項目(1)ビーコン
目標:
迅速な操作「5分で2箇所の雪崩埋没者を発見すること」を目標として練習する。以下の要点を意識して、雪崩埋没者発見技術を習得しよう。
- ポイント その1 捜索範囲設定:
ヒットしないと、「もしかしたら捜索範囲が間違っているのでは?」と疑心暗鬼になって意味もなく捜索範囲を広げると捜索時間をロスするばかりか、標的を発見できる可能性が急激に下がる。第一に確信が持てる捜索範囲設定してからプローブ検索を開始するべきだ。
- ポイント その2 装置の自動機能の良し悪し:
雪崩ビーコン装置には、それぞれ装置の特徴がある。十分に練習をして装置の特徴をつかんでおく必要がある。最新型MAMMUT製PULS Barryvoxの雪崩ビーコンは一般に定評があるので使ったことがある。私の走査する速度がおそらく早すぎたのだろうと思うが、十字検索法で雪崩ビーコンの画面には「上・下・左・右」へ移動する方向の矢印が、くりかえし表示され続けるだけで、なかなか位置決定ができなかった。私は「この装置は故障したのではないか?」と疑って、電源を切って探索を最初からやり直した経験がある。
- ポイント その3 プローブの組み立て:
プローブはしっかり組み立ててから使う必要がある。BD製のプローブは十分にワイヤーを引き出して爪で固定された状態にならないと、プローブ探索中に雪から抜く操作中に、接続部がはずれてバラバラになって再挿入できなくなる。PIEPS製やBCA製のプローブは、BD製のように固定装置はパイプの中に設置されていて、内部からワイヤーが外に露出することはない。外見上もすっきりとしている上にクリック音を出して確実に固定が確認できる。プローブは、単純な棒状の道具であるが、組み立て易いプローブと、組み立て難いプローブがある。手袋をはめると細かい操作ができなくなるので雪山で本当に使えるか?購入時に展開・固定を手袋をはめて確認すると良いだろう。
- ポイント その4 赤旗マーク:
目印のない真っ白な雪面は、目印がないと、どの範囲を捜索する範囲に設置したのか正確に記憶できない。捜索範囲に自信がなくなると捜索効率を低下させる。あらかじめ赤い布を付けた30cmぐらいの箸(赤旗マーク)を用意して、雪崩ビーコンが最小値を示した場所に、赤旗マーク立てる工夫も役立つ。赤旗マークを中心として、雪崩ビーコンが示している最小距離を半径とする円内に標的は必ず埋まっていることが決められたら、仮に最小値が0.3ならば、半径30-40cmの円内に標的は埋没している自信が持てる。赤旗マークがなくても、雪崩ビーコンが最小距離0.3を示したならば、0.3から0.4に増加する上限、下限、左側と右側の境界を雪面にしっかり書き込めば、その四角に囲まれる捜索範囲をプローブ探索すればよい。要するにプローブ探索を開始する前に、捜索範囲を自信をもって決めることが重要である。
- ポイント その5 PIEPS製DSP Pro:
私は、MAMMUT製PULS Barryvox雪崩ビーコンには、十字検索法に自動的に切り替わり、走査すべき方向を自動的に装置が指示する機能がある。私はこの自動探索機能で、埋没点が確定できたこともあるが、なかなか
十字検索法による繰り返し探索モードが終了せずに焦ったこともある。私は自動探索機能を持たないPIEPS製DSP Proに探索装置を2015年に購入して使うようになった。この装置は十字検索法のモードで標的までの距離を示すだけのシンプルな機能しかない。現実的には距離が正しく表示されていれば、十字探索法からプローブ探索に切り替えるタイミングは自分で決められる。自分の判断を信じて、捜索方法を切り替えられるので、装置の指示にしたがって無駄に時間を消費する焦りもなくなった。
- PIEPS製DSP Proのマーク機能
