Yutaka Miura's home page
(the third page level)
草原のリス
カナダ国カルガリー市の北側に広がるNose Hill(ノーズヒル)の丘に登ると、平らな土地に突如として聳え立つダウンタウンの高層ビル群が不思議な島の様な姿として望められます。そこから少し離れて我々が住んでいるアパートや大学キャンパスの建物が、さらに遠くにはロッキー山脈の岩峰 が連なっている広大な大地が見渡せます。雪が融け春になると、この草原にはプレーリークロッカスの花が一面に咲き誇り、冬の間地面の下で眠っていた地中に棲むリスも穴から出てきて、あちこちから顔を見せます。
日本ではリスは一般には樹上生活の種類が知られていますが、カナダでは地面の中に営巣す る種類が多く棲息しています。カルガリー市郊外の草原でよく見かけるものは、リチャードソン・地リス(Richardson ground squirrel)です。市民はこの「地リス」をゴーファー(Gopher)の愛称で呼んでいます。しかし、図鑑(Peterson First Guides to Mammals, 1987)で調べるとリチャー ドソン・地リスはゴーファーとは独立した全く別種の齧歯類であることが判ります。ゴーファーはより小型でモグラに類似した動物です。この二つの名前がどこかで混同された様です。 この疑問は最初、野性動物が大好きな家内が指摘してくれたものです。カルガリー大学の実験動物舎の表示すら、どうも図鑑とは一致しません。
同じ疑問を持っている人が他にもいました。カルガリー地方新聞に「ゴーファーではない: 皆はそう呼んでいるが...」と題した記事が掲載されたのです。筆者の母親は最近カルガリー 動物園に行って問題の小動物の前で、息子に「あの動物の名前は何?」と尋ねました。三歳 の息子は「リス!」と誇らしげに答えました。偶然脇で一緒に見ていた八歳ぐらいの子供達 が「リスじゃないよ、ゴーファーだよ!」と叫び立てます。しかし三歳のが息子が正しくて、 よその子供達が間違っている、とも言い難く困ってしまいました。何しろカルガリーの市民 は皆この地リス のことをゴーファーと呼んでいるのですから...。さっそく野性動物専門家に 名称の起源を尋ねたのですが、判然としません。確かにゴーファーの呼び名は誤っているの ですが、リチャードソン・地リスではその名が長すぎて呼びにくいので、呼び易いゴーファ ーの名で定着してしまったのでしょう。
この地リスはカルガリー空港から市内までの道路脇の草原でもよく見かけます。二本足で立 ち上がって周囲を見回す姿はとても愛嬌があります。私は留学して初めてこの地リスを見て、 その姿に感激して何枚も写真を撮ったものです。しかし、カナダの農家では畑や牧草を喰い 荒す害獣として嫌われている様です。現在、有毒ペレットを撒いて、大がかりな駆除作戦が 展開されています。
名前を間違われ、さらに毒殺される運命の地リスにも新しい春の季節が始まりました。少なくとも私たち家族は彼らの味方として、今年もまた一面にプレーリークロッカスの咲くNose Hillの 草原に腹這になって、彼らの愛嬌ある姿を写真に記録させて貰うつもりです。
注) Gopherは最近はコンピュータネットワークのserver systemの一種としてお馴染みの方もおられると思います。本来この名前は北アメリカ広く生息する一種のリスのことです。コンピュータネットワークのGopherは、動物のGopherが縦横に巡らされている連絡トンネルを利用して、あちこちの穴から顔を出すことに因んだ愛称です。(三浦 裕)
to Personal Essays
(the second page level)
Please forward all comments, suggestions, or corrections to
(Last modification, July 25 1997)