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灯油コンロの使い方(2009年9月)
---蝶ヶ岳ボランティア診療所で炊事用燃料の選択について-----

化石燃料

プロメテウスが人類に「火」を与えて以来「火」は人類と他の動物を区別する象徴となった。火は恐るべき存在だ。焚き火の始末を誤れば山火事をお越し、原子炉の扱いを誤ればチェルノブイリの事故になる。いずれの連鎖反応も厳密に制御しないと危険である。裸火の取り扱いを止めて安全なオール電化住宅に住める時代になったが、そのエネルギー源を正せば今も昔も化石燃料を燃やし続けている本質的に変わりはない。現代の私達はエネルギー源を直視していないだけのことだ。今年(2009年)私は時代の流れに逆行して山岳用の灯油コンロを蝶ヶ岳山頂のボランティア診療班の炊事道具として導入した。山頂ヒュッテには暖房用の灯油がドラム缶で大量に荷揚げされているため炊事用燃料が枯渇することがないと考えたからである。診療活動開始から10年間、炊事用燃料として家庭用カセットコンロを使用してきたが、燃料カセット不足の問題が何回か起こった。使い捨ての空き缶の山も問題である。そこで今回の灯油コンロ導入のアイディアが生まれた。しかしどの燃料を使おうと、化石燃料を燃やして大気にCO2を放出する装置という意味では大差ない。本質的に環境に優しいとは言えない。天気のよい日は、屋外でパラボラ型の集光装置を使ってソーラーエネルギーで調理したい気持ちはある。ただし曇りや雨降り、夜の料理では使えない。つい化石燃料に頼ってしまう。その際に火を使うことは、貴重な化石燃料のエネルギーを消費する意味をしっかり理解しておくべきだろう。その意味を理解しつつ大切に火を使うためには、予熱という儀式に意味が出てくる。スイッチ一つで簡単に火を使っては古代生命に申し訳けない。ゆるやかに流れる予熱の時間に、古代生命祈りを捧げながら、のんびりと青い炎を楽しんでいただければ幸いである。

灯油コンロの点火手順

MANASURU1(QuickTime)予熱火が消えた後にライターで点火する方法
MANASURU2(QuickTime)予熱火が燃焼中に圧力弁を締め、ポンピングでバーナーに点火させる方法
(注意)予熱火が残る間は、大きな炎が上がる。消炎直後は、予熱なしで点火できる。

  1. 予熱皿に70%エタノールを入れる(注1)
  2. エタノールに点火し、約1分間待つ(予熱)。(注2)
  3. エタノールが燃え尽きる少し前に調節弁を閉じて2〜3回ポンピングする。(注3)
  4. 白い煙のように気化した灯油が見えた所に点火する。
  5. ポンピングは20回ぐらい必要である。(注4)

  1. 私は70%消毒用アルコールを予熱燃料に使う。予熱用にはメタと称す固形燃料市販されている。しかし医学的観点からメタノールは神経毒性が強いので私は使わない。ところで学生から「70%消毒用アルコールを使うと最後に水が残ってそれが飛び散って危険である。」という事故報告を聞いた。予熱皿から液体が飛び散る原因は、アルコール濃度が70%か99%かの問題ではないと思う。高温に加熱されたフライパンに水やアルコールを注いだ時にどのような現象が起こるか?急激に加熱されて沸点以上になった液体は、沸騰で発生したガスと高温の液体滴となって周囲に飛び散る危険な現象が起こる。コンロは使用直後(〜2分)ならバーナーは十分に熱い。予熱なしでそのまま再着火できる。5〜10分以上も経過するとバーナーが冷却するので、予熱からやり直す必要がある。この予熱をするべきタイミングを誤って予熱皿が熱いうちにアルコールを注ぐと、熱い液体が飛び散る事故が起こる。
  2. 予熱は約1分間で十分である。学生から「3分間も予熱したけれども不完全燃焼した。」という報告を受けた。実験によれば70%消毒用アルコールは、1分30秒ぐらいで燃え尽きる。アルコールに着火していなかった可能性がある。アルコールに着火した確認は、青い炎で確認できる。しかし、明るい場所では青い炎は確認が難しい。そこで着火後にコンロの上に手をかざして、熱い炎が昇っているのを体感で確認する。
  3. 数回ポンピングをすると、予熱の炎が残っていれば自動的に点火される。しかし予熱炎が消えて噴出ノズルから白煙(ガス化した灯油)が出る状態ならライターで点火する。予熱が不完全だと、液体の灯油が噴出ノズルから噴出する。その場合は直ちに調節弁を全開にして噴出を止め消火する。その後に予熱からやり直す。予熱が不完全のまま強引に液体の灯油に着火すると不完全燃焼を起こしてオレンジ色の炎で黒煙をあげる。さらに強引にポンピングすると、液体の灯油がどんどん吹き出てコンロの外に漏れ出すようになる。漏れた液体の灯油に引火すればコンロ全体が「火だるま」になる。消火器を使った騒ぎの原因は、おそらく漏れ出た液体の灯油に着火させたことが原因だろう。(正常に操作する限り、灯油コンロは常に青い炎で黒煙は出ない。)
  4. 実用的な火力を得るには、合計20回位ポンピングが必要である。使用中に火力が弱くなったら、炎の大きさを見ながらポンピングを適時追加する。

登山用コンロ随想録:

私はカナダ留学中の週末には、しばしばキャンプに出かけた。ロッキー山脈のBanff National Park, Glacier National Park, Jasper National Parkに点在するキャンプ場でテントを張り、薪を割り、枯葉を集め、焚き火を起こした。夕立の後に濡れてしまった薪も枯れ葉の吹きだまりの中から、乾いた小枝と、針葉樹の葉を集めて天然の着火財の下準備をしてから点火すれば、素晴らしい焚き火を楽しめる。焚き火の煙の匂いが滲み込んだお湯はただそれだけで何よりも美味しい飲み物になった。灯油コンロの使い方などより先に、本当は焚き火の楽しみ方を学生諸君には伝授してあげたい。しかし日本の国立公園内では焚き火は厳禁だからカナダ留学等のチャンスがあれば、その際に各自で楽しんで欲しい。

私はキャンプサイトでご飯などを炊くために灯油コンロを愛用した。燃料として灯油を選んだ理由は、濡れた木への着火剤としても流用できるからだ。白ガソリンは引火し易いので着火剤として使うのは危険だ。ガスカートリッジは、着火剤に絶対に使えない。

ソロ登山用にはガスコンロ、白ガソリンコンロ、灯油コンロなどさまざまなコンロを使った。1分以内に500mlの湯が沸かせる最新型のジェットボイルと称するガスコンロの熱効率はすばらしい。これは一人用の携帯山岳用コンロとしてスバ抜けた性能を持っている。灯油コンロは余熱が必要で一番取り扱いが面倒だ。しかし私は灯油コンロが一番好きである。

燃料の特性と安全性と化石燃料を燃やす意識


     私の複雑な想いを、一枚のカリカチュアに凝集してくれた石原さんの息子さんに感謝します。

名古屋市立大学蝶ヶ岳ボランティア診療班運営委員長
名古屋市立大学大学院医学研究科分子神経生物学准教授
三浦 裕(みうらゆたか)

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(Last modification, September 11, 2009)