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私の高山病の治療方針
August 13, 2001
高山病の治療薬の基本は、頭痛薬でも利尿剤でもなくて、本質的には「水と空気」の二つです。とちらも無料です。名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所(標高2677m)を訪れる高山病の患者さんに私は、以下のように説明しております。
水分摂取量:
5ml/kg/hrの水を摂取しながら登山して下さい。つまり50kgの体重の方なら1時間あたり250mlの水が必要です。6時間登るには1.5Lもの水を担いで登らなければなりません。この水を一気に飲んでは逆効果です。頻回に(私は15分ごとぐらい)分けて飲むことが大切です。持続的に補給できれば理想的です。水を飲まずに汗を出している状態が長時間続くと、体は脱水傾向になります。それでも汗を作りして、体温をコントロールする必要があるので、体は汗を作り続けながら、尿として排出する水を減らします。その為には体内で抗利尿ホルモンが大量に分泌されます。いったん脱水状態に陥った後に、たとえば頂上に到着して乾杯のビールを大量に飲むと、その水は尿にならずに、体にたまってしまいます。なぜならば腎臓に抗利尿ホルモンが作用が残存していて、水を排泄する機能が減っているのです。その結果、体のいろいろな臓器(細胞)に水が貯まり、浮腫を起こして機能障害が出ます。
皮下組織に貯まる浮腫は、いわゆる「むくみ」となって、顔面/手足が腫れた感じになります。 水が肺に貯まると肺水腫となり、ピンク色の痰が出て呼吸困難となります。 脳に貯まると脳浮腫に陥り、軽度では頭痛、重症では意識障害が出ます。
このような危険な浮腫という病態を避けるためには、登山中に脱水状態に陥らないように計画的に水分を補給することが大切です。(私は水を飲みながら、自家製trail mixを作っておいて頬張ります。干しぶどう=ブドウ糖、干しバナナ=電解質(K)とオリゴ糖、アーモンド=電解質(Na)と植物油によるカロリーを摂取しながら長時間の登山を楽しんでおります。)
ゆっくりと深呼吸:
通常の呼吸法では血液に酸素を取り込む能力は3000mの標高では平地の80-90%程度に低下しています。SaO2=90%以下では、平地では酸素吸入の治療を要する状態と判断されて、集中治療室で監視される重症の状態です。3000mの高山の登山客の多くは、このような低酸素状態に陥っている可能性が高いのです。しかしゆっくりと深呼吸をするだけで97-98%ぐらいまで驚くほど酸素摂取能力が上昇します。意識的に行う深呼吸という簡単な呼吸方法で、酸素不足が一因の高山病の症状を軽減または消失させることができるのです。何も酸素ボンベの世話にならなくとも自分の努力で可能です。頭が痛いので寝込んでしまうと呼吸が抑制されて、酸素摂取能力が落ちてかえって高山病が悪化することがあります。むしろゆっくり散歩したり、友人と歓談しながら深呼吸を意識的にすることが高山病への対応として適切だと思います。
ふだんからの摂生:
私の友人には体重が10kg増えたために、それまで経験したことのない高山病に陥ってしまった者がおります。体形の変化は体表面積、発汗能力、放熱効率の変化を伴い、登山能力を大きく変化させます。基本的なことですが、肥満および加齢は登山のマイナス要因と心得て、普段から摂生して、トレーニングを積み、体重をコントロールして快適な登山の準備をしましょう。高山に登ってからも、節度ある飲食に心掛け、姿勢を正してゆっくりと深呼吸をする努力をしてください。要は「水と空気」の二つです。
三浦 裕
名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子神経生物学(生体制御部門)助教授
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長
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