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私の高山病の治療方針
2011 August 29, 2013 July 05, 2013 July 10, 2013 August 15 改訂

頭痛は高山病のシグナル (2013年8月15日 毎日新聞)
2千メートルでも高山病 (2005年6月12日 赤旗・日曜版)

高山病の治療薬の基本は、頭痛薬でも利尿剤でもなくて、「水と空気」の二つです。とちらも無料です。私は名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所(標高2677m)を訪れる高山病の患者さんに、以下のように説明しています。

  1. 水分摂取量:
    5ml/kg/hrの水を摂取しながら登山して下さい。つまり50kgの体重の人なら1時間あたり250mlの水が必要です。6時間登るには1.5Lもの水を担いで登らなければなりません。この水を一気に飲んでは逆効果です。少量ずつ頻回に飲むことが大切です。点滴のように持続的に補給できれば理想的です。水を飲まずに汗を出している状態が長時間続くと、体は脱水傾向になります。それでも汗を作りして、体温をコントロールする必要があるので、体は汗を作り続けながら、尿として排出する水を減らします。その為には体内で抗利尿ホルモンが大量に分泌されます。いったん脱水状態に陥った後に、たとえば頂上に到着して乾杯のビールを大量に飲むと、その水は尿にならずに、体に貯留する。なぜならば登山中の脱水傾向から腎臓に抗利尿ホルモンが作用して、水を排泄する機能が減っている状態が継続している結果、体に水が貯まり、細胞の機能障害が出ます。

    皮下組織に貯まる状況は浮腫と呼ばれて「むくみ」となって顔面/手足が腫れた感じになります。水が肺に貯まると肺水腫となり、ピンク色の痰が出て重篤な呼吸困難を引き起こします。脳に貯まると脳浮腫に陥り、軽度では頭痛、重症では意識障害が出る危険な状態に陥ります。

    このような危険な浮腫を避けるためには、逆説的ですが、登山中に脱水状態に陥らないように計画的に水分を補給することが大切です。歩行中にチューブを口に加えて連続給水できる水筒(ハイドレーション装置: Platypus(プラティパス), CAMELBAK(キャメルバック)など)は有効です。私の個人的体験としてこのハイドレーション装置にスポーツドリンック入れて甲斐駒ケ岳の黒戸尾根の日帰り(標高差2200m)の持久力トレーニング登山は12時間の行動時間でもほとんど休憩する必要性を感じませんでした。
    塩味のしっかりしたおにぎりと、お茶の組み合わせはほんとうに美味しいと感じます(厳冬期には、おにぎりは凍結して食べれなくなりますが…)。この古典的な野外食は、生理的に電解質と水とカロリーを摂取する理想的な意味があります。最近の研究成果では(信州大学大学院医学研究科 能勢博教授ら)カロリーと塩分摂取だけでなく、牛乳のようにタンパク質も同時に摂取できる飲み物は熱中症対策として有効である実験例をしめしています。糖質中心となりがちな野外行動食にタンパク質を加えることは高山病予防にも意味があるように思われます。(NHK「ためしてガッテン」2011年7月13日放送) 。

  2. ゆっくりと深呼吸:
    通常の呼吸法では血液に酸素を取り込む能力は3000mの標高では平地の80-90%程度に低下しています。SaO2=90%以下では、平地では酸素吸入の治療を要する状態と判断されて、集中治療室で監視される重症の状態です。3000mの高山の登山客の多くは、このような低酸素状態に陥っている可能性が高いのです。しかしゆっくりと深呼吸をするだけで97-98%ぐらいまで驚くほど酸素摂取能力が上昇します。意識的に行う深呼吸という簡単な呼吸方法で、酸素不足が一因の高山病の症状を軽減または消失させることができるのです。何も酸素ボンベの世話にならなくとも自分の努力で可能です。頭が痛いまま寝ようとしても眠れないので睡眠薬を飲むと、呼吸が抑制で酸素摂取能力が落ちる。目覚めた時に高山病が悪化している。むしろゆっくり散歩して、友人と歓談しながら深呼吸を意識的にすることが高山病対応として適切です。

  3. ふだんからの摂生:
    体重増加による体形の変化は体表面積、発汗能力、放熱効率の変化を伴い、登山能力を大きく変化させます。基本的なことですが、肥満および加齢は登山のマイナス要因と心得て、普段から摂生して、トレーニングを積み、体重をコントロールして快適な登山の準備をしましょう。高山に登ってからも、節度ある飲食に心掛け、姿勢を正してゆっくりと深呼吸をする努力をしてください。要は「水と空気」の二つのポイントをつかんで、急性高山病を予防しましょう。

  4. 薬物治療/予防:

    三浦 裕
    名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子神経生物学(生体制御部門)准教授
    名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員

    References

    1) The SOLVD Investigators. Effect of Enalapril on Survival in Patients with Reduced Left Ventricular Ejection Fractions and Congestive Heart Failure. N Engl J Med. 325:293-302 (1991)
    2) Claudio Sartori,et al. Salmeterol for the Prevention of High-Altitude Pulmonary EdemaN. Engl J. Med. 346: 1631-1636 (2002)
    3) Nikkei Medical p79-80 (2009.9)
    4)Tanimura, Y. et al. Acetazolamide reversibly inhibits water conduction by aquaporin-4. J Struct Biol. 166 :16-21 (2009)
    5) Katada R, et al. Expression of aquaporin-4 augments cytotoxic brain edema after traumatic brain injury during acute ethanol exposure. Am J Pathol. 180:17-23. (2012)
    6) Huber VJ, et al. Identification of arylsulfonamides as Aquaporin 4 inhibitors. Bioorg Med Chem Lett. 17:1270-1273.(2007)
    7) 竹内洋岳著「登山の哲学」p105-109, 2013 NHK出版新書
    8) Peter Bartsch, M.D., and Erik R. Swenson, M.D.. Acute High-Altitude Illnesses. N. Engl J. Med. 368;24 2294 -23-2302 (2013)


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