人間は遺伝子上に情報を貯めることを諦めた存在である
DNAは遺伝情報を蓄積する生命の根幹となる物質です。その細胞内貯蔵量は地球上生命の頂点に立つ人間には、他のどの生物と比較してみても多いと思っておられる方が多いと思います。しかしけっして人間がずば抜けて多いわけではありません。たしかに大腸菌より1000倍もヒトの細胞はDNAを持っています。しかし、しかし植物には負けます。とくにDNAの多いユリと比較するとヒトの細胞はその50分の1ほどしか持っていません。アメーバという単細胞動物と比較するとヒトの細胞は100分の1しかDNAを持っていません。ヒトのDNA量はアメーバに負けるのです。このような事実から私は「人間は遺伝子上に情報を貯めることを諦めた存在である。」という警句を創案しました。この事実は「エデンの恐竜----知能の源流をたずねて-----」カール・セーガン著 秀潤社にも似た記述が登場します。私は大学でMolecular Biology of THE CELL(細胞の分子生物学)という英文教科書を学生と読みながら、そこに収録されていた地球上の生物種ごとのゲノムの大きさを比較した資料を見て気がつきました。人間は遺伝子量から考えると地球上生物の中間的な位置を占めるに過ぎないのです。DNAに刻まれている遺伝情報量が生命現象のもっとも重要は要素であるとすると、ヒトの序列は、地球上の生物種野中でユリの花や、アメーバなどよりもはるかに下位になります。この看過できない事実に気がつき「人間は遺伝子上に情報を貯めることを諦めた存在である。」ことを悟りました。ゲノムプロジェクトの成果としてヒトとチンパンジーのDNA配列は98.77%一致することが解明されました。1%のDNA配列の差の中にヒトとチンパンジーの差を求めることはできません。じつは、免疫系や味覚受容体など個人差の大きい遺伝子領域DNA配列は、同種であるヒトの間でも1%よりもはるか大きな差が検出されます。つまりDNA配列を比較する限り、チンパンジーとヒトは差がない、と考えるべきでしょう。ヒトは遺伝子に情報を蓄積することを諦め、情報処理をする臓器として脳神経系を発達させました。その結果、脳にある神経細胞の組み合わせによる情報量は、ACTGの4文字として一つの細胞が持てるDNA情報量と比較すると、単純計算でも3万倍もの情報量を持てるようになりました。しかも、ヒトは一人が獲得した脳神経系の情報を、体の中に蓄積するだけでなく、言語として他人に伝達をする能力を持ち、さらに図書館の書物として外部情報として蓄積する文化を創りだしました。人の話を聞き、活字を読む言語能力こそ、人間を地球上生物の頂点に到達させた原動力です。