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化石燃料
プロメテウスが人類に「火」を与えて以来「火」は人類と他の動物を区別する象徴となった。火は恐るべき存在だ。焚き火の始末を誤れば山火事をお越し、原子炉の扱いを誤ればチェルノブイリの事故になる。いずれの連鎖反応も厳密に制御しないと危険である。裸火の取り扱いを止めて安全なオール電化住宅に住める時代になったが、そのエネルギー源を正せば今も昔も化石燃料を燃やし続けている本質的に変わりはない。現代の私達はエネルギー源を直視していないだけのことだ。今年(2009年)私は時代の流れに逆行して山岳用の灯油コンロを蝶ヶ岳山頂のボランティア診療班の炊事道具として導入した。山頂ヒュッテには暖房用の灯油がドラム缶で大量に荷揚げされているため炊事用燃料が枯渇することがないと考えたからである。診療活動開始から10年間、炊事用燃料として家庭用カセットコンロを使用してきたが、燃料カセット不足の問題が何回か起こった。使い捨ての空き缶の山も問題である。そこで今回の灯油コンロ導入のアイディアが生まれた。しかしどの燃料を使おうと、化石燃料を燃やして大気にCO2を放出する装置という意味では大差ない。本質的に環境に優しいとは言えない。天気のよい日は、屋外でパラボラ型の集光装置を使ってソーラーエネルギーで調理したい気持ちはある。ただし曇りや雨降り、夜の料理では使えない。つい化石燃料に頼ってしまう。その際に火を使うことは、貴重な化石燃料のエネルギーを消費する意味をしっかり理解しておくべきだろう。その意味を理解しつつ大切に火を使うためには、予熱という儀式に意味が出てくる。スイッチ一つで簡単に火を使っては古代生命に申し訳けない。ゆるやかに流れる予熱の時間に、古代生命祈りを捧げながら、のんびりと青い炎を楽しんでいただければ幸いである。
灯油コンロの点火手順
MANASURU1(QuickTime)予熱火が消えた後にライターで点火する方法
登山用コンロ随想録:
私はカナダ留学中の週末には、しばしばキャンプに出かけた。ロッキー山脈のBanff National Park, Glacier National Park, Jasper National Parkに点在するキャンプ場でテントを張り、薪を割り、枯葉を集め、焚き火を起こした。夕立の後に濡れてしまった薪も枯れ葉の吹きだまりの中から、乾いた小枝と、針葉樹の葉を集めて天然の着火財の下準備をしてから点火すれば、素晴らしい焚き火を楽しめる。焚き火の煙の匂いが滲み込んだお湯はただそれだけで何よりも美味しい飲み物になった。灯油コンロの使い方などより先に、本当は焚き火の楽しみ方を学生諸君には伝授してあげたい。しかし日本の国立公園内では焚き火は厳禁だからカナダ留学等のチャンスがあれば、その際に各自で楽しんで欲しい。
私はキャンプサイトでご飯などを炊くために灯油コンロを愛用した。燃料として灯油を選んだ理由は、濡れた木への着火剤としても流用できるからだ。白ガソリンは引火し易いので着火剤として使うのは危険だ。ガスカートリッジは、着火剤に絶対に使えない。
ソロ登山用にはガスコンロ、白ガソリンコンロ、灯油コンロなどさまざまなコンロを使った。1分以内に500mlの湯が沸かせる最新型のジェットボイルと称するガスコンロの熱効率はすばらしい。これは一人用の携帯山岳用コンロとしてスバ抜けた性能を持っている。灯油コンロは余熱が必要で一番取り扱いが面倒だ。しかし私は灯油コンロが一番好きである。
燃料の特性と安全性と化石燃料を燃やす意識
私たちの身の回りは、ほんとうに便利な道具が増えた。スイッチ一つで無意識に化石燃料を使うことができる時代になっている。それらと比較すると灯油コンロは本当に不便な道具だと思う。しかし、この不便さを感じながら、ゆっくりと灯油に点火する儀式的時間は、自然エネルギーの根源を意識する素晴らしい時間になる可能性がある。
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