第1埋没者を発見したら、そのシグナルを抑制して第2埋没者の探索に移る。シグナルのサプレッション操作は「旗印」のボタンを押せばよい。サプレッションを取り消してもう一度、第1埋没者探索をやり直す場合には、3秒間長押し続ければ復帰する。SEARCHモード、SENDモードの選択スイッチもすべて装置の上面にあって使い易い。十字探索モードの表示法は距離が表示されるだけで単純だ。その数字の増減を頼りに探索者は埋没場所を10 cm単位で推定できる。80 cmの深さに埋まっていれば、-----1.4, 1.2, 1.0, 0.9, 0.8, 0.9, 1.0, 1.2,1.4-----と変化する。0.8の場所で最接近していると判断したら、赤旗でマーゥし、0.8から0.9に変わる境界に記しをつける。この範囲内を丁寧に探索すれば確実に発見できる自信が持てる。
旧式の雪崩ビーコンにはマーク機能を持たない機種がある。そのような機種では接近した二つのビーコンを発見することが難しい。同じ場所に上下に重なって埋没している場合に見落としが起こる。
自分の指の長さにピッタリ合った手袋:
昔から登山用に毛糸手袋が推奨されてきた。革製品の手袋は凍結して硬くなるので、使えないと考えられてきた。しかし大きな厚手の毛糸手袋では雪崩ビーコンの操作がやりにくい。薄手の毛糸のインナー手袋は操作はやり易いが、手が冷たい。私はいろいろな種類/材質の手袋を試した結果、MAMMUT製Astro Glov(3レイヤーGORE WINDSTOPPERソフトシェル)を雪崩ビーコン操作用に選んだ。低温でも柔軟性が保たれ、細かいボタン操作がやり易かった。サイズは6,7,8,9,10号が用意されてるので自分の手の大きさ(指の長さ)にピッタリ合った。因みに、アウターはMAMMUT製Expert Tour Gloveの同じサイズの製品を用意した。稜線装備のオーバーミトンの3本指を重ねられるように万全を期した。今年の検定当日の阿弥陀岳は、幸いにも無風で暖かかったのでAstro Glovだけでも十分対応できた。
磁力線の特徴:
最初は雪崩ビーコンを使って、電波誘導法で捜索する。物理的には磁界を検出する方法であり、磁力線は水の影響をあまり受けないメリットがある。重なって埋没している遭難者も磁界を検出できる。ただし磁力線の広がりは直線的ではない特徴を理解して捜索を進める必要がある。接近するに従って標的の方向が次第に定まる。2 m圏内に入る前に探索すべき方角を確認してから、さらに接近して、十字探索法(クロス法)に切り替える。
図1 雪崩ビーコン捜索の手順
図2 矢印の方向に進むと距離が増加する?
図3 接近した埋没者
<雪崩埋没者の捜索開始>
- 身体への装着を確認する。
- 電源スイッチを入れ、電池残量を確認する。
- ダブルグループチェック法する。
(核心)ダブルグループチェック法とは?:
- リーダのビーコン1台を送信 (send) モードにして、メンバーのビーコンを受信 (search) モードにする。リーダがメンバーの装置に順番に接近して、全員のシグナルが検出できることを確認する。
- リーダのビーコンを受信 (search) モードにして、メンバーのビーコンを送信(send) モードに切り換えてから装着させる。ビーコンを手に持ったまま確認して、確認後に装着する手順では、装着する際に誤ってスイッチを切ってしまう危険性がある。装着時の誤操作を除外するために、ビーコンを装着した状態(*)で送信(send) モードのチェックを実施する。2 m以上離れた場所から、メンバーは順番にリーダに呼び出されて、送信(send) モードが正常に作動していることをリーダが確認する。メンバーはの装置確認が終了したら、さらに5m以上進んだ場所でメンバーを待たせる。
- メンバー全員の発信モードの確認が終了したら、リーダは自分のビーコンも送信 (send) モードに切り替えて装着する。
- 全員が送信(send)モードのビーコンを装着した状態で出発する。
(注意1)ビーコンを手に持ったままで送信モードをチェックしても、誰かが誤って装着する際にスイッチOFFにしても発見できない。ヤッケの中にきちんと収納された状態で、送信モードにを確認する。
(注意2)MAMMUT製PULS Barryvoxの雪崩ビーコンにはスイッチを入れると、リーダがパーティメンバーが装着している雪崩ビーコンが発信していることを確認するだけのシングルグループチェックが自動的に開始される。しかし、実際に雪崩に巻き込まれた場合には、リーダだけが助かるとは限らない。リーダーもメンバーもパーティ全員の装置で、発信と受信のダブルグループチェックする必要がある。
