていない。しかし、ニーズの爆発的拡大と米国における動向の影響で状況は急速に改善しつつあり、この問題はいずれ解消に向かうのではないかと思われる。
 サーベイの参加希望者は、コンピュータやインターネットに慣れているとは限らないので、ホームページはできるだけ見やすく、簡単な操作で回答できることが望ましい。他分野の利用例では、縮小画像付の見出しを入れたり、ホームページ記述言語であるHTMLのフレームやフォームの機能がよく用いられる。しかし、参加者のブラウザーソフトがそれらに対応している保証がないこと、低速回線でアクセスしている参加者に余分な負担をかける恐れがあること、フォームによる送信は画面がすぐ反応せず発信元に履歴も残らないため、誤操作による回答や重複回答を招く恐れが高いことなどから、今回はHTMLの基本機能だけを使い、回答の受付には電子メールを用いた。しかしこのままでは参加者が電子メールを使える人に限られてしまうので、ブラウザーソフトの操作性の改善や機能の拡充に応じて、よりユーザーフレンドリーなインターフェースを取り入れていきたい。
 インターネットを医学領域で利用する場合、セキュリティー面がよく問題になる。サーベイでは直接患者の情報を扱うことはないが、やはり回答内容が覗かれたり改竄されるなどの不安は残る。この点ついては、暗号化メールやセキュリティー・サーバの技術が既に実用化され、標準化や運用面の調整が済めば間もなく利用可能になる。また今回の試行では無視したが、実用化には運営費用の裏付けが必要となるため、課金の問題が生じる。これについても、本人確認のための電子公証人制度や小額課金システムの実用化が見込まれるので、近い将来必要な環境が整うと予想される。ただし、参加人数が一定規模になれば協賛や広告によって費用を賄い、参加者からは一切徴収しないという選択肢もあり得る。

5.結語

 形態検査のサーベイ実施にWWWが十分に利用でき、運営および参加に必要な事務作業を著しく軽減できることが実証された。加えて世界的な形態検査の標準化への貢献も期待でき、この方法が従来方式に取って代わる可能性も考えられる。ただし、そのためには医学的な検証を重ねつつ、十分な実施経験を蓄積する必要がある。なお、今回のサーベイは今後定期的な実施を予定しており、次回予定などをホームページ(URL http://202.242.169.152/clap/survey.html)に常時掲載しているので、興味のある方はご参照いただきたい。

謝辞

 出題および技術的監査にお力添えを頂いた近畿大学ライフサイエンス研究所の大場康寛教授、神奈川県立衛生短期大学衛生技術科の伊藤機一教授、慶応義塾大学医学部中央臨床検査部の渡辺清明教授、千葉大学医学部臨床検査医学の菅野治重講師に深謝いたします。
(本研究の一部は平成8年度文部省科学研究費補助金 奨励研究(A)課題番号08772180による

図表


参考文献



Microsoft Access TO HTML Converter.Medical Informatics,Shimane medical UNIV.

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