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ボランティア活動は仲間意識
-----竹下義樹NHK文化講演を聞いて-----
夜、床の中でラジオに耳を傾け「ボランティア活動から見えてきたもの」(弁護士…竹下義樹 NHKラジオ2007年4月8日 午後9:00〜10:00)を拝聴した。竹下氏は中学の時に、網膜剥離で全盲になり現在に至っているそうだ。高校は寄宿盲学校に通った。その時に人生の転機が訪れた。以下は昨夜の聞き覚えのメモである。
- 竹下義樹氏の両親は、全盲であることを、近所の人にもはっきりとわかる形で示すように指導した。多くの全盲の子供を持つ親は、子供が全盲であることを近所には隠すために、寄宿舎から家にもどる時に、駅から玄関までタクシーで乗り付けるように言い聞かせる。しかし自分の親は、全盲であることを周囲の皆に明示すことを自分に教えた。「白いステッキで、誰からもわかるようにする」ことで周囲の皆が理解して、協力してくれることを教えてくれた。自分はこの教育方針で全盲を隠さなくなった。全盲であるハンディを明確に示すことで、周囲と正しい相互関係が築けることを知った。
- 盲学校の高等学校寄宿舎で、最初はまじめに勉強もせず、酒を飲んだりもして、いい加減な生活をしていた。しかしある日、弁護士という職業にあこがれる話を聞いた。その時から弁護士になろうと決心した。父親は、自分を鍼灸、按摩士に育て、手に職を得させようとしていたはずだが、弁護士になりたい!という自分の無謀な希望を真剣に受け取ってくれて、長い間自分を全面的に応援してくれた。高校の先生は、大学受験することすら最初は「そんな無謀な」とまったく受け付けてくれなかったが、自分が「大学受験したい」という願いが真剣なのを知ってから、全力でいろいろな先生を特別に付けてくれた。すべて無料の多くの人々のボランティア活動の結果は、手元に残るカセットテープ1000本、点字ノート200冊の膨大な記録として残っている。
- 大学入試は、いろいろと失敗したが、龍谷大学に入学を許された。卒業後は、京都大学の司法試験勉強会のメンバーと一緒に勉強させてもらった。競争試験の競争相手としてではなく「同志」として迎えてくれたことに感謝している。しかも最初は点字による司法試験の制度すらない状況で、点字による司法試験を認めさせる運動から始めた。それが認められると、その点字試験を受けて、最終的に合格するまでに一心発起してから10年の歳月が流れていた。3000人を超す受験生の中で420人合格した頃の話である。
- 全盲だから、問題点を書面で提出されてきても、読めない。だから、困った人の相談は、すべて、本人の話を聞く。「話をよく聞く」と本音が出る。「話を聞く能力」は、目が見える健常者以上になったことを幸いだと感じる。自分は社会から見えない部分、とくに野外生活者の問題、医療過誤の問題に積極的に取り組む使命を感じ、弁護士活動をしている。
- マラソンに興味をもち、ホノルルマラソンを楽しむ。今も伴走者と一緒にマラソンをしている。長年伴走してくれた方が、年齢から疲れ気味で、途中でそばを通る人に伴走をバトンタッチしてゴールするようになった。ヒマラヤ登山も楽しむ。一緒に登っていた一人の登山同伴者が高山病になったので自分の酸素ボンベを渡して、その登山同伴者はベースキャンプにもどして、他の仲間と一緒に6500mの登頂を無酸素で果たした。欲がでて、次はチョオユー8200mを目指したが、残念ながら天候の加減で7950m地点で引き返した経験もある。
竹下義樹さんは、全盲というハンディで、毎日の生活の中のさまざまな面で、周囲の人に依存している自己存在を意識している。しかし依存心が強いというよりも、自分が周囲へ貢献できる自分になろうとする努力を惜しまない厳しい姿勢で生きるている。自分が生きる楽しみを持つことで、他人を引き込む魅力が生まれている。他人の慈善行為で受け身的に生かされているだけでなく、周囲と自分の間に形成される仲間意識の中でお互いに楽しく生きる力強さを持っている。竹下さんの存在のおかげで、周囲の人皆が前向きに楽しく生きる集団になる不思議な人間相互依存関係を感じる。一般的に慈善事業やボランティア活動は、富める者が貧しい者に、能力ある者が能力の乏しい者に、一方的に与える行為として受け止められている。しかし、一方的な力関係だけでは、深い人間相互関係が形成されるはずがない。竹下義樹さんの講演を拝聴しながら、真の慈善活動およびボランティア活動の精神は、「相互依存の人間関係=仲間意識である」という認識を新たにすることができた。全盲の竹下さんに、目を開かせていただいた気がする。
三浦 裕 (みうらゆたか, 名古屋市立大学 医学研究科 分子神経生物学助教授 )
(Last modification, April 9, 2007)