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私のテント遍歴
瞑想の丘からの槍ヶ岳 by Yutaka Miura (May 2, 1983)
- 大学で美術部であった私は、他人にはない視点から絵を描こうとして、スケッチブックを持って長塀尾根から蝶ヶ岳に登り、付近のハイマツで西風を避けるようにテントを設営した。夜になって春の暴風雨に襲われた。テントの中に居ても床が宙に浮くような強風に煽られたが、テントを設営する時に、ハイマツにロープでしっかりと結んでおいたので風で絶対に飛ばされないはずだと信じていた。しかしほとんど一晩眠れなかった。安曇野が見渡せる見通しのよい場所にテント張った登山者は夜中の暴風雨でテントごと吹き飛ばされる身の危険性を感じただろう。多くは撤収してヒュッテに退却したらしく、翌朝起きて外を見ると、昨夜は周囲にあったテント群が消えていた。大きな石を乗せられて水浸し状態のテントが2〜3張残されていたのみである。暴風雨に耐えた自分のテントに優越感を感じつつ、その日は快晴になったのでテント前の残雪に缶ビールを突っ込んで冷やしながら、のんびりとデルマトグラフを使って槍穂のスケッチをしながら絶景を目に焼き付けた。(1983年)
- 蝶ヶ岳では優越感を感じさせてくれたダンロップの積雪期用テントであったが、フィアンセを連れて北海道の大雪山系の黒岳キャンプ場で設営した時に渋い経験をした。私は天候を甘く見ていた。山の天気は変わりやすく、山頂のキャンプ場で設営したその晩に雨となったのである。単独行では一度も忘れることがなかったフライを持って登るのを、その時に限って忘れた。山で二人で甘い想い出を、と思っていたが、それは甘かった。一晩中ポツリポツリと雨漏りするテントの中で傘をさして乙な気分を味わった。(1990年)
- このテントをカナダ留学時代も使った。ロッキー山脈のキャンプ場の夜に豪雨になった。昔の教訓を生かし、天井のフライに加え、サイドフライも装着していたので雨漏りの心配はなかった。しかし、床からだんだん浸水してきたのである。山中で落ち葉が溜まって平になっている場所は雨が降ると水が集まって一時的に池になる危険な場所の印である。雨が降らなければ、寝るには最高の場所である。自然を甘く見た時に限って、自然は容赦しない。就寝中に雨脚が激しくなりテントの床から浸水してシュラフが濡れ始めた。私は家内に敗北を宣言して、眠っている娘をそっと車に乗せて、テントを撤収して、雨が降りしきる闇のTrans Canadaハイウエーを飛ばしてCalgaryのアパートに退散した。(1995年)
- 蝶ヶ岳ボランティア診療班設立10周年記念として今年はエスパースのゴアテックス製テントを山頂学生たちの炊事用に準備した。防水性と透湿性を両立させたゴアテックスは炊事をしても水蒸気が外に出て内側が濡れない画期的製品である。排水性のよい場所に設営されたこの新しいテントの中は日中は汗が出るぐらい暑い。このテントなら私は快適に眠れると思った。その晩、快晴の星空はとても美しかった。私は明け方の山頂の放射冷却を甘く見ていた。優雅に安眠できるはずのテントの中で、私は雨具もすべて着込んでもガタガタ震え出し、超軽量シュラフに丸まって寒さに耐えながら夜明けを待った。学生時代に冬山のテントの中でガタガタ震え出した時に「震えるのは筋肉を使ってATPを熱エネルギーに変換している生理現象である...」として、一人で全身に力を入れてひたすら寒さに耐えていた若かりし頃の記憶が蘇った。(2007年)最新型のフライなしテントはこの上なく寒かった。防水性と透湿性を両立させていることにはなっているが、濡れた後に凍るような天候では窒息する危険性がある。雨水を撥水してテント布に付着しなければよいのだろうけれど気温が零下になって、frozen rain気象条件で、あっと言う間にテントが氷で覆われる。フライがなければテントの中は完全に密閉された状態になる。知らないまま寝ていれば、睡眠中に酸欠になって意識不明になるかもしれない。中でコンロをつかえば急速に酸欠状態になって炎が黄色くメラメラと奇妙な燃え方に変わるから、危険な状態に気がつく。ゴアテックス製品は便利そうでいて、不便だ。古典的なテント本体+フライのセットが安全かつ快適だ。
- 寒いテントの中で、朝食の準備のために焜炉(コンロ)に火を付けた。今年は最新型コンロJetBoilを購入して山に持ってきた。燃焼効率の向上と、コッヘル底の特殊構造から画期的なスピード(90秒)で500 mlの水を沸騰させることができる。あっけなく朝食の用意ができた。しかし、まったくテントの中が暖まらない。コンロの熱効率が良すぎて、テントの中は寒々としたままであった。急に昔が懐かしくなった。嘗て愛用したスウェーデン製灯油コンロ(Upplands Vasby,Optimus MODEL 00)は余熱に時間がかかった上に、石油臭く、大きな燃焼音の割に熱効率が悪くて、湯を沸かすにも時間がかかった。しかし余剰熱エネルギーのおかげでテントの中は温かくなったものである。
三浦 裕
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長
名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子神経生物学(生体制御部門)准教授
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(Last modification, September 7, 2007)