項目(2) 雪崩埋没者掘り出し
<ポイント>
雪崩遭難による死亡原因を考えながら手順を考える:
- 安全確認:見張り役を立て安全確保する。
- 頭部を掘り出したらすぐに、頚椎固定する。
- CPRの前に気道確保する。早急に口腔内から雪を排除し、マウスツーマウスを開始する。
- 安全地帯へ移動する。
- CPRを開始する。
- 全身観察:外傷性大量出血の有無を確認して処置を開始する。
- 最後に、低体温症の予防処置を開始する。
- 見張り役:
二次遭難を避けるために、リーダは安全確認の「見張り役」を指名する。万が一、上流で雪崩が再発した場合には、全員どの方面に逃げるべきか、あらかじめ指示する。リーダはメンバーに対して、装着しているザックのチェストベルトは外して、ストックのベルトも外して雪崩に巻き込まれた場合に脱出しやすい態勢になるように指示する。斜面の下=プローブの示す深さの約2倍の距離(意外に遠い場所から掘り出すのは、掘り出してから引き出す場所を確保する意味もある)、斜面の下流側から先頭で掘り出し作業をする人者以外はV字型に大きく広がり、救出後の救命救急処置ができる安定した場所を確保する。
- 頸椎固定:
外傷が想定される限り、常に頸椎固定しつつ胸骨圧迫を実施する。雪崩による死亡原因は、「窒息65%、岩や木などへの激突25%、低体温症やショック10%程度」であることを覚えておき、処置すべき優先順位をつける。
- 気道閉塞を解除する:
雪崩遭難者の救助では頭部を出す努力をして、まず口腔内から雪を書き出して、気道を確保の宣言をし、ただちに人工呼吸を開始する。POCKET MASKがあれば活用できる。もし呼びかけに応えない場合には、脈の触診は省略して、直ちに心停止を宣言して胸骨圧迫を開始する、胸骨圧迫を開始するまでのロス時間を少なくする必要があるが、埋没したままの姿勢では胸骨圧迫はやりにくい。背中がしっかりと固定される広い場所に移動させてから胸骨圧迫を開始する。埋没者は雪で被われている状態の方が防風効果が高いので低体温から保護されていると考えてよい。安定した場所に移動してから、胸骨圧迫を開始して、次にプラティパスを活用した湯たんぽなどで加温処置を開始すればよい。尚、プラティパスの蓋は、雪の中に落とすと雪に紛れて判別できなくなる。蓋は色付きのテープを巻くなどの目印となる色を付けておくとよい。
- 全身観察を忘れるな:
雪崩遭難は高エネルギー事故である。第1位の死亡原因は窒息が70-80%である。第2位が外傷性大量出血である。第3位が低体温症である。頸椎固定をして、胸骨圧迫を開始したら、全身観察を開始する。JPTECと同様に外傷の有無をチェックする全身観察は必須事項である。低体温処置を優先させて、全身を覆っったままで全身観察を忘れがちになる。継続して頸椎固定することもJPTECと同様の必須事項である。
- シナリオの落とし穴:
遭難者が「寒い、寒い」を訴えると、つい「寒い、寒い」という言葉に引きずられて、低体温症の処置を優先する。しかし、低体温症の処置で体を覆ってしまっては、全身観察が難しい。雪崩遭難者死亡原因は、窒息>外傷性出血>低体温症の順番であることを念頭に入れて、高エネルギー外傷では、生死を分ける外傷を見落とさないために、全身観察を忘れないように注意する。ただし、道迷いなどで外傷性大量出血の可能性がない遭難者の事例では、明らかに低体温症が主症状であれば、一刻も早く湯を入れたプラティパスで胸部の加温を開始する。低体温症は、体位変刺激だけでも重篤な不整脈を誘発する所謂Circum-rescue Collapseを起こす可能性を想定しつつ対応する必要がある。
項目(3) 遭難者梱包と搬送
<ポイント>
宇都宮にて (2014年撮影)
- ハーネスから引き出されている確保用のスリングでbelayをセットする。(ただし、あくまで梱包が外れた場合の確保用であって、このスリングにテンションをかけて牽引することは、骨盤骨折等の外傷がある負傷者身体に直接負担をかける問題がある。あくまで梱包材を牽引する工夫をする。
