[-> Archives of Dr. mn's Research Works]

第16回医療情報学連合大会 16th JCMI (Nov., 1996)
2-G-1-4

インターネットを使って臨床検査医による診療支援活動をネットワーク化する研究

−日本臨床検査医会有志によるホームページの試験運用について−

西堀眞弘
東京医科歯科大学医学部附属病院検査部

Boosting the Activity of Clinical Laboratory Physicians with the Internet Power
- A Home Page Challenged by a Voluntary Group -

Masahiro Nishibori

Clinical Laboratory, Tokyo Medical and Dental University, Medical School (mn.mlab@tmd.ac.jp)

revised edition<Last updated, Nov. 11, 1996>
(revised portions from the first edition are marked with [revn] signs.)


Abstract: To promote the network activity of clinical laboratory physicians, a trial home page has been maintained by a voluntary group. It includes online consultations, new laboratory tests, translated WHO topics, news on laboratory medicine, product information, controlled survey of morphological laboratory tests, and online lectures. It has gotten many accesses from various sites and great interests of the journalisms. Online consultations through the internet has been provided by voluntary specialists among clinical laboratory physicians, and their advice was highly appreciated by various questioners, who are laboratory technicians, physicians or university students, for example. Some considerations of our administrative policy on reliability, privacy, and security are discussed.

Keywords: laboratory medicine, clinical laboratory physician, online consultation, internet, home page



1.目的

 臨床検査医は日本臨床病理学会の認定する臨床検査の専門医である。その実地医療活動は、検査診断支援、検査業務管理、外部精度管理指導、検査センター指導監督など多岐に渡るが、充足数をはるかに下回っているために、本来の社会的貢献が十分に果たせない状況にある。そこで、画期的な普遍性、拡張性および経済性を特徴とするインターネットを活用し、臨床検査の最新情報を提供するともに、公開コンサルテーション、公開精度管理および公開研修コースなどの場を設けたホームページを試験的に開設し、臨床検査医のネットワーク化による有効性と社会的インパクトを検証した。

2.方法

 日本臨床検査医会から有志を募り、試験運用という形で次のような内容を掲載したホームページ[1]を開設した。低速回線でも待たずに閲覧できるよう、画像の掲載は最小限にした。
○臨床検査公開コンサルテーション: インターネット上に臨床検査医学のシンクタンクを創ろうという提言[2]から生まれたページである。臨床検査に関する質問を電子メールで受け付け、回答すると共に一部を代表的なQ & Aとして順次掲載する。
○新規保険収載臨床検査項目: 新しく保険収載になった臨床検査項目の点数、算定条件、測定法、臨床的意義を順次掲載する。項目名からだけでなく、適用日付および点数表区分からも検索できる。
○世界の保健医療ニュース: 世界の保健医療情勢を刻々と伝えるWHOトピックスをセレクトし、翻訳して掲載する。臨床検査関連の話題と共に、エボラ出血熱、エイズ、狂牛病などホットな話題も提供している。
○臨床検査医ニュース: 日本臨床検査医会の年6回発行の会誌ではカバーしきれない新鮮な情報を掲載する。新役員名簿、年間行事予定、各種集会プログラムなどの資料も公開している。
○臨床検査関連の製品情報: 臨床検査関連の業務や研究に携わる方々と、関連製品を供給するメーカーやディーラーの方々との効率的な情報交換のために、商品情報掲載スペースを試験提供する。
○臨床検査公開サーベイ: ホームページの画像発信機能を利用して、形態検査の外部精度管理を試みる。インターネットにアクセスすれば、どこからでも鮮明な判定用画像を見られるようにする。
○臨床検査公開講習会: 臨床検査医学の卒後教育事業の一環としてホームページの利用を試みる。当面試験的にM蛋白判定用の免疫電気泳動像とその解説を掲載する。

3.結果

3.1 社会的インパクト

 インターネット上で告知する以外は、日本臨床検査医会の機関誌等でのみアナウンスしたにもかかわらず、主に会員以外から多数のアクセスがあった。本稿執筆時点では1日平均20の異なるサイトから閲覧されている。また業界新聞での報道、関連商業誌への記事掲載、医学医療関係の単行本の中での紹介など、多数の反響を得た。表1にアクセス数の推移等を示す[rev1]

[表1]アクセス数の推移(1996年10月末時点)

1995年
11〜12月
1996年
9〜10月
備考
全アクセス 739 1594
アクセス元のサイト数 423 1654
臨床検査公開コンサルテーション 112 318 質問数:18
Q&A掲載数:12
新規保険収載臨床検査項目 98 270 掲載項目数:26
世界の保健医療ニュース 95 130 登録記事数:65
臨床検査医ニュース 112 226
臨床検査関連の製品情報 85 197
臨床検査公開サーベイ 72 889 回答数:6
施設3、個人3
臨床検査公開講習会 52 107

