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雪山仕様のテント:防水性の問題

山岳用テントの雪山仕様は、テント本体に内張りまたは外張りを装着して保温性を高めている。しかし夏山仕様のフライシートの設計とは異なりいずれも防水性はない。内張り型は外壁はテント本体そのものだから、防水性はない。外張り型は裾まで雪で覆ってテントを完全に密閉する構造だから、窒息しないように通気性の高い生地が使われているので、防水性はない。ただし外張りはテント本体と接触しない完全2重構造だから、少量の雨水なら外張りを伝ってテントの外側を流れ落ちるだけだろう。外張り式は、内張り式より若干雨に強い可能性がある。

私たちは今回の山行(11月26日〜27日)で、降雪を予想して、内張り型テントの代表であるエスパース マキシム4-5人用を使った。幕営場所は、新穂高温泉から入るルートの1990 m地点にある槍平小屋のテント場(図5)である。

テント内への浸水:
天気予想では、山行計画2日目(下山日)に寒冷前線が通過して冬型の気圧配置になる予報が出ていた。テントは、砂利が出るまで除雪してから設営したので床面は地面に接している。床面からの浸水は除外できる。夜間に大量の湿雪が降り積もって、テントが30-40 cmの深さ(図2 点線)まで埋まった結果、発生した浸水事件だと思われる。テント設営地は若干傾斜があり、床の低い部分に深さ2 cmもの水が貯留していた。この水量は、テント内部の結露に由来するとはとても思えない。明らかにテントの外から、内部に浸水したと思われる。テントの床は防水布でできているから、内部に染み込んだ水は流れ出す場所を失ってテント内にプールのように貯留したのだろう。

隣に設営した別のパーティは防水フライシートを準備したしていた(図2 左側のテント)。確認はしていないが、浸水被害はなかったはずだ。今回の気象条件では、夏山仕様の防水フライシートを使うのが正解だった。しかし、もし気温が氷点下以下に低下する気象条件にずれていたら、スライシートの裏側には、大量の結露が生じて、その水がバリバリに凍って、フライシートを折り畳んで撤収することが難しくなっただろう。この時期は、テントを夏山仕様にするか冬山仕様にするかの判断が難しい。ゴアテックスなどの防水性と通気性を兼ねた生地のテント本体を使えば、あらゆる天候に対応できるので悩む必要がなくなるように思う。ところが、テント本体の自重が50%も重くなるのでやはり悩ましいい選択になる。

今年は南米ペルー沖から太平洋赤道域の日付変更線付近にかけて、海水温が平年に比べて低い状態が1年程度続く「ラニーニャ現象」が観測されている。2016年から2017年にかけては厳しい冬が予想されている。大雪になれば雪崩の危険性も増す。十分気象条件に注意して適切な登山装備で雪山を楽しみたい。


図1 冬用テントの弱点:テント内への浸水するメカニズム
a. 夏山仕様のテントの断面図。テント本体の外側に完全防水のフライシートを張る設計で防水効果を高めている。b. 冬山仕様の内張りを装着したテントの断面図。テント本体の中に内張りを装着することで断熱効果を高めている。ただしテント本体は通気性が高い生地でできているので、雨に弱い。 c. 冬山仕様のテントは透湿性が高い生地で室内の結露を防止している。d. 冬山仕様のテントが湿雪に埋まると、水没状態に類似してテントの中に浸水する。

図2 槍平小屋キャンプ場:破線で示す高さまで一晩で積雪があった。

図3 滝谷避難小屋付近からの眺め

図4 奥丸山・槍平小屋ルートの分岐からさらに北上した中崎尾根上の標高2350m地点:幕営に適した平坦な地形を確認した。

図5 地形図:偵察山行のルート図(国土地理院)

11月27日、標高1990mの槍平小屋付近で、雪が降っていた。中崎尾根稜線上まで登り、標高2350mの稜線上に平坦な場所を確認し、幕営可能だと判断した。稜線に積雪40-50 cmあったが、木の枝には雪ではなく水滴が付いていた。明らかに気温は氷点下以上の暖かさだった。滝谷避難小屋1750mの標高では本降りの雨になって全身ずぶ濡れ状態になった。

三浦 裕
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所 開設者
愛知県山岳連盟所属 社会人山岳会 チーム猫屋敷


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(Last modification, Nov 30, 2016)