- 足がバラバラにならないように靴の部分を固定する。
- 梱包は足から順番に上に向かって順番にツエルトの開放部の左右につけたカラビナを介したスリングで縫い合わせる。インクノットを掛けるカラビナはツエルトを釣り上げた時のツエルトの伸びを考えてできるだけ下にセットする。縫い合わせる上方にカラビナをセットしたのでは縫い目が簡単に緩んでしまう。
頭部まで多くように、縫い合わせられたところで、肩の位置に左右+頭部にも牽引用のスリングをセットする。
梱包する際に、スリングや補助ロープ7mを使う場合に、橇となる一番外側になる梱包材の底にはローを通過させないように配慮する。雪と接する部分にスリングや補助ロープが通過させると搬送中にブレーキとなって搬送の障害になる。
梱包技術はさまざまバリエーションがある。私は遭難者の梱包する前に、遭難者をハーネスで確実に確保することが重要だと考えている。どんなに上手に梱包しても遭難者は抜け落ちる危険性がある。緩斜面なら緊張感はないが、もし急斜面で抜け落ちたら重大問題になる。かつて蝶ヶ岳の蝶沢で発生した遭難者の救助事例で、雪の中から遭難者を助け出した直後、遭難者があっと言う間に200 m滑り落ちてしまった。幸いにも、この遭難者はデブリでぴったり止まって命には別状はなかったが、そこから救出する作業には膨大な時間がかかった。
項目(4) 雪崩発生現場を目撃から掘り出しまで、
- リーダを決める(リーダは全体を把握する役割で、必要以上に掘り出しに参加しない)
- 二次遭難を避けるために見張り役を立てる(リーダの号令)
- 埋没の深さを測定する。
- 埋没の深さの2倍の距離の場所からV字形で掘り出す。
- 先頭で掘る人が疲れる前に、人員を交代させる。
項目(5)雪山登攀技術
<ポイント>フィックスロープの通過
- リード:ランニングビレーをセットしながら登る。
- セカンド:プルーシュックで登る。
ランニングビレー点で、カラビナを解除して、プルーシュックを通過させた(*)後に、カラビナにメインロープをクローブヒッチで固定する。メインロープが固定できたらサードの登攀者に「登っていいですよ」の号令をかける。プルーシュックを通過させる方法は一般的にはカラビナのゲートを開いて、プルーシュックを通過させる。カラビナを開く前にプルージュックを通過させることができるので、プルージュックを通過させた後にPASにつながる輪を通過させる手順も便利である。
- サード:ランニングビレー点がクローブヒッチで固定されている状態でプルーシュックを通過する。プルージュックより下流のメインロープを使ってインクノットを作り、新しいカラビナでビレー点に掛ける。プルージュックの上流にあったインクノットを解除し、カラビナを回収して通過する
- ラスト前のクライマー:ランニングビレー点でクローブヒッチを解除して、ランニングビレー用のスリングとカラビナを回収しながら登攀をする(注意)。
- ラスト:そのまま登攀をすればよい。
(注意)
読者(大原寛美さん)からの質問:「4.でラスト前の人が回収してしまうと、ラストの人は中間ビレーがない状態になります。滑った場合に大きく振られてしまうので、ラストの人が最終的に回収するのではないかと思うのですが…」
回答:いい質問です。ご指摘の通り、トラバースルートでは、途中のランニングビレー点が回収されてしまうと、落ちた場合に大きく振られる心配があります。そのような心配が生じる場合は、ラスト前のクライマーはランニングビレーを回収せずに、ロープをカラビナに掛けた状態にして通過するべきです。その際にラストのクライマーがプルージュックで登るならば、ビレー点はクローブヒッチで再度固定する必要があります。しかしラストのクライマーが登り始める前に余分なロープは終了点まで引き上げる予定があれば、ランニングビレー点をクローブヒッチで固定しません。さらに、垂直にまっすぐ伸びるルートであれば、ラストのクライマーが振られる心配はありません。したがってランニングビレーをラスト前のクライマーが回収しても、ラストのクライマーは終了点で確保されている限り安全です。なお、本題のフィックスロープのシステムではありませんが、ダブルロープを使って3人で登る場合にトラバースルートの中間点や屈曲点では、2本のロープを同じ位置でランニングビレーをセットして、後続の2名のクライマーのどちらが落ちても振られないように配慮する必要があります。しかし垂直に伸びるルートであれば、リードするクライマーは2本のロープの流れを考えて、どちらか一方のロープをクリップしながら登り続ければよいです。以上のように、登攀ルートの地形的要素で、ランニングビレー点の扱いがいろいろ変化します。