3.2 公開コンサルテーションに対する反応

 臨床検査技師、病院勤務医、産業医、大学生などの方々からさまざまな質問が寄せられ、各々その分野を専門とする臨床検査医に依頼して回答を作成したところ、いずれも高い評価を受けた。本稿執筆時点までに代表的なQ & Aとして掲載した質問を次に示す。
・電離放射線検診の血液一般検査で骨髄球が0.5%認められました。貧血や白血球増加もありません。どのように対処すればよいでしょうか。
・精神疾患にSIADHの合併を疑っても、水負荷試験や水制限への協力が得にくい場合が少なくありません。通常の採血または採尿だけで診断できないでしょうか。
・胸水中のアデノシンデアミナーゼ(ADA)が1000U/lを超える異常高値を示した場合、結核菌が胸水および胃液中に培養やPCRで検出されなくても、結核性胸膜炎を疑うべきでしょうか。
・健康診断で尿酸値が1.0mg/dl以下を示す例が見つかりましたが、他の血液データに異常がない場合、さらに精密検査が必要でしょうか。
・検診で著しい高コリンエステラーゼ血症が見つかりましたが、他に異常がない場合どうすればよいでしょうか。
・心筋マーカーのCPK-MB、MLC-I、トロポニンTの見方について分かりやすく説 明してください。
・従来地方衛生研究所で無料実施していたVero毒素の検索を、健保収載に伴い全て医療機関側で実施するよう保健所から求められましたが、腸管出血性大腸菌感染症の伝染病予防法による指定を受け、検査部門としての具体的な対応指針があればお教えください。
・腸管出血性大腸菌の感染を疑って患児の便を検査したところ、Vero毒素と血清型O26の病原性大腸菌が検出されました。O157の場合と比較し何に注意すべきでしょうか。
・運動負荷試験中に動脈血酸素飽和度をパルスオキシメーターで連続モニターしているとき、表示される脈拍数が心拍数の半分位になることがあります。装着方法に問題があるのでしょうか。またこのとき酸素飽和度の計測値は信頼できるのでしょうか。

3.3 信頼性とセキュリティー

 掲載した情報の利用責任について特別な断わり書きは設けなかったが、誤記の指摘を数件いただいた他は、内容の信頼性や信憑性についてのクレームはなかった。また無休運用を原則としたが、ほぼ安定稼働できたうえセキュリティー面のトラブルや苦情はなかった。

4.考察

 本研究の結果および爆発的な普及状況から考えて、インターネットによる情報発信が大きな社会的効果をもたらすのは時間の問題であると考えられる。しかしその反面、信頼性およびセキュリティー面では大きなリスクを抱えているので、臨床検査を含む医療情報を扱う場合は、患者の生命およびプライバシーにかかわる点で特別な配慮が必要となる。これには、次の2つの異なった方向のアプローチが考えられる。
(A)ハードウエアおよびソフトウエアに十分な対策を施す[技術面]
(B)確保できる信頼性およびセキュリティーに見合った内容に限定して利用する[運用面]
 技術面の対策には既にさまざまな議論がなされているが、いずれもその追求にはコストや使い勝手の犠牲を伴い、それを破って得られるメリットがコストを上回れば、ハッカーとのいたちごっこは不可避である。したがって実際の運用には、技術の限界と扱う情報の性格の両方を熟知したうえで、運用面の対策を入念に施すことが最も重要である。
 本研究において施した技術的対策については言及できないが、運用面では次の点に配慮して掲載内容を選択した。
・個別症例が特定される内容は扱わない
・即時性が要求される内容は扱わない
・他の手段で信憑性が確認できない内容は扱わない
 また、著作権の侵害や不当な複製を防ぐ方法がない点については、次のような運用原則を設けた。
・著作者の明らかでない文書は掲載しない
・著作者本人の了解が得られない文書は掲載しない
・内容が頻回に追加あるいは更新されない文書は掲載しない
 インターネットは社会のあらゆる分野の変革をもたらす可能性が高いが、ともすると光の部分のみに目を奪われ、いわゆる陰の部分への配慮を忘れがちである。かといってリスクを恐れる余りがんじがらめにしてしまっては、その可能性を奪いかねない。特に医療の分野では、このバランスをいかにうまく保てるかという点が、その将来性を左右すると言っても過言ではない。私共が試験的に設けた運用原則は、これまでの所は一定の効果をあげているが、本格的な稼働のためにはさらに経験の積み重ねが必要である。今後も関連技術の進歩に目を配りながら、一層のセキュリティー強化と内容の充実に努力したいと考えている。

謝辞

 「臨床検査医のページ」に掲載する貴重な情報をご提供いただき、また試験運用にご協力いただいている日本臨床検査医会有志の先生方に深く感謝いたします。

(本研究の一部は平成8年度文部省科学研究費補助金 奨励研究(A)課題番号08772180による)


図表

表1、アクセス数の推移(1996年10月末時点)


参考文献

[1]日本臨床検査医会有志:「臨床検査医のページ」、URL http://202.242.169.152/clap/clap.html
[2]木村 聡:検査医会への一提案 コンサルテーションに答えられる電脳情報網を創設しよう、LabCP Vol.13:128-129、1995


This document was originally converted to HTML format on 1996年 9月 27日 金曜日 1:08:51 PM.

初版(論文集掲載)からの改訂内容

[rev1]
初版にはなかった[表1]を追加

[-> Archives of Dr. mn's Research Works]