<要点>
- 大きな声で合図する:
合図はお互いに単純明確に、大きな声で行う。声が届かなかった場合を想定して「登っていいですよ」の合図は「ロープを二回引く」などの約束をお互いに整えてから登攀を開始する。「大きな声を出す」ことは、高度な登攀テクニックではない。しかし山岳遭難救助現場で意思疎通をしっかり取るためには重要な要素である。多言は無用。
- 安全確保:
終了点に到着したら、セルフビレイを即座にセットすることはもちろん、比較的安全な斜面でも休憩時にはバケツを堀り、荷物をビレーで確実に確保する。このような基本作業は雪山登山中の「登山経験」の評価に影響を与えるだろう。雪山では安全だと感じるような緩斜面からの滑落事故も発生する。万全な安全対策で登山する習慣を表現するとよい。
- 懸垂下降:
バックアップのオートブロックの下に右手を添えながら、左手はバックアップより上に添えて結び目をずらしつつ懸垂下降する。重要なことはフリクションヒッチの結び目は左右いずれの手でも直接上から握ぎらないことである。下降装置をPASにセットした場合には、バックアップはビレーループに固定する。
尚、ペツルの教科書に下降装置をビレーループに直接セットする場合に、バックアップをハーネスのレッグループに固定する方法が記載されている。この形式でもハーネスのレッグループには大きなテンションはかからないので安全性には問題がない。
Stopper knots:
トリプルオーバーハンドをStopper knotsが世界標準である。私は8の字結びもStopper knotsとして十分使えると考えていたが、風に吹かれて衝撃を受けている間に8の字結びがほどけてしまった経験があるそうだ。単純なOVERHANDは禁忌。DOUBLE OVERHAND、TRIPLEOVERHAND、QUADRUPLE OVERHAND、CAPUCHIN (DOUBLE OVERHAND ON A BIGHT) 、FIGURE EIGHT ON A BIGHTなどがStopper knotsとして使える。
懸垂下降をした後に一人がザイルを回収している間に、隣でパートナーがザイルをたたみ始める。
- コンテ:
雪稜線の下降時の安全確保として、2m間隔でロープに八の字を作り、各自が安全環付きカラビナでハーネスに結びつけてコンテで降りる。各自の間のロープが緩やかなカーブで垂れている「smiling」状態で、ロープが雪に接触しない程度の間隔を保ちながら歩く。
- 滑落停止
すばやい体の回転で胸の位置でピックに体重を掛け、アイゼンが引っ掛らないように挙上して転倒を予防する。
項目(8)雪山ビバーク
<ポイント>補助ロープを活用する
- 平らな場所をみつける。
- 適当な間隔の樹木をみつける。
- ツエルトの吹流しの穴に補助ロープ(個人装備: 直径7 mm, 7 m)を通過させて樹木の間に張る。太い樹木に補助ロープを固定するには、幹に補助ロープを直接二回巻いて滑り止めにしてブーリンで結ぶ。比較的直径が小さな樹木に補助ロープを固定する場合は、スリングをタイオフまたはラウンドノットなどで結びつけてカラビナを介してインクノットで固定する。(注意:素人はツエルトの張り綱を直接樹木に結びつける。張る強さをあとから調節できないない欠点がある。)
- 上ツエルトは張り綱(補助ロープ)にぶら下がった状態になる。ツエルトの左右に補助ロープ上にプルージュックを作ってツエルト本体を左右からしっかり張る。ツエルト内部に外部からロープが引き込まれるので、セルフビレイもこのロープから取ることができる。雨ならば補助ロープを伝う水が雨漏りの原因になるが、安全第一と考えて、一般的にはロープはツエルトの内部を通過させる張り方が推奨される。
- 設営したツエルト周囲に雪をかけて防風対策を施す。
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注意点
- 雪が深い斜面があれば雪洞ができる。天井と入り口をツエルトで製作できる。
- ストック2本があれば、樹木がない場所でツエルトは張れる。あらかじめツエルトに張り綱はセットして、竹ペグを用意しておくと迅速に張れる。ピッケル、ストック、スコップもすべてアンカー(ペグ)として活用できる。鋭利なアイゼンは、危険だからアンカー(ペグ)として使わない方がよい。幕営と同様にツエルトの中にアイゼンもピッケルは持ち込まない。ただし、雪に埋もれると場所が分からなくなる。スリングなどですぐに引き出せるように配慮しておくとよい。
項目(7)地形図の読み取り
- <ポイント その1>出発前の地図の準備
あらかじめ持参する地図には磁北線を入れる。トレースは赤線で記入し、稜線は褐色線、谷筋は青線などで色分けして準備すると分かりやすい。シルバコンパスで、ベアリングの数値を地図に記入しておくと、吹雪や強風でゆっくり地図合わせができない場合でも、その数字が役立つ。快晴時には遠方の峰が見えるので、そのベアリングも地図の中に記載しておく。地図は国土地理院の紙製のものでは、濡れるのでビニール袋に入れて用意する。ただしそのビニール袋にはコイルコードなどを付けて、風で飛ばされないように工夫する。地図とコンパスを繋げる。コンパスを紐から首からぶら下げてると、その紐で首を縛る危険がある。天候が悪いほどしっかり地図でベアリングを確認す必要があるけれども、ザックから地図を取り出すのが厄介になる。順次に地図を取り出せるように、どのように収納するか各自の工夫が必要だ。
- <ポイント その2>SILVAコンパスを水平に持つ
SILVAコンパスは水平に持って磁北を決める。私のスエーデン製のSILVAコンパスは40年故障していない。しかし最近のSILVAコンパスはOEM製品の品質にバラツキがあるのか、中に入れてある小さな気泡が標高の高い場所で大きく膨張する製品があった。大きな気泡は磁針の回転を妨害して磁北を決めにくいから、コンパスを交換した方がよい。
- <ポイント その3>登攀ルート谷筋=「地形の罠」を横切る際の注意:
林の中であったとしても谷筋の上流で雪崩が発生した場合に、雪崩の走路となって樹木がなぎ倒される危険性がある。谷筋を横断する際には、上流で発生する「地形の罠:雪崩に巻き込まれる可能性がある」ことを意識して、メンバー全員が団子になって横切るのではなく、一人一人が間隔を広げて順番に横切る。もし一人が雪崩に巻き込まれた場合には、すぐに他のメンバーが救出する体制で行動する。たとえ積雪量が少なくて、雪崩が発生することは絶対にない、と思える場所でも、地形を念頭にいれて、「谷筋=地形の罠」にはまらないように注意しよう。
項目(8)アイスクライミング
- トップロープの確保技術
- アイゼン歩行
- 美しい8の字結び
- 確保支点の作成
トップロープの確保技術:
ロワーダウンで、ロープを送り出す際に右手で繰り出す場合には、左手はつねに確保装置の近くに添えて、決してロープから離さない。右手を持ち替える際は、左手はロープに添えた状態で握る。
2016年1月25日
2016年2月15日改正(フィックスロープの通過の記述追加)
2016年6月3日再改正(記述の一般化)
三浦 裕
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授
名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療所 開設者
愛知県山岳連盟所属 社会人山岳会 チーム猫屋敷
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(Last modification, July 06, 2016)